ノーヴィストの兵士
グラヴィウス帝国から帰ってきて、いつもの日常に戻ってきた。
アノンは都合が会わず結局会えなかったが、セシルとルーシェには会うことができ、サクラとも仲良くなっていた。
2人共かなり腕を上げており、何ならリリスとも良い勝負が出来るのではないかと思わせる程だった。
リリスは最初の印象とは打って変わって、俺達が帰る時にかなり寂しそうにしており、必ず近いうちに遊びに行くと言っていた。
いつ来ても良いようにビャクには話を通してある。
サクラは帝都に行けて満足だったようで、仕事に更に身が入ると張り切っている。
まあ、そんな状態でも結構な頻度で俺とセラフィが遊びに誘うので、仕事でその気合を十分に発揮できているかは怪しいが……
やはりサクラはメイドと言うよりも家族という感覚が強いので、どうしてもサクラが仕事をしているのを見ると、仕事なんかしなくていいという気持ちになってしまうのだ。
さて、相変わらずセラフィとぐうたらしている訳だが、今日は兵士達の様子を見に行こうと思う。
ノーヴィストにも勿論軍は存在する。今のところ出番はありそうに無いが、いざという時の為と国として力を持っているということをアピールしないといけないとビャクは言っていた。
かなり練度も上がってきたみたいで、もし仮にまた戦争が起きようとも問題無く対応出来るとビャクは豪語していたので楽しみだ。
ちなみに今日はミヤも連れて行く。ミヤの立ち位置は城の騎士長で厳密には軍とはあまり関係無い位置らしいが、それでも兵士という括りで見れば俺とセラフィの城を守っている騎士長が事実上の頂点らしく、軍を動かす最高権限もビャクの次に高いらしい。
ミヤ自身、元々が軍所属だったので久々に顔を出したいだろうし、色々と説明も行ってもらおうと思って呼んだのだ。
「本日は案内をしっかりと務めさせていただきます!」
ミヤも大分慣れたもので、もう俺とセラフィを前にしても緊張であまり喋れなくなるということもなく、背筋を伸ばして挨拶をする様は騎士長としての風格が出ていた。
「よろしくなミヤ。大分様になったじゃないか」
「そうじゃな。最初の頃が嘘のようじゃ。あの頃は可愛かったのぅ」
「せ、セラフィ様!? ご勘弁ください!」
セラフィが冗談めかして言うと、ミヤは顔を赤くして恥ずかしそうにしている。
これで程よく緊張も解れただろう。気楽にいてほしいからな、セラフィは最近その辺の気遣いもしっかりと出来るようになったようで、こいつも成長してるんだなと感じる。
「こほん。では参りましょうか」
俺とセラフィはミヤの後に続いて兵士達が集まる場所に向かう。
予め行くということは伝えているため、バラバラだということはなく、ほぼ全ての兵士が集まっているらしい。
そうなるとかなり広い場所が必要になるが、その辺は問題無いようで、ノーヴィストは少しずつだが国を大きくしているので、そういった建物も順次建設していると聞いている。
王都以外にも街なども出来てきているみたいで、いよいよ本格的に国らしくなってきたようだ。
王都内でも俺が知らない場所も結構あるだろう。近々散策してみることにするか。
歩いていると獣人ではない普通に人間もかなり歩いているのが見える。
トラブルが起こっている様子もなく、活気づいた王都を見ていると何だか嬉しいものがあった。
俺達に気が付いた奴は、獣人であれば憧れの人物でも見るように目を輝かせてこちらを見ており、人間は興味深そうな視線を向けてくる。
少しむず痒いが、普段こうして姿を見せることはあまり無いので仕方ないだろう。
何ならサービスしてやろうと手を振ることにした。
「きゃー!」
ふむ、獣人の女性から黄色い声が上がった。いつの間にそんなに人気になったのだろうか?
「セラフィもやってみたらどうだ?」
「まあたまには良いじゃろう」
セラフィが手を振ると、一部の女性は変わらず声を上げたが、男連中は顔を赤くして黙ってしまった。
非常に分かりやすい反応である。
「なんじゃ? ヨゾラの時とは随分と反応が違うのぅ」
「そりゃそうだろ。お前に手を振られた男達は照れてなんも言えないんだ」
「ふむ、またつまらぬものを斬ってしもうた」
「つまらぬものって……存外に失礼だな……」
まあセラフィからすれば確かにつまらぬものなのだろうが、自身の国の国民なのだから少しは柔らかい言い方をしてもいいだろうに……セラフィらしいと言えばセラフィらしいが……
「あの……目立つので出来ればそういうことは控えていただけるとありがたいのですが……」
ただでさえ注目の的だったのに、気まぐれでおこなったアピールのせいで更に人が集まりかなりの騒ぎになっていた。
そんな状況でミヤは再び恥ずかしそうにしていた。
今後からミヤがいる時は可哀そうなので極力やめておこう……
――――――――――
騒ぎを起こしつつ、俺達は兵士達が集まっている場所に到着した。
円形に建てられた巨大な建物は、頑丈そうで確かに軍が使う場所という印象だ。
「ここは普段は使われておりません。軍内での大きな連絡事項の伝達や戦の際に司令部として使用するために建設されました。本日は前者の理由での使用ですね。初めての正式使用で兵士達も浮足立っているかもしれません……」
「別に気にすることは無いんじゃないか? ワクワクする気持ちは俺にも分かるしな。そんなことでどうこう言ったりしないさ」
「そも儂らが訪れるということだけで浮足立っているのではないか? 儂も流石にそういう立場だということが自覚出来てきた」
まあそりゃそうだろうな。仮にも王が顔を出すと言っているんだ、浮足立ちもするだろう。
むしろグラヴィウス帝国の兵士達は落ち着きすぎだ。もしかしたらフロディスがしょっちゅう現れて慣れているのかもしれない。あの皇帝ならありそうだ。
俺は扉を開けて中に入る。ミヤに先導してもらっても良かったのだが、まあこっちの方が威厳があるだろう。
セラフィは当然俺の隣。ミヤは察して俺とセラフィよりも一歩下がった位置に立ってついてきた。
兵士達は首を垂れている。誰一人として顔をあげようとしない。
「ヨゾラ様、セラフィ様、こちらに」
ミヤの手引きで用意された椅子に座る。
「ミヤ、進行を任せてもいいか?」
「お任せください」
まずは名乗ろうかとも思ったが、王として俺のことは知っているだろうということを暗に言う為に名乗らない。
普段通りでもいいのだが、ここは国のトップらしく威厳を見せていった方が後の兵士達の士気も上がるだろう。
なので進行はミヤに任せることにした。
「部隊長! 立ちなさい!」
ミヤが声を掛けると、綺麗に整列した兵士達の一番前にいる奴が4人立ち上がった。
「我が国の軍は4つの部隊から構成されております。それぞれが何かしらに特化しており、明確に役割を分けております。……まずは遊撃隊! 自己紹介を!」
「はっ! 遊撃隊が隊長ヘルスであります! 遊撃隊は主に前線で敵との正面衝突を担う部隊であり、近距離の戦闘に特化しております!」
兵士らしく熱血の挨拶をしたヘルスは元の種族は分からないが、ライオンのような見た目をした獣人だ。
筋肉は膨れ上がっており、力がとても強そうである。
ヘルスの後ろにいる遊撃隊の面々も種族は違えど、同じように見た目からして強そうな者が多く、確かに近距離の戦闘に特化していそうだ。
「次! 殲滅隊!」
「はいっ! 私は殲滅隊のイズです! 殲滅隊は魔法による攻撃を得意としており、広範囲の殲滅力に優れております!」
殲滅隊のイズは外見からはなんの種族かは分からない。他の殲滅隊の中にもそういった奴が結構いる。
その辺のことは後でミヤに聞いてみることにしよう。
魔法による攻撃が得意な部隊なら、今度セラフィを連れて個人的に遊びに行っても面白いかもしれない。
「次! 隠密隊!」
「隠密隊のナイルと申します。隠密隊は裏工作や情報操作などを主な任務としております。戦場の偵察なども我々の仕事です」
隠密隊はナイルを始めとした殆どの者に翼が生えている。上空などから偵察出来ることから選ばれているのだろう。
他には鼠か何かの獣人だろうか? 恐らくどれも小型の魔獣が元となっている者が多そうだった。
「次! 医療隊!」
「はい~、私は医療隊のリアですぅ。医療隊は戦場で出た怪我人の治療を主としております~」
最後に緩い口調で喋るおっとり系のリアが挨拶をした。
医療隊は見るからに戦闘要員ではなく、医療に特化した隊なのだろう。
「以上4つの隊がノーヴィストの軍隊となります」
「ありがとうミヤ」
こうして見渡してみると、ノーヴィストという国は出来たばかりのはずなのに軍はかなりしっかりしているように思う。
まあ、最近まで獣人と人間は戦争をしていたので、その名残で統率も取りやすかったのだろう。
元々纏めていたのがビャクなので、その辺は最初から問題はなかったはずだ。
いざという時は、こいつらがノーヴィストの戦力の要となる。
最高指揮は俺になるみたいだが、何だかんだビャクに任せることになるはずだ。ビャクならば、軍を上手く使いこなすことが出来るだろう。
セラフィも一応指揮権限を持っているみたいだが、セラフィが指揮を取る日は一生来ないだろうな。
「国の有事の際には頼んだぞ」
「「「「はっ!」」」」
俺が声を掛けると、隊長の4人は返事をする。後ろに控えている兵士達は身体を震わせていた。感動しているみたいだ。
こうして見ている感じ、士気はグラヴィウス帝国の軍よりも高いのではないかと思ってしまう。
ノーヴィストは完全な君主国家だが、グラヴィウス帝国や他の国には貴族などといった王以外にも権力を持つ者がいるので仕方ないことなのかもしれないが……
全員が国を思ってくれていることは十分に伝わったので、嬉しい限りだ。
自由な女神「軍の形態は結構普通なんだね。まあ士気は高いみたいだからヨゾラ君のために頑張ってくれると思うよ!」




