閑話:動き出す悪意
ノーヴィストでパーティが開かれている頃……そのパーティに参加しなかった貴族――否、自ら参加しなかった貴族達が集まっていた。
各国は現在王がパーティに出席しておりおらず、国の雰囲気事態も落ち着いてきたノーヴィストとの関係からどこか平和的で、言い換えれば気が緩んでいると言って良い状態で、こうして裏で動く彼らにとっては、状況的に非常によかった。
「して、どうなっている?」
「問題無い。タイミングを見て実行できるだろう」
薄暗い部屋の中で怪しく話す者の中には、グラヴィウス帝国の貴族とレジケルの貴族がいた。
普段あまり交流の無い彼らが、どうして集まっているのか……それは共通の目的と、明確な敵がいるからである。
戦争が終わり、平和な世が訪れた。それはこの世界に住むほぼ全ての人間にとっていいことなのだが、あくまでもほぼ全ての人間なのだ。
一部の者達にとっては都合の良くないことでもある。
例えば戦争で稼いでいた貴族や食いぶちを手にしていた兵士達。
そして、戦乱の世の申し子とも言える英傑達だ。
彼らにとって、戦争が終わるということは、職を失うということであり、存在意義を失うということでもある。
貴族に関して言えば、兵士の装備を大きな収入源としていた者達もおり、更には職を失った者達も放置はしておけない。
戦争とは技術を発展させると言うが、それだけではない。戦争を長く行っていれば、それに対応した生活となり、人が生きていく上で大切なものが沢山動いていく。
当然多くの兵士を抱えていた貴族や英傑達の全てが戦争が終わったことを喜んでいない訳では無い。ただ、少なからずそういった感情を持つ貴族や英傑がいるというだけだ。
それらの者達が結託したのが、今この場に集まっている者ないし、今回のことに手を貸している者達なのだ。
「兵士の数はどのくらいになってる?」
「ざっと28万といったところだ。2つの国の貴族が抱えている兵士とはいえ、よくバレずに集められたものだと震えているよ。兵士達も戦争終結に納得できない者が多いらしい。面白いことだ」
「当然だ。500年も続いた戦争は人の在り方も変える。もはやこの世界は戦争無しでは回らんのだ」
自分達の都合を、さも正しいように話すが、この場にいる誰もそれを指摘することはない。そんなことをするくらいなら、最初からここに集まってはいないのだ。
ただ、兵士達の中には戦争が終わったことをどうこう言う訳では無い者も少なからずいる。
なら何故兵士として参加しているかというと、それだけ戦争というものが残した爪痕は大きいということだ。
住んでいた土地を、愛する者を、それ以外にも大切なものを戦争で失った者は多い。
獣人達は、自分達から積極的に攻めることは無かったが、それも全ての獣人という訳では無いし、何よりもやられれば容赦はしなかった。
拠点となっている村や街があれば攻め落とし、命も容赦無く奪ってきた。
それが正義か悪か、どちらから攻めたなど失った者達にとっては関係無い。残るのは失ったという結果だけだ。
それを、戦争が終わったという理由で簡単に納得できる程、人間の心は強く作られてはいない。だからこそ、こうして間違っていると分かってはいるが、兵士として戦うのだ。
それが例え同じ人間と戦うことになっても……
「今回のことが成功して、魔王ヨゾラさえ始末出来れば、再び戦争の火種とすることが出来る。今度こそ、永遠に終わらない程のな」
獣人との戦争の再開……それを目論見集う貴族。さらには28万の兵士と英傑の大半。
英傑は戦争が起こり、それに呼応するように生まれてきた。まさに戦争に申し子であり、戦争に一番の被害者と言って良い。
まあ生来の戦闘狂という者がいることも否めないが、どちらにしろ英傑にとって平和な世界とは生きる意味を失った世界と言っても過言ではないのだ。
戦いにしか存在意義を見出せない悲しき戦士達……それ以外の楽しみや生きる意味を見いだせた英傑はごく一部だ。
大半の戦いに身を置いていた者達がこうして集まり、グラヴィウス帝国とレジケル王国に所属する兵士の半分を少し上回る人数となってノーヴィストに牙を剥こうとする。
「……馬鹿な奴らだ……」
老年の醜い笑みを浮かべる貴族達のいる部屋で、場にそぐわない若い貴族の男は壁にもたれかかった笑みだけは他の貴族と同様のものを浮かべて、誰にも聞こえないような声で呟く。
その言葉はこの場にいる貴族達に向けて言ったものか、それとも別の誰かを思い浮かべて言ったものか……
どちらにしろ、この場にいる貴族達とは、また違う悪意を持っていることは間違いない。
「では諸君……次に顔を合わせる時は、我々が世界を変える時だ……」
こうして大きな悪意は闇に沈んでいく。
誰にも気が付かれないように、国の中へと……その時が来るまで……
自由な女神「何かまた大きな動きがありそうだね……標的はヨゾラ君みたいだけど……大丈夫かな……」




