後輩
新章スタートです!
あの合宿からは、特に大きな出来事も無く、変わり映えしない学校生活を送りつつ、休みの日にはセシルとルーシェを連れて、冒険者として依頼を受けるという日々を送っていた。
週末には必ず冒険者ギルドに顔を出す学生ということで、ギルド内でもそれなりに顔が知れ渡ってきたのだが、そのお陰といってはなんだが、色々と依頼を紹介してくれる人達もいたので、俺達からしたら都合がよかったりした。
そんなこんなで生活している内に、あっという間に進級という時期になっていた。
俺達は途中からの編入だったので、1年生として過ごした時間は半年も無い。短く感じるのは、気のせいではないはずだ。
進級するためには、これまでの成績が関わってきたり、多少の試験のようなものもあるのだが、成績に関しては合宿が、試験は簡単だったので俺もセラフィも問題無かった。
進級の試験がある前に、俺とセラフィはどうなるのか心配だったのでルーシェに聞いていたのだが、その時は――
「2人が進級出来なかったら、誰も進級出来ないと思うよ?」
と、言っていた。
学力というよりは強さが重視されるので、学年どころか学校でトップの強さがある俺達はそもそも心配する必要はなかったようだ。
卒業後の進路がほぼ兵士や騎士となるこの学校ならば納得は出来た。最近はそんなことも忘れていたのは、俺にそういった職に就くつもりがないからだろう。
長期休みの間、俺とセラフィは暇過ぎて2人で樹海の秘境に足を運んでレベル上げを行っていた。
英傑という称号を持っている奴らは、俺と同格か強いというのはセシルの話を聞いている限りでは予想出来る。
英傑の中でも実力差はあるだろうが、万が一俺よりも強い英傑と敵対するようなことが起これば、セラフィを守り切ることが出来ない可能性がある。
セシルやルーシェといった友人達も守りたいと思っているので、今よりも強くなっておくことに越したことは無い。
セラフィもただ守られているような性格ではないので、俺の考えを話して休みの間に出来る限りレベル上げを行っておくことにしたのだ。
休みが明ける今日の時点で俺のレベルは300を超え、セラフィのレベルは200を超えた。
これで満足しきることは無いが、一先ずはいいとしよう。そろそろ樹海の秘境を最奥まで攻略することが見えてきたので、大抵のことならば対応出来るはずだ。
久々の学校で学年も変わったが、教室自体は変わらない。クラスメイトに関しては多少の入れ替わりがあった。
2年生からは、実力でクラスの振り分けが行われるらしく、セシルとルーシェは相変わらず同じクラスのようだったが、見慣れない顔ぶれもそれなりにいる。
セラフィは分からないが、俺は他のクラスの奴とはそこまで関わりが無かったので、新しく同じクラスになった者同士で楽しそうに話している中孤立してしまったように感じる。
そのままセラフィと2人で話して待っているのもアレだったので、セシルとルーシェの元へ向かうことにした。
「久しぶりセシル、ルーシェ」
「久しぶりじゃの」
「ヨゾラとセラフィか。また同じクラスみたいだな。よろしくな」
「ヨゾラ君とセラフィが教室に入ってきた時点で殆ど確定だったけど、他の面々も見てる感じ、このクラスが1番実力のあるクラスみたいだね」
「まあ、自惚れている訳じゃないが予想通りだったな。それで、ヨゾラとセラフィは休みの間は何をしてたんだ?」
「俺とセラフィは秘境でのレベル上げがメインだったな。逆にそれ以外には特に何かをした記憶が無い」
「そうじゃな。思い返せば戦ってばかりじゃった」
俺とセラフィの言葉を聞いてセシルとルーシェは呆れるような顔になった。
「ということはまた強くなったんだ……また差が開いちゃったよ。私も多少魔獣と戦ってレベル上げはしたけど、お母さんに呼ばれて対人の練習をしてる時間が長かったからなぁ。まあそれが無くても、秘境でレベル上げをしてた2人には追い付けそうも無いけどね……」
「確かにルーシェは頻繁に兵士の訓練場にいるのを見かけたな。それを知っている俺もお察しの通りでレベル上げはあんまり出来てないんだけどな」
つまりは俺とセラフィがステータスという意味で強くなったのならば、セシルとルーシェは技術において強くなったということだ。
最近になって思ったのだが、2人とこういったところで違いが出てくるのは、その力を使う目的が全く違うからだろう。
2人は将来的には獣人と主に戦うことを前提としている。つまりは対人戦闘だ。
獣人がどれ程人と同じなのかは、無責任なことに俺は知らないが、それでも人型である以上技術的な側面での戦闘力というのは大切になってくるのだろう。
俺やセラフィという例外を抜くと、基本的にステータスは大きすぎる差は生まれないように思う。そうなるとやはり、技術がものをいうのだろう。
俺は獣人との戦争に人間側として参加するつもりはない。だからといって獣人側に付くつもりも勿論ない。
俺の目的はあくまでも異世界を楽しむことであり、それを満足に行うようにするには人と戦う技術よりも、何が起こっても対応出来るくらいのステータスなのだ。
その違いが、小さな行動で現れているに過ぎない。
「そうだヨゾラ、まだ噂程度だが聞かせようと思ってた話があるんだ」
「なんだ?」
「今年の新入生の中に、英傑の称号を持っている奴がいるらしいぞ」
「本当か?」
「噂だから分からないけどな。でもな、それだけじゃない。噂で聞いたところ、数人いるらしいぞ」
「マジか……」
まだ確定ではないが、気になっていた英傑持ちというのを思っていたよりも早く見ることが出来そうだ。
今日の午後から新入生との顔合わせの食事会みたいなのがあるらしいので、そこで探してみるのもいいかもしれない。
余談だが、俺が先輩達との交流が無かったのは、編入生だというのが大きいだろう。本来ならば、その顔合わせというのである程度の関係を持つらしい。
「ヨゾラとセラフィは有名だから何もしなくても向こうから声を掛けてくるかもな」
「模擬戦を見てた人も少なからずいるはずだからね」
それはいいのだが、変なのにまで声を掛けられないか今から心配になってきた。
――――――――――
食事会は体育館のような場所で行われる。普段は全く使わないので正しい名称は覚えていなかった。
かなり広く作られており、新入生はまだ来ていないが、在校生のほぼ全員が集まっているというのにも関わらずまだまだ余裕がある。
学年は靴とネクタイの色が違うので間違えることは無い。
セシルとルーシェは先輩達と話をしているのでセラフィと2人で待っていると、新入生が続々と入ってきた。
この学校に年齢制限は無いが、殆どがセシルやルーシェと同じくらいの年齢の者達ばかりだった。
忘れがちになるが、俺も魔法で見た目は若くなったが実年齢は30近い。気持ち的には転生してきた時から変わっていないので、そこには目を瞑ってもらおう。
まあ、転生してきた時からセシル達よりも2つ程年上なのだがな。
新入生達に委縮した様子は無かった。若いとはいえ、18前後となればそれなりにしっかりしているものだ。ルーディスでは成人として認められているしそんなものだろう。
全員が入室したのが確認出来たようで、近くのグラスを持つように指示される。
静まり返ったのが確認されると、この学校の教師やら、何やら偉そうな人達が話しているが、地球の学生が校長や理事長の話を大して聞いていないのと同様に、周囲でまともに話を聞いている奴はいそうになかった。
もしかしたらフロディスも来ているのではないかと思っていたが、流石にそこまで暇ではないのか来ている様子は無かった。
長い話も終わり、ようやく食事会がスタートとなる。
セラフィは並べられた料理を堪能する気満々のようだったが、残念なことにそれは叶わなかった。
「ヨゾラ先輩ですよね! 私、あの時の模擬戦観てました!」
「セラフィさん、僕は伯爵家の次男です。どうぞお見知りおきを」
「ヨゾラさん、今度一緒に食事とかダメですか……?」
「セラフィ先輩! 俺と冒険者パーティーとかどうです?」
嵐に巻き込まれたと思うかの如く新入生が大量に押し寄せてきた。
俺の方には主に女子が、セラフィの方には男子が多くおり、モテモテというのも生易しい。
嬉しいという気持ちがあるが、どうしたもんかと困る気持ちの方が強かった。
セシルとルーシェに助けを求めようと思ったのだが、2人の方も同じような状況だったので助けは期待出来そうになかった。
セラフィは徐々に機嫌が悪くなってきているように見える。早くこの状況を抜け出したいところだった。
「ちょっといいかな? 僕達もヨゾラ先輩とセラフィ先輩と話がしたいんだけど」
「そんな寄ってたかって自分の都合で話をしていては迷惑ですよ」
どうしようかと思っていると、騒がしい声とは正反対の静かな声が聞こえてきた。
質の違う声色で割り込んで来たその声に、周りにいた新入生達が静かになる。
声が聞こえた方に目を向けると、そこには2人の男女が立っていた。その2人は俺とセラフィが気付いたことを確認すると、こちらに近づいてくる。
何処か雰囲気の違う2人により新入生の集団が道を譲っていく。
近くに来てみて気が付いたのだが、2人ではなく3人だったようで、声を出した2人の後ろに隠れるように着いてきているのが見えた。
明らかに食事会の雰囲気に委縮しているように見える。
ただ、そんな様子とは裏腹に、何か大きなものを秘めているように感じてしまった。
勿論俺にそんなものを感じ取れる能力は無いので気のせいかもしれないが。
「初めまして先輩方。僕の名前はロニです」
「私はフーシーといいます。よろしくお願いします」
ロニと名乗った男は茶髪に眠たげな眼をしたイケメンで、パット見の印象はチャラそうな男といった感じだ。実際に口調というか、声色が軽い感じだ。
それとは対照的にフーシーという女は、丁寧な口調で仕草も優雅といった感じだ。容姿も黒い髪のロングで綺麗な顔立ちをしているので、猶更お淑やかに見える。
「もう噂になっていると思いますが、僕達が英傑の称号を持っている新入生です」
ロニの言葉に周囲がざわつく。無理も無いだろう、本当に英傑の称号を持っている奴が入学してくるなんて信じていた方が少ないだろう。
そもそも英傑がここまで近くにいるというだけで騒ぎになってもおかしくなさそうだ。英傑とは言わば人間サイドの最終兵器みたいなものなのだから。
「噂は本当だったってことか……それで、そっちの子は? 英傑の称号を持ってるんじゃないのか?」
「あー、まあそんな感じです」
「? なんか引っかかる反応だな」
「ほらアノン、自己紹介しないと」
「そ、そうだよね。こういうのに慣れてなくて……」
ロニの反応が気になるが、話す気はないのか顔を逸らされた。
代わりという訳ではないが、それまでずっと黙っていたアノンと呼ばれた少女が恐る恐る前に出てくる。
茶髪のポニーテールで顔はとても可愛らしく整っているのだが、緊張しているのか強張ってしまっていて勿体ない。
身長も150程で小さいのに加えて若干俯いているのでさらに小さく見える。
「えっと、アノンです。よろしくお願いしますヨゾラ先輩、セラフィ先輩」
「あ、ああ。よろしく」
「よろしくの」
短い挨拶を終えるとまた下がってしまった。
下がる時に気が付いたのだが、仕草に優雅さを感じる。どこかの貴族だろうか? そんな気がした。
「それで、俺とセラフィに話しかけてきたのは、何かあるんだろ?」
「まあ分かりますよね~。単刀直入に言えば、僕らと模擬戦をしてほしいんですよ。セシル先輩とルーシェ先輩の時みたいに」
「不躾なのは承知なのですが、お願い出来ないでしょうか?」
「それは、構わないけど……英傑の称号を持ってるなら相手に困らないんじゃないか?」
「何か勘違いしてるかもしれないですけど、英傑クラスの実力を持ってる人なんて普通いないですからね? 英傑だって簡単には会えないんですよ」
「ヨゾラ先輩とセラフィ先輩程の実力を持っている人は貴重なのです。その機会を逃したくなくて……」
確かにそれもそうだ。
模擬戦の申し出自体は俺にとっても悪い話ではない。貴重な経験だ。
俺はセラフィに目配せをして確認すると、セラフィは問題ないようで頷く。
「分かった、やろうか。そっちは3人か?」
「アノンは参加しません。僕とフーシーでやります」
「日時は今週末でどうでしょう?」
「構わないよ」
「では場所は以前模擬戦をしていた闘技場で開始は正午にしましょう」
話はそこで終わりだったようで、3人は何処かへ去って行った。
突然の事だったが、その後は委縮してしまったのか新入生達が話しかけてくる頻度も減ったのでよかった。
アノンという子のことは気になるが、今は模擬戦に集中することにしよう。
自由な女神「遂に英傑が出てきたね! その2人と一緒にいるアノンって子はどういう立ち位置なんだろうね?」




