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この異世界は物足りない  作者: VRクロエ
魔王城の住民編
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またそのうち

「先輩! そちらお願いします!」

「分かった! セラフィ、飛び出してきたやつを頼む!」

「うむ、任された!」


 四方八方から飛び出してくる魔獣を手分けして捌いていく。

 普段であれば中々に厳しい状態ではあるのだが、アノンの活躍もあり、かなり順調に進むことができていた。


「なあ、これ俺達いなくてもいけそうじゃないか?」

「うん、私も思ってた。ヨゾラ君もセラフィもアノンちゃんも強くなりすぎじゃない?」

「勇者と魔王が組むって恐ろしいわね……でもま、わたくし達も負けてはいられないわよ!」

「そうですよセシルさん、ルーシェさん。ヨゾラ様とセラフィ様の背中を預かる者として気は抜けません!」


 俺達が前の方で津波のように押し寄せる魔獣を対処している後ろでは、セシルとルーシェとリリスとサクラが、互いをカバーしながら出てくる魔獣と戦っていた。

 俺達の方に比べれば出てくる魔獣の数は少ないが、それでもここは果ての秘境の中腹だ。4人で対処しているとはいえ、多少喋ってられる余裕があるのは、4人共実力を付けてきている証拠だろう。


 まあ実力を付けたと言えば、アノンは更に別格なのだが……

 しばらく会っていないうちに、俺の予想を上回る実力になっているし、魔獣ともかなり戦い慣れている。

 一緒に戦っていて、安心感が半端じゃない。


「さて、そろそろ一掃しておくかのぅ。なあアノン?」

「はい! タイミングは合わせます!」


 魔獣の波がそろそろ終わりそうな感じになってきており、面倒になってきたのか、セラフィがアノンに合わせるように指示を出す。

 徐々に迫る魔獣を恐れることも無く、セラフィはゆっくりと魔法の準備をして、そして放った。


「フォトンブラスト!」

「ヘブンリ―サンダー!」


 セラフィとアノンが合わせて放った魔法は、魔獣に向かいながら混ざり合うように融合し、激しい光とエネルギーを放ちながら木々を薙ぎ倒して、そのまま前方の魔獣を消滅させた。

 前方には開けた空間だけが残り、最奥に進む前の最後の波が終わったのだった。


 放たれた魔法を見ていたセシル達はとんでもないものを見たかのように絶句している。

 まあ事実とんでもないものなのだが……唯一サクラだけは、ただただ尊敬するような瞳でセラフィを見ている。


 ちなみに俺は絶句している側だ。


 既に400レベル後半になっている俺のHPは膨大で、仮に今回俺1人で秘境に挑んでおり、魔獣に囲まれて攻撃を受けたとしても、すぐに死ぬということはない。

 そんな俺が今の攻撃を受けたとしたら、HPの半分は一瞬で消し飛ぶ気がする。


 受けるダメージ自体はアノンのグランシャリオには劣るが、恐るべきは魔法を放つまでの速度なのだ。

 何があっても2人を同時に怒らせることだけはやめよう……


「ふぅ……今日はここまでですよねヨゾラ先輩?」

「ん? ああ、秘境は中腹と最奥の狭間の辺りは魔獣が殆ど出てこなくなるから、今日はそこで休んで、明日いよいよ最奥に進んでくぞ」

「いよいよじゃな!」


 俺の言葉にセラフィとアノンは笑顔を見せているが、逆にセシルとルーシェは緊張感が高まってきたのか、真顔になっている。

 サクラとリリスに関しては、何を考えているか分かり難いが、サクラはやる気を出しているように見え、リリスはワクワクしているといった感じだろうか?


 それぞれ反応が違うので見ていて楽しい。俺はどちらかと言えばワクワクしている。


 久々にしっかりとした冒険が出来ると思うと、やはりワクワクする。冒険には俺が求めてやまない異世界らしさというのがしっかりと詰まっている。

 獣人が生まれ、王になったとはいえ、基本的にはごろごろしているだけなので、何も起こらないとあまり異世界らしさというものが感じられない。

 ここまで何もイベントのようなものが起きないこの世界は、やはり異世界としては物足りない。

 こういう少ない機会を目一杯楽しんでいこう。






 ――――――――――





 一夜明け、俺達は遂に果ての秘境の最奥に踏み込んだ。

 ここまでくると、やはり周辺の雰囲気も変わり、気の抜けないような感じとなっている。

 俺とセラフィとアノンがいる以上、最悪のことにはならないと思うが、それでも誰も怪我をしないようにくらいの気持ちで臨む。


 警戒心マックスで進んで行って数十分……遂に魔獣と接敵した。

 巨大で黒い蜘蛛の魔獣は、目を赤く光らせてこちらを警戒している。

 イメージ的には地球でいうタランチュラを大きくしたような感じで、とても気持ち悪い。


「アノン、あの魔獣が何か分かるか?」

「私も初めて見ましたけど、恐らくはフィアースパイダーではないかと……ただ、私が聞いた話だとここまでは大きくなかったはずです」

「秘境という環境を生き残ったゆえなのじゃろうな……歯ごたえがありそうじゃ!」


 まだ全員が警戒している状況で、セラフィは早速魔法を放った。

 十数個にもなるフォトンレイだったが、フィアースパイダーはその巨体からは考えられない軽快さで回避する。


「ルーシェ、俺達も!」

「うん!」


 セラフィの魔法により膠着状態が崩れ、セシルとルーシェも即座に動き出す。

 速度に自身があるルーシェが先に行き注意を引いて、そこへセシルが斬りこんだ。


「硬ったいな!」

「サクラわたくし達も行くわよ!」

「続きます!」


 セシルの剣はそれなりの威力があったが、フィアースパイダーはかなり硬いようで、脚の部分の半分に届かないくらいまでしか剣が通っていなかった。


 そこへ入れ替わりでサクラとリリスが突っ込んでいく。

 リリスが先に仕掛けることとなったが、フィアースパイダーの反応は早く、リリスが走る先の足元に糸を吐き出して進めないようにする。

 リリスに注意が向いている隙にサクラが側面から気配を消して近づいたが、フィアースパイダーはそれに気が付き鋭い牙でサクラに襲い掛かった。


「くっ……!?」


 この距離で気が付かれてしまうと、中々回避が難しい。助けようと思っていたら、セラフィのシャドウファングが地面から襲い掛かり、フィアースパイダーは木に糸を巻き付けて退避した。


 いやー、こうして見ていると、皆強くなったものだ。倒しきれていないとはいえ、普通に戦えている。

 特にセシルとルーシェは以前ケルベロスと対峙した時のことを覚えているので、それと比較すると本当に強くなったことを感じられる。


 様子見はこの辺でいいだろう。まだ最奥に入って一回目の戦闘だ。これから何が起こるか分からないし、体力は温存しておいた方がいいだろう。


「アノンー」

「はいっ!」


 俺が合図を出すと、アノンは元気な返事をしてセイクリッドバインドを発動させる。

 余裕を持って発動させることが出来たので、しっかりとフィアースパイダーを拘束することが出来た。


「止めもアノンがするか?」

「いえ、先輩にお任せします」

「うぃ」


 俺は戦装を瞬時に纏って、ついでに精霊魔法も発動させてフィアースパイダーに斬りかかる。

 セシルは硬いと言っていたが、戦装と精霊魔法を使って斬れないものはあまり無い。俺の当て方次第ではあるが、防ごうと思ったら俺の攻撃ステータスの2倍程の防御ステータスがいるだろう。

 まあそれでもかなりの一撃にはなるだろうから、あまり変わらないが……


 フィアースパイダーは何の硬さも感じさせず、まるで豆腐を切っているかのようにすんなり真っ二つになった。

 結局こいつが毒を持ってるかー、などは分からなかったが、正直どうでもいいだろう。


 というか普通に戦装を使ってしまったが、もう別にいいか。


「実はこの服って魔道具でな――」

「いや、うん……もう何でもアリって感じだし、納得しとくわ」


 丁寧に説明しようと思ったらセシルが呆れ顔で言ってきた。


「ていうかこれ私達本当になにもする必要ないんじゃない?」

「わたくしもそう思うわ……」


 まあめげずに頑張ってもらおう。


 そんな調子で俺達は探索を続けていった。

 秘境の最奥というのは資源の宝庫だと聞いたことがあるが、まさにその通りだったらしく、詳しくない俺とセラフィはアレだが、サクラを除いた他3人は珍しい物を見つける度に驚いていたし、楽しそうだった。

 俺自身も珍しそうな物を見つけては、これはどうだと質問をしていたので、かなり楽しめた。

 セラフィも魔法を手加減しないで魔獣に向かって放てて楽しそうだった。


 途中セシル達に魔獣の討伐を俺達だけにやらせてくれと言われたので任せてみたが、中々に連携してしっかり倒していた。

 最奥でこれだけ戦えるのだから、今後もレベル上げしていけばもっと強くなっていくだろう。


 採取した物は収納袋、通称マジックバックに詰めて持って帰る。

 これまであまり物を持ち歩かなかったので使う機会がそれ程無かったが、やはりしっかりと冒険するのならば役に立つ。

 ルピから買った魔道具を役に立てられるのは、何だか嬉しかった。


 数日掛けて一通りの探索を終えて、これで果ての秘境の最奥は攻略したと言ってもいいだろう。

 まだ倒していない魔獣もそれなりにいるだろうが、まあ最奥の魔獣を倒しきってしまうと、生態系が崩れまくって今後あまり楽しめなくなりそうだしいいだろう。


 帰ってきた俺達は、酒場で打ち上げをすることにした。


「おつかれ~」

「いや、ほんとに疲れた……」

「流石にね……」


 セシルとルーシェは目に見えて疲れている。リリスもあまり出さないようにはしてるが、疲れているの分かる。

 サクラは……どうだろうか? あまりそういった弱い部分を見せたがらないところがあるので少し心配だ。

 セラフィはまあ大丈夫だろう。


「そうだ、今日取った素材なんかは持って帰って使ってくれ。装備とか新調したらいいんじゃないか?」

「ほんとにっ!? あ、でもいいの?」

「別にいいさ。俺はまあ取りに行こうと思えばいつでもいけるしな。少しでもいい装備になって安全にレベル上げ出来るようになってくれた方が俺も嬉しいからな」

「ありがと! それじゃあお言葉に甘えて貰ってくね!」

「ありがとなヨゾラ」


 装備はそのままステータスにも直結してくる大切な物だ。

 現状俺は防具に関して言えば戦装という最上位の物を持っているので、後は今使っている物よりも階級の高い武器なのだが、どうせ次作るならそちらも最上位の物がいい。

 今のところ素材も武器を作る鍛冶屋も見つかっていない。どちらも妥協したく無いし、そこまで突き詰めた方がロマンがある。


「アノンとリリスはどうする?」

「私は今のところ困ってはいませんので大丈夫です。勇者となった時にフロディス皇帝陛下にどちらも最高の物を用意して頂きましたから」

「わたくしも現状は大丈夫ね。まあアノンと似たような理由だけれど」


 なら是非ともセシルとルーシェに役立ててもらおう。素材はいくらあっても困らないはずだ。


「それにしても今回でかなりレベルが上がったな。最近だとあまり上がらなくなってきてどうしようかと考えていたんだが……」

「正直自惚れ無しに帝国騎士の10位以内入っててもおかしくなさそうだよねー」

「私もそれなりに上がりました! ヨゾラ先輩はどうでしたか?」

「俺もまあ、セラフィもだろうけどぼちぼちだな。アノンとの強さ関係はあんまり変わってない気がする」


 そういえば最近細かく自分のステータスを見てなかったし、セラフィも強くなってるだろうから、近々ゆっくり見てみるか。


「まあなんにせよ、久々に皆で集まれて楽しかったな」

「そうじゃな。今となってはこういう機会も貴重になってしもうたからな」

「俺はヨゾラとセラフィがいる安心感を思い出したよ……」

「2人を見てるとやっぱりまだまだだなぁって自分を見つめ直せるしね」

「私も久しぶりにヨゾラ先輩とセラフィ先輩と一緒に戦えて楽しかったです!」

「こうして見ると、ここまでの強者が一緒に戦うって何だか凄いことよね」

「そうですね。アノンさんもそうですが、私のご主人様達には本当に驚かされます」


 その後も、誰かしらが好きなことを喋っては楽しく笑うという感じで打ち上げを楽しんだ。

 身分は違うが、こうして友として話、冒険出来たことは本当に良かったと思う。


「ま、またそのうち……な?」


 いつかまたこうして集まれることを楽しみにしておこう。










自由な女神「ヨゾラ君が楽しそうで何よりだよ! 僕も近しい友人ががいたらこうして笑い合っていたのかな……まあそれは仮の話だけどね」

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