スローライフ
新章スタートです! 今章は比較的ほのぼのかも?
獣人の国ノーヴィストが人間の国と和平を締結してから2年という年月が流れた。
獣人と人間の交流は問題無く進んでおり、ノーヴィストの街中でも約3割程は人間が歩いているという状況で、それは交易のためだけという訳ではなく、ただ仲の良さそうな様子も見えていることからも2種族は順調に前に進んでいるということが分かる。
戦争の名残が全く無い訳ではない。大切な人を失った者にとってはやはり受け入れがたいのは間違いない。それはどちらにも共通していることだ。
だからといって、新たな争いを生むようなことをするような者が現れていないのは嬉しいことではあるのだろう。
今となってはどちらの種族が悪かったかなどという話をする者もいない。
戦争の発端に関しては、ごく一部の者だけはビャクから聞いた話を俺がしているので知っているが、それに関しても今となっては確認のしようがない。
当時から生きているビャクしか証人がいないのだからそれも仕方ないだろう。俺からしてみればビャクが嘘を言っているようには思えないが、それはあくまでも俺視点からの話であり、人間側からすれば当然のように信じられないし、信じたくもない事実だろう。
まあフロディスや他2国の王なんかは、戦争で国に生まれる利益等も考えているので、恐らくは本当の事なのだろうとは思っているみたいだが……
俺としても今更掘り返すつもりもないし、それで何か賠償をしてほしい訳でもない。これからのことをしっかりと考えていてくれているのならば、それでいいのだ。
さて、こうして当初獣人を生み出した時に俺が望んでいた世界となったわけだが、獣人の王である俺とセラフィはというと――
「……流石に暇になってきたのう~」
「……そうだな~」
王としてせわしなく働く……ということはなく、ただひたすらにスローライフを送っていた。
俺とて帝都で王としての仕事をしっかりと学んできたので、仕事が出来ないというわけではない。ないのだが、俺よりもそういった方面で遥かに優秀なビャクが部下も使いほぼ全てを片付けてしまうのでやることが何もない。
ビャクに丸投げなのは王としてやばいので何度かしっかりと仕事をしようとしたのだが『ヨゾラ様とセラフィ様には自由であってほしいのです。このようなことは私にお任せください』と言われてしまった。
そんなやり取りを何度か繰り返し、俺はじゃあそうしようと開き直ったのだ。
自分を王としてくれている奴が自由でいてくれというのならば、そうするのも上に立つ者の務めだろう。
我ながら中々に屑である。
そして俺とセラフィのスローライフはスタートしたのだ。
セラフィにテーブルゲームの類を教え込み何度も対戦したし、久々に熱心に魔法を開発したりもした。
偶に帝都に行きセシルとルーシェを誘って飲みにいったりもしていたので、時間が経つのはそれなりに早く感じていた。
それでも、強い刺激もなく、大半の時間をだだっ広い城の中で過ごすのには限界がある。
この城には俺とセラフィしか住んでおらず、ビャクやその部下たちもやってくるが、それはあくまでも仕事で来ているので、何かをしたり雑談したりということはない。
端的に言えば、この代わり映えのしない日々に飽きてきてしまったのだ。
「なんかそうしてると理級精霊としての威厳もへったくれも無いな」
「ヨゾラこそ、魔王という言葉が泣いておるぞ」
俺は隣で床に寝転ぶセラフィを見ながら、このままではダメだと思い始めた。
別にセラフィと過ごす日々が楽しくない訳ではないし、幸せだとも感じることが出来ているが、そうではないのだ。
俺が求めた異世界はこうじゃない。いや、スローライフ自体は異世界っぽいし好きだが、まだこうしてのんびりと過ごすのには早い気がした。
まだまだ異世界らしく楽しめる。まだまだこの異世界は物足りない。
まずは手短に出来ることもある。
そろそろ異世界を楽しむために動くとしよう。
――――――――――
そんな訳で俺とセラフィ、さらにはビャクの3人で森の中を歩いていた。
ここが何処かと言うと、果ての秘境である。
獣人の国ノーヴィストは果ての秘境に作られた国だが、あくまでもそれは果ての秘境の一部でしかない。
広大な果ての秘境はまだまだ広がっており、最も魔獣が強いとされる最奥のエリアは未だに未開拓と言って良い状況だ。
ビャクは過去に最奥エリアへと足を踏み入れてみたみたいだが、かなりの実力者であるビャクでもすぐに撤退してきたほどの厳しさだったという。
そんな最奥エリアもそうだが、まだまだ広がる果ての秘境を探索するというのは、長らく忘れていた冒険心を思い出させてくれる。
立場的に冒険者としての活動は難しいだろうが、それでも冒険が出来ない訳ではない。
気持ちは冒険者のつもりで臨んでいくことにしよう。
「……ヨゾラ様、セラフィ様、魔獣の気配があります」
「分かった。セラフィ」
「うむ、任されよ」
ビャクは生き物の気配を察知することには非常に長けており、魔獣が近づいている時は事前に教えてくれるので、秘境特有の突発的な戦闘が起きないのだ。
俺はセラフィに精霊魔法を発動してもらい剣を構える。
その俺の少し前にビャクは立った。
本来ならば常時精霊魔法を発動させるのは集中力の欠如と消耗に繋がるので避けるべきなのだが、ビャクが本当に頼もしく、セラフィが戦闘に参加しなくても波を切り抜けられるので、セラフィは魔法を発動させるための集中力など気にせずに俺に精霊魔法をかけ続けられるのだ。
果ての秘境の波は合宿で行っていた樹海の秘境と比べても厳しいものなのだが、現在いるのが中腹とはいえビャクがどれだけ強いかが分かる。
比べるのならば、フーシーとロニ以上アノン未満といったところか……元の種族自体そこそこ強かった記憶があるが、それにしても強過ぎである。
余程の努力をしたのは、言われなくても分かる。
果ての秘境の最奥エリアがどれ程の場所なのかは、実際に行ってない俺は想像しにくいところがあるが、中腹はいつでも探索出来るので、とりあえず行くだけ行ってみることにしよう。
ビャクは強いが、俺とセラフィはそれよりもさらに強い。それはビャクに正直に聞いたので間違いないことだ。
最悪の場合は速やかに撤退するとして、セラフィも戦闘に加えればもう少し戦える。全く通用しないということは無いはずだ。
そういうわけで、俺達は最奥エリアを目指して歩いていく。
流石に1日で帰れるわけではないので、野営用の道具もしっかりと持ってきている。
秘境は中腹と最奥の境目に近づくほどに魔獣が出てこなくなる。
先程の戦闘からしばらく何事もなく歩いていた。
「……魔獣の気配を感じます」
「分かった、何体だ?」
「1体です。ですが、これは……」
ビャクがここに来て初めて言い淀む。何か気になることがあるみたいだ。
「どうかしたのか?」
「……感じた気配は魔獣で間違いないのですが……いやに感じる気配が小さいです。かなり弱っているか、それとも気配を隠すのが相当に上手いのか……動くことなく殺気も感じられませんので気付かれてはいないと思いますが、どうなさいますか?」
「そうだな……気になるしとりあえず見に行ってみるか」
「分かりました。では、こちらです」
ビャクは前を歩きその魔獣がいるという場所に先導する。
気配が小さいと言っていたが、秘境に弱い魔獣が生息していることが考えにくい以上はビャクの言っていた可能性のどれかであっている気がする。
もし弱っているのであれば、止めだけ刺して美味しく経験値を貰うことにしよう。
後者の気配を隠すのが上手い魔獣だった場合はかなり強い可能性がある。
完全にビャクの気配察知に引っかからないように気配を消すのは無理だったとしても、ビャクが小さいと言う程に小さく出来る魔獣はこれまでいなかった。
それを考えれば気は抜けないだろう。
少し歩いてからビャクはその足を止める。
しかし目に見える限りでは魔獣の姿はない。
「おかしいですね……確かにこの辺のはずなのですが……」
「擬態系の能力を持っているとかはどうだ?」
「いやヨゾラ、そういう訳では無さそうじゃぞ。ほれ、あそこに……」
セラフィが何かに気が付いたようで、指を差す。
俺もそちらの方向を向いてみると、確かにそこには魔獣がいた。
薄いピンク色の体をした猫のような魔獣……いや、もう猫と言ってもいいだろう。見た目もサイズも完全に猫だ。
「……にゃ~」
猫はボロボロの姿で、目を少しだけ開けて俺達に鳴く。
その姿は最後の力を振り絞って俺達に威嚇しているようにも助けを求めているようにも見える。
ボロボロで殆ど動いていないので、どちらかは分からない。
「どうしますか?」
「そうだな……」
俺はその猫に近づいていく。
意識はあるようだが抵抗は一切出来ない。そんな猫を俺は優しく抱き上げた。
「……助ける以外の選択肢は無いな」
自由な女神「実はヨゾラ君って圧倒的猫派なんだよね~。猫を全力で可愛がるタイプだよ!」




