国の名前
次回から新章が始まります!
セシルとルーシェに会ってからは、いよいよ本格的に王としての仕事などを教えてもらっていた。
一国の王に指導するなど広く知られると色々とまずいので、フロディスは人選に気を遣い、信頼できる者を送ったと言っていた。
明らかに国の重鎮であろう堅牢なおっさんが現れた時はフロディスの本気さを感じたものだ。
まあそんな感じでその人に俺とセラフィは教わっている訳だ。
セラフィは本当に話を聞いているのか怪しいことが多いが、何だかんだで頭には入っていると思う。
要所で垣間見せてきたセラフィの頭の良さは伊達では無い。いざという時は俺の代わりに国のことをやってくれるだろう。
そうして1週間程が過ぎていき、俺とセラフィはフロディスに呼ばれて足を運んでいた。
用意された部屋の中で待っていたフロディスは目に見えて疲れている。
「来たか」
「今日は何の用だ? 俺とセラフィはまあそこそこ暇だが、あんたは忙しいんだろ?」
「それもそうだ……和平締結と言葉にするのは簡単だが、その言葉だけで大衆を納得させるのは難しい。それ以外にもやることは色々ある。しばらくは、落ち着けないだろう」
「倒れないようにだけ気を付けろよ? 無理をしてでもやらないといけないこともあるだろうが、この大事なタイミングであんたが倒れる方が俺としては困るからな」
今が人と獣人にとって最も重要な時期だ。そんな時に皇帝であるフロディスに何かあったら面倒なことになるのは目に見えている。
「そうだな。俺もまだまだ現役でいくつもりだからこそ頑張らねば。……それで、今日ヨゾラとセラフィを呼んだ理由だが、獣人の国の名前についてだ」
「名前?」
「そうだ。例えば俺が皇帝として君臨するこの国はグラヴィウスという名前がある。今後獣人の国と呼ぶのは聞こえが悪い。だから国に名前を付けるんだ」
確かに共に歩む国を獣人の国と呼ぶのは何だか味気ない気がする。
「それは今すぐに決めないとダメか?」
「いや、すぐという程でもない……が出来るだけ早めに頼む。今の段階から周囲に認知させておきたい」
「分かった。それじゃあ明日までに決めておくから、また明日この場所でいいか?」
「構わん。時間はメイドに伝えておく」
それ以上の話は今のところは無いようなので、俺とセラフィは部屋に戻ることにした。
「それにしても、国の名前か……セラフィ、何かいいの思いつかないか?」
「儂にその手のセンスを求めるでない。ヨゾラが決めればよいじゃろう。儂にもセラフィといういい名を付けてくれたのじゃ。自信を持って決めよ」
まあ分かってはいたが、セラフィが決める気は無いらしい。
褒められたことは正直嬉しいのだが、国の名前ともなると何だか荷が重い。
これから長い歴史になるであろう獣人の国の名前を安易に決められる訳は無い。セラフィの名前を適当に決めた訳ではないが、あの時よりも慎重に考えた方がいいだろう。
「まあ考えなくてもいいから、俺が思いついた名前の中でどれが一番いいとかの意見だけでもくれよ」
「ふむ、それくらいならば構わぬ。そもそもどういう名前にするのかは予め聞いておくつもりじゃったしな。何しろ儂とヨゾラの国じゃ、流石に関心も湧く」
「よし、じゃあさっさと決めるか!」
そうして俺は思い付く限り様々な国の名前を挙げていった。
セラフィの反応はとても分かりやすいもので、候補から外していいものはすぐに外していく。残った候補の中から更に絞ったり、いい感じになるように合わせてみたりと試行錯誤を繰り返していると、時間は自分で思っている以上に早く過ぎていき、気が付けばかなり夜遅くになってしまった。
流石に腹も減ったので食事を取って、風呂に入ったりなど寝る準備も全て済ませてから最終確認をして国の名前が決まった。
周囲がどういう反応をするかは分からないが、俺なりにしっかりと考えて最良の名前になったと思う。
次の日、メイドに聞いてみると昨日と同じ時間にフロディスの都合が合わせられたとのことなので、俺はその時間まで相変わらずの勉強三昧を過ごしてからフロディスが待つ部屋へと向かった。
部屋に入ると今日はフロディスだけではなく他にも2人の人物がいた。
顔に見覚えは無い。見た目は文官っぽいので何かをしてもらうために呼んだのだろうか?
「昨日ぶりだヨゾラ、セラフィ……それで、国の名前は決まったか?」
「ああ、しっかり決めてきたぞ。それで、そっちの2人は?」
「この2人はそれぞれレジケル王国とスプリトゥス聖国の者だ。国家間のやり取りを迅速にするために帝都に送られている使者だ」
「なるほど……獣人の国の新たな名前をレジケルとスプリトゥスにもスムーズに伝える為か」
「そういう訳だ」
地球のように電子的な連絡方法が無いルーディスでは国同士で連絡を取るのも面倒そうだ。
「では手短に済ませてしまおう。この後の予定も押している」
「そういえば気になったんだが……国の名前を発表するって、言ってみれば新たな国の宣言を世界へ向けてするようなもんだよな? それをこんな形でやってもいいのか?」
「それについてだが、ヨゾラには後日この帝都にて大衆へ向けて宣言してもらうことになる。その際は和平を結んだ表明も兼ねてレジケルとスプリトゥスの王も同席することになり、それを以て世界への宣言とするつもりだ」
「なるほどな」
じゃあ俺はその時までにしっかりと王としての様々なことを身に着けていなければならないということだ。
そういう場ではビャクがいてくれた方が心強いのだが、あまり頼りにし過ぎるのもよくないだろう。
どう足掻いても王は俺とセラフィなんだからな。
「それじゃ、この場ではサクッと名前を言っておくか」
「そうしてくれ」
「今後、獣人の国は――」
――――――――――
時代の転換期とも呼べる今日、その宣言が行われるグラヴィウス帝国帝都、その城の前には地面を目視することが出来ない程の人々が集まっていた。
大半は帝国の民だろうが、それ以外にもレジケルとスプリトゥス、更にはごく少数の獣人も混じっている。
和平締結の情報が広まってからまだあまり時間は経っていないが、まだぎこちないながらも獣人と肩を並べるという意識が芽生え始めている証拠だ。
仲良く……は、まだ先のことになるだろうが、こうして同じ空間に人と獣人が並んでいる光景を見るのは、そう遠くない未来だろう。
俺は人の波を見つめながら気を引き締める。今日ばかりはいつもの調子ではいられない。
そのことはセラフィもしっかりと理解してくれているようで、真剣な表情で俺の隣に並んでいた。
俺が宣言を行うテラスに用意された椅子には既に3国の王達が座っている。
その中に空いている2つの空席が俺とセラフィのものであり、横並びになっているそれは、対等な関係だということを表す意味があった。
「さて、そろそろ時間じゃぞヨゾラ」
「ああ、そうだな。それじゃあ、行くか」
予定通りの進行により、遂にその時が来る。
俺とセラフィは堂々とその姿を大衆の前に晒し、ゆっくりと口を開いた。
「……我が、獣人の国の王……魔王ヨゾラだ!」
「同じく獣人の国の王、魔王セラフィじゃ!」
「長年、本当に長い年月続いた戦争は終結した。戦争による憎しみや傷は簡単には癒えないだろう……」
「それでも儂らの時代に更なる憎しみや傷を生むことは避けられる。いや、それ以上のプラス感情を多く生み出すことも出来るはずじゃ」
「和平は締結され、これからの時代は3国ではなく、4国で歩んでいく時代となる」
「隣人となる国々へ、そして世界へ向けて儂らの国をここに宣言する!」
誰もが静かにこちらを見つめる。その瞳を一心に受け入れ、国の名を告げる。
「「ノーヴィスト獣人国の名を、ここに宣言する!!!」」
魔法により帝都中に響き渡ったその名を、大衆は胸に刻んだだろう。
そして、世界は気高き獣の国の名を歴史に刻んだだろう。
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
大衆は一様に声を上げる。
戦争の終結の喜びから、新たな時代の幕開けへの期待から、単なる興奮からか、理由は何でも良かった。
その叫びの1つ1つがノーヴィストを受け入れることを証明しているのだから。
まだまだ課題は沢山残っている。それでも、争わない道を選び進んでいく未来ならば、きっと上手くいくはずだ。
俺とセラフィの宣言が終わると3つの国の王達はそれぞれ立ち上がって握手をする。
その様子を見た大衆はさらに盛り上がり、新たな時代の幕開けを祝福している。
その後の帝都は祭りと呼ぶのは生ぬるいような喧騒で人々が酒を浴びるように飲み、宙には様々な物が舞って滅茶苦茶なことになっていた。
荒れ果てた帝都を見たフロディスが深いため息を吐いたのはここだけの話だ。
自由な女神「国の名前が決まったね。ノーヴィストか、どういう意味なんだろう?」




