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この異世界は物足りない  作者: VRクロエ
魔王城の住民編
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閑話:サクラ

 私はずっと孤独でした……


 生まれてすぐに親には捨てられ、当然のようにその親がいる群れには入ることが出来ません。

 偶々捨てられた近くに食料となる物があり、更には天敵にも出会うことが無かったので、子供の私でもどうにか生きていけました。

 それはとても幸運なことです。


 私達フラワーキャットは魔獣の中でも弱い種ということもあり、すぐに親の手を離れても生きていけるくらいに成長するように進化してきました。

 ある程度成長した私は、自分を受け入れてくれる群れを探すために移動を繰り返しました。


 結果から言ってしまうと、どれだけの群れに出会っても、私を受け入れてくれるところはありませんでした。


 理由は分かっています。私の体毛の色が関わっています。

 どれだけの同族と会おうが、私と同じ毛色は見つからず、そして私を見ると不気味なものを見るような目をします。


 私は、自分の毛色が嫌いになりました。

 ですが、全てを毟ってしまおうと思っても、それを実行することが出来ません。

 今だから分かることですが、きっと心の何処かでは嫌いになりきれていなかったのでしょう。


 いつまで経っても仲間が見つからないことに絶望したこともあります。

 それでも足を止めなかったのは簡単な理由です。


 私は、生きていたかった。


 しかし、この世はそれほど甘くありません。

 移動を続けているうちに、遂に天敵となる魔獣に出会ってしまったのです。


 当然抗って勝てる相手ではありません。

 ですが、私には生まれつきある能力が備わっていました。

 極限まで自身の気配を薄くするという能力です。


 とはいえ、姿が消えたりするわけではないので、目の前で使っても意味がありません。

 私は攻撃を食らい吹き飛んで草むらに落ちたところで、自身の能力を発動させました。

 茂みに姿が隠れた私を魔獣は見つけることが出来ずに何処かへ去って行きます。

 どうにかやり過ごせた……という感情はありません。

 傷は深く、何の対処もしなければ助かることは無い程のダメージでした。

 動く力もあまり残っていません。仮に動いたとしても、魔獣に見つかるか何の対処も出来ずに終わるだけです。


 あぁ……生きている意味なんて何も無いですね。


 開き直りにも似たことを思い、私は生きるのを諦めてしまいました。

 後は静かに、誰にも気が付かれずに自身の命が消えゆくのを待つだけ。

 だったのですが、私に気が付いた人達がいたのです。

 それが、私が生きてきた中での一番の幸運でした。


 現れたのは1人の人間と、姿は似ているが人間とは違う気配の2人。

 遠目からですが、人間を見たことがあるのですぐに分かりました。


 とても大きな力を感じます。自信があった私の能力を破ったのですから疑いようがありません。

 強者だと、理解しました。


 抵抗する力はもうありません。ですが、これほどの強者に多少でも欠片でも抗ったのならば、私が生きていた世界に少しでも何かを残せる気がしました。


 最後の力を振り絞って威嚇します。そして、最後の時を待ちました。

 ですが、私が想像した未来は訪れませんでした。


 言葉は分かりませんが、3人が何か会話をした後、人間が私を優しく抱き上げます。

 この時、私は生まれてきて初めて優しさに触れました。

 心地良く、全てを委ねてしまうような感覚の中、その人間はこう言いました。


「……助ける以外の選択肢は無いな」


 魔獣だった私には言葉の意味は分かりません。当然私では発音出来るものでもなく、もっと言ってしまえば鳴き声にしか聞こえませんでした。

 それなのに、どうしてか涙が出る程嬉しかったのです。


 薄れゆく意識の中、その人間が私を抱えて必死に走っているのだけは分かりました。






 ――――――――――






 目が覚めた私は見知らぬ空を見ました。

 真っ白な空は考え事をするのには丁度良く、私は今自分がどういう状況にあるのか考えます。

 体に多少の痛みはあるものの、死を覚悟した時のような程ではありません。

 その体は白く柔らかい布で包まれており、とても心地が良いです。


 私は助かったようでした。

 正確にはあの人間に助けてもらった、ですね。


 まだ体が怠く、それを実感した辺りで眠くなってしまい、私は眠りました。

 次に起きた時は、私を助けてくれた人間が住む家におり、私はそこで暮らすことになります。


 人間の名前はヨゾラというそうです。

 名前に関しては種族問わず発音をそのままなので声に出すことは出来ませんが、理解することが出来ました。


 そしてヨゾラ様以外にいた2人はセラフィとビャクというそうです。

 どちらの方も私に良くしてくださり、私は幸せでした。

 種族は違いますが、私を家族のように想い大切にしてくださいます。

 遂に私は長い間手に入れることが出来なかったものを手に入れることが出来たのです。


 しかし困ったことに、私は新たに欲しいもの……というよりは願いが湧いて出てきてしまいました。

 この魔獣の姿ではなくヨゾラ様、それにセラフィ様と同じ姿で共に生きていきたい、言葉を交わしたい。貰った恩は返しきれないけれど、少しでもお役に立ちたい。


 身勝手な願いなのは分かってる。1つの願いが叶ったのに、またさらに願うなんて、私は何て強欲なんだろう……

 でも、諦めたくありませんでした。


 方法は私には見当もつきません。ですが、セラフィ様やビャク様、特にビャク様からは魔獣の気配を強く感じます。

 あくまでも勘でしかありませんが、ヨゾラ様ならば魔獣を人にする術を持っているのではないかと思いました。


 それから私はヨゾラ様とセラフィ様に伝えようとしますが、伝わることはありません。

 とてももどかしい。ですが私に他に出来ることが無いので、いつか伝わってくれるのを願って続けるしかありませんでした。


 終わりの見えないことかと思っていました。ですが、意外とすぐに解決することになります。

 ビャク様がとある女性を連れてきました。見たことの無い人です。

 感じる気配は私達の種に似たものですが、同種ではありません。近隣種でしょうか?


 その女性は私と目線を合わせるようにしゃがむと、久々に聞く声色で話しかけてきました。

 驚きましたが、不思議なことではありません。それに完全に理解出来る訳でもなく、何となく何を言いたいのかが分かる程度です。

 ですが、伝えるのには十分です。私はこれまで伝えようとしてきた想いを必死にその女性に伝えました。


 女性は、私が何を伝えたかったのかを理解してくれました。内容の意味は分かっていないようでしたが……

 それでも、私が伝えたかった通りにヨゾラ様に伝えてくれました。


 そして、ヨゾラ様は私に魔法をかけてくださいました。

 神かと見間違うような理外とも思えるような魔法です。


 私はみるみるうちに人の姿となっていきます。

 体が作り返られているのにも関わらず苦痛は一切ありません。それどころか、どういう訳か少し心地良く感じます。

 それと同時に膨大な知識が頭の中に流れ込んできます。人の身となって生きていくために必要な知識です。


 完全なる獣人化が済み、私はタオルから顔を出します。

 新しい私の姿は喜んでいただけるでしょうか? とても気になります。

 魔獣だった時の方がよかったなどと言われてしまったら、立ち直れないかもしれません……

 まあそれでも、私がヨゾラ様に捧げる気持ちに変化は起こらないと思います。


「ありがとうございますヨゾラ様、セラフィ様! このサクラ、生涯の忠誠をここに誓います」


 ようやく伝えることの出来る言葉で、私は忠誠を誓ったのです。






 ――――――――――






「おーいサクラ! なにぼーっとしてるの?」

「……ミヤ、訓練はもういいのですか?」

「うん。あんまり根を詰めすぎるなってヨゾラ様にも言われてるからね」


 この魔王城でメイドとして働き始めてから1か月程が経過して、ミヤもここの環境にかなり慣れてきたみたいです。

 私も緊張したりということはありません。それはヨゾラ様とセラフィ様の前でもです。

 敬意を忘れた訳ではありません。しかしお2人とも優しく、気軽に接することを望んでいるのであれば、私がいつまでも緊張しよそよそしい態度を取る訳にもいきませんから。


 そもそもの話あのお2人は自分達の立場と私の立場をしっかりと理解しているか怪しいところではあります。

 それなりの高頻度で呼ばれ、何か必要な物でもあるのかと思いきや、私を遊びに誘ったり、普通にお茶をしたりといった感じです。

 まあ嬉しいことに変わりはありませんけどね。


 偶に私とミヤを連れて魔獣を狩りに出かけてくれます。

 そのお陰か私はそれなりに強くなることが出来ました。

 まあそれは目の前の同僚でもあり友人でもあるミヤも同じなのですが……


「随分と強くなったものですね」

「まだまだだよ。確かに強くなりはしたけど、総括の足元にも及ばないしね。私よりもミヤの方が伸びが凄いと思うんだけど?」

「私は元が低かったので……」

「まあ実はその理由、知ってるんだけどね」

「え? どういうことですか?」

「簡単に言うと、サクラがヨゾラ様に直接獣人にしてもらったことが関係してるね」


 ミヤはどうやらヨゾラ様に直接聞いたみたいです。

 それによると、ヨゾラ様の擬人化魔法は、擬人化した対象の方向性とでも言えばいいのでしょうか……それがヨゾラ様の想像や願いに左右されるみたいです。


 私の場合はまず容姿です。気に入ってもらえるか心配でしたが、ヨゾラ様がこの姿を望んだのであれば、きっと気に入っていただけるはずです。

 そしてヨゾラ様が願ったもう一つのことが、強くなれるようにということだったみたいです。

 これまで弱い種で大変なおもいをしてきたのだから、獣人になった際にはそうはならないように、せめて自身の身は守れるくらいには強くと……


 これを聞いた時、私は涙が出そうでした。いえ、もし1人だったら泣いていたと思います。


「そんな訳だからさ、今後も一緒に頑張ろう!」

「そうですね。期待以上になれるように頑張ります!」

「まあ料理長は無理そうだけどね……」

「あなた、ここでそれを言いますか……」


 お互いに小さく笑い合い、それぞれの部屋に戻ります。

 その途中で偶然にもヨゾラ様に会いました。


「お、サクラか、お疲れ様。この後は暇か?」

「ええ、今日の予定はもう何もありません」

「じゃあ玉座の間に来いよ、セラフィもサクラがいると喜ぶしさ」

「セラフィ様が、ですか?」

「そうだ。それに、俺もな」


 そう言ってヨゾラ様は子供っぽく笑います。

 それはとても王がメイドにするような顔ではありません。

 ですが、私はヨゾラ様のそういうところが、とても好きでした。


「ほら、行こうぜ」

「はい!」


 ヨゾラ様を見ていると、ヨゾラ様と話していると、ヨゾラ様と共にいると、胸が苦しい程高鳴ります。

 セラフィ様に対しては無い、ヨゾラ様だけに唯一ある感情です。

 理由なんて、考えるまでもありません。


 ――あぁ、ヨゾラ様。貴方を心から愛しております。








自由な女神「あ、圧倒的ヒロイン力……まだ出てきたばっかりなのにここまでだと、今後が恐ろしい……」

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