城でパーティ3
アルジェを探して歩き回っていると、意外とすぐに見つけることが出来た。
というのも、貴族なんかに話しかけられていると思っていたのだが、そういうことはなく、むしろ雰囲気的に近づきがたかったのか、壁の方でゆっくりと料理や酒を楽しんでいた。
アルジェのすぐ近くには1人の女性が立っている。
その女性は真っ赤に染まった髪を短く切り揃えており、顔付きは鋭く身長も女性にしては高いので、やや怖い印象を受ける。
ただ、アルジェとの会話の中で笑顔をかなり見せているので、性格的には怖い感じではなく、活発といった感じなのかもしれない。
恐らくだが、あの女性が今回連れてきた聖女なのだろう。正直とても聖女という感じは無いが、他にそれらしい人も見えないのでまず間違いないはずだ。
「どうだセラフィ?」
「ふむ……崇級の火属性精霊と契約しておるようじゃ。聖女と呼ばれる者で間違いないじゃろう」
崇級の精霊は普通の奴が契約出来るようなものではない。それでも契約しているとなれば、もう間違いなく聖女だ。
そんな予想を立てながら近づいていくと、アルジェも俺とセラフィに気が付いたようで近寄ってくる。
「お久しぶりですヨゾラさん、セラフィさん。本日は呼んで頂いてありがとうございました」
「久しぶりだな。アルジェはスプリトゥス聖国の教皇なんだからそりゃ呼ぶだろ。フロディスとレグナルトも呼んでるんだしな」
「ふふっ、それもそうですね」
アルジェは冗談交じりに言って笑う。
初めて会った時から思ってたのだが、教皇という立場に対して、アルジェ本人は非常に優しく親しみやすい性格をしている気がする。
アルジェが教皇である限りスプリトゥス聖国は良い国として歩んでいきそうだ。
俺とアルジェの挨拶が終わると、後ろに控えていた赤髪の聖女が顔を出す。
「ほら、ヘリコニアも自己紹介を」
「あー、そのアルジェ様? あたしはあんまり目上に対する挨拶とかできないぜ?」
「大丈夫ですよ。そのような細かいことを気になさるお2人ではありませんから」
小声で話しているようだが、聞こえてきてしまった。
どうやらこのヘリコニアという聖女は、聖女とは呼ばれてはいるが貴族らしいというか、あまりきっちりしたことは得意ではないらしい。
まあアルジェの言う通り俺もセラフィも気にしないので大丈夫だ。
「その……わたしはヘリコニアってんだ。一応スプリトゥス聖国で火の聖女をやらしてもらってる。よろしくな」
「ああ、俺はノーヴィストの魔王ヨゾラだ。んでこっちが――」
「セラフィじゃ。ノーヴィストで理級精霊をしておる」
「いや、お前は何処にいても理級精霊だろ……」
セラフィなりに緊張を解してやろうとしたのか、普段はあまり言わない冗談をぶち込んで来た。
その冗談を聞いたヘリコニアは、最初は目を丸くしていたが、緊張が解れたのか笑い出す。
「あっはは! 確かにアルジェ様に聞いてた通りだな! よろしくなヨゾラ様、セラフィ様!」
「別に呼び捨てでもいいぞ。喋り方との違和感が半端ないしな。セラフィもいいよな?」
「ん? 呼び方など変でなければ何でも良い」
「そうか! んじゃヨゾラとセラフィって呼ぶことにするよ!」
「それじゃあ私のことも呼び捨てにしてもらおうかしら……」
「勘弁してくれアルジェ様! ガキの頃からの呼び方はそうそう変えられないって!」
「あら残念」
ヘリコニアはかなり若く見えるが、子供の頃から知っているということは、多分アルジェがまだ10代の頃からの付き合いなのだろう。
アルジェ自身まだまだかなり若く見えるので、会話的には違和感しかないが……他の聖女たちも同様にアルジェとは長い付き合いなのだろうか?
「本当なら他の聖女も連れてきたかったのですが、全員連れて来ては国で何かがあった時に対処できませんからね……今回は個人で最も強いヘリコニアだけを連れてきました。それに、そもそもあまり外に出せてあげれない子もいますから……」
最後にアルジェが小さく呟いた。聖女たちにも色々と複雑な事情があるみたいだ。
まあそのうちスプリトゥス聖国にも行くことがあるだろうから、全員と会う機会もあるだろう。
「ちなみに聖女ってどうやって決まるんだ? やっぱり契約した精霊で決まるのか?」
「いえ、そういう訳ではありません。まあ契約する精霊も関わってはいますが……初めは聖女としての素質を持った子供を探し出します。言ってしまえば将来的に崇級精霊と契約出来る素質を持った子供ですね」
「そんなん分かるもんなのか? セラフィなら分かりそうだが……」
「儂にも将来契約する精霊を完全に把握することは無理じゃな。強いて言えば、その人間に集まる周囲の精霊を見て予想を立てることぐらいじゃ。精霊は契約する時に現れるのではなく、元々その者の近くにおるその者を気に入っている精霊と契約するからの」
「流石にセラフィさんは理級精霊なのでよく理解出来ていますね。今セラフィさんが説明した通り、基本的には精霊と意志の疎通が出来る教皇が、契約している精霊に教えてもらって候補を決めていく感じですね」
その候補の中から聖女が選ばれる訳か。
ふと思ったのだが、もしかしたら候補の全員が聖女になることも出来るが、将来を縛られてしまうので、候補の中から聖女となりたい者を選んでいるのかもしれない。
強制的に聖女にすることをアルジェは嫌がりそうだし、ヘリコニアを見ていると聖女としての重責を感じている様子は無い。きっと聖女になりたくてなったのだろう。
あくまでも俺の予想でしかないが、アルジェならば聖女となる者の幸せも考えていると信じている。
「そういえばヘリコニアは火の聖女なんだろ? ということは各属性の聖女がいると思っていいんだよな」
ヘリコニアは自身で火の聖女だと名乗っていた。ならば自然に考えれば他の属性の聖女もいるはずだ。
「はい。今は喜ばしいことに全属性の聖女がいます。その中でも最も強いのがこのヘリコニアです。精霊との親和性が高いと言えば水の聖女ですね。優しい子です……」
水の聖女の話を出したアルジェは、まるで母親のような優しい表情をしていた。
もしかしたら、先程小声で呟いたことに当てはまるのが、その水の聖女なのかもしれない。
それにしても精霊との親和性と言われてもイマイチピンとこない。精霊魔法に長けているということなのだろうか? それとも、アルジェのように精霊との意思疎通が出来るということか? 正直精霊にそれ程詳しくないので想像しにくい。
「まあヨゾラさん程ではありませんけどね。恐らくは貴方がこの世で最も精霊との親和性が深いでしょうね」
と、俺とセラフィを交互に見ながらアルジェは呟いた。
俺とセラフィに関して言えば、契約者と精霊という関係とはまた違うような気もするが、精霊との仲の話をするのであれば、確かに俺とセラフィ以上の奴はいないだろう。
ハッキリと言ってしまえば、セラフィとは相棒どころか、一心同体と言っても過言ではない。
もしセラフィが死んでしまうようなことがあれば、きっと俺は後を追うだろうし、その逆もあり得る話だ。
「改めて見ると、良いものですね……こうして人と精霊が友のように、恋人のように、家族のように言葉を交わし生活をしているというのは。ヨゾラさんとセラフィさんと出会えて本当に良かった……この時代に教皇として在れたことに感謝したいですね」
「わたしも聖女として、実際にこうやって話せてよかったよ。ヨゾラもセラフィも立場こそ魔王と理級精霊様っていう破格の立場だが、それを歯牙にも掛けないし、良い奴らだしな!」
アルジェもヘリコニアも本当に嬉しそうだ。俺はただセラフィと一緒にいたくてそうしているだけだし、ヘリコニアも良い奴だから普通に喋っているだけなのだが、何だかそういう反応をされると照れくさくなってくる。
「でもそういうアルジェもそれほど地位を気にしてたりしないんじゃないか? ヘリコニアにも普通に話させてるしさ」
「そうですね……まあ先程も言ったように子供の頃から知っているということもありますが……それにスプリトゥス聖国は精霊を信仰していますから……私はあくまでも精霊を立てる上でのトップというだけなので、そもそも人と人の間に差が生まれてしまえば、精霊とも近づけませんよ」
アルジェの言いたいことは分かる。同じ者同士で大きな溝があれば、違う者ではもっと溝が出来るだろう。
仮に人間同士が戦争をしていたら、獣人と仲良くなることなど、更に困難だったはずだ。この世界は同じ人同士での溝が無かったからこそ、いざ獣人と手を取り合うとなってからはある程度スムーズに進んだのだと思っている。
まあアルジェ自身は戦争をしていた頃から、今と同じ気持ちを持っていたからこそスプリトゥス聖国は戦争に参加していなかったのだろうし。逆に敵対もしておらず、互いをもっとも知らない状態でも手を取り合うことができたのだ。
そう考えると、宗教国家とも言えるスプリトゥス聖国だが、人の国の中では最も穏やかな国として完成している。
「アルジェが教皇の限りは、スプリトゥス聖国は安泰だな」
「ふふっ、今の聖女たちも良い子達ですから、次代も安心です」
心強い言葉も聞けて良かった。
様子を見て、早めにスプリトゥス聖国にも訪れてみたいものだ。
自由な女神「アルジェは出会った時から良い人っぽい感じがしてたけど、やっぱりそうだったね。それにしても他の聖女がどんな感じなのかとっても気になるよ……」




