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獣人の国へ〈4〉

 数日間世話になったこの村とも今日でお別れだ。

 昼前には出ることになり、昨夜散々酒を飲んでいた村の獣人達は二日酔いで辛そうにしつつも、わざわざ俺達の見送りに来てくれた。

 ちなみに、俺達も全員飲んではいたが、次の日に差し支えない程度に抑えていた。楽しんでも、その辺のことはしっかりと行うようにしている。


「世話になったな。ありがとう」

「いえいえ、こちらこそ村の周囲に現れる魔獣を狩ってもらって感謝しております。また近くに来ることがあれば遠慮せずに寄って行ってくだされ」


 村長であるバルドはにこやかに笑って俺の手を握って握手してきた。

 俺のもう片方の手には村の老人達が持たせてくれた弁当がある。滞在中も何度もご馳走になって味は知っているので、今から食べるのが楽しみだ。


 俺とバルドの握手が終わると、後ろに下がっていたアノンが俺の横までやってくる。


「私からもありがとうございました。もし、この村が困った状況に今後なった場合、全力で力になることをお約束します!」

「頼もしい言葉ですな。昨日までは何やら悩みがあるように見受けられましたが、大丈夫なようで安心しましたぞ。良き活動が出来るよう今後とも祈っております」

「私に悩みがあるって気が付いていたんですか?」

「そうですなぁ……年の功というやつですかな? 何となく、察していた程度ですじゃよ」

「それは、お見苦しいところをお見せしました……」

「なんのなんの。それに儂らが心配する必要はなかったようです。アノンさんには、頼れる仲間が付いておられるようなのでね」


 そう言ってバルドはチラッと俺のことを見た。

 会話の内容は聞かれていないと思うのだが、昨日俺とアノンが話しているのを見ていたのだろう。そこからのアノンの様子が変化したことから、何かしらが解決したのだと察したというところか。


 アノンはバルドが俺のことを見たのに気が付いたようで、顔を赤くして恥ずかしそうにしていた。それを見てバルドは温かく笑っている。

 何だか俺まで恥ずかしくなってきたので、そろそろ話を切り上げて出発することにした。


「それじゃあ俺達は行くよ。改めて、世話になった。またな」

「ええ、お元気で」


 別れを済ませて俺達は村を後にし、獣人の国を目指して歩いて行く。

 目的地まではまだ遠い。恐らく村や街に後2から3回泊まることになるだろうが、今回のように数日滞在したりはせずに、1日の休息と食料などの調達をする程度だろう。


 立ち寄る街や村で、アノンがまた迷ったり悩んだりすることは恐らくないだろう。

 ここまで吹っ切れた様子を見ると、逆に危ないのではないかとも最初は思ったのだが、それも要らぬ心配な気がする。

 アノンは馬鹿じゃない。むしろ頭はかなり良い方だ。一括りに獣人に対する心象を確定させずに、良い者と悪い者をしっかりと判断して相手を見るはずだ。

 人の良さから変に騙されたりといったことはないだろう。


 今考えるべきは、万が一魔王に勝てなかった場合のことだけだ。

 この魔王を倒すための旅が始まる前までは、どうしようもなくなる前にセラフィだけは連れて逃げようと考えていた。

 アノン達も共に逃げるならば、それでいいのだが、アノン達が最後まで逃げなかった場合、もしくはアノン達を連れて逃げることが困難な場合は切り捨てようと、大切なのはセラフィなのでそこは間違えないようにしようと考えていたのだが、先日の一件で俺はアノンのことも見捨てたくないと思い始めていた。

 勿論、一番大切なのがセラフィなのは変わらないのだが、それでもアノンの為ならば俺自身が無理をしてもいいと思えるようになった。

 そうなると、必然的にロニとフーシーのことも見捨てることは出来なくなりそうだ。自分だけが助かることをアノンはよしとしないだろう。

 アノンに変化があったように、俺自身にも変化があったことには、自分自身でも驚いているが、俺は正直に生きると決めている。

 今の俺がアノンを見捨てるような選択をすることはないだろう。






 ――――――――――






 そこからの道のりは、何だか不気味なほどに順調に進んでいき、俺達は獣人の国のすぐ傍まで来ていた。

 この辺まで来ると、道などもかなり整備されており、人の住んでいる地域となんの変わりもないように見える。

 当然のように獣人達の数も増えてきており、何もない道でも普通に出会うようになった。


 バルドの話から分かってはいたが、獣人にも冒険者という職業があり、すれ違う獣人は武装している者が多かった。

 冒険者以外だと、馬車を引き中に荷物を詰め込んだ商人だったり、武装はしているが明らかに冒険者とは雰囲気などが違う、恐らくは兵士だろうといった獣人もおり、しっかりと国として成り立っている様子が見られる。


 俺達は、そう簡単にはバレないだろうとは分かりつつも、念には念を入れて獣人の国に入る前に、その辺で野営するのではなく、獣人があまり入って来なさそうな森の中で静かに野営をすることにした。


「ここからはスピード勝負ですね」


 アノンが改めて確認するために声に出して言う。


 明日、獣人の国に入ってからは一直線に魔王城に向けて進み突入する。

 国の中でしばらく機を伺ってもいいのだが、獣人側に俺達の付けている魔道具を看破出来る奴がいる以上、変に国の中で動いて少しでも怪しまれるのは避けたいところ。魔王城まで辿り着いて戦闘になるのならばいいのだが、そうでない場合はその辺にいる獣人達まで敵に回ってくる可能性が高い。

 そうこうしている間に、魔王城の警戒が高まってしまえば、余計な手間がかかってしまう。

 そうなるくらいならば、向こうの不意を突いて力勝負に持っていく方が勝率が高いという読みだ。


 俺自身、むやみに獣人を殺したりはしたくないので、異論はない。


「では明日、魔王城へ突入します。何か不測の事態が起きた場合はこの場所まで退避ということで。魔王城に突入した後は、魔王がいるであろう玉座の間までの最短ルートを出来るだけ割り出して進んでいきます」

「その途中で起きるだろう戦闘は僕とフーシーで対処、アノンとヨゾラとセラフィを先に進ませることを優先、だよな?」

「それでいいでしょう。何だか悔しくはありますが、現状英傑である私とロニよりも、ヨゾラさんとセラフィさんの方が強いのは間違いありません。アノンは称号で魔王との戦いでさらに強くなります。魔王に対する戦力的にはこれが最善でしょう」


 そういえば最近はすっかり忘れていたが、アノンの持つ勇者という称号には魔王との戦闘時にステータスが上がるという効果がある。

 出会った時に比べると相当強くなったアノンだが、俺としては本気で戦った場合、まだ負ける気はしない。厳しい戦いになるだろうことは間違いないが、それでも最終的には勝ち切ることが出来るだろう。

 だが、魔王との戦いの最中のアノンだったら話は別だ。その限定的な条件下であれば、アノンは確実に俺よりも、セラフィよりも強い。

 このメンバーで魔王に対する最高戦力は、やはりアノンなのだ。そのアノンを魔王の元に辿り着かせることを優先するのは当たり前だろう。

 俺自身も、ただの露払いは嫌だったので、レベルを上げて強くなっておいた甲斐があったというものだ。


「魔王討伐後は速やかに撤退します。残りの国際的なことは皇帝陛下が任せてくれと仰っていたので、私達の戦いはそこで終了です」


 魔王を討伐したことは、その場で俺達が公表しなくても勝手に広まることだ。ならば俺達は余計なリスクを背負わずに速やかに撤退した方がいいだろう。


 獣人の国に入る前の最後の確認も終わったことなので、俺達は明日に向けて早めに休むことにした。

 岩肌の側面に掘るように作られた仮拠点の自分の部屋で横になっていると、セラフィがやってくる。


「どうした?」

「いやなに、ヨゾラが緊張しておらんか見に来たのじゃ」

「緊張か……確かに少ししてるかもな。なにせ、恐らくだが今までで一番キツイ戦闘になるだろうからな。まあ、あっさり終わっても何だか味気ないから、そういう意味では期待してるよ」

「前の死にかけた合宿のようなことにはならんように気を付けるのを忘れんようにな」

「分かってるさ。俺とお前に大事が無いことはそうだが、アノン達にも犠牲を出すつもりはないよ」

「まあ何だかんだでヨゾラが色々と考えていることは知っておるから、あまり過剰な心配はしておらんがな。相方の信頼が染みるじゃろ?」

「俺達が信頼し合ってるのは今更だろ? ま、今回はお前にも頑張ってもらわなきゃだな。頼んだぞ」

「うむ、任されよ」


 セラフィは口調こそ軽いものの、今回のことも今までのことも楽観的な気持ちでいたことは無いはずだ。

 俺に色々と考えると言ったが、俺とセラフィのことに関してはセラフィの方がよく考えているのではないかと俺は思っている。

 元々頭の出来はかなりいいからな。それを使っているのであれば、セラフィは気の持ちようなんかで間違ったりはしないだろう。


「こうしてヨゾラの元へ来てみたはいいが、心配すべきはやはりアノンなのじゃろうな」

「珍しいな、セラフィがそこまで他人を心配するなんて」

「何だか悪意のある言い方に聞こえるのじゃが……儂とて友人のことくらいは心配する。戦闘面に関しては手助けしてやれるが、そうでないことだと儂では些か難しい問題でな。アノンは見るからに不安定じゃからの」

「それはまあそうだが、そこまで心配しなくても大丈夫だと思うぞ」

「……それもそうじゃな。ヨゾラと話して以降は、かなり安定しているようにも見えた。あの調子で魔王討伐を終えることが出来るのを祈るだけじゃ」

「何かあった時にフォローするのも俺達の役目だよ」

「違いない」


 セラフィは納得したように笑って頷くと自分の部屋に戻って行った。


 セラフィがわざわざ言ったということは、アノンは安定したとはいえまだまだ不安定なのだろう。

 そもそも、そう簡単に解決できるのであれば、アノンは疾うに全ての覚悟を決めて魔王討伐に臨んでいるはずだ。

 ここまで来てしまった以上は、魔王を討伐するまでアノンの心を揺らす出来事が起こらないことを願うしかない。




自由な女神「遂に魔王との戦いだね! 獣人の王ってことだけど、一体どんな奴なんだろう?」

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