役職
ふむ……なかなかの美少女になった。
可愛らしい顔はどこか庇護欲を掻き立てるが、綺麗に伸びたピンク色の長い髪は大人っぽさも感じさせる。
声は透き通るように綺麗で、普通に喋ったことも考えると言語機能は問題無いようだ。
サクラは俺とセラフィに忠誠を誓うと言って頭を下げている。
慕われているようで大変嬉しいのだが、タオルを纏っただけの半裸状態では些か落ち着かないので、とりあえず着替えてもらうことにしよう。
「悪いミヤ、サクラの着替えを手伝ってやってくれないか?」
「……え? あ、はい! 分かりました」
「どこか適当な部屋を使ってくれ」
俺が手伝う訳にはいかないのでミヤに頼む。
セラフィでもいいんだが、セラフィも着物は着たことがないのでサクラが着れなかった場合にどうしようもなくなってしまう。
ミヤはどうかと思い頼んでみたら普通に返事をしたので大丈夫だろう。
俺が声を掛けるまでのミヤは神でも崇めるような目で俺とサクラを見ていたので、頭の方は大丈夫ではないかもしれないが……
「ではヨゾラ様、セラフィ様、私もこれで失礼します」
「ああ、助かったよビャク」
サクラとミヤが出て行ったのを確認してからビャクも玉座の間から出て行った。
「で、結局名前の由来はなんなんじゃ? あの場で濁したということは、皆の前では言えぬ理由があるのじゃろ?」
セラフィは名前の由来が気になってしょうがないみたいだ。
魔獣を擬人化させることに関しては見慣れているので、今更特別何かを感じたりはしないらしい。
「桜ってのは、地球にあった花なんだ」
「地球……というと元々ヨゾラがいた世界じゃったな」
「そうだ。んで桜は俺の住んでた国の、そうだな……一種の名物みたいな花で、春の短い期間にだけ咲くピンク色の花なんだ」
「なるほど、毛並みの色から連想したわけじゃな」
「丁度あんな感じの薄いピンクの花だったし、頭の中に浮かんでからはやっぱりこの名前が一番しっくりきたんだ」
ピンク色のものならば地球だけではなくルーディスにも沢山あるのだが、真剣に名前を考えるのであれば、やはり元居た世界のものになってくる。
セラフィの時も、この世界には無い言葉から付けたので何だかんだで地球に想い入れはあるのだろう。
「まあよい名前じゃとは儂も思うぞ。サクラも気に入っていたようじゃったしな」
「そんなことが分かるのか?」
「まあの。サクラが来てからはそれなりに、いやかなりの時間一緒におったのでな。分かるようになったという訳じゃ。ちなみに、そのサインは耳がほんの僅かに二度動くことじゃ」
セラフィは俺よりもサクラの傍にいた。サクラが懐いてそうしていたというよりは、セラフィが滅茶苦茶に可愛がっていたのだが、その成果は出ているということみたいだ。
サクラが懐いていないというのには語弊があるかもしれないが、それでもセラフィの可愛がりようは凄かったということが言いたい。
やはり猫は万人を虜にするということだ。
丁度話し終えたタイミングでサクラとミヤが戻ってくる。
サクラは先程ビャクが用意した着物を着ており、その着物も薄いピンク色を基調としているのでよく似合っていた。
擬人化した時は布で、頭と顔以外は殆ど分からなかったのだが、こうして見るとよく分かる。
身長はルーシェと同じくらいで、普通の女の子といって想像するくらいの身長で、線は比較的細いが女性的な部分はそれなりの膨らみをしていた。
印象的には清楚でお淑やかな美少女といったところだ。
擬人化の魔法は、セラフィに使った時のように面と向かって集中して使うとある程度見た目が俺のイメージに引っ張られるのだろう。
実際、セラフィもサクラも全てではないが、擬人化させながら思い浮かべた俺のイメージが出ている部分がある。
そう考えると、我ながらいい仕事をしたものだ。
俺がじっと見ていると、サクラは顔を赤らめてもじもじしだした。
「その……どうでしょうか?」
「ん? ああ、よく似合ってるよ。可愛いじゃん」
「あ……ありがとうございます」
うーん、着物美少女が照れてるのは大変素晴らしいな。
それにしても、緊張してるな。まだ猫だった時は気軽に近寄ってきたのに、今は話すのでも少し戸惑ってる気がする。
擬人化して色々な知識を得たからだろうか? それが性格にも大きく影響してる気がする。
元々荒い性格ではなく、心優しい子のはずだ。
これから慣れてきて、もっと気軽に話してくれるようになることを願っておこう。
「とりあえず、サクラは今までと同じように俺達とこの城で暮らすってことでいいんだよな?」
「私としては大変嬉しいことなのですが……いいのですか?」
「当たり前だろ? サクラはもうこの城の住人って俺の中では認識してるからな」
「そうじゃな。逆に出て行ってしまっては寂しいではないか」
擬人化したからといって出ていけなどとは言わないし、これからも一緒に暮らせたらいいとも思う。
「でしたらこれからもよろしくお願いします! あ、お掃除などのこともお任せください」
サクラは嬉しそうにしつつも、自身の仕事については既に決めているようでやる気を出している。
多分メイドのような形になるのだろう。メイド服を着せてみるのも魅力的だが、しばらくは着物のサクラが見たいので、ある程度メイド服の数を準備出来たら着てもらうことにするか。
「そうだ、流石に1人でこの城の掃除なんかしてたら大変だろうから、そうだな……ミヤもサクラと一緒にこの城に住むか? んで、出来ればサクラの手助けをしてくれると助かる」
「え、私ですか!? でも私、侍女の作法どころか、掃除や洗濯、料理も自信無いです!」
「うーん、そうか……ちょっと待ってくれ。ビャク! ちょっと来てくれ!」
良い案だと思ったのだが、ミヤはどうやらそういうことは苦手なようだ。
だからといって、これからサクラに多くの仕事をさせてしまうのは心苦しいので、どうにかするためにビャクを呼ぶ。
ある程度の声で呼べば来るのは既に何度も経験して分かっている。
数十秒後には扉が開いてビャクが入ってきた。
「何の御用でしょうか?」
「いや、サクラに侍女というか、メイドのようなことをやってもらおうと思うんだが、流石にこの城でサクラ1人ってのはキツイだろうから他にも誰かメイドを募集したいんだが、どうしたらいい?」
「でしたら前々から考えていたことがあります」
「聞こう」
「侍女……まあこの場合はメイドということで。それと騎士に料理人といった感じに人員を城に配置することです」
まあ、このデカさの城でその辺の人員がおらず、住んでいるのも俺とセラフィだけってのがおかしな話だったのだが、ビャクはしっかりと考えてくれていたようだ。
これまで掃除なんかはビャクやその部下たちが行ってくれていたし、料理は食いに行くか俺が作っていた。
料理に関してはビャクに何度か俺が作っているのを見られて止められたことがあるのだが、別に料理をすること自体は嫌いじゃないし、俺が料理をしている時は大体がセラフィが茹で卵を食いたいと突然言い出した時なので、完全に突発的なのだ。
ビャクの案をそのまま採用すれば、普段は静まり返って俺とセラフィの声しか殆ど聞こえないこの城に活気が出るだろう。
あまり騒がし過ぎるのは嫌だが、そろそろある程度の賑わいが出るのもいいと思える。
「どうだセラフィ?」
「うむ、一向に問題無いな。むしろ今までが静か過ぎたのじゃ。まあ数年間そういう期間があったから別にいいのじゃが、折角の城なのじゃから、それ相応の人数がいた方がよいとは思うぞ」
セラフィが言う数年間の期間が最初分からなかったが、よく考えると果ての秘境で俺と擬人化の魔法を開発していた期間のことだろう。
あの時は、魔獣との戦い以外は静かなもので、さらには俺とセラフィの間の会話もそこまで無かったので、むしろ戦い以外は今よりも静かだっただろう。
まあ俺もセラフィも積極的に誰かと絡むのが好きなタイプではないので、そういう生活も間違いでは無いとは思う。
それでも、誰かと過ごす楽しさも知っている。
「じゃあビャク頼む。そうだ、それぞれの役職には勿論トップを用意するんだろ?」
「ええ、そのつもりです」
「じゃあメイド長をサクラに、騎士長をミヤに頼む」
俺の言葉にサクラとミヤが『え!?』という顔をする。特にミヤは今にも飛び跳ねそうな勢いで驚いていた。
「サクラは理解出来ますが、ミヤはどうしてでしょうか? 確かに彼女はそれなりに強いですが、ヨゾラ様とセラフィ様の住む城の騎士長を選ぶのならば、もっと強い者も沢山おります」
サクラについては納得したようだが、ミヤを騎士長に選んだことについては疑問に思ったようだ。
ただ、完全に否定しないことを見るに、ミヤがそれなりに強いと言うのは本当なんだろう。それもビャク目線と考えると、今いる兵士達の中でもかなり上の方なんじゃないかと思う。
「まあ強さで選ぶのが正しいんだろうが、まあサクラのためでもある」
「えっと……私ですか?」
サクラは自分の為だと聞いて首を傾げた。
「ああ。サクラはまだミヤにしか会ったことが無いだろ? 多分だが、それなりに心を許してるんじゃないか?」
「それは……はい。獣人になる前、ヨゾラ様とセラフィ様に伝えたかったことを正しく伝えてくれましたし、先程着替えに行った際も少しでも緊張が解れるよう話しかけてくれました」
「俺は2人なら良い同僚ないし友達になれると思うんだ。そりゃこれから選ばれる奴らと仲良くなれるように励ますことは出来るさ。でも、既に心を許せてる相手がいるなら楽だし、いいじゃないか」
他にも俺とセラフィが500年前の人間と知っているなどの理由もあるが、今は置いておこう。
「なるほど……ミヤ」
「は、はい! なんでしょう総括」
ビャクって総括って呼ばれてるのか……初めて知った。
「お前の力はまだヨゾラ様とセラフィ様の城を守る者の長になるのに相応しくない」
「それは……はい、分かっています」
「なので今後、それに見合うだけの力を付けていくように」
「一層励みま……え?」
ビャクの言葉は騎士長になることを許さないというものではなく、これから騎士長として相応しい実力を身に付けろというものだった。
「いいのかビャク?」
「元よりヨゾラ様が本気でそうお決めになったのならば私は口を出しません。ですが、言わなければならないこともある。そういうことです」
「えっと……総括……」
「お前を選んでくださったヨゾラ様には感謝するように。今後はサクラと今はまだ決まっていない料理長と協力していくように」
「っ!? ……分かりました、精一杯頑張らせていただきます」
何だかんだで嬉しかったようで、ミヤは涙を浮かべながら俺とセラフィに頭を下げた。
それからサクラと一緒に喜んでいるみたいで、見ていて微笑ましい。
「それとサクラ」
「はい」
「お前に関しては私に必要以上の礼は必要ない」
「それはどういうことでしょうか? ビャク様は私よりも上の立場になるはずですが……」
「役職上お前はメイド長だが、ヨゾラ様とセラフィ様はお前を限りなく家族に近い存在として見ている。本来ならば敬われることも要らないとお考えだろう。つまり役職ではなく、ヨゾラ様とセラフィ様から見た立ち位置的には、お前は限りなく高いところにいる」
まさにビャクの言う通りだ。
サクラには本来ならば俺達を上に見ないで、同じラインで共にいたいと思っている。
サクラの気持ち的に今は難しいとしても、せめて日常の中でビャクと同じ立ち位置になれば、慣れてくるかもしれない。
そんなことをビャクは考えてサクラに言ってくれたのだろう。
「あまり難しく考える必要は無い。一先ずはヨゾラ様とセラフィ様の支えになれるよう協力していく仲間といったところだ。まあそれはミヤも同じだが……流石にそれは難しそうだ」
「む、無理です……」
「その点サクラであれば、まだ環境の慣れというのが染みついていない。そういうことだ」
ビャクが話を終えると、サクラはまず俺とセラフィを見て、それからビャクとミヤを見た。
しばらく考える素振りをするが、頭の回転は早いようで、すぐにビャクの言葉を飲み込んで顔を上げた。
「では、これからよろしくお願いします。ビャク、ミヤ」
こうして俺とセラフィの住む城にメイド長と騎士長が誕生したのだ。
自由な女神「ようやくヨゾラ君の住む魔王城に活気が出てきそうだね!」




