勇者の持つ技
その日はアノンだけではなく、他のメンバーも死んだように眠った。
秘境の奥地が生易しく無いことは全員が分かっていたことだが、心の何処かではこのメンバーならば何とかなると思っていた。
しかし、これだけのメンバーが揃っていてもやはり厳しいと思い知らされた。
あの大蛇に対して俺が1人で戦っていたらどうなっていただろうか? 正直、死んでいたかもしれないと思う。
セラフィと2人ならば、ボロボロになりながらも勝てたかもしれないが、それもセラフィが神級魔法を使うことが前提だ。
神級魔法発動までの時間を稼げる保証はない。もしセラフィにあの大蛇がヘイトを向ければ、俺だけではそう簡単に止めることは出来ないだろう。
今回は、最初から俺がある程度ヘイトを稼げており、更には皆の協力があり、且つある程度のダメージを与えていたからこそ、アノンがグランシャリオという技を使う時間を稼ぐことが出来た。
大蛇が秘境の奥地で1番強い魔獣だとは限らない。明日からも油断は禁物だ。
それに大変だっただけの価値はある。
最近はかなり高くなってきて上がりにくくなっていたレベルが結構しっかりと上がった。
それでも前に比べれば上がるのは遅いが、他で中々上げることの出来ないレベルを1日でそれなりに上げれる環境はありがたい。
300台も目の前なので、モチベーションは高いのだ。
次の日、全員が少し遅めに目を覚ました。
「アノン、身体はもう大丈夫か?」
「はい。心配を掛けてすいません、もう大丈夫です」
グランシャリオを使ってしばらくは、自分で歩くことすら出来ないアノンだったが、もう問題無いという。
少し様子を見ていたが、我慢をしていそうな感じもしないので、本当に大丈夫なのだろう。最悪、今日戦っている最中にアノンが昨日の疲れで厳しそうならば俺が前に出つつ早めに切り上げればいい話だ。
「ならいい。そうだ、準備をしたりしながらでいいから、昨日の技のことを詳しく聞かせてくれないか?」
この世界には、剣術などの流派で呼ばれている技名なんかはあるが、それは勝手に名付けているだけで、その技自体に何か効果がある訳ではない。だが、昨日アノンが見せたグランシャリオは、ステータスや技術だけで再現できるようなものではなく、魔法のようにそれ自体に決まった効果などがありそうだ、というのが俺の考えだった。
剣術というよりも魔法に近い。しかし魔法ではなさそうなので、その辺の仕組みが詳しく知りたかったのだ。
ロニとフーシーは特に気になっている様子もないので、既に知っているのだろう。それに対してセシルとルーシェは俺と同様に気になっているようだ。セラフィは話を聞いているのかいないのか、1人で飯を頬張っている。
「私自身も何もかもを理解している訳じゃないのですが、それでもいいですか?」
「ああ、構わない。少なくとも俺よりは理解しているだろうからな」
「ではお話ししますね。――昨日使ったグランシャリオという技は、30秒間の溜めの後に敵を高速で7回斬る技です。その時攻撃と素早さのステータスに補正が掛かります。細かく言うなら3倍ですね」
「それは……凄いな」
「はい。ただ、グランシャリオという技がステータスに明確に表記されてはいません。その辺は魔法に似ています。例えば、火属性平級魔法のファイアボールが使えるとして、その技名はステータスには現れませんよね? 火属性平級魔法と表記されるだけです。それと同様に、グランシャリオは勇者の技と書いて勇技という風に表記されています」
聞けば聞くほど魔法と似ていると感じてくる。
ただ、魔法と明確に違うのだろうな、ということもその表記から察することが出来た。
「魔法とは違う点は、勇者専用ということか……魔法は神級であっても、誰でも覚えることの出来る可能性はあるだろうが、勇技――グランシャリオに関してはステータスが上がる仕組みから何までそもそも理論が不明で想像するのがほぼ不可能だ。多分だが、勇者の称号に連結された技なんだろう?」
「私も恐らくそうなのではないかと考えています。勇者になってしばらくした頃に、ふとグランシャリオという技名で、それを使えるという感覚と共に頭に浮かびました。称号による効果だと考えるのは妥当です」
「称号には説明文からは読み取りにくいことが隠れている場合があるからな」
俺の持ってる称号ヨゾラの作者も未だに理解不能だ。神から干渉されなくなるというが、そもそもその実感が湧かないし、それ以外にも何かありそうな気はする。
アノンの勇者も同様に、説明文だけでは分からない何かがあったということだ。尤も、これだけとも限らないが……
「私が知っているのはこんなところですね。正直、溜めてると言いましたが感覚的なもので、一体何を溜めているのかとかは分からないんです」
「それはアノンで分からないなら俺にも分からないな」
まあ少なくとも、俺に使える技じゃないと分かっただけでいいとしよう。もし知らなかったらどうにかして使えるように練習していたかもしれない。
丁度話が終わった頃、いつまでも飯を食っていたセラフィがその手を止めた。
「まあ魔法の類では無いことは昨日技を見た時から分かっていたんじゃがな」
「そうなのか?」
「うむ。あの見た目で魔法なら確実に光属性じゃろう。であれば儂が使えぬ訳がない。儂が使えなかった時点で魔法で無いことは確定しておった」
「えっと……それはどういうことですか?」
「儂は光属性と闇属性の魔法であれば見ただけで使えるようになるんじゃ」
「そうなんですか!? それは……凄いですね」
実際には見ていなくても存在すれば使えるのだが、流石にそれを言う訳にはいかないので、セラフィは上手く誤魔化したようだ。
「それともう1つ、おぬしらの会話を聞いていて分かったことがある。いや、分かったというよりは、予測に近いものじゃが……」
「聞かせてください!」
「うむ、先程アノンは勇技の説明の時に魔法の表記を例えで持ち出したじゃろ? アノンの言う通り、魔法の表記には平級であろうと神級であろうと、明確な表記はされておらず複数の魔法――意味が込められておる。それを考えれば勇技という表記はグランシャリオという技以外にも……」
「他の技が隠されている可能性がある……ということですね?」
「そうじゃ。ただ、アノンが使える技がグランシャリオしかないから予測の域は出ないがの。じゃが、まだ何かあると期待は出来る」
確かに、言われてみればステータスに魔法名が出ることは無い。魔法とは別物とはいえ、ステータス上において扱いが似たようなものならば、勇技というのがグランシャリオだけを指すものだとは考えにくい。他にも技がある可能性があっても不思議ではない。
「セラフィの言っていることが当たっているんだとしたら、今回の合宿で何か新しく技を覚えることが出来るかもしれないな」
「そうですね。でも、現状使えるグランシャリオでも使えば動けなくなってしまうので、新しく技を覚えても使えるかは分かりません」
「それは覚えてから考えればいいことじゃ。グランシャリオのように反動が無く、使い易い技を覚える可能性もあるからの。もし技を新しく覚えないのであれ、切り札であるグランシャリオがステータスに補正があるという特性がある以上レベルを上げておいて損はないじゃろ」
現状アノンはグランシャリオを使った場合に俺を上回るステータスを有することになる。グランシャリオを基準として伸びしろを考えるならば俺よりも上だ。
そんなアノンが得られるレベルの上昇によるステータスの上がりの恩恵は絶大だ。今の状態ですらグランシャリオを対応するのは難しい。このままアノンが強くなれば、正直グランシャリオをどうにかするのは不可能になる。
俺ですらそうなのだ。対応出来る奴など殆どいないだろう。
アノンが味方で良かったと安心する。
「しかし、こうして考えるとやっぱり勇者のポテンシャルって凄いんだな。逆に勇者の対極にいる魔王ってのが怖くなってくるな」
「じゃな。アノンばかりに頼ってはおられん。儂らももっと強くならなくては」
「お2人は今でも十分に頼もしいですけどね」
脅威となる存在が現れるのは、いざという時に自分やセラフィ、仲のいい人達を守れない可能性があって怖いが、これも異世界の醍醐味のような気もして少しワクワクしているのも事実だ。
楽しんだ挙句に最悪の事態になるようなことが無いように、精々苦労して強くなることにしよう。
「さて、今日も頑張りますか」
「昨日よりは楽になったじゃろうが、気は抜かんようにしよう」
「私も頑張ります!」
「グランシャリオを使う羽目にならないようにしないとな」
「動けないアノンは少々不憫じゃったしな」
冗談めかしてセラフィと笑うと、アノンは恥ずかしかったようで、顔を赤くした。
「もう……いじわるですよ先輩……」
勇者とはいえアノンは年下の女の子には変わりないので、出来うる限りは頼れる先輩であれるように頑張ろう。
魔王討伐が終わった後は、アノンが必死に戦うことなく人も獣人も笑っていられる世界になればと願う。
そんな世界になるように俺自身も出来ることはしよう。
自由な女神「勇者の専用技ってなんかかっこいいよね! 他の技もあったらいいのに」




