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雷属性魔法

 その後の合宿は、苦戦することはありつつも、2日目に大蛇と戦った時のようなギリギリの戦闘は1度も無かった。

 だからといって大蛇レベルの魔獣が出てこなかった訳ではない。むしろ大蛇よりも強い魔獣はそれなりの頻度で出てきていた。


 ギリギリの戦闘が無くなった理由は勿論アノンだ。

 アノンが勇者になってから経った時間はまだ数か月だ。それまでただの村娘だったアノンのレベルは当然のように低い。たとえ数か月レベル上げをしたのだとしても、多少秘境に入っただけだったらたかがしれている。

 アノンは、順調に強くなっていき、戦闘にも安定感が出てきたのだ。


 そして、レベルが上がる以外の大きな変化が訪れたのは最終日の1日前だった。

 戦闘終了後にアノンが特にはしゃいでいる様子も無く、どちらかと言えば驚いているような様子を微かに見せながら言ってきたのだ。


「えっと……新しい勇技を覚えたみたいです」


 先日予想していた通り、やはり勇技はグランシャリオだけではなく、まだ他にもあったみたいだ。


「どんな技か分かるか?」

「威力とかは使ってみないと分からないですが、技名はヘブンリーサンダーというみたいです。名前の通り雷に関する技みたいです」


 まあサンダーって言うくらいだからそうなのだろうな。

 にしても雷とは、また勇者っぽい技が出てきたものだ。

 この世界では魔法で雷を起こすことは出来ない。雷属性など存在しないし、光属性魔法でも出来ないのだから勇者の固有技としては分かりやすいだろう。


「覚えたきっかけとかは、何か分かったりするか?」

「多分ですけど、レベルが200になったのが理由だと思います」


 アノンは丁度レベルが200になった辺りで、ふと使えるようになったようだ。確かにそれがきっかけと考えるのが妥当だ。


 これは関係無いことだが、アノンがやっとレベル200になったのには驚いた。いくらまだ勇者になってから日が浅いとはいえ、ここまで秘境の奥地で戦っていればレベル200などとっくにいっているものだと思っていたのだ。

 もしかしたら、勇者はレベルが上がりにくいのかもしれない。これまでレベルが上がりやすく、それで強くなっていたと思っていたが、単純にステータスの上り幅が大きかっただけなのだろう。


「早速次の戦闘で使ってみるか?」

「そうですね……では使ってみることにします。グランシャリオのように溜めは必要無いみたいなので、戦闘開始と同時に初撃で打ちますね」

「ああ。どんな結果になるか、楽しみだな」

「そうですね」


 アノンも少し楽しみだったのか、2人で小さく笑いながら次の戦闘に備えることにした。

 ヘブンリーサンダーを初撃で使うことは俺から皆に伝えた。俺達だけではなく、皆がどんなものなのか楽しみにしているように見えた。


 しばらくして、森の奥の方からもう何度も倒したドラゴンが3匹姿を現した。

 今のメンバーの火力があれば手こずることは無い程の相手だ。ヘブンリーサンダーを試し打ちするには手頃な相手だろう。


 俺の横に並んでいたアノンが数歩前に出る。


「……いきます」


 アノンは剣を空に掲げてヘブンリーサンダーを発動させた。

 発動しているはずなのだが、周囲に何の変化も無い。どういうことだろうと思い俺は剣が向く空を見上げた。

 空を見てようやく発動しているのが分かった。遥か彼方の上空に魔法陣のようなものが浮かんでいる。

 そして次の瞬間、その魔法陣から雷が放たれて、地上にいたドラゴン全てに直撃する。

 バチンッと一瞬だけドラゴンに雷が当たり、ドラゴンは丸焦げになって地面に倒れ伏した。


「一撃かよ……」


 全員が息を呑む中セシルが絞り出すように声を出した。

 声にこそ出なかったが、俺もセシルと同じことを思っていた。

 俺達の火力があればドラゴン相手に手こずることは無いが、だからといってワンパン出来る訳ではない。

 正確に言えば、セラフィの神級魔法であれば出来るが、発動の時間を考えれば普通に倒した方が手っ取り早いのだ。

 威力を細かく図ることは出来ないが、今アノンが放ったヘブンリーサンダーは特功が在り得ないくらい高いセラフィの神級魔法に迫るか同等の威力があるということだ。


「私も驚きました、まさかここまでの威力とは……それにグランシャリオと違って身体になんの負荷もありません。ただ、流石に連発は出来ないようですね。先程までは使える感覚があったのですが、今はそういう感覚が一切ありません」

「流石に何の制限も無くとはいかないか。まあそれでもグランシャリオよりは使い易いだろうな。――セラフィはヘブンリーサンダーを見て何か思ったことはあるか?」

「そうじゃなぁ……原理自体は魔法に限りなく近いように思う。感覚的なことじゃから伝えにくいのじゃが、発動した時に肌に感じたのが魔法にそっくりじゃった。アノンしか使えんので勇技となっておるが、魔法として確立出来る可能性は微かにあるの。言うなれば神級雷属性魔法ということじゃ」


 魔法に関して人間よりも遥かに敏感で親和性の高いセラフィが言うのだから、間違いでは無いのだろう。

 もしかしたら将来的に魔法に雷属性が追加される可能性があるが、セラフィは確立出来る可能性は微かと言った。

 魔法で発現させるものではなく、普通に自然現象としての雷はこの世界にも勿論ある。であれば、これまで雷を魔法でどうにか出来ないかと考えた者もいるはずだ。

 しかし、魔法として確立されていないのは、通常の魔法を生み出す方法では不可能だということだ。


 ならば他にそれを可能とする方法が存在するのだとしたらなんだろう?

 俺も雷魔法というものを使ってみたいと思うので、少し真剣に考えてみる。


「――雷属性魔法が新しく生まれたんなら、雷属性の精霊が生まれる可能性もある……か?」

「ふむ、あり得ない話ではないじゃろうな」


 魔法と精霊が近しいものならば、こうして雷属性魔法というものが生まれたことにより雷属性の精霊も生まれてくる可能性がある。

 今はまだヘブンリーサンダーしか存在しない雷属性魔法だが、精霊の力があればさらに可能性が広がり新しい魔法も生まれてくるかもしれない。

 セラフィはヘブンリーサンダーを神級だと言った。であれば、アノンがヘブンリーサンダーを使用する度に崇級の雷属性の精霊が生まれる可能性があるということだ。これは期待が高まる。

 しかもセラフィは精霊が生まれた瞬間を察知することが出来るので、今立てた仮説の立証も出来るし、本格的に雷属性魔法について検証してみることも出来る。


「セラフィ、気が付いたら教えてくれ」

「ん? うむ、分かった」


 セラフィが精霊が生まれるのを察知出来るということを知られると、色々と疑いを掛けられる可能性があるので濁して伝えると、セラフィは一瞬何を言われているのか分からなかったようだが、すぐに理解してくれた。


「アノン、次に使うにはどのくらいかかりそうだ?」

「そうですね。予想ですが1時間は必要だと思います」

「なら今日はもう1発撃ったら戻るか。時間もそろそろだしな。明日でもいいんだが、秘境の攻略って目的もあるから、今日の内にしておこう」

「分かりました」

「皆もそれでいいか?」


 放心状態から戻り俺達の話を聞いていた皆は問題無いようで頷いた。

 ちなみに、魔獣の波が訪れずこうして話をすることが出来ていたのは、ヘブンリーサンダーの音や衝撃を感じて魔獣達が危機感を働かせていたようだ。そのことを知ったのは2発目のヘブンリーサンダーを打った時だ。この時も魔獣の波はこなかった。


 そんな感じでレベル上げを目的とした合宿は終わりを告げる。残った最終日は秘境の攻略に当てる。

 勿論魔獣との戦闘を絶対に避けることは出来ないだろうが、あくまでも目的は採取なので、アノンのヘブンリーサンダーで波が来ることを避けつつになるだろう。

 再発動までの時間に戦闘が起こってしまえば仕方が無い。真面目に戦うのはその時だけだ。


 ちなみに、珍しい物の採取といっても、俺達はそういったことには詳しくないので、サリーが珍しい物を見かけたら声を掛けてくれるそうだ。

 俺達が魔獣と戦っている時に、その魔獣を見て驚いたりしていたので、サリーは流石に教師ということもあってその辺は詳しいのだろう。

 合宿が終わったら勉強がてら聞いてみるのも面白いかもしれない。


 雷属性魔法のことや精霊については帰ってから改めてセラフィと予想というか可能性を固めてみることにした。

 必要とあればアノンにまたヘブンリーサンダーを使ってもらうつもりだ。その許可はアノンから取っている。


 色々と楽しみなことが増えたが、あくまでも今の最終目的は勇者であるアノンと共に魔王を討伐することだ。

 RPGっぽくて楽しみだが、もしも魔王が完全に悪と呼べる存在ではなく、何か理由があって獣人をまとめて人と戦争をしているのならば、俺も身の振り方を考えなければならない。

 出来ることならば獣人と共存し、仲良くなるのが俺の望みだからな。

 アノン達と戦うようなことにならないことを願いたい。





自由な女神「早速新しい技が!? もしかして前回のはフラグだったのかな? ヨゾラ君も使えるようになるといいね!」

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