残された魔道具
一通り野外合宿のことを冒険者ギルドで話し合ってから、俺達は寮に戻ってきた。
セシルとルーシェと別れて、俺はセラフィを連れて寮の部屋に帰る。
セラフィを連れてきたのは、冒険者ギルドでソティーから受け取った物の中身を確認するためだ。
部屋に戻って、受け取った箱と紙を取り出す。
どちらから見ようか迷ったが、まずは紙の方から目を通すことにした。
封筒から紙を取り出して、内容を見る。
「これは……」
「ほぅ……なんとも律儀なことじゃな」
紙の内容は、端的に言えば家系図だった。
五百年という歳月の中で、ソフィアの血筋の人間がどういう風に継がれてきたか、それが記されている。
ソフィアが死んだ後も、受け継がれてきたものだった。
「あやつは、子孫を残さなかったのか……」
「そうみたいだな」
ソフィアの名前の下には誰もいない。つまりソフィアは生涯を結婚しないで終わらせたということだ。
下に伸びているのはソフィアの妹が残した血だ。そこから脈々と受け継がれていき、ソティーに辿り着いている。
何故こんなものを俺に渡したのかは分からないが、きっとソフィアなりの考えがあって意志を継がせてきたのだろう。
「あのソティーという受付嬢には、儂らが何らかの方法で五百年という時間を越えた、もしくは生き延びたということを知られたようじゃな」
「そうだな」
「どうするんじゃ?」
「どうもしないさ。ソフィアと同じ血筋なら、きっと黙っていてくれるだろう。広まったらその時はその時さ」
そもそもそんな話を誰が信じるというのか。万が一周囲が信じた場合はどうなるか分からないが、その時は出来ることをするまでだ。
「それじゃあこっちも開けてみるか」
一体何が入っているかも見当が付かない箱を開けてみることにする。
ソフィアが俺に残した何かだろう。危険な物ではないことだけは分かる。
箱を開けると、中には綺麗な赤い宝石らしきものが付いたペンダントと青い宝石らしきものが付いたペンダントの二つと手紙のような紙が出てくる。
ただのアクセサリーではなく魔道具だろう。
どういう魔道具かは見当が付かない。一先ず手紙の方から先に目を通すことにした。
『これを読んでいるのがヨゾラさんかセラフィさんだと願っています。
まずはお久しぶりですねヨゾラさん。出来ることならば生きている内にもう一度会いたかったですが、それは叶いそうにないので手紙として残すことにします。
中に一緒に入っていた魔道具ですが、どういう物か分からないでしょう? それは私とルピが完成させたヨゾラさんとセラフィさん専用の魔道具です。最高の出来になりましたのでお受け取りください。
左がヨゾラさんので、右がセラフィさんのです。
使い方は首から掛けた後にペンダントに魔力――MPを流してください』
俺とセラフィは書いてある通りにペンダントを首に掛ける。青い方が俺で赤い方がセラフィだ。
首に掛けた後、魔力をペンダントに流すように意識してみる。すると、ペンダントが輝きだして、次の瞬間、俺とセラフィの服装が変わった。
「これは……」
俺は群青色を基調としたロングコートのような服を着ており、セラフィは薄いピンク色の綺麗な羽衣のような服だ。
威厳すら感じさせるその服は、纏った時から力を湧き上がらせているような感覚があった。
この服自体も魔道具となっているみたいで、しかもステータスか何かを上昇させる効果がありそうだった。
どのような効果があるのか気になり、サーチを使ってみることにした。
【ヨゾラの戦装】
ヨゾラのみが纏うことを許された戦装。魔力の吸収効率が良くなりMPの回復を促進させる。潜在能力を引き出し、纏っている間ステータスを2倍にする。
【セラフィの戦装】
セラフィのみが纏うことを許された戦装。魔力の吸収効率が良くなりMPの回復を促進させる。潜在能力を引き出し、纏っている間ステータスを2倍にする。
凄い魔道具なのだろうとは思っていたが、その効果は俺の想像を遥かに超えていた。
以前フリザーブから聞いた英傑という称号ですら、ステータスの伸びを1.5倍にするというものだった。
長い目で見ればステータスの伸びを1.5倍にするというのは破格だ。しかしそれは一般的に見たらの話であり、そもそものスペックが高い俺とセラフィからすれば、この魔道具は英傑の称号以上の効果を齎してくれる。
これだけの魔道具を生み出せたソフィアとルピを素直に凄いと思うのと同時に、こんな物を俺とセラフィの為に生み出してくれたことが嬉しくてしょうがなかった。
俺自身はどうか分からないが、セラフィにはとてもよく似合っており、デザインから力が入っているのが分かる。
しかも、ロングコートと羽衣という形なのにも関わらず、少し身体を動かしてみても動きにくいということが一切無かった。
『驚いていただけましたか? ちなみに解除したい時は頭の中で解除と唱えれば大丈夫です。
これを完成させた時に、魔道具に人生を捧げていたルピが魔道具をそれ以上作るのを辞めてしまった程ですから現存する魔道具の中では確実に最高の物だと思います。
そのルピですが、私よりも先に逝ってしまったので手紙を残すことは出来ませんでした。
なので私の口からルピの最後の言葉を伝えたいと思います。
「君達は確実に歴史に名を残す。その手助けを出来たのならば幸いだよ。私は空から君達の活躍を見守っている。恐れずに、己の道を進むといい」これがルピの最後の言葉です。
ルピは他者との関わりがとても淡白な人です。そのルピがヨゾラさんとセラフィさんに期待し、何かを残そうと思うというということは、やはり貴方達はそれだけの人達だということですね。私の目に狂いが無くて安心しました』
この辺りの文字は滲んでいた。
きっとソフィアは、何かを想い涙を流していたのだろう。
気が付けば、俺の瞳からも涙が流れていた。
そんな俺の隣に寄り添うようにセラフィは身体を寄せてくる。
『ヨゾラさん、セラフィさん。私も期待しています。どうか、いつまでも貴方達らしくあれるように。
そしてどうか、貴方達の旅が終わった時に私とルピという女がいたことを覚えていてください。
いつも、いつまでも応援しています。
愛していますヨゾラさん。どうかお元気で! ソフィアより――』
そこで手紙は終わっていた。
俺は手紙を手にしたまま涙を止めることが出来なかった。
気が付けばセラフィも小さく涙を流している。交わした言葉は少なかったが、それでも想いは伝わってきたのだろう。
俺は自分の、そしてセラフィの纏っている戦装を見る。
そこにはとても大きな想いと期待が詰まっている。俺達の為だけに詰め込んでくれたのだ。
これを生み出すためにどれだけの時間を使ったのだろうか……どれだけの苦労をしたのだろうか……今の俺達に返せるものは何も無いというのに……
「セラフィ、俺達はどうすればいいんだろう……」
「ソフィアとルピの期待に応えてやるのが、一番じゃろうな。儂らはどこまでも儂らの道を進み、いつかその話を聞かせてやるとしよう」
「そうだな……」
俺の道――俺の物語は異世界を精一杯楽しむこと。
結局根底はルーディスに転生してきた時から変わらない。
「学校を卒業したら本格的に獣人との戦争を解決する方向に動く。焦ったりはしない。順序良くだ」
「うむ、どこまでも付いて行こう」
ソフィアとルピのお陰で大きな力が手に入った。
レベル上げを中心に生活していけば、戦争に介入できるようにもなるだろう。
だが、それは違う。まずは学校生活を楽しむのも、俺の物語だ。
「泣くのはここまでだな!」
「そうじゃな。いつまでも情けない顔は見せられん!」
俺とセラフィは涙を拭って立ち上がった。
何かをしに行く訳ではない。まずは雰囲気を明るい方向へ持っていく。
改めて羽衣姿のセラフィを見るが、本当に良く似合っている。
見た目が完璧なセラフィと羽衣の組み合わせは抜群だった。
「良く似合ってるよ」
「ヨゾラもな。どこか威厳を感じさせるのう」
どうやら俺も似合っていたようで安心した。
見た目だけではなく、この戦装の力を存分に活かせられるように頑張るとしよう。
「そうだ、折角だしステータスを確認しておくか!」
【ヨゾラ】
レベル148 HP3367 MP5086 攻撃1912 防御1873 特功4247 特防1680 素早さ2209
精霊:理級精霊
魔法:平級火属性 平級土属性 王級光属性 平級闇属性 豪級闇属性 神級闇属性 理級精霊魔法
称号:ヨゾラの作者 理を歩む者
【セラフィ】
レベル40 HP567 MP24907 攻撃185 防御302 特功11572 特防2570 素早さ555
精霊:無し
魔法:平級光属性 豪級光属性 王級光属性 聖級光属性 神級光属性 平級闇属性 豪級闇属性 王級闇属性 聖級闇属性 神級闇属性 理級精霊魔法
称号:理を操る者
戦装装備時の俺とセラフィのステータスは、一番強かった頃のものよりも高くなっていた。
これならば、野外合宿で行く秘境で想定していない強さの魔獣が出てきても、何とかなるかもしれない。
基本的には余程のことがない限りは、周囲に誰かがいる状態では使わないようにするが、備えがあるにこしたことはないだろう。
戦装を解除すると、元々着ていた服に戻った。
魔力を込めて見た目が変わるというのは、どこか擽られるカッコよさがあった。
「ありがとうソフィア、ルピ。大切にするよ」
「大事に使わせてもらう。おぬしらのことは決して忘れん」
俺とセラフィはペンダントを握って窓の外の空に向けてお礼を言った。
一筋流れた流れ星はソフィアとルピが返事をしてくれたように感じられた。
自由な女神「ううっ……泣かせてくれるねぇ。ここまでヨゾラ君のことを想ってくれていたなんて」




