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異世界らしさ

ご飯作ってたらこんな時間に……

 日が昇ってすぐに、俺は休んでいた岩の窪みを抜けて街に向かって歩いていた。

 昨日は戦いながらも、自分の居場所が分からなくならないようにはしていたので、移動に関しては問題ない。道中でウルフにも度々遭遇したが、冷静になって戦っているとステータスが上がったのを実感する。小さく回避して一撃叩きこめば真っ二つになるので苦労はなかった。


 そんなこんなで昼頃になって、ようやく整備された道に出ることが出来た。

 あの村の周辺は特に整備された様子は無く、本当に小さな村だったのだと今更になって思う。


 森の中と違い歩きやすい道を歩いて行くと、遠くの方に石で作られた壁のようなものが見えた。

 近づいていくと、それが街であることが分かり、地図を確認しても、俺が目指していた場所で間違いなさそうだ。


 門のような場所を通って街の中に入る。アニメなんかだとここで門番に止められて身分を確認させられたりしているが、そういうことは全くなく、普通に通ることが出来た。


 街の中は賑わっており、人もそれなりの数がいる。

 東京に住んでいた俺にとっては歩きにくいということは無く、しかしながら出店のような場所から上がる声など、音による情報量は多いので、それで多少人が多く感じている部分もあるだろう。


 そして地球とは全く違うところと言えば、街を歩いている半分程の人達が何かしらの武器を身に着けているところだ。

 冒険者なのかそれ以外の仕事をしているのかは判断が付かないが、こういったところで異世界らしさを感じられて心が躍る。

 村に滞在した一日目は、異世界転生というよりも、田舎に泊まろうという言葉の方が合っていた。悪いものではなかったが、異世界を感じられるかと聞かれたらまた微妙なところだ。


「さて、まずは何から始めるか……」


 早いとこ街を散策してグラヴィウス帝都に向かいたいところだが、俺はまだ生きていくうえで必要な物が殆ど揃っていない。

 その中でも優先して必要になってくるのは金だろう。金さえあれば、生きていくという意味だけを考えれば困ることはなくなる。

 売れるものなど持っていないので、金を手に入れる手段は仕事だ。しかし定住するような仕事は、世界をもっと見て周りたい俺には都合が悪い。が、そんな俺に都合がいい仕事が異世界にはある。


「やっぱり冒険者だよな」


 まあぶっちゃけ言ってしまえば、元々それ以外の仕事は全く考えていなかった。異世界に来て冒険者をやらないなど考えられない。その為の肉体スペックも手に入れているわけだし、合理的に考えても冒険者しか選択肢にない。


 俺は村で予めアルギから冒険者になるために金は必要ないことを聞いている。万が一必要なら、ウルフの素材でも無理やり持ってきただろうが、嵩張る物を森の中の移動中に持って歩きたくはなかったので、結局放置したというわけだ。


 やることを決めた俺は早速冒険者ギルドに向けて歩き出す。といっても場所を知っているわけではないので、街の様子を見つつ冒険者らしき人達が向かっていく方向に歩くだけだ。


「って、ここか」


 どんな街なのだろうかと思っていた矢先に冒険者ギルドに着いてしまった。街の入り口から程近く、恐らくは外での依頼をこなしてきた冒険者がすぐに立ち寄れるようにだろう。

 ゆっくりと街を見てみたいところなのだが、生憎と今の俺にそこまでの余裕はない。着いたのであれば寄り道せずに行かなければ。


 入り口の扉は開けっ放しになっており、そこから中の様子を覗くと、思っていたよりも賑わってはいなかった。

 と言っても決して静かな訳ではない。ただ、イメージにある冒険者ギルドの野太い声がそこかしこから響き渡ってくるような感じではないというだけだ。


 流石にそんな場所に入っていくのは嫌だったが、そうでないというのなら問題は無い。俺は中に入り、受付であろうカウンターに真っ直ぐ向かっていく。

 新顔である俺がいても他の冒険者は特に気にしている様子は無く、普段から冒険者ではない者も普通に出入りしているのではないかと思った。


 カウンターの前まで来ると、そこにいた受付嬢は営業スマイルかにっこりと微笑んだ。人前に花のある女性を立たせるのは異世界も同じのようだ。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「冒険者登録をしに来ました。ここに来れば冒険者になれると聞いたもので……」

「なるほど。でしたらこちらにどうぞ。軽い面接と説明、それから手続きを行っていただきます」


 受付嬢に連れられるまま別室に移動する。


「こちらでしばらくお待ちください」


 机と椅子だけの簡易な部屋でしばらく待つこととなった。

 対応が随分と手馴れている。やはり冒険者というのはありふれた職業で、こうして突発的に登録をしにくる者も多いようだ。何よりも金が掛からないというのが大きい。生活に困った者なんかはこぞって冒険者になっていそうだ。その中には戦えない者も多いだろうが、その辺を考えると冒険者とは一部の者達を指す名であり、実際には便利屋というのが精々だろう。


 俺もその冒険者という括りになれるように頑張らなければ。


 そんなことを思いながらじっと座っていると扉が開き、そこからガタイの良い強面のおっさんが入ってきた。その風貌はいかにも冒険者って感じだ。


「俺はこの街の冒険者ギルドを預かるヒーツだ。お前さん、名前は?」

「ヨゾラです」

「それじゃあヨゾラ、まずは冒険者になるために必要な情報を教えてもらわなきゃならん。この紙に血を垂らすとステータスが浮かんでくるが、何か知られちゃまずいことがあるなら今だったら引き返せるぞ」


 クレーティオは特殊な施設を使えばステータスを見ることが出来ると言っていたが、思っていた以上に簡易なものが出てきて驚いた。もしかするとこのただの紙に見える物が相当な技術を以てして作られた可能性もあるが、今は気にしないでおこう。


 俺は自分のステータスを思い出し、知られて不都合なことがあるか考える。強いて言えば称号くらいだろうか? この世界で称号がどのくらいの価値があるのかは分からないが、説明だけ見てもよく分からない内容なので、問題は無いと思いたい。

 そもそも、仮に称号がやばいものだったとしても、冒険者になれなければ一から方針を考え直す手間がかかるので、どの道選択肢は無いようなものだ。


 俺は剣の先を指に軽く押し当てて滲む程度の血を出す。それを紙に付けると、見る見るうちに紙に文字が浮かび上がっていった。

 浮かび上がった文字を見てみると、俺が自分でステータスを見た時と同様のものが表示されている。


 ヒーツは紙を手に取り少し眺めて、驚いたような表情になる。


「お前さん……随分と強いな。帝国騎士の中でも弱い部類の奴らと同等のステータスをしてるぞ!」

「それは褒められてるんですかね……」

「当たり前だ! 冒険者に登録しに来た奴のステータスじゃねぇぞ! それによく分らんが称号まで持ってやがるじゃねぇか! 一体今までどんな暮らしを送ってくれば名も知られずにこんなステータスになるんだ!?」


 そう言われても俺がルーディスで歩んだ人生は一昨日に生まれて小さな村のお世話になって、ウルフを狩りながらこの街に来たというだけのまだまだ薄っぺらいものだ。それを壮大な人生を歩んできたみたいに言われても仕方がない。


「がむしゃらに魔獣を狩っていたらこうなってました」


 間違ったことは言っていない。ウルフと戦っていた時はとにかくがむしゃらだった。


「そうか……大変な人生だったんだな……」

「あ、いえ、はい……そうですね……」


 ヒーツが俺を憐れむような目で見てくる。思っていた以上に壮大な人生を思い浮かべられてしまったようでいたたまれないが、変に疑われるよりかはマシだ。


「にしても良かったな。ヨゾラには戦闘の才能があるみたいでよ。普通このレベルでここまでステータスは高くならねぇ。強い身体に生んでくれた両親に感謝するんだな!」


 うーん……ありがとうクレーティオ。お前を親というのは何だかアレだが、強い身体にしてくれたのはお前だからな。


「とりあえず冒険者になることは問題ねぇ。このステータスなら大いに活躍してくれるだろうから、こちらも大歓迎だ。んでヨゾラ、冒険者についてはどのくらい知っている?」

「正直殆ど何も知らないです」

「そうか。なら順を追って説明してやろう」


 本当はアルギから聞いていて多少は知っているが、本職の者に改めて教えてもらえるならそれに越したことは無い。


「まず仕事についてだが、多くはギルドに持ち込まれる依頼をこなしてその報酬を貰うものだ。危険なものから雑用的なことまで幅広くある。んで次に魔獣の固定討伐だ。ギルド内にある掲示板に張り出された魔獣を討伐して、その証拠を提示することで報酬を貰う。討伐対象になる魔獣はその時によって違うし、報酬も数や質、大きさによって変化する。ここまでが冒険者の9割がやってる仕事だな」

「残りの1割は?」

「秘境探索だ。この世界にはまだまだ未開拓の土地や、危険すぎて人が容易に踏み込めない場所、未だ発見されていない場所が多く存在する。その地に赴き、冒険し、調査して結果を持ち帰る。それが秘境探索さ」

「いいですねそういうの。憧れます」


 まさに冒険者の名に相応しい仕事だ。人の役に立つことをするのも素晴らしいとは思うが、俺は自由に冒険してその成果を持ち帰る方が憧れる。


 しかし俺とは対照的に、ヒーツは微妙な顔をしていた。


「ヨゾラ、お前さんは何のために冒険者になりたい? どんな生き方をしたいんだ?」

「そうですね……それこそ今言っていた秘境探索のような自由に何処にでも行くような生き方がしたいですね。元々、冒険者になろうと思ったのも、世界を見るためにお金が必要だったからって理由ですし」

「なるほどな……確かにお前には秘境探索という仕事が合っているのかもしれない。だがな、くれぐれも忘れるなよ? 秘境探索に挑む奴らは大抵が相当の実力を秘めた奴らだが、そういう奴らでも秘境に向かって帰ってくるのは稀だ。そのくらい危険な場所なのさ」


 ヒーツの語る言葉には当事者だったような重みが込められていた。


「もしかしてヒーツさんも?」

「ああ。昔冒険者だった頃に秘境に挑んだことがある。信頼できる仲間、使い慣れた装備、絶対に油断しないという気持ちで挑んで……結果帰って来たのは俺だけだ」


 俺は心の何処かで余裕が生まれていたのかもしれない。クレーティオに与えられた強い身体を持って、知識がないままに夢を広げていた。

 もしかしたらヒーツはそれを感じ取ったのかもしれない。だからこそ、本来ならば思い出したくもないであろう嫌な記憶を俺に聞かせてくれたのだ。


「まあ、俺達は冒険者だ。それも世界に夢を見て冒険者になっている馬鹿だ。未知への興味を抑えるのは人の話なんかじゃ無理なことだよ。だから秘境に挑むなとは決して言わねぇ。行って、生きるとしても死ぬとしても、最後に後悔だけは残さないようにするだけさ」

「――ヒーツさんに、後悔は無いんですか?」

「無いな。大切な仲間達も、己のやりたいことをやって死んだんだ。そいつらが死んだことに対して後悔なんかしたら、失礼だろ?」


 いっそ清々しく語るヒーツには確かに後悔という気持ちはなさそうだった。


「ヨゾラ、好きにやれ。誰もお前を止める権利なんかありはしない」

「そうですね。精一杯考えて、最後には後悔しないように生きたいと思います」

「ははっ! そうさ、その意気だ!」


 ヒーツは豪快に笑って俺の肩を叩いた。


 その後は気軽にといった感じで、冒険者としてのルールなんかを説明されて終わりになる。

 冒険者の証とも言える冒険者カードには、ステータスは表示されておらず、他人が気軽に見えないようになっているみたいだった。

 ステータスを見たい場合は冒険者ギルドに来て職員に頼む必要があるらしい。俺にはあまり関係ないことだが。


 日金にも困っている俺は、話が終わってから早速活動を開始する。

 早く金を手に入れて食事もしたかったので、俺は掲示板に張られているウルフの討伐をしに街の外へ向かっていった。






自由な女神「異世界転生っぽくなってきたし、そろそろヨゾラ君のことを詳しく話しておこうかな! といっても、基本的には一般的な男の子って感じだよ。

友達も普通にいて、顔はそこそこイケメンだね。アニメや漫画、ラノベも好きなライトオタクって感じだけど、中学時代はサッカーもやってて結構アウトドアなところもあるよ!

人と話す中で話し方やテンションにかなりの落差があるのは、話しながら色々な思考をしているのが一番の理由だね。ちなみに僕と話していた時のが素だね。ボケれば突っ込んでくれるし、友達と会話してるあの感覚が素だよ。

一見冷めてるように感じるかもしれないけど、実際は異世界でワクワクしてるだけの男の子だから嫌わないでね? 普通に剣とか魔法にあこがれも抱くし異種族との交流も楽しみにしてるんだ!」


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