合宿2
セシルとルーシェの様子から二日目に引きずるかと思ったが、起きてきた二人の顔には落ち込んだ様子は無く、今日はしっかりやるぞというやる気が見えた。
この様子なら大丈夫そうなので、特に何かを言ったりはしないで、今日はどうするかを決めてから樹海の秘境に入っていく。
昨日とは違い日が昇っているのだが、木々がその光を殆ど遮ってしまっているので夜程ではないが、周囲は薄暗かった。
それでも戦闘に関してはそこまで問題にはならなそうなので、セラフィに明かりは頼まずに戦闘に参加してもらうことにした。
秘境に入って十分程が経ち、早速第一波が来た。
様々な魔獣が倒しては現れと繰り返していき、一時間程で波が収まる。
セシルとルーシェは昨日の反省も活かし自分に出来ることを把握しながら無理をしないように戦っていた。
セラフィが戦闘に加わっているということもあり、昨日に比べて楽なのもあるが、それでも昨日とは動きの精度が比べるまでも無く上がっている。
すぐに適応してくるセンスは流石と言えるだろう。
休憩を挟みつつ、殆どの時間を戦闘に費やして二日目を終えた。
最後の方はレベルが上がってきたこともあり、本格的に楽になってきた。
初日はどうなることかと思ったが、これならば中腹に足を踏み入れることも出来そうだ。
そうなると明日からはいよいよ気が抜けなくなる。
万が一に備えていつでも戦装を纏えるように意識付けながら眠りについた。
三日目となり、俺達は秘境の中腹に向けて歩いていた。
移動の最中も魔獣は襲ってくるので、移動速度自体はとても遅い。一セット終わって少し休憩を挟みと繰り返しているので、秘境の中腹に辿り着いたのは朝早くに出発したのにも関わらず昼を過ぎていた。
秘境に着いた俺達は、まず頑丈な拠点を作るところから始めることとなる。
毎日秘境の入り口から中腹に移動してと繰り返してはあまりにも効率が悪いからだ。
拠点を作ると言ってもそこまで時間が掛かる訳ではない。
魔法を上手く使っていけば、あっという間に出来上がってしまうのだ。
十分程で拠点を作った俺達は、装備の確認などを改めて済ませて、中腹での狩りに向かった。
「セシル、ルーシェ、前に出過ぎるなよ」
「分かってるさ」
「無理はしないから大丈夫だよ」
多少の緊張はしてるみたいだが、身体自体は解れているようなので問題なさそうだ。
周囲に注意を向けたまましばらく待っていると、正面から魔獣が飛び出してきた。
果ての秘境にはいなかった魔獣なので名前は分からないが、巨大な花のようなものに蔦で出来た足のようなものが付いている。
只々気持ち悪かった。
手始めに俺は火属性の魔法を放ってみるが、流石に秘境の魔獣とだけあって俺の階級が低い火属性の魔法は大したダメージにはなっていなさそうだった。
次に俺とセシルとルーシェで斬りかかるが、蔦のようなものを巧みに使ってきて中々に有効打を与えさせてくれない。
蔦自体もそこそこ硬く、それなりに力を込めないと斬れないので数を上手く減らすことが出来ないでいた。
俺が精霊魔法を使った状態であれば普通に倒せるだろうが、ここまで戦ったのなら今更使うことも無いだろう。
あまり連発は出来ないので、温存はしておきたいというのもあるが。
「準備完了じゃ」
後ろで魔法の準備をしていたセラフィから声が掛かり、俺達は一斉に射線上から離れる。
俺達が離れたことを確認してからセラフィはフォトンブラストを放った。
「何回見ても凄いねこれ」
セラフィが放ったフォトンブラストは花っぽい魔獣を飲み込み、そのまま後ろにあった木々も薙ぎ倒して直線状に開けた空間を生み出した。
前に比べて目に見えて威力が上がっている。魔法に関してセラフィの伸びしろの高さが窺える。
フォトンブラストに飲み込まれた魔獣は足のようになっていた蔦を残して消し飛んでいた。
ステータスを見るとレベルが思ったよりも上がっていたので、射線上に数匹の魔獣がいたのだろう。
地上の魔獣が多少消えたことにより、次の魔獣は空からとなった。
「来るぞ、上だ!」
もう飽きる程見たグランバードの群れをお出迎えすることとなる。
グランバードは魔法の類を一切使ってこないので、攻撃してくるタイミングさえ見誤らなければ問題無く倒すことが出来る。
まだまだ弱かった頃の俺ですら勝てたくらいだ。
違う点と言えば数だが、セシルとルーシェなら対応しきるだろう。
空中から高速で襲い掛かってくるグランバードの攻撃を躱しカウンターを叩き込む。
当たり所によって落ちてくるやつと落ちてこないやつがいるので、落ちてきて瀕死になったグランバードの処理はセラフィに任せて、前衛の俺達は作業的にそれを繰り返した。
無数にいたグランバードは十分もしない内に全滅することとなった。
グランバードとの戦闘が終わる頃には地上の魔獣が続々と集まり出してくる。
かなりの数がいそうなので、ここからは精霊魔法をふんだんに使っていく必要がありそうだ。
秘境の入り口付近に比べて出てくる魔獣の強さも数もペースも桁違いだ。
途中からセシルとルーシェに疲労が見え始めたので、俺が少しだけ前に出ることで戦況を保つ。
結局二時間に及ぶ戦闘を終える頃には全員がへとへとになっていた。
今日は終わりにすることにして、来た時に作った拠点へと帰ってくる。
「ごめんねヨゾラ君、また足引っ張っちゃった」
「すまんヨゾラ」
「気にするなって。初日に比べたらかなり動けるようになってるし、今日でレベルもそれなりに上がっただろうから、明日は今日よりも戦えるだろうしな」
合宿が始まってから俺のレベルは二十程上がっている。それを考えればセシルとルーシェは三十、もしくは四十上がっていてもおかしくはない。
セラフィに関しては五十上がっていてもおかしくはないくらいだ。
それだけレベルが上がってくれば、後は上がったステータスを上手く使いこなせるようになればさらに戦えるようになってくる。
今日ほどの戦闘を繰り返していれば、身体が勝手に覚えてくれるだろう。
セシルとルーシェは気にしているようだが、初めてくる秘境の中腹であれだけやれれば十分だ。
「まあ合宿ってことで来てるし、あんまり気負わなくてもいいんじゃないか? 危なくなったら最悪どうにか出来るから」
今のレベルで戦装を纏えば秘境の奥でも多少は戦えるはずだ。流石に中腹で秘境の奥に出てくるような魔獣は現れないだろうが、もしかしたらセシルとルーシェでは対応出来ないようなのが出てくる可能性はある。
実際、俺は果ての秘境でドラゴンと戦っている。あれこそ秘境の奥に生息するような魔獣で、セシルとルーシェでは何をしても勝てないだろう。
そのレベルの魔獣が出てきた時は迷わずに戦装を使うことにしよう。
戦装のことを知らないセシルとルーシェ、それからサリーは俺の言葉に首を傾げているが、今は余計なことは言わないでおこう。
俺達は食事を終えて、身体を綺麗にしてから眠りにつく。
秘境という場所にいる以上寝ていてもすぐに起きれるようにしておいた方がいいのだが、セシルとルーシェは疲れから深く眠りについている。
俺はある程度慣れてはいるのでセシルとルーシェの分まで周囲への警戒を怠らないように意識しながら眠りについた。
四日目以降は、俺の予想通りセシルもルーシェも問題無く戦えていた。
秘境に来たばかりの頃こそ慣れない戦闘に苦戦していたが、レベルの上昇や慣れで徐々に自信もついてきたようで、戦闘中も自ら判断して動くことが多くなり、俺が指示を出す回数も減ったので負担はかなり軽減されていた。
一日で倒せる魔獣の数も増えレベル上げの効率も良くなった。俺とセラフィにとっても嬉しいことだ。
最終日になり、いよいよ秘境の最奥に挑む。その前に俺達は自身のステータスを確認しておくことにした。
【ヨゾラ】
レベル220 HP2784 MP4135 攻撃1687 防御1508 特功3470 特防1236 素早さ1792
精霊:理級精霊
魔法:平級火属性 平級土属性 王級光属性 平級闇属性 豪級闇属性 神級闇属性 理級精霊魔法
称号:ヨゾラの作者 理を歩む者
【セラフィ】
レベル152 HP870 MP47854 攻撃236 防御421 特功22169 特防5754 素早さ762
精霊:無し
魔法:平級光属性 豪級光属性 王級光属性 聖級光属性 神級光属性 平級闇属性 豪級闇属性 王級闇属性 聖級闇属性 神級闇属性 理級精霊魔法
称号:理を操る者
俺はほぼ全盛期のステータスに近いものとなっている。セラフィに関してはやはり魔法に関してのステータスの伸びが異常で、レベルも元が低かっただけにとても上がっている。
セシルとルーシェとサリーも自身のステータスを見て驚いた表情をしつつもどこか嬉しそうだった。
「喜んでいるところ悪いが、いくら強くなったとはいえ今日は一切気を抜けないからな」
「分かってるさ。この六日間で散々秘境という場所を分からされたんだ、油断なんか出来る訳がないさ」
「そうだね……これだけ強くなっても秘境の奥では倒せない魔獣も沢山いるんでしょ? そう考えると恐ろしいね」
セシルとルーシェに釘をさしておくが、いらぬ心配だったようだ。
「それじゃあ行こうか。危なくなったら即撤退、これだけは覚えておいてくれ」
俺の言葉に全員が頷き、俺達は秘境の奥に向けて歩き始める。
秘境の中腹は奥に進むほど魔獣の出現率が減っていく。魔獣達も秘境の奥に生息する魔獣には勝てないと理解しているので近づかないのだ。
秘境の奥に近づくにつれて周囲の音も消えていく――はずなのだが、もう少しで秘境の奥に足を踏み入れるというところに来て、遠くから戦闘音のようなものが聞こえてきた。
最初は魔獣同士で戦っているのかと思ったが、金属音も聞こえてくる。明らかに人が魔獣と戦っている音だった。
近づくにつれて戦っている奴のものであろう声も聞こえてくる。
その声には聞き覚えがあった。
俺達は急いでその場に向かう。そこではロウとその班員達が血を流しながら戦っていた。
相手は俺が果ての秘境で戦ったのと同じ種類のドラゴンが二匹、さらには首が三つある犬――物語の中に出てくるようなケルベロスだった。
明らかに中腹に出てくるような魔獣ではなく、秘境の奥に生息する魔獣だ。
「どうしてロウ君達がここに……それに教師の姿も見えません」
サリーがそこにいる魔獣に戦慄しつつも呟いている。
いずれにせよこのままでは全滅することは目に見えている。俺とセラフィが介入するしかなかった。
「セラフィ、どっちの魔獣の方が強いと思う?」
「恐らくあの犬のような魔獣じゃろう。ドラゴンからは犬への警戒が伝わってくるが、犬の方はいつでも食い殺してやろうという様子が見える」
「そうか……ドラゴン二匹、いけるか?」
「任せよ、既に倒したことのある相手じゃ。ヨゾラこそ、不覚を取るでないぞ」
「ああ、分かってるさ」
俺とセラフィは首から下げたペンダントを握る。
こんな形で使う予定は無かったが、死者を出さない為にも戦装を使うことを決めた。
自由な女神「セシル君もルーシェちゃんも順調に強くなってるみたいで安心だね。それにしても何でヨゾラ君に喧嘩を売ったクソ貴族がこんなところにいるんだろうね?」




