英傑の実力1
思えば学校に入ってから模擬戦ばかりしている気がする。
他にあった大きな出来事といえば、合宿くらいだろうか? 学校の雰囲気というか、剣と魔法の学校という特色から模擬戦をする機会が多いのは分からなくもないのだが、他の生徒も俺達と同じくらい模擬戦をしているのだろうか?
何だかこういうと悲しく聞こえるが、俺はそこまで友達が多い訳ではない。別に増やそうとも思わないが、そういった理由で、誰かが模擬戦をするなどという情報が中々に入ってこない。
俺達が模擬戦をする時はあんなに大盛り上がりなのに、噂くらい入ってきてもいいものだ。
模擬戦の日までは準備するのに十分な時間があった。
ロニとフーシーは英傑だ。誰かしら2人の情報を持っていないか聞いてみたのだが、学年内でも実力のある奴が集められているという俺達のクラスでも、あの2人を知っているという奴はいなかった。
正確に言えば、あの2人の実力をというべきか、ロニとフーシーという英傑がいるということを知っていた奴はいたが、その実力なんかは一切知らないらしい。
皇帝であるフロディスに聞けば流石に情報が出てくるだろうが、ここまできたら何も知らない状態で模擬戦をしてみるのも面白そうだと思ったので、詳しい話を聞くのは模擬戦が終わってからにすることにした。
セシルに聞いたところ、やはりと言うべきか模擬戦を見に来るらしいので丁度いいだろう。
それに、あの2人だけではなく、挨拶だけしたアノンという子のことも気になる。むしろアノンの方が気になると言うのが正直なところだった。
英傑であるロニとフーシーと共にいたのだから、ただの一般人ということは無いだろうが、英傑ではないと言っていたので謎ばかりだ。
今回アノンと模擬戦をすることにはなっていないが、出来るならばアノンの実力も見てはみたかった。
週末になり、いよいよ模擬戦を迎える。
天気は快晴。ありがたいことだが、こういったイベントの日に天気が荒れることは今まで一度も無い。やはり晴れであるべきだとは思うが、不思議だ。
「準備は大丈夫か?」
「うむ、問題ない。儂らの力を後輩に見せてやるかの」
「そうだな。休みの間にレベルも上げたし、セシルとルーシェにも見せてやろう」
「じゃな。それに相手も今までで一番強いじゃろうし、思う存分出来るというものじゃ」
「そうだ、クレーティオは来てそうか?」
「いや、気配は感じないの」
「そうか……」
出来ることならばまたクレーティオに審判をしてほしかったのだが、昨日の夜に頼もうかと思ったのだが、どういう訳か会うことが出来なかった。忙しいのだろうか?
言っていても仕方がないので、俺とセラフィは控室から既にロニとフーシーが待っている闘技場に向かうことにした。
俺とセラフィの登場に、闘技場は大きな盛り上がりを見せる。
それとは対照的に最前列の一角にいるセシルとルーシェは驚いたような表情をしていた。
「本気だな、ヨゾラもセラフィも」
「まあ相手は英傑の称号を持ってるしね。でも、こうなると私はヨゾラ君とセラフィが負けるとは思えなくなってきたなぁ」
「それには俺も同意だ」
セシルとルーシェだけが驚いている理由は、俺とセラフィが戦装を身に纏っているからだ。戦装のことを知っているのはこの大勢の観衆の中であの2人だけなので仕方がないだろう。
ロニとフーシーの方に目を向けてみると、ロニは身軽そうな格好に直剣を持っているという俺に似たような装備で、フーシーは長いローブに杖を持っているというあまり見たことの無い装備だ。
2人の装備を見ている感じ、俺とセラフィに似た戦い方をしてきそうだ。
「ヨゾラ先輩、セラフィ先輩、今回は模擬戦を受けてくれてありがとうございます! それにしても、やっぱりお2人は人気がありますね……まさかここまで盛り上がるとは……」
「俺達じゃなくて2人の人気じゃないのか?」
「まさか。僕達のことはあまり知られていないので」
それもそうか。一般人でロニとフーシーが英傑だと知っている奴は少ない。
「やりにくいかもしれませんが、どうか本気でお願いします」
「気にすることはないじゃろう。向けられるものが多かろうが、向けるものは少ない。儂もヨゾラも周囲の目や評価は気にせんのでな」
「話には聞いていましたが、セラフィさんの言葉には学ばせてもらえることが多そうですね。では私達も気にせず、存分にやることにしましょう」
挨拶も済んだのでそろそろ始めることにしよう。
審判による、いつもと同じ説明がなされて、俺達はそれぞれ離れて位置に着く。
闘技場内が静まり返って緊張感が高まってきた。
先程までは軽い口調で話をしていたが、ロニとフーシーからはそんなものが嘘だったかのような闘気が溢れてきている。
こうして向かい合っているだけでも、これまで戦ってきた誰よりも強いというのが感じられた。
「セラフィ、開始と同時に精霊魔法を」
「了解じゃ」
さて、英傑がどんなもんか楽しみだ。
「それでは――始め!!」
開始の合図と共に動いたのは俺とロニだ。
お互いが一直線に走り、正面からぶつかる形となるだろう。
精霊魔法は始まった瞬間に発動されており、少しの間隔を空けて俺の身体が軽くなった。
俺は上段から剣をロニに向けて振る。
「重たっ……」
フェイントなどを考えずに振った剣をロニは受け止めたが、その顔には苦い表情が浮かぶ。
戦装と精霊魔法で強化した一撃を受け止めるとは流石英傑と言える。今の俺のステータスならばセシルが相手だった場合これで終わっていた可能性すらある。
「まだまだいくぞ!」
俺は続けて連撃に移行する。最初程の力は込めていないが、その分速度は増している。
その攻撃をロニは受け止めるのではなく、受け流すようにして対処することにしたようで、上手く力を逃がされていた。
大きく動きながらの剣の打ち合いが続く。そろそろセラフィの魔法の準備が完了する頃なので、俺はセラフィが魔法を打ちやすいように移動した。
「フォトンブラスト!」
セラフィ得意の魔法がロニに向けて飛んでいく。その威力は長期休暇前と比べてさらに上がっていた。
「ウィンドリフト!」
フォトンブラストが迫るロニの足元にフーシーが上昇するように噴き出す風を生み出してロニを浮かび上がらせた。面白い回避方法だ。
だが、空中高くではロニは何も出来ないだろう。俺は容赦なくフォトンレイをロニに向けて放った。
「シャドウミスト!」
フォトンレイがロニに直撃する瞬間に黒い霧のようなものがフォトンレイを遮った。
一瞬の出来事だったがロニは無傷。初めて見る魔法だったが、どういう原理か魔法が無効化されてしまったようだ。
地面に着地したロニは俺に向かって迫ってくる。正面からの打ち合いでは俺の方が有利な気がするが、どういうことだろうか?
「これは見たことありますか?」
ロニが不敵に笑い言葉を発すると、ロニが持っていた剣に炎が纏う。
「なっ!?」
完全に予想外のことで、俺は反応が遅れた。
ロニはまだ剣が届かないところで剣を振ると、その軌道上に炎の斬撃が飛ぶ。
直感的に受け止めることは出来そうにないと悟って回避した。
しかしそれで終わる訳も無く、ロニはさらに距離を詰めながらも剣を振って炎の斬撃を幾重にも飛ばしてきた。
回避しか今のところ取れる選択肢が無かったので、それに集中している内にロニは剣が届く距離まで詰めてきたので、俺は接近戦での対処に切り替えた。
「あっついな……」
剣を剣で受け止めても刀身が溶けるようなことは無くて安心したが、至近距離で受け止めるとその熱が伝わってきてかなり熱い。
さらには、剣の軌道上には相変わらず炎の斬撃が出現するので回避すると、思っていた以上の範囲に攻撃が飛んでくるので厄介だった。
「儂を忘れるでない!」
どうしようか悩んでいると、セラフィが剣で割って入ってくる。
レベルが上がったことにより、戦装を纏っていればセラフィも接近戦を十分に出来る程のステータスになっている。
ロニと1対1で接近戦をするには分が悪いだろうが、こうして俺との戦いに割って入ってくる分には有利に働くだろう。
唐突に割って入り剣を振ったセラフィに対してロニは回避を選択するしかなかった。
そこまで体勢が崩れることは無かったのだが、俺はその回避に合わせるようにロニの剣を弾くようにして体勢を崩させることに成功する。
「ホーリーランス!」
そこにセラフィが間髪入れず魔法を放とうとする。
「させませんよ」
「っ!?」
「セラフィ!!」
決まったかに思ったが、ロニの背後からロニを避けるように岩が飛んできてセラフィに直撃する。
フーシーが放ったロックブラストだろうが、あり得ない軌道で飛んできた岩に、ホーリーランスを発動しようとしていたセラフィどころか俺も不意を突かれて反応が出来なかった。
もろに食らったセラフィは吹き飛ぶ。魔法とはいえ物理なのでセラフィにとっては大きなダメージとなっただろう。
結界指輪が砕けていないので致命傷ではない。危なかった。
「よそ見してる暇は無いですよ!」
俺がセラフィの方に目を向けた瞬間にロニは体勢を立て直しており、気が付いた頃には目の前に剣が迫ってきていた。
どうにか反応して剣で受け止めることには成功したが、無理やりだったこともあり次の行動に対応することが出来なかった。
「ぐふっ」
腹に強い衝撃と共に俺の身体も吹き飛ぶ。ロニが放った蹴りによるものだ。
地面に叩きつけられて数度転がって勢いが止まる。
距離が多少離れたといっても、そこで甘えさせてくれるような相手じゃない。痛みを堪えて立ち上がり、フーシーが放ったアイスランスを回避するために横に跳ぶ。
しかし、完全に軌道を見て回避したはずのアイスランスは、まるで意志を持っているかのように軌道を変えて俺に迫ってくる。
「なんだそれ!?」
完全に魔法の軌道ではない。崩れた体勢からでは回避しきれるものではなかった。
「ヨゾラ!!」
厳しい状況の中、倒れていたセラフィからの声が聞こえると、そこに光と闇の矢が飛んできていた。
フーシーの魔法ではなく、セラフィが放ったホーリーアローとダークアローだ。アイスランスを砕くために放ったのだろう。
俺は無理やりもう一度だけ大きく横に跳ぶ。だが、やはりアイスランスは軌道を変えて俺に迫ってきた。
「魔法に関して、他の者が出来て儂が出来ない道理は無い!」
驚くべきことに、セラフィの魔法も同じように軌道を変えた。
速度でアイスランスに勝るホーリーアローとダークアローは俺に迫るアイスランスを砕くことに成功する。
ロニは決まったと確信して距離は詰めて来ていなかったので追撃の心配はない。フーシーは驚いたような表情をしており。
どうにか仕切り直すことが出来そうだった。
「セラフィ、ダメージは?」
「少々厳しいがまだやれるから心配はいらぬ。おぬしこそどうなんじゃ?」
「俺の方は蹴りだったからそこまでだ。にしても、あの魔法を曲げるのはどういう原理だ? ロニの剣に炎を纏わせるのもさっぱり理解出来ないし……それにお前まで出来たのかよ!」
「儂も初めて見たし、初めてやったんじゃ! じゃが原理は理解出来た。あれは精霊の力を借りてやっておる。それも崇級精霊じゃな。魔法に干渉して自在に操っておる。崇級精霊の持つ特徴じゃろう」
「崇級か……初めて見たが、そんな事も出来るんだな」
「安心せい、儂がおる以上精霊は優位を確立する要因になり得ん。原理が分かった以上は儂らが有利ということじゃ」
セラフィは余裕すら感じさせる笑みを浮かべて断言する。心強い限りだ。
「では見せてやるとするかの。理級精霊の力を」
セラフィがそう言うと、俺の剣の刀身が光に包まれていく。ロニが見せた炎の剣と同じだ。
「存分にやってくるがいい。ここからは儂らのターンじゃ!」
自由な女神「遂に英傑との戦いだね! ヨゾラ君は英傑にも負けないポテンシャルがあるから頑張ってほしいな」




