勇者の今後
この章はセラフィよりもアノンの方がヒロインしてる気がする……
アノンは特に装備品を身に着けておらず、ただの私服だった。
フロディスは呼んだと言っていたが、かなり突然の事だったのではないだろうか。それかここ最近アノンが装備など必要ないような日々を送っているか……
前に王城で会った時は普通に帯剣していたので、王城に来るからという理由でないことは確かだ。
「久しぶりだなアノン、元気にしてたか?」
「はい、お陰様で。ヨゾラ先輩の方こそ、その……お元気でしたか?」
アノンはどこか控えめな感じで聞いてくる。
最後に話した時は、俺がアノンとの戦いの末にボロボロになっていた時だ。その時のことを気にするなという方が無理がある。俺ですら似たような状態だったら、表には出さないかもしれないが気にはする。
「俺はまあ、ぼちぼちだな。難しいとは思うが、気にしなくていいぞ。そうなるように動いたのは俺だしな。俺がそう簡単に負けると思うか?」
「……そうですね。ありがとうございます」
「おう」
冗談めかして言ってやると、アノンは小さく笑ってお礼を言う。
実際の話、傷は大きかったしHPも危ないラインまで少なくなったが、前にケルベロスと戦って死にかけた時に比べたらそれ程危機的状況という程でも無かった。
後から聞いた話でしかないが、ビャクが元々傷を癒すための用意をしておいてくれたらしく、すぐに治療を行ったことで問題無く回復に向かったそうだ。
もしかしたらビャクは、俺達が戦いになる時に俺がアノンを殺すつもりがないことに気が付いていたのかもしれない。まあ俺の勝ちを信じており、勝った後に傷を癒すために用意していた可能性もあるが、どちらにしろよく準備しておいてくれたものだ。
軽い挨拶を終えると、丁度フロディスに挨拶をしに行っていたロニとフーシーがこちらにやってくる。
「お久しぶりですヨゾラ様」
「獣人の国にて刃を向けたことをお許しください」
ロニとフーシーは俺の前で頭を下げてくる。
その態度はやはり一国の王に対するもので、微かに感じたがもし戦いのことを俺が許すつもりがないのならば、相応の覚悟は出来ているといった感じだ。
それでもどうかアノンだけは、という意志も同時に伝わってくる。
その姿勢は素直に凄いと思えた。まあ別に2人をどうこうする気は元々無いので関係の無いことではあるのだが、単純に人としての好感は持てる。
「別に態度は今までのままでいいぞ。表でそういう態度を取らないといけない場面ならまあアレだが、ここは非公式の場だしな。いつも通りでいい」
「分かりました。剣を向けた僕が言うのもあれですが、ヨゾラ先輩が無事でよかったです」
「そうですね……結果的に誰も犠牲になることが無くて安心しています」
「ま、そうだな。これからは種族的にも仲間って感じで進んでいくことになる。もし何か俺達が困った時は力を貸してくれ」
そう言っておけば、少しは気持ちも軽くなるだろう。
俺の言葉に2人はいつでも頼ってくださいと言ってからセラフィの元に向かって行った。どうやら直接戦ったこともあり色々と話したいことがあるようだ。
「それじゃあ、飲み物でも飲みながら話をするか」
「はい」
俺はアノンと共に飲み物を取りに行ってから適当に設置されたソファーに座る。
別に誰かに聞かれたくない話をするわけではないのだが、周囲に人の少ない場所だ。ここならゆっくり話せるだろう。
「そうだ、最初に聞いておきたいんだが、勇者の称号ってどうなった?」
「称号ですか? 何も変わらずステータスに表示されてます」
俺という魔王との戦いが終わって称号のことはどうなっているのか気になっていたが、今も称号は健在らしい。
一度現れた称号は消えないのか、それともまだ勇者の称号が存在する意味があるのか、今のところは分からない。
「まだ勇者でいたいか?」
「もし人々がそれを望むなら勇者であり続けたい、とは思っています。でも勇者という存在ではなく、平和を守っていく者を人々が求めているのなら、私は勇者じゃなくてもいいです。救える人を救っていける存在に私はなりたいです」
「そうか。アノンならなれるさ」
「頑張ります。でも、今誰かを勇者と呼ぶなら、私はヨゾラ先輩だと思います」
「俺が? どうしてそう思うんだ?」
「人と獣人を繋ぐ架け橋がヨゾラ先輩だからですよ。戦争を終わらせたのもヨゾラ先輩だと言って良いです。そんな人物を勇者と呼ばずに誰を勇者と呼ぶんですか?」
「俺は自分のしたいようにしただけだ。自分勝手なだけだよ」
「そう思ってるのはヨゾラ先輩だけですよ」
アノンがあまりにも真剣な目で見つめ褒めてくるので、何だか気恥ずかしくなり卑屈っぽく返してしまった。
それでも俺とアノンの言っていることはどちらも事実ではあるので俺はこれ以上は何も言わなかった。
だが、アノンには決して卑屈になってほしくはない。周知の事実としてアノンは勇者だし、人々を守っていくと誓い、その信念を貫き通していくのならばアノンは誰もが認める勇者になるだろう。
「それで、平和を守るとは言うが、どうしていくのかは決めているのか?」
「はい。街の治安を守ることは勿論ですが、魔獣による被害の抑止も冒険者の仕事を奪わない程度に行っていきます。それと、人と獣人が交流することになれば、トラブルも必ずおきます。その際には間に入って解決出来るように努めていこうと考えています」
「それは俺としてもありがたいな」
獣人側のアノンに対する心象は正直今はまだ分からないが、人間側としては勇者が間に入ってくれば文句も言えないし安心だろう。そういう意味では、今後俺がやろうとしていることにアノンが協力してくれるのは非常にありがたい。
まあアノンが出てすらどうしようも無い場合は俺が直接出向くとしよう。それなりに上手く解決できる自信はあるし、勇者と魔王の仲が良好だと周囲に分かってもらえれば手を取りやすくもなるだろう。
人間側で王がそれなりの影響力があるということは知っているが、より身近にいるアノンが魔王と親しくしている方が和平を結んだという宣言よりも分かりやすいはずだしな。
「あんまり無理しすぎるなよ?」
「どうでしょうか……もしまた私が無理をしていたらヨゾラ先輩が助けてくれますか?」
「そうならないように言ったんだけどな……けどまあ、そうだな、またアノンが無理をしていたら俺が無理やり国に連れてって休ませてやるさ」
「それは楽しみですね。では私は無理をしそうな時は自主的にヨゾラ先輩の国に行くように心がけておきます」
「なんだそりゃ。まあアノンなら大歓迎だ。まだ案内出来る程俺も国のことを知らないけどな」
冗談を言い2人で笑い合う。
こうして話をしていると、以前よりもアノンに余裕のようなものを感じる。それだけ獣人と戦うことはアノンにとって重荷になっていたということだろう。
これから多くの人を守るために行動するアノンはもっと強くなっていくだろう。俺もうかうかしていられない。
今以上の強さが必要になるかは分からないが、いざという時に俺の守りたい人達を守れるようにしたい。それを考えればどれだけ強くても困ることはないだろう。
「そういえばヨゾラ先輩は帝都にどのくらいいるんですか?」
「しばらくはいるつもりだぞ。基本はここに泊ってるはずだから何か用があったらここに来てくれ」
「分かりました」
色々と国の運営についても勉強したいが、アノンが訪ねてきたらそちらを優先すればいいだろう。
セラフィはそっち方面のことは確実に興味が無いだろうが、何をして過ごすつもりなのだろうか? まあ基本的には用事が無ければ無気力な奴なので1日中部屋でごろごろしているだろうな。
「ではヨゾラ先輩、私はそろそろ行きますね」
「ああ」
「改めて、ありがとうございました! 私はヨゾラ先輩に救われましたよ!」
最後に満面の笑みを浮かべてアノンは帰って行った。
その笑顔を見ただけで、俺の選択は間違っていなかったのだと実感することが出来た。
自由な女神「アノンちゃんは今後も勇者として頑張っていくみたいだね! ヨゾラ君もきっと助けてくれるよ!」




