歩み寄るために必要なもの
フロディスに連れられて会食の場に向かう。
場所は前に王妃であるプリシラやフリザーブと話をした場所と同じだったので別に連れられなくても来ることは出来たのだが、どうやら一緒に行かないと勝手に帰られると思ったらしい。
会場に着くと、前回と同じようにプリシラやフリザーブがいた。
とりあえずフリザーブに手を振ると微妙な顔をされる。
「フリザーブ、立場などを気にする必要はないぞ。ここは非公式な場だし、ヨゾラも相変わらずだ」
「相変わらずってなんだよ」
「そういうところだ。まあ変わられても困るがな。どうかそのままでいてくれ、そっちの方が俺としても楽だ」
だったらわざわざ気になるような言い方などしなければいいのに……
そう思っていると、フリザーブがこちらに歩いてくる。
「やあヨゾラ、それにセラフィも久しぶりだな。魔王になった、でいいのかな? 獣人達の王になったみたいだけど、変わらないようで安心だ。その様子だと、和平の方も問題無く締結されたみたいだしな」
「まあな。そもそも面倒な話し合いの場にしたのはフロディスだ。俺としては来てすぐに和平を――みたいな感じで良かったんだがな」
「そう簡単にはいかないさ。何せほんの最近まで人と獣人は敵だったんだ。君としてはそれでいいかもしれないけど他が納得する訳じゃない。案外形というのも大事なんだよ、実際に見てはなくてもね」
「本当に、王ってのは厄介だな」
「ヨゾラはその辺のことから覚えていく必要がありそうだ……」
フリザーブは前に会った時と変わらない俺を見て安心を含みながらもため息を吐いた。
そうこう話をしていると先程まで話をしていたレグナルトとウルジェが従者を連れて入ってくる。フリザーブはそれに気が付いて胸に手を添えて礼をした。
「それも必要なことの1つか?」
「いや、既に王であるヨゾラには必要無いよ」
冗談交じりで言うと、フリザーブは笑いながらそう言った。
「ヨゾラ、儂は飯を食ってくる」
「おう、行ってこい。ビャク、セラフィを頼む」
「かしこまりました。セラフィ様、何か食べたい物があれば私がお取りしましょう」
「うむ、では任せたビャク」
セラフィは相変わらず飯を目にするとそちらに欲求が行くようなのでビャクに任せることにする。
2人が行くのと入れ替わりで何処かへ行っていたフロディスが戻ってきた。
「ではヨゾラよ、俺と少し話をしようか」
「説教は嫌だぞ」
「それはヨゾラ次第だ。――まず聞きたいのだが、ヨゾラは人と獣人がどのような関係になることを望む? ヨゾラ自身がこのように友好な関係でありたいのは分かる。が、それはあくまでもヨゾラという個人の話であり、全体ではない。和平は結んだ、だがそれは契約上の友好であり、種族間での溝が埋まった訳ではない。争わないということだけだ」
てっきり軽い小言を言われるのかと思ったが、フロディスの口から出たのは真面目な内容だった。
確かにフロディスの言う通り、今はまだ和平が結ばれただけだ。それに満足して何もしなければ、戦争というものの中で生まれた種族間の意識が変わることは無い。
フロディスは俺に人間と獣人がどのような関係になってほしいのか、それを知りたいようだ。
「俺は人間と獣人に近しい関係になってほしい。街中で普通にすれ違い挨拶をするような……いやそれよりももっとだ。友人でも恋人でも夫婦でも何も違和感がないくらいな」
「ほう……それはそれは難しそうな目標を掲げたものだな」
「だろうな。人の意識ってのはそんな簡単に変わる訳じゃない。獣人の方は、悪いがまだ分からないがな」
「ではそれを変えるために必要なことは何だと思う?」
「何か同じ目指すべき目的があれば簡単だったんだがな。その目標を平和とするのは難しい。人で言う魔王のように明確な敵もいない。だったら、環境じゃないかって俺は思う」
いつだって人を最も近づけるのは共通だと俺は考えている。だが、その共通が曖昧であればそれを指針にするのは無理がある。
互いの関係が微妙な状態で平和を目指すなどという曖昧な目標は正直に言ってしまえば役に立たない。
だったら環境を用意するのが最もいい。人間と獣人が関わることが多くなるような環境をだ。そうすることで互いを知り、認め合うことが出来る。
絶対ではないが、元々難しいことをしようとしているのだ。だったら出来ることをするしかない。
「環境か……言いたいことは分かるが、今のままでは難しいのではないのか?」
フロディスが難しいと言った理由は簡単だ。遠いのだ、人間の生活圏と獣人の生活圏が。
獣人が現在住まうのは果ての秘境。最も近い人間の街でも辿り着くのに1月という遠さだ。
これで頻繁に関われという方が難しい。
ではどうするか。その答えも俺は決まっている。
「土地を寄越せ。人の街から獣人の街までにある碌に開発もされていない土地をだ。俺の知っている限りでは帝国の土地のはずだ」
「……本気か?」
「本気さ。あの辺の開発を獣人の国でやってやる。そして人の国と獣人の国が楽に行き来出来るようにする」
「無茶苦茶だ。仮に俺が納得したとして、帝国の土地を獣人側に渡すことを納得する者がどれ程いると思う? 捉えようによれば和平の代償を支払ったということにもなりえるぞ」
そんなことは百も承知だ、ただで土地をあげたようなものである。
フロディス自身もそうは言ったが絶対に納得しないだろう。
だったら対価を渡せばいい。
「代わりに獣人の国からは秘境に存在する貴重な資源を提供する。元々戦争の目的がそちらだった貴族なんかも多くいるはずだ。じゃなきゃ獣人との戦争なんて無駄だしな」
「それは……」
フロディスは言葉を詰まらせる。
分かっていない訳が無い。それ程大きく攻めてこない獣人相手に平和のためだけに戦っていた者の方が少ないことなど。
殆どの貴族が戦争に反対していなかったことを考えれば、そちらをメインの目的にしていた者の方が圧倒的に多いはずだ。
戦争とは本来奪い合うということ。フロディスがどうだったかはこの際気にしないことにするが、無視は出来ない問題だ。
「俺の見立てでは獣人の国は技術がそこまで発展している訳ではなさそうだった。だからこそ、貴重な資源を人へと提供して互いに更なる発展を求める。いい落としどころでもあると俺は思うけどな」
未開拓な土地と引き換えに貴重な資源を手に入れる。そこから技術の発展を目指せば互いに得をするだけだ。
技術の共同開発まで持ち込むことが出来れば、人間と獣人の関わりも増え認め合うことも出来るはず。
近さとしてまずは帝国になるだろうが、共同開発となればレジケル王国やスプリトゥス聖国も必ず絡めることになる。そうして獣人を国々へと進出させていくことが出来れば……
いずれは俺が望んだ異世界の姿になるだろう。
「話は理解した。だが、土地となるとこの場ですぐにどうこう出来ることではない。ヨゾラはどのくらい帝都に滞在するつもりなのだ?」
「まあそうだよな。……ビャク」
「――御用でしょうかヨゾラ様」
声の大きさは変えずにビャクを呼ぶと、セラフィの近くにいたのだがすぐにこちらに来た。
「なあ、俺が帝都にしばらく滞在すると言ったら、どのくらいいれる?」
「何日でも何か月でも問題はありません。長期滞在をするということであれば私が一度戻って国内のことは何とかいたしますので心配はいりません」
まあ内政のことなど素人同然の俺が帰っても結局ビャクに丸投げになりそうなので、無責任に言うならば確かに心配はなさそうだ。
だったらここで詰めれることは詰めて、ついでにそういったことに関しても多少勉強してから帰るのでも悪くはないだろう。
「そうか、なら国のことはしばらくビャクに任せる。セラフィ! お前はどうする?」
「ヨゾラが残るのならば儂も残るぞ!」
「てな訳だフロディス。時間はたっぷりあるぞ」
「ならば問題は無いな。俺は土地の譲渡を納得させるために動くとしよう」
先程まではあれこれ言っていたフロディスだが、決まってしまえばやる気は十分にあるようだ。だったら周囲を納得させるのは俺が何かしなくてもフロディスに任せてしまって大丈夫だろう。
「ちなみに俺は何処に泊まればいい?」
「この城で構わん。仮にも国賓なのだからな」
「国賓って扱いはいつまでも慣れないかもな」
「なに、あまりにおかしなことをし過ぎなければ気にすることはない。それよりも久々に会いたい者もいるだろうから、説得が済むまで会ってくるんだな」
「そうさせてもらうよ」
セシルとルーシェは既に卒業しているはずなので、その後どういう進路を辿ったのかを知っている奴に聞いて会いにいこう。
魔王になったことは恐らく知っているので、どういう反応をするのか今から楽しみだ。
「そういえば、話したいことがあると思って3人程この場にも呼んでおいたぞ。そろそろ来るはずだ」
3人と聞いて出てくるのは決まっている。フロディスがわざわざ気を遣って呼んでいてくれたようだ。
噂をしていると、会場の扉が開いて数か月ぶりに見るメンバーが入ってくる。
「久しぶりですヨゾラ先輩」
聞きたいことが沢山あるのでゆっくりとアノンに聞いていくことにしよう。
自由な女神「土地をくれなんて随分大胆だね。でもヨゾラ君がそれを必要だと思ったのならきっとうまくいくよ」




