閑話:動き出す神
次回から新章!
クレーティオは何をする訳でもなく、自身の作り出した世界に置かれたベッドの上で寝転がっていた。
しかしその顔につまらなそうな表情は浮かんでおらず、むしろ何処か楽しそうであった。
「ふふっ」
久々に――本当に途方もない時間降りていなかった人が普通に生活している世界に降りたクレーティオだったが、少し前の自分では考えられない程楽しかったと感じた。
別にその行為自体が楽しかった訳ではないし、相変わらず他人は鬱陶しいと思ったが、ヨゾラという特別な想い入れのある相手がいただけで楽しめたのだ。
何故ヨゾラに対してここまで大きな感情をすぐに抱けたのかは、本当のところはクレーティオ自身にも分かってはいない。
ただ、その性格、容姿、話し方、仕草に細部にいたるところがクレーティオにとっては大きく惹かれるものがあった。
それ以外にも挙げればキリが無いのだが、結局のところ誰かを好きになるのに大きな理由は要らないのだろう。
そんなヨゾラと、まだ人間であった時のように触れ合えたのが嬉しかったし、楽しかったのだ。
人間であった時には、誰かとあんな風に過ごしたことは一度も無かった。
「次はいつ降りれるかなぁ……」
楽しかったことを思い出して、次のことも考えてしまう。
何だかんだクレーティオがルーディスに降りてからそれなりに時間が経っているのだが、神として途方もない時間を過ごしてきたクレーティオにとっては微々たる時間であり、そもそも普段は気にすることもないので、時間という概念すら曖昧だった。
ルーディスを生み出した神は既に死んでいるとはいえ、創造者の許可が出ていない世界に干渉するのは簡単なことではない。神に近しい称号を手に入れたヨゾラが望まない限りは生半可なことでは干渉出来ないのだ。
短い時間という限定的な干渉が出来たのは、偏にクレーティオの強い想いと、それに至るまでに費やした苦労の賜物だ。
「もっと僕に会いに来てくれてもいいのに……」
言葉に出してみたが、それが中々に難しいことはクレーティオが一番分かっている。
それはヨゾラが云々の話ではなく、クレーティオとヨゾラの敵の問題であった。
ヨゾラは地球を観察、弄り回していた数多の神が欲していた。それを無理やり横から奪ったクレーティオには今や多くの敵が存在する。
もしクレーティオが攻め入る神々に屈してしまえば、その皺寄せは一気にヨゾラに向く。
称号の獲得により、簡単に手出しが出来なくなったとはいえ、多くの神が干渉しようとすれば何が起こるか分からない。
未だにそういった干渉がなされていないのは、それだけクレーティオという存在が他の神々にとって無視できないものだという証明だ。干渉するのに力を使っている間にクレーティオに邪魔をされては抗う術もない。
まあ、クレーティオを先に排除しようとして多くの神が死んでいっているのも事実なのだが。
殺し合いという力において、クレーティオはそんじょそこらの神が束になっても問題無く勝てる程の力を有しているのだから。
そんなクレーティオだが、絶対に負けない訳ではない。
神の中でも最上位に君臨する者の中には、厳しい戦いになる相手が存在するのも確かだ。
「……チッ、本当に僕をイラつかせてくれるね!」
クレーティオが作り出した世界が崩れ去っていく。敵が多い為そこまで強固に作っている訳ではなかったが、簡単に突破されては面倒だと感じるだけだった。
世界が完全に崩れ去り、何も存在しないという表現が適切な、色すらまともに認識することの出来ない亜空間の中で、世界を崩した神が悠然と佇んでいる。
髪色が疎らに変わり続けており、顔付きは若い青年のようで神々しくも整っている。
その表情はクレーティオがイラついているというのにも関わらず余裕が見えた。つまりは、それだけの力があるということだ。
「もう使い捨ての神を送るのはやめたのかい? 僕とやり合うのが怖いなら大人しくしてればいいものを……」
「はっ! 相変わらず態度がデカい。我にそのような口を聞くのは貴様ぐらいなものだ」
「僕はお前達が大嫌いだからね。で、何の用?」
「聞くまでもなかろうに……大人しく皆月夜空の魂を渡せ」
「無理さ、ヨゾラ君の魂は既に僕の手を離れてるし、今のヨゾラ君の魂を強引に戻すことも出来ない。そもそも、出来たとしても渡すわけないじゃないか。身勝手なお前達にヨゾラ君が遊ばれるのを僕が許すと思ってるの?」
「まあ分かりきっていたことか。しかしまあ、我と敵対するとは……」
その神は呆れたように首を振り――
「どこまでも愚かなりクレーティオ!」
突如としてその存在感が膨れ上がった。
「人の身でありながらこの『アバンニーズ』に抗うことがどういうことか教えてやろう! 先程貴様は我が貴様と戦うことを恐れているというようなことを口にしたが、我に恐れるものはない! 確かに貴様は強い、神々の殆どが有象無象と呼べるくらいにはな。しかしそこに我が当てはまらないことを教えてやろう!」
神々の中でも最上位の存在――アバンニーズと向かい合い、クレーティオは殆ど出したことの無い神になってからの本気を出すことを覚悟する。
大きな口を叩いてはいるが、クレーティオはしっかりと理解している。本気を出してなお、この神に勝てるかどうか怪しいことに。
「決戦までに準備もあろう。それまでは傲慢な己を見つめ直すと良い」
そういってアバンニーズは去って行った。
クレーティオはそれを確認してから世界を作り直し、ベッドに深く沈み込む。
「……準備は、必要だね」
アバンニーズと戦う為の準備は勿論怠ることは無い。今口に出した準備の意味は、万が一クレーティオが敗れた場合の準備だ。
「ヨゾラ君にも会っておく必要があるね」
自身の為ではなく、ヨゾラを守るために会うのだ。
少し前とは全く違う意味でヨゾラと会いたくなりつつ、クレーティオは即座に準備を開始した。
自由な女神「本当に厄介な奴が動き出したね……ヨゾラ君の為にも頑張んないと!」




