合宿を終えて2
ルーシェが絞り出すように言った言葉に俺は苦笑いしてしまう。
対人戦はステータスで全てが決まるものではないというのは、俺以上にルーシェの方が知っているだろうが、だからこそそのルーシェからそう言われてしまうと、中々に否定し難いものがある。
「まあ、ステータスの高さは俺とセラフィの最大の武器と言って良いからな。もし俺達にこのステータスの高さが無ければ、ルーシェ達が模擬戦では圧勝してたと思うぞ?」
ここまでステータスに差があるのに、しっかりと戦いになっていたセシルとルーシェは十分に誇っていいと思う。
磨き上げた技術というのは、高いステータス程の武器になり得る。セシルとルーシェが身に着けた技術は、ステータスという意味での格上にも十分に対抗できる程のものだと、俺は嘘無く思っている。
そんな感じの意味を込めてフォローしたつもりなのだが、ルーシェの表情を見るに俺の言葉に納得はしなかったようだ。
俺とセラフィのステータスを見て、そこまで自分を過小評価しなくてもいいと思うのだが、どうしたもんかと考えていると、それまで黙っていたセシルが口を開く。
「そうは言うがなヨゾラ、模擬戦ではなく、単純に俺とルーシェを殺すという目的で戦ったら、欠片も勝負にならないんじゃないか?」
「殺すという目的か……」
どうだろうか? 俺は模擬戦の時にこの2人を殺そうという意識は欠片も無かったが、殺すことだけを考えていたのだったら、確かに結果は違ったように思わないこともない。
このステータスの差であれば、セラフィの魔法は勿論だが、俺の攻撃でも確かなものが入れば数撃でHPを削りきることは出来そうなものだ。
戦い方も、精霊魔法を全力で使ってこちらから攻めて、倒しきれなくともセラフィの魔法の準備さえ終われば済む話だ。
会場のことなども考えなければならなかったが、セラフィの使える魔法の中には広範囲の強力な魔法があるはずだ。最悪俺がセラフィを抱えながら逃げて、魔法の準備までの時間を稼いでもいい。
そう考えれば、周囲のことを気にせずに殺すことだけ考えれば、セシルの言っていることは一理あるだろう。
「まあそれについて考えてもしょうがないんじゃないか? 俺とセラフィがセシルとルーシェを殺そうとすることなんてないだろ」
「俺もそんなことがあるなんて思ってる訳じゃないけどさ、例え話だよ」
「私、ヨゾラ君とセラフィが殺しに来たらもう逃げるのも諦めるかも……」
「全く、ありもしないことを想像して怯えるでない……殺しに行くことはないが、何かあればそんな儂らが守ってやるでな、安心せい」
「セラフィ……まあ、今回も守ってもらっちゃったし、自分でももっと戦えるようにならないといけないよね」
「そうだな。俺も頑張んないとな」
秘境のような場所に行かなければ滅多にあんな事態にはならないとは思うが、忘れがちになるが現在人と獣人は戦争をしている。セシルとルーシェは卒業すれば帝国の騎士――それもそれなりの立場まで出世しそうなので、力はいくらあっても足らないのだろう。
「それにしても本当にとんでもない数値だよねー。確かセシル君って英傑の称号を持ってる人と会ってステータスを見せてもらったことがあるんだよね? そんな人と比べるとどうなの?」
「流石に彼女の方が高かったな。レベルも比べるまでもなく高かった。まあ英傑の称号を持っている以上戦いの場数が違い過ぎるから当然といえば当然だが……それでもヨゾラもレベルと比較すればそれ以上のポテンシャルがありそうだし、セラフィの魔法に関するものに関しては凌駕してる」
「つまりヨゾラ君とセラフィは、英傑の称号も無く英傑クラスってことだね」
「そういうことだ」
さり気なく話しているが、セシルは英傑の称号を持つ人と会ったことがあるのか……
口振りからして女性のようだが、一体どんな人物なのだろうか? 今度詳しく聞いてみることにしよう。
「でも秘境で最後に戦った時のヨゾラ君とセラフィは服が変わったと思ったらさらに強くなったよね? どういう原理かは分からなかったけど、あれなら英傑を持ってる人とも並ぶんじゃない?」
「どうだろう? 彼女にはステータスを見せてもらっただけで戦っているところを見た訳じゃないから比べようが無いな……ヨゾラとセラフィが強くなった理由が分からないのなら猶更だ。ヨゾラとセラフィ、あのことは説明してくれるか?」
「いいぞ。セラフィもいいよな?」
「うむ、ヨゾラがよいなら構わぬ」
今回は聞かれれば隠さずに話すと決めていたので迷うことは無い。
「あの時は魔道具を使ったんだ。これなんだけど……」
俺は首から下げて服の中に入れていたペンダントを取り出して外す。セラフィも同様に首からペンダントを外してテーブルの上に置いた。
「初めて見る魔道具だな。ルーシェは知ってるか?」
「ううん、私も初めて見た」
「最初に言っとくと、これは俺とセラフィ専用に作られた魔道具だから他には無いぞ。効果はサーチで見れるから」
俺の言葉でセシルとルーシェはペンダントにサーチを発動させる。
「またとんでもない物を……」
「ははー、もう驚き疲れたよ……」
効果を見た2人は呆れるように苦笑いをしている。
「考えるまでもなく国宝級の魔道具だな。専用の魔道具だから他の人が手にしても意味無いのは分かるが、多分それでも欲しがる人はいるだろうな」
「ちなみにセシル君が会った英傑を持つ人と、この魔道具を使ったヨゾラ君、セラフィだったらどっちの方がステータスが高いの」
「言い忘れていたが、俺が彼女と会ったのはもう3年前の話だ。今はもっと強くなってるのは間違いないだろうが、3年前の彼女と比べるならヨゾラの方が強いな。セラフィは尖り過ぎてるから比べるのは難しいが、確実に言うなら魔法に関してはセラフィ以上の人はこの世に存在しないだろうな」
模擬戦の時に周りの反応で薄々感じてはいたが、魔法において個人でセラフィを上回るような人間は存在しなさそうだ。
戦装を纏っていない状態ならばセシルももしかしたらと思ってそうは言わなかったのだろうが、ただでさえもしかしたらというレベルから、さらに2倍になるのならば言い切ってしまえるだけのものになるということだ。
俺に関しても言い切ったのは、全てのステータスにおいて上回っているか、ステータスのみで戦いを想定した時に俺に軍配が上がるからだろう。
英傑さんの情報が3年前のものなので、今勝っているとは考えられないが、それでも成長の幅で言えば戦装を含めると俺の方が圧倒的に高いので、何処かで追い付けると前向きに考えよう。
「効果は勿論凄いが、いや効果が凄いからこそだが、作った人はとんでもないな。どんな人なんだ?」
「そうだなぁ……とても良い人達なのは間違いないな」
「うむ、儂は共にいた時間は短いが、良い人間なのだということは理解出来る者達じゃった」
「2人がそこまで言うなら私も会ってみたいなぁ」
「ごめんなルーシェ、会うのは無理なんだ。事情があってな……」
「そっかー、クレーティオさんもいつでも会うのは難しそうだったし、我儘言っても仕方ないね」
これに関しては申し訳ないとは思うのだが、詳しく説明するわけにはいかない。
ステータスや今回のことに関しては正直に話すつもりだが、ソフィアとルピのことを話すとなると、俺とセラフィが五百年前からやってきたことも必然的に話すことになってしまう。
そこまでのことを話す勇気は俺には無い。
その代わりと言っては何だが、俺は聞かれる前にステータスに関する他のことを話していくことにした。
精霊のことから魔法や称号のこと。流石にセラフィが精霊だということは伏せることになるが。
セラフィのことを話してしまうと、獣人の出所が俺だと勘付かれたり、要らぬ疑惑を生むことになりそうだからだ。
セシルとルーシェが敵対するとは思えないが、念のためだ。
説明はセラフィが要所で相槌を打ってくれるので説明は簡単だった。
基本ポンコツ気味だが、何だかんだ言ってもセラフィは頭が良いので、こういうところは助かるのだ。
「何じゃ、とても失礼なことを言われた気がしたが気のせいかの?」
頭の中で考えていることまで感じ取らないでほしい。以心伝心のようで本来は喜びそうな所だが、素直に喜ぶことが出来ないのは変なことを感じ取られたからだろう。
全ての説明が終わる頃には日が完全に沈み切ろうとしているような時間になっていた。
かなり長居してしまったが、このまま夕食も食べていこうということになった。
話に夢中になり過ぎてすっかり酔いも冷めていたので、難しい話は終わりにして、改めて打ち上げにしようと酒を飲みながら明るい話をする。
まだまだ先のことなのにも関わらず、次の合宿の話をしたりと、完全に脊髄での会話になっていたが、合宿中は楽しいことを考えている余裕は殆ど無かったので別に構わないだろう。
途中でセラフィとルーシェ目的でナンパしてきたガラの悪い男達もいたが、俺はまだしも合宿で強くなったセシルで難なく撃退する。
軽く椅子などが壊れたが、それはナンパしてきた奴らに請求しといてもらった。
結局散々に酔っぱらいながら帰ることになったのだが、俺達以外にも遅れて打ち上げをしていた班は意外と多かったらしく、寮が近づいていくにつれて酔っぱらった学生が増えてきたので特に目立つことも無く帰ってきた。
明日は休みで、その後は普段通りの学校生活に戻るので、特別な気分も今の内だろう。
皆と別れて、アルコールが回り眠くなった俺は沈むようにベッドに倒れ込んで、数分と経たずに意識が無くなる。
何はともあれ、無事に合宿を終えることが出来て良かった。
自由な女神「これで合宿は完全に終わりだね。次はどんなことが待ってるんだろう?」




