皇子と皇女
昼飯を済ませて俺達は王城に向かっていた。
どこにそんなに入るんだという程食べていたセラフィが歩けるのか心配だったが、普段と何も変わらない様子で歩いている。
小柄な身体からは想像も出来ない恐ろしい胃を持っているのだと再確認させられた。
サクラの方は無理のない程度に食べていたので、元々問題無い。
むしろ、もう少し多く食べてもいいのでは? とまで思ったくらいだ。
サクラは小柄という訳では無いが、線は細い方だ。獣人になる前のキツイ時代はあまり関係無いが、どうしてか心配になってしまう。
「どうしましたヨゾラ様?」
「……いや、何でもない」
俺の視線に気が付いたようで、少し首を傾げながら何事かと尋ねてくる。
きょとんとした表情は雰囲気的に子供っぽく、庇護欲が湧いてきそうだった。
そして分かったが、この庇護欲がサクラを心配してしまう原因なのだろう。
俺は勿論甘やかしてやる気満々なので、このことに関してはこれ以上深く考えずに、その時その時で俺がしたいようにすればいいだろう。
それなりに歩いて胃の重さが多少和らいできた頃、王城に入るための門が見えてきた。
俺達に気が付いた兵士の1人がこちらに小走りでやってくる。
「ようこそいらっしゃいました、魔王様ご一行! 話は皇帝陛下から伺っております!」
「そうか。それじゃあ、城に入るのは問題無いんだな?」
「はい! 皇帝陛下より自由に歩かせていいというお言葉を頂いております!」
「流石、俺のことを分かってるな。んじゃ、フロディスに俺達が来たことだけは伝えておいてくれ」
「分かりました! 直ちに伝えてまいります!」
兵士がフロディスに俺達の来訪を伝えに行ったのを確認してから王城の中に入っていく。
王城の中は前に来た時よりも人の行き来が多い。俺達の国との交易も増えたことでなにかと忙しいようだ。
俺が住んでいる城も、最近はそれなりに賑やかになってきたが、こういった慌ただしさは無い。
ここで仕事をしている人達が仕事が出来ないというつもりは無いが、ビャクと比べるとやはり劣るのだろう。
今ノーヴィストでの政は、ほぼ全てがビャクを中心に処理されている。偶に俺にも確認程度のものが来るが、本当にそのくらいだ。
逆にビャクがいなかったらと思うとゾッとする。
「……何だか落ち着きません」
サクラは落ち着かないようにしている。
まあその理由はすぐに分かったのだが……
「この城で働いてるってことは、殆どの奴は俺とセラフィのことは見たことあるんだろうが、サクラのことは確実に初めて見ただろうから注目もされるさ。これまで連れてきたのはビャクだけだから、立場的にも気になってる奴もいるだろうしな」
「そういうことですか……ビャクと比べられるのは正直緊張しますが、ヨゾラ様とセラフィ様に恥をかかせない為にもしっかりとしないといけませんね」
サクラは元々綺麗に背筋なんかも伸ばして歩いていたが、改めてきっちりとしてから歩き出す。
頑張ろうとしているのが凄く伝わってくる。
「……なんじゃヨゾラ。随分と悪そうな顔をしておるが……」
セラフィが思わず指摘してくる程悪い顔をしていたようだ。
というのも、頑張ろうとしているサクラを見ていると、子供が少し背伸びをしているように見えてきて、軽い加虐心が湧いてきてしまったのだ。
勿論サクラが俺達の為に頑張ろうとしてくれているのは分かっているし嬉しいのだが、いくら綺麗でも幼さも大きく残る顔立ちのサクラが、普段落ち着いていて出来る大人という雰囲気のビャクの代わりになろうとしているのを見ると、どうしてもそう見えてしまうのだ。
「まあサクラが綺麗だから見惚れてる奴も結構いるみたいだけどな……」
「……え、そんなことは、ないと思いますが……」
「サクラは可愛いからのぅ。男どもが視線を向けて来ても何もおかしくは無いじゃろうな」
人に悪い顔と言っておきながらセラフィもしっかりと援護射撃をしてきた。
俺とセラフィの両方から言われたサクラは、胸を張って堂々と歩いていたのに、恥ずかしそうに縮こまって歩き始めた。
「そ、そんな……セラフィ様の方がお綺麗ですし、気のせいですよ……」
「儂のことなどもう見慣れておるんじゃろう。それにサクラは十分綺麗じゃと思うぞ。別に儂と比べる理由は無いじゃろう」
確かにセラフィはこの世の者とは思えないくらい整った見た目をしてるが、サクラも同じレベルで可愛いのは間違いない。
方向性が違う美少女なので、セラフィの言う通りいちいち比べる理由は無いだろう。
「いいじゃないか。俺はサクラが色んな奴に注目されてて気分が良いぞ」
「……ヨゾラ様が、ですか?」
「ああ。連れが目を引いてるんだ、いい気分さ」
これだけの美少女を連れ歩いて、しかも注目されてるとなれば、優越感も湧いてくる。
状況的にはまさに両手に花だ。むしろもっと分かりやすく羨んでほしいものだ。
「そうですか……ではヨゾラ様の傍に仕える者として、やはり堂々としていなければいけませんね」
サクラは小さく笑いながら再び堂々と歩き始める。
揶揄ったことでサクラの面白い反応を見れたし、サクラの更なる自信に繋がったようで2度美味かった。
――――――――――
城の中を適当に歩いていると、やがて兵士達の訓練場にやってきていた。
剣同士がぶつかる音が聞こえてきたので誰かが居るのは分かる。複数聞こえるのでセシルとルーシェもいるのではないかと思い、覗いていくことにした。
中に入ると、兵士達は真剣な様子で訓練しているようで、俺達が入ってきたことには気が付いていなさそうだ。
「どうだ? サクラの目から見て、兵士達のレベルは高そうか?」
「そうですね……流石にここで訓練している人達はそれなりにレベルが高そうです」
「そうか。じゃあサクラ自身が戦って勝て無さそうだと感じる奴はいるか?」
サクラも最近ではかなり強くなってきたと聞く。
俺達と秘境に行く時も、問題無く戦えているので本当の事なのだろうが、正直な話をしてしまうと、俺自身かなり強くなったせいで、あまり秘境での戦闘は分からないのだ。
勿論、秘境という場所で戦えている時点で世界的に見れば強者なのは間違いないのだが……
まあ、ここの兵士達が秘境でどれだけ戦えるか分からない以上、サクラを基準に教えてもらうのが、一番分かりやすいと思ったのだ。
「……はっきりと申し上げてしまえば、この場には私に勝てそうな者はいません。……いえ、あの人であれば、いい勝負でしょうか……」
最初ははっきりといないと言ったのだが、全体をゆっくりと眺めていく中で、サクラに匹敵しそうな奴を見つけたようだ。
セシルかルーシェのどちらかかと思ったが、そちらに目線を向けると残念ながら違った。ぱっと探した感じ、この場にセシルとルーシェはいないようだ。
サクラが視線を向けた先には、フロディスの妻である皇妃のプリシラによく似たオレンジの髪をセミロングにカットした吊り目の綺麗な女性が剣を振っていた。
舞うように剣を振るう姿は見事で、同時に強者特有のオーラのようなものも感じる。表情に出ている自信がそう感じさせているのかもしれない。
どうせなら声でも掛けようかと思うが、今話しかけては邪魔をしてしまいそうなのでしばらく見ていることにする。
そうしていると、先程俺達が入ってきたところからフロディスとオレンジ色の髪で眼鏡をかけた賢そうな男が入ってくる。
並んで歩いているのを見ると、あっちで剣を振っている女性はきっと2人の関係者か血縁者なのだと予想出来る。
まあ、聞いてみれば分かるだろう。
「ここにいたかヨゾラ」
「久しぶりだな。忙しそうだけど大丈夫なのか?」
「ノーヴィストと和平を結んだばかりの頃と比べれば大分落ち着きはした。まだやらねばならぬことは多いが、それでもこうして顔を出すくらいの余裕はあるさ」
流石に疲れていると思っていたのだが、表情を見る感じはそこまで疲れは感じさせない。
単にそういうのを隠すのが上手いだけなのかもしれないが、まあ俺が心配する必要は無いだろう。俺よりも疲れと向き合うのは上手いはずだ。
「で、そっちの奴は?」
「ああ、丁度2人共帰ってきていたから紹介しようと思ってな。全く……少しは皇子と皇女だという自覚を持ってもらいたいものだ……」
「皇族としての役目は兄上に任せておりますので」
フロディスが諦めたようなため息を吐くと、隣にいた男は悪くも思っていないように答える。
「初めましてノーヴィストの王ヨゾラ殿、それからセラフィ殿。僕はグラヴィウス帝国第2皇子のテスタリス・セルマ・グラヴィウスです。それからあちらで剣を振っているのが――」
「あら? わたくしの紹介もお兄様がしてしまうのですか?」
「おやおや、流石に気が付いたようだね」
「周りがざわついているのだもの、気が付くわよ。……こんにちは、わたくしはグラヴィウス帝国第1王女のアマリリス・レティ・グラヴィウスよ。丁寧な言葉遣いは勘弁してね魔王様。わたくし、自分の目で認めた相手しか敬えないのよ」
テスタリスにアマリリス。以前フロディスの口から名前が出ていた気がする。
テスタリスは話し方が丁寧で、雰囲気的には学者のように感じる。アマリリスの方は分かりやすく気の強い貴族令嬢といった雰囲気だ。
2人共堂々としており、普段の行動はフロディスの反応から察するが、流石に皇族としての威厳のようなものはちゃんと持っている。
「さて、お兄様には申し訳ないのだけれど、折角この場所で会うことになったのだし、どうかしら魔王様? わたくしと一つ手合わせでもしない?」
「全く……すまないヨゾラ殿、僕の妹は少々切っ先が鋭くてね……強者を見ると戦ってみたくなるみたいなんだ」
先程のフロディスと全く同じ反応をしながらテスタリスは突然手合わせを申し出てきたアマリリスのことを話す。
俺としては別に構わないのだが、今回の目的はサクラに様々な場所を見せることなのだ。あまり時間は使いたくない。
そう思ってサクラの方を見ると、サクラは俺とアマリリスの間に入るように前に出た。
「失礼ながら申し上げます。ヨゾラ様と戦いたいのであれば、まずは私が相手になりましょう。従者として、初めから王を戦わせるなど、出来ません」
「あら? あなたは?」
「サクラと申します。ヨゾラ様とセラフィ様のメイドを務めております」
何だか俺が想像していた展開とは違う方向に進み始めた。
「へぇ……で、あなたは強いの?」
「ヨゾラ様の足元にも及びませんが、ヨゾラ様のメイドとしてそれなりに力は付けているつもりです」
「そう。じゃああなたでもいいわ。やりましょうか」
どうやら相手の強さをある程度察することは出来るらしく、サクラがある程度強いということも分かったのだろう。
「申し訳ありませんヨゾラ様……勝手にこのようなことをして……」
「別にいいさ。折角だし、サクラが強くなったってことを見せてくれよ」
「はい! 見ていてください!」
唐突にサクラとアマリリスの手合わせが決まったが、サクラの成長を見れる絶好の機会でもあるので楽しみだ。
自由な女神「遂にサクラちゃんの戦闘シーンが出てくるんだね! 元々は弱い種族だったみたいだけど……どのくらい強くなったのか楽しみだね!」




