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VSアノン

 上段から剣を振り下ろすと、アノンは小柄な身体を活かしてギリギリで躱す。俺の剣が振りきられるのを確認してから即座に横薙ぎに剣を振って反撃してきた。場所が低かったので避けにくかったが、振り切った剣を無理やりに持ち上げて防ぐことが出来た。

 そのまま至近距離での斬り合いになる。体格に差はあれど身体能力が完全にステータスに依存するこの世界では体格で力や速さは決まらない。相当にステータスが高い俺の攻撃をアノンは普通に受け止めたり受け流したりしている。

 単純な剣での戦いで俺とアノンの攻撃ステータス差ではそこまで有利を取ることが出来ない。防御に関しては俺の方がそれなりに高かったはずなので攻撃が当たった場合に関しては俺がアドバンテージを取れるだろうが、素早さにもそこまでの差が無いので一撃入れるのも苦労するだろう。


 どうしようか考えながら戦っていると急にアノンの体勢が変わった。

 お辞儀するように頭を下げたかと思えば左足を支えにして横回転し右足で蹴りを放ってきた。

 考え事をしながら戦っていたこともあり不意を突くような急激な変化に反応出来ず俺はガードも無しに腹に蹴りを食らう。


「――かはっ」


 空気を思い切り吐き出すことになり掠れた音が出る。

 相当な力が込められていたようで、俺の身体が無抵抗に宙に浮く。それでも視線だけはどうにかアノンから離さないようにする。

 俺に蹴りを放ったアノンは蹴りを放った直後に左足も浮かせて身体を回転させて俺の正面を向くように華麗に着地した。

 体勢的にはいつでも剣を振れる状態だ。


「まずっ!?」


 アノンは様々な勇技を身に付けたがその中でも最も発生が早く汎用性が高いのが先程も使っていた神速だ。

 多少距離が出来た状態でその場でも剣を振れる状態で着地したということは、この展開をアノンは読んでおり神速で詰めれるように動いたのだろう。


 避けるのは不可能だ。諦めて食らう選択肢は……無い。死ぬことは無いだろうが致命的なダメージを食らって時点で決着だ。剣でガードも踏ん張りがきかない状態ではさらに体勢を崩されることになりその後の高威力の勇技の対処が出来なくなる。だとすると――これしかないか。


 神速を発動しアノンの身体が消えたのとほぼ同時に俺はフォトンレイを放つ。いくら速かろうが直線的に向かってくると分かっているのならば、そこに攻撃を置いとけばいい。フォトンレイは高威力、高速の魔法だ。アノンも神速を途中でやめる他ない。


 消えたアノンの姿が現れる。咄嗟に首を捻りフォトンレイの直撃を避けたようだ。

 掠った髪が数本焼ききれて地面に落ちる。アノンは悔し気な表情をしていた。


 今のアノンは高速で動く自分と高速で迫る魔法の衝突を無理やり回避したせいで剣を振れる体勢ではない。あれでは神速を使ってもただ通過していくだけだ。

 難を逃れた俺は背中から地面に落ち、そのまま引きずられるように地面を滑って数度回転した後に気合で地面を蹴って着地した。

 腹と背中が痛むが、ダメージ自体は大したことはなかった。


「……流石に簡単には終わらせてくれませんか」

「それはしばらく一緒にいたお前も分かってることだろ?」

「……」


 俺はアノンの言葉に軽い口調で返しつつ、フォトンレイを連続で放つ。


「当たりませんよ。ヨゾラ先輩も分かってるのでは?」

「そうかもな」


 アノンは連続で放たれるフォトンレイを最小限の身体の動きで回避しながら接近してくる。牽制にすらなっているのか怪しいところだ。

 俺は攻撃の手段がアノンに比べて少ない。正確に言えばアノンに効く攻撃手段が、だが。

 それに対してアノンが持つ攻撃手段はとても多く、威力も馬鹿にならないものばかりなので一切の油断が出来ない。


 こうして戦うまでは勝てる自信があったが、実際に戦ってみると甘かったと感じる。

 ステータス差を埋められる程アノンの攻撃手段の多さは脅威だった。


 これは、あんまりゆっくりと戦っている訳にはいかないな……


 俺は十分に接近してきたアノンが振った剣を避けるでもなく弾くわけでもなく剣で受け止めた。

 そのまま鍔迫り合い状態になる。若干俺が押していたが、それでも押し切れる程では無かった。


 腕に力を込めたまま至近距離にいるアノンの目を覗き込んで俺は口を開く。


「……俺とアノンがこうして戦ってる意味ってなんだろうな」

「急に、何をっ!?」


 俺の言葉を聞いたアノンは会話を拒否するように剣を押し込んでくる。まだ力が上がるとは思っていなかったので、慌てて押し返した。


「俺はここで俺とアノンのどちらかが倒れたとしても戦争が終わるとは思えない。それどころか激化する可能性すらある」

「そんなことにはなりません! 魔王であるヨゾラ先輩さえいなくなれば、戦争は終わります!」

「甘いんじゃないか? それとも、勇者である自分の存在意義を考えすぎるせいで他のことをどうでもいいとでも思ってるんじゃないか? その先に出る犠牲のことも……人間が勝って終わった戦争で、どれだけの獣人が犠牲になるのか、可能性の予測もしていない」

「それは……私が負ければ逆になるだけです!」

「そうだよ。結局俺が負けてもアノンが負けても虐げられるのが人間か獣人かの違いでしかない。俺達が戦うってのは、そういうことなんだ」


 戦う前は話を聞く気はないと言っていたが、この距離であれば嫌でも聞くしかない。

 真実を突き付けるとアノンの力が若干弱まった。その隙に一気に力を込めて剣を弾いて先程されたのを返すようにアノンの腹を蹴りつけた。

 これで距離は離れてしまったが別にいい。一度言葉を聞いてそこに迷いが生まれれば、アノンに聞く気が無くても勝手に言葉が耳に入っていくはずだ。


「それでも……私は!」


 離れた距離をアノンは神速を使わずに詰めてくる。


「勇者になってから苦しんでいる人達を沢山見てきました! その人達に誓ったんです、必ず私が魔王を倒すと!」


 アノンの鋭い突きが襲い掛かってくる。逸らそうと思ったが逸らしきれずに頬に小さい傷ができた。

 そこからアノンは怒涛の勢いで仕掛けてくる。がむしゃらに剣を振って迷いを振り払おうとしているようにも見えた。


「そもそもここでヨゾラ先輩とそんな話をするのが間違っているんです! 勇者である私を騙して自分の領域まで連れてきた時点で私を倒して戦争を有利に進める気じゃないですか!」


 分かってはいたが戦いながら話し合いで落ち着かせるのは無理そうだ。結局アノンから見れば自分を騙して魔王城といういつ援軍が来てもおかしくない場所にすんなり連れこんだという印象は消せない。

 せめて魔王城に勇者に対して敵対意志を持つ獣人がいて戦闘になっていれば説得することも出来たかもしれないが、それどころか獣人の国に入ってからなんのトラブルもなく来れてしまっている。

 さらには俺の姿が描かれた肖像画だ。話した感じビャクに悪意はなさそうだが、疑ってしまいそうなくらい俺にとって状況が悪かった。


「……なあアノン、お前が前に殺したっていう獣人は、どんな奴だったか分かるか?」

「嫌なことを聞きますね。ええ、覚えてますよ。兵士でない人達も平気で殺すような、はっきり言って最低の獣人達でした。そうでない、兵士でない人達に対して悪意の無い獣人は、斬りたくなかったので斬ってないです」

「そうか……安心した」

「何をっ!?」


 やはりアノンはどこまでも俺の知っている通りだ。

 優しく臆病で、本当は戦いなんかとは無縁の少女。勇者という立場に悩み、それでも人々のために戦って、敵である獣人の兵士にすら情けをかける。よくアニメなんかに出てくる我儘な勇者ではない。その優しい心は間違いなく勇者そのものだ。

 こうして剣を打ち合っていても迷いが伝わってくる。きっと大きく感情を揺さぶらない限りはこのまま本気すら出せないのだろう。

 今すぐ頭でも撫でて、優しい言葉をかけてやりたくなる。


「ははっ」


 思わず小さく笑いが零れてしまった。

 何が可笑しかったのかは俺自身分からない。だが、1つだけ思ったことがあった。

 アノンの心を救ってやるという意味では、俺が魔王と呼ばれていてよかったと。


 俺は優しく諭すような表情をしてアノンに言った。


「なあアノン、勇者はな――悪い奴以外は誰も倒せないんだぜ」


 さあアノン、俺が悪い奴がどうか試してみろよ!


 アノンは俺の言葉を聞いて呆けたような表情になった。その頬に一滴の涙が伝う。

 そして次の瞬間には顔を歪めて、涙は流れていなかったが今にも泣き叫びそうな、そんな顔をしていた。


「どうして……どうしてそんな顔をするんですか!? 私達は敵なんですよ!」


 アノンの言葉に俺は何も言わない。


「私が勇者だと知った時にヨゾラ先輩が自分は魔王だと言っていれば、まだ何かやりようがあったかもしれないのに! こうして、ヨゾラ先輩と戦うことも無かったかもしれないのに! 結局は敵だから、勇者と魔王は相容れないから言えなかった、そういうことでしょう! だったら、同情でもそんな顔しないでくださいよ!」


 アノンの叫びに呼応するように俺の周囲に輝く鎖が出現して手足を縛り動けなくする。

 勇技セイクリッドバインドだ。拘束されてしまえば抜け出すことは無理なのではと思ってしまえる程強力な捕縛技。当然の如く俺も抜け出すことは出来ない。


「ヨゾラ先輩、あなたには感謝しています。魔王を倒し終わった後も一緒にいたかった。でも私は、人々に戦争を仕掛けて多くに人に犠牲を出した獣人のトップである魔王を許すことは出来ません。ですから――さようなら」


 アノンはグランシャリオの構えをとった。これで決めるつもりらしい。


「アノン、お前はきっと俺を殺せば後悔する。それは魔王を討伐したことに対してじゃなくて、俺という人物を殺したことに対してだ。今アノンが言った言葉がその証明だ。そして、きっとアノンは壊れてしまうだろう。だから――」


 俺は絶体絶命な状況でも優しい表情を崩さないまま言った。


「俺は勇者アノンの攻撃では死んでやらない。その心を守ってみせる」


 次の瞬間、アノンの姿が消えて俺は7つの斬撃をその身に受けた。



自由な女神「1年と少し前までは普通の女の子だったのにヨゾラ君と互角に戦るって勇者のポテンシャルはやっぱり侮れないね。グランシャリオをもろに食らったヨゾラ君は大丈夫かな……」

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