学友との再会
会食は結局夜遅くまで続いた。
セシルの父親であるザルバが会場に居たためセシルがもしかしたら顔を出すかもしれないと期待していたのだが、最後まで来ることは無かった。
アテが外れたのなら仕方が無かったので、用意された部屋に行く前にザルバに聞いてみると、2人に会いたいなら明日の昼間に城の一角にある兵士用の演習場に行けばいいと言われたのでそうすることにしよう。
次の日、俺は隣の部屋にいるセラフィに声を掛けて演習場に向かう。
俺とセラフィの世話をしてくれるメイドがいたので、その人に演習場までの案内をしてもらう。
俺達が場所を知ってるはずがないからな。
王城内ですれ違う人達は必ず1度立ち止まって俺とセラフィに挨拶をしてくるか黙って頭を下げた。
恐らく前者はそこそこ地位の高い者達で後者は使用人などといった位の者達だろう。どちらにしろ今の俺とセラフィがそれだけの扱いを受ける程に偉くなってしまったのだと実感した。
まあ俺にもセラフィのも変に偉ぶったりするつもりはないので、あまり気にしていても仕方が無いだろう。別に自分達が偉いと思っている訳でもない。ただ事実を実感してしまうので、何だかやりにくいだけだ。
しばらくして演習場にやってきた。流石に王城という場所にあるだけあってかなり広く作られている。
演習場では多くの兵士達が基礎的なトレーニングから本格的な模擬戦などを真剣に行っている。
今の俺から見れば正直に言ってしまえば大したことはない兵士達ばかりだ。そればかりはステータスが天と地ほども離れてしまっているので当たり前のことだ。昔の俺からしてみれば兵士達のレベルはかなり高いのは間違いない。
その中でも一際目立つ2人を見つけた。
かなりの速度で剣を打ち合い、使っているのは平級だが上手く自分が有利になるように魔法を放っている。
あのレベルであれば今の俺でも簡単には倒せなさそうだ。
まあ本気で戦うことは余程のことがない限りないだろう。
何せその2人は友人なのだから。
「セシル! ルーシェ!」
俺は戦闘音の中でも聞こえるように大きな声でセシルとルーシェの名前を呼ぶ。するとセシルとルーシェはピタリと動きを止めてこちらを向く。
俺の顔を見たセシルとルーシェは驚いたような表情をしていたが、すぐに剣を収めるとこちらに小走りで向かってきた。
「すまないヨゾラ、ここだと目立つから人のいない部屋に移動してもいいか?」
「あー、あとせめて汗だけは落とさせて」
セシルとルーシェは俺とセラフィだけに聞こえるように小声で話しかけてくる。
理由は分かっているのでこれ以上ここで余計な話はしないことにする。
「分かった。どこに居ればいい?」
「近くに賓客用の部屋がある。そこで待っててくれ」
そう言うとセシルは何やら1人の兵士に指示を出してルーシェと共に去って行った。
例によって俺とセラフィは部屋の場所が分からないのでメイドに案内してもらって部屋まで辿り着いた。
メイドは飲み物などを用意するために何処かへ行ったのでしばらくセラフィと2人で部屋で待つ。
少ししてからメイドが戻ってきて俺とセラフィに紅茶を淹れてくれた。
他にも高そうなお菓子が用意されたので、それを凄い勢いで食べるセラフィに呆れているとセシルとルーシェがやってきた。
「待たせた。久しぶりだなヨゾラ、セラフィ」
「2人なら大丈夫だと思ってたけど、まさか魔王になって帰ってくるなんてね。ん? 元から魔王だったんだっけ? まあどっちでもいいか!」
セシルとルーシェは学校にいた頃と同じような口調で話してくれた。
気を遣われたら悲しかったので、こうして今でも普通に話を出来るのは素直に嬉しいものがある。立場上今後関わってくる人達はきっと俺を魔王として話しかけてくるので、この関係は大切にしたいものだ。
当然公の場ではこうはいかないことは分かってる。そこまで我儘は言えない。
「俺が獣人のトップに立つのが一番丸く収まりそうだったからな。まあセラフィも立ち位置的には魔王って感じだから2人でとりあえずは頑張っていくよ」
「正直儂は魔王云々に興味は無いのじゃが……ヨゾラと共にする道にそういう道もあったということじゃ」
まあセラフィは絶対に国の統治にやる気を出さないだろうから、実質的にはやはり俺が魔王ということにはなるだろう。
面倒臭いと言ってしまえばそうなのだが、ビャクもいることだし何とかやっていこうくらいには思っている。
「俺とセラフィのことよりもセシルとルーシェのことを聞かせてくれ。さっき演習場で見た感じだとかなり腕を上げたみたいだな」
「まあな。友達が魔王討伐に行ったんだ、ゆっくりはしていられないさ」
「いざとなったら私達も力を貸せるようになっていたかったからね……もしヨゾラ君とセラフィに何かあった時に何も出来ないのは嫌だったから……」
「そうか……ありがとう2人共。俺達の為に強くなってくれたのは素直に嬉しいよ」
「そうじゃな。儂らはよい友を持ったようじゃ」
セシルとルーシェとはよく模擬戦をしていたこともあり、俺が魔王討伐に行くまでの実力はよく理解している。
その頃と今の2人では相当に実力が違う。かなりの努力をしたのだろう。
「話は聞いたけど和平は無事に結べたんだろ? だったら今後困ったことがあったら頼ってくれ。立場上あまり身勝手に動くことは出来ないが、ヨゾラからの頼みだったら大抵のことはフロディス皇帝陛下も動く許可をくれるはずだ」
「私達、帝国騎士だからね。あんまり帝都は離れられないけど……でもきっと力になるよ! 約束する」
「ああ、頼りにしてるよ」
和平が結ばれたとはいえ世界情勢的にはまだまだ不安定だ。何も起きないとは言い切れない。
万が一何かよくないことが起きた時にセシルとルーシェは大変心強い味方になってくれるだろう。
それにしても俺もあまりうかうかしていられない。
セシルとルーシェはまだまだ強くなるだろう。油断しているとそのうち俺よりも強くなっていた、なんてこともあり得る。
別に2人が俺のことを害するとかそういう話ではない。単純なライバル意識のようなものであり、友達だからこそ負けたくないという想いがあるだけだ。
「そうだ、俺達がいなくなってからのことを色々と教えてくれよ」
「そうだな……それじゃあ学校のことから話そうか」
「色々あったからねぇ」
それからセシルとルーシェは俺とセラフィが魔王討伐に出発してからのことを話してくれた。
セシルとルーシェの2人だけで秘境で合宿を行ったことや、セラフィに憧れていた男達が血涙を流していたこと……1度は美味しくなったルーシェの料理が再び元に戻ってしまったという事件もあったらしい。
ルーシェの料理が不味いというのは初めて聞いたが、どうやら俺とセラフィがいた頃は不思議なことに美味しかったらしい。
国内の様子だと、長きに渡る戦争に終止符が打たれるかもしれないということで、どこか浮足立ったような感じだったらしい。
話された内容は程度はあれど、それも楽し気な話だったので、その雰囲気を崩すような結果にならなくてよかったと思えた。
話し込んでいるとやがて日も暮れて来てしまい、そろそろ腹も減ってきたということで人があまりいないそこそこ高級な酒場で飯を食うことになった。
セシルとルーシェは魔王就任祝いだとか何とか言ってそこでの飯や酒の会計を全て奢ってくれた。
深夜まで再会を祝って飲み明かし、結局帰ったのは日が昇りそうなくらいになっていた。
「ほれルーシェ……おぬし飲み過ぎじゃ……」
「だってぇ! 久々に会えて、嬉しかったんだもん!」
「そうかそうか……儂も嬉しかったぞ」
「えへへぇ、セラフィ大好き!」
酔っぱらったルーシェはセラフィにべったりだ。多分このままセラフィはルーシェを自分の部屋に連れて帰る羽目になるのだろう。
「こんな調子で今日は大丈夫なのか……?」
「まあ今日はオフでいいって言われてるから大丈夫だろう……セラフィには迷惑を掛けるかもしれないが……」
自分も酔っているだろうに、その上を行く酔っ払いのルーシェを見てセシルも苦笑いをしていた。
「それじゃあ俺は帰るよ。ヨゾラとセラフィはしばらく帝都にいるんだろ? またいつでも顔を出してくれ」
「ああ、セシルの方は帝国騎士としての仕事、頑張ってな」
そう言って俺達は別れて自分達の部屋に戻る。
次の日、すっかりアルコールが抜けたルーシェがセラフィに涙目で謝っているのは、見ていて少し面白かった。
自由な女神「2人が元気そうでよかったよ! このままの関係でずっといれたらいいね!」




