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勇者としての実力

 特に何事も無く学校生活を過ごしていき、合宿の日がやってきた。

 班は、前に合宿に行った時と同じ俺、セラフィ、セシル、ルーシェに加えて、勇者であるアノンとロニ、フーシーが学年は違えど特例で共に行くことになる。


 セシルとルーシェは、班の実力が高すぎて萎縮していたが、あまり気にすることも無いだろう。

 実際に戦えば流石に勇者のアノンどころか、英傑のロニとフーシーに勝つことは難しいだろうが、魔獣相手であればセシルとルーシェも十分に戦える。

 今回は行く場所も前回と同様に樹海の秘境なので、ある程度慣れている分セシルとルーシェの方が最初の方は上手く戦えるだろうしな。


 班のメンバー以外で前回と違う点があるとすれば、今回は樹海の秘境を()()することが最終的な目的となっていることだろう。

 ここで言う攻略というのは、前回はトラブルのせいで踏み入れることすら出来ないまま終わってしまった、樹海の秘境の最奥まで探索しきるということだ。

 ボスのような存在がいれば、攻略したという実感を持ちやすいのだろうが、樹海の秘境に限らず、大抵の秘境の奥地は別次元の強さをほこる魔獣が多く、その上位存在とも呼べる存在が縄張りも持たずに常に争いあっており、特定の主のような存在がいないらしい。

 かなりの実力が無い限りは足を踏み入れることすら出来ないので、そこには珍しい物などが多く存在しているというのだ。

 それを持ち帰るのが攻略するということになる。


 俺は前よりも賑やかな馬車の中を見る。

 俺もセラフィも強くなったとはいえ、油断はやはり出来ない。心強い仲間もいるが、常に警戒しておこう。


「そういえばアノン達は秘境には行ったことがあるのか?」

「はい。私が勇者として訓練している時に行ったことがあります。今回行く樹海の秘境では無くて、大地の裂け目という場所でしたが」

「下に行くにつれて魔獣が強くなるって感じの秘境でしたよ。僕達が入ったのは中腹に行かないくらいのところでしたけどね。まだ攻略されてない秘境らしくて、不確定っていう危険は帝国の偉い人達からしてもやめてほしいとのことでしたから」

「自惚れではないですが、まだ先に進むことは出来たと思ってます」


 3人の説明からして渓谷のようになっている秘境なのだろう。

 今まで俺が入ったことのある秘境とはまた違うタイプに思える。是非ともいつか行ってみたいものだ。

 500年前は果ての秘境が最難関と言われていたが、その秘境は獣人達の国となったわけだし、現在の最難関秘境はどこなのだろう? 

 落ち着いたら調べてみるか。


「そうだ、今のうちに戦い方を決めておこう。7人で一斉に戦うのは流石にアレだしな」

「このパーティー前衛多いですもんね。後衛ってフーシーとセラフィ先輩だけじゃないですか?」

「ならヨゾラも後衛をやったらどうじゃ? 最近は剣で戦ってばかりじゃったし、偶にはいいじゃろう」

「いや、お前とフーシーと並んで後衛をやっても意味無くないか?」

「前衛におっても同じことじゃろう。いざとなれば前衛に出ればよい。まあアレじゃ、戦況を見てサポートする役目ということじゃ」


 確かにセラフィの言うような立ち回りをするなら俺が適任な気はする。

 ロニは精霊魔法があるとはいえ戦闘スタイルが近接戦に特化している。フーシーはいつだか聞いたが前衛は殆ど出来ないと言っていたし、セシルとルーシェの魔法じゃ秘境の魔獣相手には少し弱い。

 アノンは俺と同じような立ち回りが出来そうな気もしなくはないが、後衛寄りだと実力が分かり難いので、出来れば前衛で戦ってもらいたいと言うのが本音だ。


「んー、皆はどう思う?」

「私はいいと思いますよ。模擬戦で遠目からでしたがヨゾラさんを観察していて視野が広そうだと思いましたし」

「僕もそれでいいですよ」

「私も異論はありません」

「いざという時にヨゾラ君が助けに入れるように動いていてくれるなら思いっ切り戦えそうだよ」

「そうだな、適任だと思う」


 反対は出なかったので、今回はそういう立ち回りで戦うことにしよう。

 ただ、正直な話をすると、秘境の奥地に入るまで俺の出番は無さそうだ。






 ――――――――――






「これは……想像以上だな……」


 樹海の秘境に入ってから1回目の波が訪れた。

 俺とセラフィは勿論、セシルとルーシェも前回経験しているので、気を抜くことは無く即座に意識が戦闘に切り替わった。

 しかし、現在俺は後衛のセラフィとフーシーの横で、戦闘中には考えられないことだが動きを止めて視線を前に向けていた。

 俺をそうさせる原因はアノンだ。


「秘境に入りたての場所で出てくる魔獣では、アノンの相手にはやはりなりませんね」


 次々に押し寄せる魔獣の波を、アノンは華麗に苛烈に捌いていた。

 ステータスの高さは勿論のこと、その戦闘技術が見事としか言いようがない。勇者になって数か月しか経っていないとはとても思えなかった。

 鋭く迫る爪を危ないように見えて危なげなく躱し流れるような剣戟で魔獣を仕留めたかに思えば、次に来る魔獣の数と攻撃が全て分かっているかのように跳躍し回避行動を取る。しかも着地後に直ぐ動ける程の跳躍で済ませているので繋ぎがスムーズだ。


 俺どころか、班員全員の仕事を無くす勢いである。

 そんな感じで魔獣の波が終わるまで戦っていたのだが、アノンは少し汗を拭うだけであまり疲れた様子は無い。

 元々備わっている戦闘センスがずば抜けているのだろう。


「まだまだ強者がおるものじゃな」

「そうだな。戦装ありでも勝てると断言出来ないくらいだよ」


 簡単に負けるとは思えないが、だからといって勝てる確証も持てない。クレーティオに最高のスペックを用意してもらい、戦装というとんでもない魔道具込みでもそれなのだ。自信を持っていいだろう。


 本当ならばもう少し深く踏み込んで行くのは早くても明日の予定だったのだが、アノンはまだしも殆どやることが無かった他のメンバーは物足りないだろうから、予定を繰り上げて中腹に向かうことにした。

 そのことに関して、今回も引率しているサリーは何も言わなかった。完全に俺達に任せているようだ。

 中腹に向かう途中にも何度か戦闘があったが、魔獣を倒す速度が異常に早いので、次いで出てくるはずの魔獣が間に合わずに、波が短くなっていた。

 それ程の消耗はせずに、あっさりと中腹までやってくることが出来た。


 中腹に辿り着いて少ししてから、戦闘が始まった。

 入り口付近に出てくる魔獣とは強さが何段階も上がったこともあり、流石にアノン1人では対処しきれない。

 元々アノンばかりに任せるつもりは無かったので、ここに来てようやく予定通りと言うべきか、全員での戦闘を始めることが出来た。

 アノンは自分の限界もしっかりと理解しており、無理に前に出ることなく、上手く周りと一緒に戦っている。

 前衛が4人と前回よりも多いが、ロニも数か月とはいえアノンと共に戦っていたこともあり味方と協力するのが上手い。セシルとルーシェにやり難そうにしている様子は無かった。

 ここまで高水準の前衛に加えて、後衛であるセラフィは勿論のこと、フーシーの援護も的確だ。

 予想通り、中腹でも俺の出番は無さそうだった。

 といっても、全く何もしていない訳ではなくセラフィとフーシー側に出てきた魔獣は俺が処理しているので、サボっている訳ではない。

 後衛がサポートしやすいようにするのも俺の役目だ。まあ、やろうと思えばセラフィとフーシーは自分で対処するだろうが、そこは信頼だろう。


 英傑であるロニとフーシーは、まだまだ多少レベルが上がっただけとはいえ称号による補正もあり、よく見れば動きが良くなっているのが分かる。

 アノンに関してはさらに分かりやすかった。

 ロニとフーシーが戦装の効果込みの俺の伸びに流石に届かないのに対して、アノンは俺と同等の速度で成長していそうだ。

 まだステータス面では俺の方が上だろうが、今後サボっていれば抜かれてしまうかもしれない。

 今日1日を通して、勇者というポテンシャルの高さを思い知らされた。


 日が落ち、今日のところはこのくらいにしようとなったので、前回のように仮拠点を作り休むことにした。


「明日からの予定はどうするか……今日見てる感じだと、もう奥地に踏み込んでもいい気がするんだけど」

「ヨゾラ君、何だか暇そうだったもんね」


 悪気はないのだろうが、ルーシェの言葉がとても刺さる。


「まあ暇だったな。それに正直アノンの実力がここまでとは思ってなかったんだ。今日見てた感じ、もし何かトラブルがあっても何とかなる気はする。勿論アノンに丸投げするって意味じゃなくてな」

「前回は酷い目にあったからねー。帰った後のセラフィの激怒っぷりは今でも覚えてるよ」

「今思い出しても怒りが湧いてくるのぅ。やはり捻りつぶしてやればよかったか……」

「ロウは欠片も残らないかもな」

「えっと……そのトラブルというのは?」

「ああ、そういえばアノン達には話してなかったな」


 アノンが気になったようなので説明してやることにした。

 話していくうちにアノンの表情が呆れたようなものになっていく。今まで見たことのない表情なので、何だか可笑しかった。


「それは……災難でしたね。ヨゾラ先輩が無事でよかったです」

「まあ今だったらもっとスマートに切り抜ける自信はあるよ。それにアノンもケルベロスなら勝てそうだしな」

「そうですね、油断は出来ないと思いますが、何とかなるとは思います」

「奥地にはもっと強い魔獣がいるだろうけど、これだけのメンバーが揃ってるなら何とかなるだろ。ゆっくり探索するのは最終日近くになるだろうけど、レベル上げの為に入るなら問題は無いはずだ」


 このメンバーでレベル上げをしても攻略がきつそうなら、それはもう諦めるしかない。


「セシルとルーシェはいけそうか?」

「正直ちょっと怖いけど、ヨゾラ君とセラフィに勇者のアノンちゃんと英傑のロニ君、フーシーちゃんがいて尻込みは出来ないよ」

「そうだな。俺達も少しでも近づけるように頑張るとするよ」

「じゃあ決まりだ。明日からは今日みたいにはいかないだろうから、気を引き締めていこう」


 秘境の奥地に踏み込むのは俺も初めてだ。果ての秘境にいた時も中腹よりも奥には進まないようにしていたし、恐ろしさは計り知れない。


「セラフィ、明日は戦装でいく」

「了解じゃ」


 休む前にセラフィに耳打ちをしておく。

 戦装があれば余程のことが無い限りはどうにかなるだろうが、無茶だけはしないようにしよう。


自由な女神「やっぱり勇者っていうのは高いポテンシャルを持ってるんだね。まあヨゾラ君を越えられるとは思わないけど」

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