英傑の実力2
古くから実力主義を掲げていた帝国において、その象徴とも言える皇帝。
英傑含め、人間という枠組みの頂点に位置するような人物には到底及ばないが、それでも高い実力を兼ね備えてはいる。
実際初めてヨゾラと会った時は、簡単にとはいかないだろうが、仮に戦うことになったとしたら勝てると確信していた。
それは正しい分析だ。いくらステータスが高いとはいえ、人同士の戦いとなれば技術も大きく関わってくる。
ヨゾラとセラフィは驚異的なステータスが武器となるが、技術的な観点で見てみれば、学校内でも中堅といったところが精々だろう。
そのような評価を下していたが、今はどうだ。
「しばらく会わない内にここまで強くなるとは……」
絶句する他なかった。
ロニとフーシーという英傑のことはよく知っている。若い英傑ということもあって、戦場の最前線に送られることはあまりなく、何かが会った時の戦力として公にせずに隠されてきた。
今回こうして表舞台に出すこととなったのには、それ相応の理由が勿論あった。
「……」
フロディスは模擬戦を観戦しつつ、ちらりと闘技場の通路の方に目を向ける。
この場にいる殆どの人間は気が付いていないだろうが、そこには隠れるようにして模擬戦を観戦しているアノンの姿があった。
数か月前まではその少女の名前すら知らなかった。見た目からはとても戦うことなど出来そうにない。
それでも、ただのその辺にいる少女ではないことを、フロディスは嫌という程に理解していた。
「ヨゾラかセラフィ、そのどちらかだと思っていたのだがな……」
フロディスはヨゾラとセラフィに期待していた。
若く聡明なあの2人のどちらかが、人類を担う希望であってほしいと。
実際、こうして模擬戦を見ていると、未だにそうではないのかと思ってしまう。
既にフロディスの中では勝敗が決していた。
いや、心の何処かでは始まる前からこう考えていた。ヨゾラとセラフィが負ける姿など想像出来ないと。
英傑との模擬戦を見て、その考えは強くなる。
「ザルバ、後日今模擬戦をしている4人と、アノンを俺の元に呼び出せ」
「了解しました」
周囲の目があるからと丁寧な口調で話すザルバに苦笑しながら模擬戦に目を戻す。
今の世界の現状に、何か大きな動きが起こると思うと、フロディスは身が震えそうになった。
――――――――――
予想外なことが起こり過ぎだ。
ロニの剣に炎を纏わせるのもそうだし、フーシーが魔法でセラフィの知らない技術を使ってみたり、かと思えばセラフィが即座にその技術を再現してみたりと、状況が転々とし過ぎて混乱しそうだ。
現在、俺の剣もロニの剣と同じように魔法が付与されて光っている。
セラフィが言うには、崇級精霊の力で魔法を操ってやっているらしいが、もっと詳しいことを後で聞いてみた方がいいだろう。
「それにしても、何が変わったんだこれ?」
ロニの剣は炎を纏っており、打ち合った時に熱かったり炎の刃を飛ばしてきたりした。粗末な剣なら刀身を溶かされそうな気もするし、小並な感想だが普通に強い。
俺の剣はどうだろう。光ってるし目潰しでも出来るか? それとも光の刃が飛んでいったりするのだろうか? 正直想像出来ないが、感覚的には長めのペンライトでも持っているような感じだ。
セラフィによる付与だし、何の意味もないなんてことはないだろうが、炎の剣に比べると見た目は弱そうだ。
「心配せんでも、ただ光っているだけではないから安心せい」
顔に出ていたのだろうか、セラフィが声を掛けてくる。
俺は効果が気になりながらも剣を構え直すと、ロニとフーシーは驚くような表情をしていたのを正し俺と同じように構え直した。
上手いことやられたままなのは癪なので、こちらからいくことにしよう。
軽く地面を蹴ると何だか身体が軽く、俺が思っていた以上の速度が出た。
精霊魔法により身体の使い方が最適化されているので、制御出来ないということは無い。
視界も感覚もしっかりと付いてきているので、結果的にはロニとフーシーが対応出来ていなかったことになる。
「んなっ!?」
想像を上回る速度で接近してきた俺に対して、ロニは声を上げながら剣を振って炎の刃を飛ばしてきた。
目の前に迫る炎の刃に対してどういった対応をしようか迷ったが、同じように光の刃が出るかどうかは怪しいので、最悪食らっても致命傷にはならないだろうと、剣で斬ってみることにした。
「よっと」
炎の刃に合わせるように剣を振ると、なんの抵抗感も無く綺麗に切断することが出来た。
熱さを感じることも無い。元々出来たとは考えにくいので、セラフィによって付与された光で魔法の効果を打ち消している可能性がある。
炎の刃を斬った俺はロニにさらに接近しようとする。そこへ、左右から挟むように風の矢が飛んできていた。フーシーが放ったウィンドアローを先程のように操っているのだ。
俺は迎撃する素振りは一切見せずにロニに迫る。左右から飛んできたウィンドアローは、俺の後ろにいるセラフィが放ったフォトンレイにより全て正面から打ち消された。
セラフィもフーシーと同様にフォトンレイを自在に操っており、跳弾するゴム弾のように空中を飛んでいるのが視界の端に映ったのだ。
こうなってしまえば、フーシーはほぼ無力化されたと言っていい。同じ芸当が出来るのであれば、セラフィ以上に魔法を使える奴などいない。
「後は俺次第だな」
ロニは俺が止まらないと見て、接近に対していち早く対応するために、自分自身も前に出て迎撃することを選択した。
俺の速度と歩幅を正確に読み取り、俺が対応しにくいタイミングを見計らって剣を振ってくる。
正しい対応に感じるが、ロニも驚きの連続で失念していたのだろう。そもそもステータス面では俺が勝っている。それに加えて剣の付与によりどういう訳か俺の素早さステータスが上がっている。技術面では確実に劣っているだろうが、それを覆せる程の地力があるのだ。
俺は回避ではなく、剣で打ち合うことを選択した。どちらもステータスと精霊魔法を利用した強引な択になるが、回避では炎の刃でダメージを食らう可能性があるので、実質一択だったと言っていい。
剣と剣がぶつかると、ロニの剣に付与された炎が消える――だけでは収まらずに、なんとロニの剣が綺麗に切断された。
光が付与されたことによる細かい効果は把握しきれないが、剣自体の切れ味も相当上がっているようだ。俺の持つ技術だけではこんな芸当は出来ない。
「そんな……」
切断された切っ先が回転しながら地面に刺さり、それと同時に俺は返しの二撃目でロニを斬ると、ロニの指に嵌められていた結界指輪が砕け散る。
そのままフーシーも倒すべく地面を蹴って接近しようかと思ったのだが、どうやらそれは必要なさそうなので俺は剣を下ろした。
「終わりじゃ」
セラフィはウィンドアローを撃ち落とした後に即座に準備していたようで、大量のフォトンレイが飛んでいく。
フーシーも対抗してウィンドアローを発動させるが、数が圧倒的に足りていない。
残ったフォトンレイがフーシーを囲むように展開され、それが雨のように襲い掛かった。
フーシー自体の特防がそれなりに高かったこともあり、結界指輪が砕けたのは最後の一発が当たって丁度という時だった。
「――そこまで!」
審判による決着の合図で闘技場内は大きな盛り上がりを見せる。
前回も見に来ていた観客だろうか、歓声の中には初めから俺達の勝利を疑っていなかったような声も混じっていた。
そんな様子を見る限り、一般人にはロニとフーシーが英傑の称号を持っていることがまだ知られていないのだろう。
知っていれば普通は英傑の勝利を疑わないものだろうし。
チラッと上席に座っているフロディスの方に目を向けると、何を思っているのかこちらを見てニヤ付いていた。
何かしら企んでいそうなので、話を聞きに近いうち会いに行ってみることにしよう。
「いやー負けました。話には聞いてましたが、まさかここまで強いとは」
「そうですね。私達もまだまだ上がいること自体は理解していたつもりでしたが……さらに精進が必要なようです」
ロニとフーシーは立ち上がってこちらにやってきた。
口調自体はそれなりに柔らかいものの、何処か悔しそうなのも伝わってくる。
「いや、こっちも危なかったよ。今回の模擬戦は色々と学ばせてもらうことになった」
「そうじゃな。まさか魔法で一泡吹かされるとは思うておらんかった」
今回の模擬戦だけでも、俺とセラフィはさらに取れる手段が増えた。正直これまではステータスでごり押していた部分が強いので、精霊魔法による魔法の付与や、魔法を操る技術を学べただけでも有意義だった。
その辺の細かいことはこれから色々と試して、もっと深く理解していく必要はあるが、俺にはセラフィが付いているし問題無いだろう。
「またやりましょう先輩!」
「そうだな、またやろうか」
「これから1年間よろしくお願いします」
「うむ、よろしくの」
流石に疲れたので今日のところはこれで解散にする。
フロディスの元へ行くのは来週末になるだろう。それまでは普段通りの学校生活になるので、少しゆったりとした生活になりそうだ。
とはいえ、俺達もロニとフーシーも色々と聞かれたりして、気持ち的には落ち着けない可能性もあるが……
まあ、そのくらいならいつもと変わらない。
それでも、1年を通せば去年よりも慌ただしくなりそうなことだけは、何となく察していた。
自由な女神「後半は完勝って感じだったね。ヨゾラ君は勿論だけど、やっぱりセラフィちゃんの持つポテンシャルには恐ろしいものを感じるよ」




