表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/137

勇者となった経緯

 アノンが勇者だということを聞かされた後日、俺達はセシルとルーシェも交えて食事をしに来ていた。

 会話の内容が内容なので、フロディスに頼んで信用の出来る店を貸し切りにしておいてもらった。

 こういう時は皇帝と知り合いで良かったと思える。


 セシルとルーシェのことは信用しているし、アノンにも話して大丈夫だということを伝えてある。

 いずれにせよ、この1年が過ぎれば公に発表されるらしいので、結局は時間の問題でしかない。

 俺とセラフィも来年には学校を去るので、そのことは友達であるセシルとルーシェには早めに話をしておきたかった。


「それじゃあアノン、改めて自己紹介してもらってもいいか?」

「は、はい! 分かりました」


 一応仲間になることは決まったが、アノンの態度はまだたどたどしい。元々あまり人付き合いが上手いようには見えないので、時間を掛けて仲良くなるしかないだろう。


「えーっと、アノンといいます。勇者の称号を持っていて、皇帝陛下から魔王討伐の命を受けています。と言ってもすぐにではなく1年後になりますが……よろしくお願いします」

「勇者!?」

「これはまた……とんでもないことを聞かされたな。ヨゾラとセラフィといると定期的に驚かされる……」

「まるで俺達が何か悪いことを定期的にしてるみたいじゃないか」

「いや、そうは言ってないが……」


 ルーシェは手本のようなリアクションをして、セシルは頭を抱えている。

 正直見ていて面白い。


「そ、その……ごめんなさい……」

「ああ違うの! アノンちゃんが謝ることは無いから! ちょっと驚いただけだから気にしないで?」

「なあヨゾラ、このことを親父は知っていたのか?」

「流石にフロディスが1人で隠していたってことはないはずだから知ってたはずだぞ。そもそもアノンは勇者として訓練してたから普通にザルバと会ってたんじゃないか?」

「はい……セシル先輩のお父さんだけじゃなくて、ルーシェ先輩のお母さんにもよくしてもらいました」

「あー、何となくそうなんじゃないかと思ってたけど、やっぱりお母さんも知ってたんだね」


 どういう訓練をしていたのかは聞かされていないが、セシルの父親であるザルバは勿論、ルーシェの母親も軍内ではかなり高い地位にいるらしいので、隠されていたとはいえ会っていても全然おかしくない。

 セシルとルーシェは知らなかったみたいだが、親が自身の子供の話をしているのは予想出来た。


 ちなみに、ロニとフーシーとは既に数度話をしたことがあるらしく自己紹介は要らないだろうということになった。

 アノンは周囲にはまだ一般生徒という認識しか持たれていないだろうが、入学の日にロニとフーシーは英傑を名乗っている。学校内は勿論、帝都内に知れ渡るのは時間の問題だろう。

 そんな学校の有名人となっているロニとフーシーが俺と同学年内でも有名なセシルとルーシェと交流を持っているのはむしろ当たり前と言えた。

 こう言ってはあれだが、上級生にそこまで特出した実力を持ち、貴族という理由以外で有名な人がいないのだから先輩として絡みが出てくるのがセシルとルーシェなのは必然だろう。


「まずは諸々の事情について話そうと思う。勇者であるアノンは1年後に獣人のトップにいると言われている魔王を倒しに行くことになる。その際、英傑の称号を持つロニとフーシーがアノンのパーティーメンバーとして同行する。ここまではいいか?」

「ああ、その辺は何となく予想が付いている」

「そうだね。3人でよく行動してるのも見かけたし、そうなんじゃないかとは思ってたよ」

「ここからが俺とセラフィに関わってくるとこだ。先日フロディス――皇帝と話をした際に、俺とセラフィもそれに同行してくれないかと頼まれたんだ」

「元々あの男はそれを考えていたんじゃろうな。ロニとフーシーが儂らと模擬戦をしたのもそれが理由じゃろう」

「ちょっと待て!? 魔王討伐は1年後って言ったよな!」

「つまりヨゾラ君とセラフィは1年後には卒業してっちゃうってこと……?」

「卒業って言い方が適切かどうかは分からないが、学校から去ることにはなるだろうな」


 異世界の学校を楽しむという目的でここに来たが、その目的は達成したと言って良い。

 セシルやルーシェのお陰で、俺の学校生活はとても楽しく、充実したものになった。


「俺としても寂しい気持ちはある。でもまだ後1年あるし、一生会えなくなる訳じゃない。だからそんな顔するなって」


 セシルとルーシェは目に見えて悲しそうな表情になった。そんな顔をされては罪悪感も浮かんでくるが、俺は自由に生きようと決めている。それに、自由に生きるならば会いたい時に会いにくればいい話だ。


「そうだな、案外ヨゾラとセラフィがいるなら何事も無く終わらせて帰ってきそうだしな」

「確かに。なんか休みの間にまた一段と強くなってるみたいだし、この1年でもっと強くなって簡単に終わらせてきそうだよねー」


 俺の言葉に納得したのかセシルとルーシェの口調は軽くなる。

 実際には、そう簡単に行くか怪しいし、どのくらいで帰って来れるかは見当が付かないが、そう思ってもらえるなら期待に応えられるように頑張ろう。


「アノンちゃん、それにロニ君とフーシーちゃんも、ヨゾラ君とセラフィをお願いね」

「この2人といると慌ただしい日々を送ることになると思うが、その分楽しいから許してやってくれ」

「お前らは俺とセラフィの保護者か……」

「儂らは普通にしてるつもりなんじゃがな……」

「い、いえ……こちらこそ、ご迷惑を掛けますがよろしくお願いします」

「まあ実際心強いですよ。まさか俺らよりも強いとは思ってなかったですしね」

「そうですね。陛下から話は聞いていましたが、本当に頼もしい方達を紹介していただけたと思っています」


 そう正面から褒められると気恥ずかしいものがある。

 俺としては個人的な感情も十分に混ざっているので複雑だ。


「……まあこの話はこの辺にしよう。セシルとルーシェは他に聞いてみたいこととかあるか?」

「アノンちゃんが勇者になってからのこととか聞きたいな! 隠れて訓練とかしてたんでしょ?」

「親父も関わってたみたいだし俺も気になるな」


 それは確かに気になる。

 アノンが勇者になってからまだ数か月しか経っていないと聞いている。その数か月何をしていたのかや、勇者になった時のことには大変興味があった。


「そこまで面白いものでもないと思いますが……」

「いいじゃんアノン、別に隠すことでもないんだし」

「今後お世話になるのですから、話しておくのもいいと思いますよ」

「そうかな? ……じゃ、じゃあ私が勇者になった日からのことを話しますね」


 何か嫌なことがあったのなら無理に聞こうとは考えていなかったが、どうやらそうではなさそうで安心した。

 話してくれるということなので聞くことにしよう。


「私は小さな村出身で、元々は戦うことは得意じゃなかったんです。こんな性格ですし、強くもなかったですから」

「確かに強そうには見えんの」

「こらセラフィ」

「ふふっ、いいですよ本当のことなので。……突然の事でした、その日までは重くて持てなかった物が嘘みたいに軽く持てたんです。とても驚いたんですが、そこまで気にはしなかったんです。でも、普通に生活していると色々な感覚が変わっていて、物を壊してしまうことが増えたんです。不思議に思ったお父さんが私にサーチを使いました。そしたら何と、特に変わった所のなかった私のステータスが大きく上がっていて、称号には勇者がありました」


 アノンのお父さんはさぞ驚いただろうな。それまでは普通の女の子だったアノンがまさか勇者になるなんて想像もしてなかっただろう。


「混乱しました。何かの間違いだろうと何度もサーチで確認しましたが、勇者の称号は確かにそこに表示されていました。どうしたらいいのか悩んだ末に、ダメもとで皇帝陛下に書状を出したんです。すると、さらに驚いたことに、その書状はすんなりと皇帝陛下の元まで渡り、私の村に騎士の方が来ました。その人がルーシェ先輩のお母さんでしたね」

「そうだったんだ……」

「私に勇者という称号が発現したことを知っている村の人にはそのことを話さないように告げられて、私と両親は帝都まで連れられてやってきたんです。そこで私は皇帝陛下と会うことになりました。正直涙が溢れる想いでしたね、緊張と不安で……」

「フロディスは自分の立場が分かってなさそうなところがあるからな」

「えっと、それについてはノーコメントで……。陛下は私達家族にも丁寧に対応してくれて、そこで私は勇者として魔王を討伐して欲しいと告げられました。勿論、そんなことは無理だと思い断ろうと思いました。でも、私なんかに頭を下げた陛下と、勇者の称号について詳しく聞いていく中で、私の胸に期待に応えたいという気持ちも湧いてきたんです」


 それまで貴族や、ましてや王族との関わりなど一切なかったアノンからしてみれば、皇帝に会うというだけでも青天の霹靂だっただろうが、その皇帝が頭を下げたというのは途轍もない衝撃を受けただろうな。


「悩んで、悩んで悩んで、家族とも沢山相談して、私は勇者として魔王を討伐することを決めました。それからの日々は嵐のようでしたね。ルーシェ先輩のお母さんやセシル先輩のお父さんとの対人訓練をする日々。しばらくして仲間として紹介されたのがロニ君とフーシーちゃんです。それから3人で魔獣を討伐してレベル上げをしたり、勇者として恥ずかしくない作法を学んだりと、大変でしたね……」

「つってもアノンはすぐに強くなっていったんだけどな」

「貴族の作法も初めこそ大変そうにしていましたが、それ程覚えるのに時間は掛かっていませんでしたね」

「それは2人のおかげだよ! と、まあそんな感じで過ごしていると、陛下から1年という期間帝都にある帝都剣魔学校に通うように言われました。当然疑問に思い理由を聞いてみると、仲間の候補として紹介したい人物がいると。ヨゾラ先輩とセラフィ先輩ですね」

「そこからは儂らも知る通りということじゃな」

「はい、模擬戦までこちらの予定で決まっていました。正直な話をしてしまえば、ロニ君とフーシーちゃんよりも強いとは考えていませんでした。しかし陛下の紹介ということなので、強いのは当たり前でしたね。私自身、強くなって視野が狭くなっていたのかもしれません」


 まあ普通に考えれば、英傑の称号を持っているロニとフーシーよりも、学校に通う俺とセラフィが強いとは思わないだろう。


「私が勇者になってからの経緯はこんなところですね。何か気になることはありますか?」


 アノンの話はとても丁寧で、その道筋について気になることはない。

 ただ、アノン本人に対しては気になることがある。


「強くなったって言っていたが、この間の模擬戦を見て、アノンは俺とセラフィに勝てると思うか?」


 そう、肝心のアノンの強さは未だに未知数だ。

 予想はある。恐らくだが、アノンはロニやフーシーよりも――


「その……負けはしないと思います」


 アノンは控えめにだが、自信がありそうな感じでそう言った。



自由な女神「悲しい過去があって……とかは無いみたいだね。それにしても、アノンちゃんもヨゾラ君に負けないくらい波乱万丈な人生になりそうな予感がするよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ