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獣人の国へ〈1〉

 ここ数日は、大変に慌ただしい日々だった。

 アノンが勇者だということが大々的に公表されて、学校内だけではなく、街中でアノンを見かけたことのある人達も大きな驚きを見せ、そうでない人達は勇者という存在に心躍らせて浮足立っていた。

 当然の如く、アノンは学校でも街中でも声を掛けられることが多く、性格的に控えめなアノンはかなり大変そうにしていた。

 一見地味に見えるが実際のところかなりの美少女という点や、勇者という立場の将来性を見越して、邪な考えで声を掛けてくる奴らもそれなりにいたようだが、そういう奴らはロニとフーシーが対処していたみたいだ。

 勿論、ロニとフーシーも公表されているため、2人に声を掛けてくる奴らもかなりの数がいたが、2人はそういう対処がとても上手く、面倒なことには今のところなってはいなかった。


 そんなアノンと共に魔王討伐に向かう俺とセラフィだが、フロディスに頼んで俺達のことを公表するのはやめてもらった。

 魔王討伐後も色々とやりたい身としては、変に広く有名になってしまうのは避けたかったのだ。

 とはいえ、広く知られていないだけで、俺達がアノンと共に行くことはある程度知られてしまっている。

 学校内では、これまで俺達がアノンと共に行動しているのに疑問を抱いてた奴らが、こういうことだったのかと察してした。

 隠し通すのは不可能なので、そこは割り切って聞かれれば正直に答えるようにはしている。

 それなりに騒ぎにはなったし驚かれたが、俺達の実力を知っていることもあってか、最終的にはヨゾラ達ならという感じで落ち着いた。

 途中で学校を去るということに対して寂しがってくれる奴らもそれなりにいた。そういう反応をされてしまうと、こちらもなんだか寂しくなってくる。

 こうなってみると、俺もかなり学校生活を楽しんでいたんだと思えた。


 遂に出発の日になり、俺達は帝都の入り口に集合している。

 早朝ということもあり、普段は賑わっている帝都も静けさに満ちており、凱旋パレードのような騒ぎにはなっていない。

 今この場にいるのは、俺達勇者一行と皇帝であるフロディスに護衛としてついてきたザルバ。それから、出発の日にちを伝えていたセシルとルーシェが見送りに来ている。


「どのくらいで戻って来れそうなんだ?」

「さぁ? 正直分かんないな。そもそも距離もそれなりにあるし、トラブルもあるだろうから、早くても1年は掛かるんじゃないか?」

「まあ、そうだよな。獣人の国に着いてからそのまま魔王がいる城に突撃する訳でもないだろうし……いや、ヨゾラとセラフィならやりかねないか?」

「おい……」

「冗談だよ。まあなんだ……無事に帰って来いよ。厳しいようなら戻ってきて俺とルーシェも頼ってくれ。卒業後は俺達も正式に軍人になるし、残りの学校生活でもしっかり強くなっとくからな」

「ああ、いざとなったら頼らせてもらうよ」

「何だかんだ言っても、ヨゾラ君とセラフィならどんな相手が出てきてもどうにかしちゃいそうだよねー」

「確かにな」

「儂もヨゾラも気が付けばかなり強くなったからのぅ。正直な話をすれば、儂が出会ってきた中で現状儂らを倒すことが出来るのは、勇者であるアノンかヨゾラの知人であるクレーティオくらいなものじゃな」

「そういえばクレーティオさんは? てっきり来るかと思ってたんだけど……」

「クレーティオがどこで何をしてるのかは、俺にも分かんないからな」


 結局クレーティオとは会うことが出来なかった。

 前までは、夜に会おうと思えば夢の中? で会うことが出来たのだが、ここ1年はどれだけ会おうと思っても会えないでいる。

 何かあったのではないかと気になるが、現状で俺に出来ることは無いので、引き続き夜に呼びかけてみることだけはしようと思う。


「ヨゾラ先輩、セラフィ先輩、そろそろ……」

「ああ、そうだな。じゃあセシル、ルーシェ、行ってくるよ」

「おぬしらも頑張るんじゃぞ」

「良い報告を期待してるぞ」

「気を付けてね、ヨゾラ君、セラフィ」


 フロディス達と話をしていたアノン達だったが、終わったようでこちらに声を掛けてきた。

 これ以上話をしているとずるずると時間が過ぎてしまいそうなので、名残惜しくはあるが切り上げる。

 セシルとルーシェが俺達のことを心配してくれているのは伝わってくるが、それをあまり表に出さずに気楽な感じで見送ってくれているのは2人の優しさだろう。

 なので、俺も軽い感じで別れを告げて行くことにした。

 どの道、死んだりするつもりは毛頭ないのでまた会えるだろうしな。


「すまんな、頼んだぞ」

「別にいいさ、自分で決めたことだからな」


 フロディスは俺達の様子を見ていたようで、俺とセラフィだけに聞こえるように謝罪してきた。どうやら、途中で学校を辞めるようなことになってしまって罪悪感を覚えているのだろう。

 確かに話の発端はフロディスによる仕込みだったかもしれないが、最終的にアノンについていく決定権は俺に委ねられていた。であれば、わざわざフロディスが謝る必要は無い。


「まあ、そうだな……魔王を倒し終わった後に面倒ごとが起こらないよう、しっかりと動く準備だけはしておいてくれ」

「分かっているさ。魔王討伐を若いのに任せてしまうのだ。後の処理くらいは、立場のある大人としてしっかりとこなさねばな」


 この様子なら、既に準備を始めていてもおかしくはなさそうだ。

 どちらかと言えば友人というような距離感で話しているため忘れがちになるが、フロディスは皇帝だ。立場的にも年齢的にも俺よりも上であり、やるべきことも分かっている。俺がわざわざ言う必要は無かったようだ。


 話も終わったので、俺達は獣人の国――元々果ての秘境と呼ばれていた場所に向けて歩き出す。

 馬車などを使わない理由は単純だ。目立つからだ。

 獣人の国に向かうのも、それ程焦る必要は無い。無理をしない速度で、情報なども集めつつとなる。

 恐らくは数か月という時間が掛かるだろうが、俺としてはすぐに目的を果たすというよりは、こちらの方が勇者パーティーで旅という感じがして心躍るものだ。


 アノン達は前を歩きながら雑談している。今緊張しても仕方が無いし、こんなところに出てくる魔獣程度では相手にならないので当然の雰囲気だ。

 俺の隣を歩いているセラフィもかなりリラックスしている様子。まあ、セラフィは基本的にこんな感じなので普段通りという訳だ。


「そうだセラフィ、雷属性の精霊については何か分かったりしたか?」

「正直何の進展もないのぅ。そもそもアノンが勇技を使った時というのが限定的過ぎてな。連発出来るものでもあるまいし、そこに確率の壁があるのでは簡単にはいかぬ」

「それよりもさらに低い確率で生まれたお前が言うと、何だか説得力に欠ける気がするが……」

「儂は例外じゃ。というよりも理級精霊と比べるでない。そも原因はヨゾラじゃろうが」

「まあそうなんだが……てか、確かクレーティオが来た時にも理級精霊が生まれたって言ってたけど、そいつは今どうしてるんだ?」

「さあの。どこぞで彷徨ってるのではないか? いくら理級とはいえ、契約もしておらぬ精霊じゃとそれ程の影響は及ぼせん」

「そういうもんか」

「そういうもんじゃ」


 相変わらず精霊に関してはまだまだ謎が深いな。クレーティオですら、その本質を把握出来ていないみたいだしな。


「それにしてもお前、クレーティオが神だって聞いた時、あんまり驚かなかったよな」

「それはそうじゃろうて。元々ヨゾラが転生してきたことは知っておったし、そのヨゾラが親しい強大な力を持った者となれば、大体の予想は付く」


 セラフィは、当然の如く俺が転生してきた人間だと知っている。なにせきっかけが俺なのだ。自分のことについては大抵把握しているセラフィが知らない訳が無い。

 ただそれでも、どういう経緯を経て俺が転生してきたのかは知らなかったのだが、クレーティオが神だと俺が話をした時点で色々と噛み合った結果、気になっていたことが分かった程度の反応で、驚いたりといったことは無かった。

 その話をしてからは、セラフィには俺がクレーティオから聞いたことを大体話した。

 ポンコツだが、理解力などは高いので説明はスムーズに行うことが出来たのだ。


「まあ、理級精霊の誕生もこのルーディスという世界が再び進み始めたことを考えればいいことなのじゃろう。その内世界に影響を及ぼすはずじゃ。ヨゾラにとっては喜ばしいことじゃろう。魔王にしてもアノンという勇者にしてもそうじゃ。ヨゾラがきっかけを作り、それが世界を動かし、ヨゾラの物語に帰結していく」

「確かにそう考えるとなんだか嬉しいな」

「きっかけが帰結することを考えれば、いずれその理級精霊もヨゾラの物語に関わってくるはずじゃ。クレーティオが原因とはいえ、その行動自体はヨゾラの物語に組み込まれているのじゃからな」


 もしセラフィの言う通り、きっかけが俺に帰ってくるのであれば、その理級精霊も何処かで関わってきそうなものだ。

 ここまで出来すぎていると、やはり俺の持っている称号に何か知らない効果がありそうだが、俺にとって喜ばしいことであるのならば問題は無い。


「そうなると、この戦争も俺が発端になるわけだから、目的云々を抜きにしてもなんとかしないととは思ってきたな」

「理想とはあらぬ方向に進んだとはいえそうじゃな……まあ、あまり深刻に考えても仕方が無かろう。せめて知り合いに被害が出ぬうちにどうにか出来ればよいんじゃないか?」

「勿論分かってるさ」


 本音を言ってしまえば、勝手に戦争を始めたので今までに出た被害なんかは知らん。それでも、目が覚めてから知り合った奴らに被害が出るのは嫌なので、出来うる限り守るつもりだし、戦争が終わるように動きもする。

 そもそも俺は自分勝手に生きると決めたので、変に背負おうとは思わない。知らない誰かに恨まれようとも構わない。

 ただ、身近にその恨みが振りかかるようなことがあれば容赦はしない。理不尽かもしれないが、残念ながら俺にそこまでの良心は無いのだ。


 まあ、今の状況が俺を中心とする物語として動いているならば、魔王を倒せば自ずと周囲に変化が出てくる。

 今はその変化がどのようなものになるのか、楽しみに待つことにしよう。


自由な女神「友人達とはしばらくのお別れだね。魔王を倒して無事に戻ってこよう!」

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