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この異世界は物足りない  作者: VRクロエ
異世界学校編
36/137

タッグ戦

 審判だった男が運ばれていき、ようやく場が落ち着きを取り戻しつつあった。

 それも、デコピンによって審判の男が負けた際に、セシルの父親であるザルバがクレーティオに審判を任せると即座に宣言したのが大きいだろう。

 誰もクレーティオの名前を知らなかったが、クレーティオの機嫌が直ったようでノリノリで名乗ったことにより、観客にも周知され、その容姿と共に人気も出てきたことにより、クレーティオコールすら巻き起こった程だ。


 そんなゴタゴタの中心にいた俺、それからセラフィと模擬戦の相手であるセシルとルーシェは、この状況でどうしたらいいのか困惑していた。


「頼むクレーティオ、友達が困ってるから何とかしてくれ」


 そう頼むと、仕方がないなぁという感じでクレーティオは一旦俺達全員を中央に集めて軽い自己紹介をすることになった。


「僕はクレーティオ! よろしく!」

「……」

「……」

「……」

「……それだけか?」


 思っていた以上に軽い自己紹介に、続きがあるのではないかと全員黙っていたが、本当にこれで終わりそうなので、突っ込んでおいた。


「でも他に言うことあるかなぁ? あ、ヨゾラ君とは表しきれない程深い関係だよ! もし今後ヨゾラ君と敵対するようなことがあったら殺すからね。気を付けてね」

「物騒だな! 殺すな! 頼むから仲良く――は無理でも危害は加えないでくれ!」


 クレーティオならば本気でやりそうで怖い。

 見た目からはとても想像出来ないが、クレーティオは自身の気に食わないことがあれば全てを薙ぎ倒して行きそうな、そんな予感は前々から感じていた。

 神になった理由がそうであったように、クレーティオは自由でいることをモットーにしている。クレーティオ自身の、そして多分俺自身の自由が奪われることがあれば容赦しないだろう。


「えっと、クレーティオさん? 俺の父親には何かをしたりは……?」

「ん? まあ今回は何もしないよ。ヨゾラ君が本気で怒りそうだしね。僕、ヨゾラ君にだけは嫌われたくはないんだ」

「そうですか……」


 一先ず父親に大事がないようでセシルはホッとしている。

 ルーシェは何を言っていいか分からないので黙っていることにしたようだ。


「まあ、君達のことはヨゾラ君が友達だと思っているようだし、僕も悪いようにはしないよ」

「――ちょっと待つのじゃ」


 そこでセラフィが口を挟んだ。


「儂はヨゾラの友達ではなく、相方じゃ」

「えっと、君は?」

「セラフィじゃ。儂はヨゾラとは誰よりも長い付き合いがあるつもりじゃが、おぬしのことは知らん。一体どういう関係なのか、どこで知り合ったのか、しっかりと説明してもらおう」

「へー、相方ねぇ……」


 クレーティオは目を細めてセラフィのことを見る。

 明らかに友好的な雰囲気ではない。クレーティオもそうだが、セラフィも何処か挑発的な雰囲気があった。


「君達は向こうでいつでも始められる準備をしておいて」


 クレーティオは自然にセシルとルーシェを遠ざける。2人共、何かを察したのか、何も言わずに離れて行って模擬戦の準備を始めた。


「セラフィだっけ? 君、人間じゃないね」

「っ!? 何故分かった……」

「ヨゾラ君は最後に会った時に言ってた、擬人化の魔法を作るってね。大方君はヨゾラ君によって初めて擬人化された生物なんだろうね。精霊ってことは、ヨゾラ君と契約していた子か。精霊については僕も詳しくは知らないけど」

「全て、お見通しということか……」


 神であるクレーティオにはその辺の隠し事は出来ないようだ。

 全てを見透かされたセラフィは、苦い表情をしている。

 だが、俺は別にクレーティオに知られたところでどうとも思っていない。


「セラフィ、そんなにクレーティオを睨まなくてもいいんじゃないか?」

「しかしなヨゾラ……」

「クレーティオもやめてくれ」

「……ふふっ」


 俺が止めに入ると、クレーティオは先程の冷めた表情が嘘だったかのように笑い出した。


「ごめんね、別に取って食ったりしないよ。少し試してみただけ」

「そんなことだと思ったよ……」

「どういうことじゃ?」

「僕としてはヨゾラ君が信頼してて、セラフィちゃんもヨゾラ君のことを信頼してるならそれでいいんだ。僕は今日君のことを初めて知ったからね。ヨゾラ君を何かに利用しようとしてるんじゃないかって、考えちゃうんだよ。ヨゾラ君にはそれだけの価値があるからね」


 俺の肉体を際限なく高い可能性まで作り変えたのはクレーティオだ。勿論、それが他人にとってどれだけの価値があるのかも十分に理解している。だからこそ、相方という言葉が心からのものか、確かめたのだ。


「まあ少し悔しくもあるけどね。ヨゾラ君にとっての特別は僕でありたかったから」


 クレーティオは少し寂しそうに言った。

 こいつがどうして俺をそこまで特別扱いしているのかは、未だによくわからない。

 自由であることを望む神が俺に固執する理由が……


 でも、俺は知らなくてもいいかなとも思っている。理由はなんにせよクレーティオが特別扱いしてくれることは嬉しいし、何よりもクレーティオと話している時間が俺は好きだった。


 俺は少し寂しそうな表情をしているクレーティオの頭を軽く撫でてやる。


「セラフィは確かに俺にとって特別な存在だけどな、クレーティオも俺にとっては同じくらい特別な存在だよ」


 神として俺の想像もつかない程の年月を生きているはずなのだが、クレーティオはたまに幼いように感じる時がある。


 何というか不安定な感じだった。


 少し撫でているとクレーティオは嬉しそうに小さく笑う。


「ありがとヨゾラ君……まあ、そんな訳でセラフィちゃん、これからもヨゾラ君をよろしくね」

「う、うむ。任された」

「よし! それじゃあそろそろ模擬戦を始めようか!」


 元気を取り戻したセラフィは踊るように闘技場の中央に向かっていった。


「それじゃあ模擬戦を始めるよ! お互いに、準備はいいかな?」


 セシルとルーシェの準備は大丈夫そうだ。クレーティオによって出鼻を挫かれた感はあるが、2人共しっかりと模擬戦に気持ちを切り替えている。


「あ、そうだ。結界指輪が――」


 クレーティオを庇った際に俺の結界指輪は壊れてしまっている。

 どうすればいいかと聞こうかと思ったら、クレーティオが俺に可愛らしくウインクしてくる。心配しなくても大丈夫ということらしい。

 まあ神であるクレーティオが言うなら大丈夫なのだろう。


「セラフィ、いけるか?」

「大丈夫じゃ。クレーティオが敵ではないと分かった以上、他に気にすることなどないのでな。模擬戦に集中することとしよう」


 セラフィも既に気持ちの切り替えは完了している。

 相方の頼もしい様子に安心して、俺は剣を抜き、構える。


 闘技場は再び戦いが始まる前の緊張した雰囲気に包まれる。


「それじゃあ――始め!!!」


 掛け声と共に俺、セシル、ルーシェが真っ直ぐに突っ込んだ。

 丁度闘技場の中央辺りで衝突することになる。


「セラフィ!」

「分かっておる!」


 近距離戦闘が始まる瞬間に、自身の身体が軽くなったように感じた。

 理級の精霊魔法によって、俺のステータスでできる動きが自動的に出来るようになったのだ。体感的にはステータスが上がった感じがするが、それは間違いで、単純に効率が良くなっただけ。


 まず仕掛けてくるのはルーシェだ。速度がメインのルーシェは素早さにおいてセシルよりも高いように思う。


「セラフィは厄介だからね。そこを通してもらうよヨゾラ君!」

「簡単に通れると思うなよ?」


 速度重視なのにも関わらず、威力もしっかりとあるルーシェの片方の攻撃をまずは避ける。

 間髪容れずに迫ってきたもう片方を俺は剣を片手で持ち受け止めて、空いた手でルーシェの腕を掴もうとする。

 しかしそれは叶わなかった。ルーシェは受け止められた剣を支えに宙返りの要領で俺の頭上を飛び越えようとする。俺がしっかり受け止めたからこその判断だ。

 俺を越えていこうとするルーシェにセラフィのフォトンレイが放たれた。仕方ないとルーシェは支えにしていた剣を弾くように後ろに跳ぶ。

 分かっていたことだが、ルーシェの戦闘技術は高い。セラフィの援護が少しでも遅れていたら普通に通してしまっていたところだった。


「次は俺の番だ!」


 ルーシェと入れ替わるようにセシルが斬りこんできた。


「くっ!?」


 セシルの鋭い突きにより、俺の右肩の服の部分が少しだけ破かれた。思っていた以上に攻撃が早い。

 どうにか食らうことは避けられたので、反撃しようと思ったのだが、セシルの勢いは止まらない。本来剣での近距離戦は間合いを図りつつ、受け止め避け、どうにか攻撃を入れるチャンスを作るものなのだが、セシルの場合はひたすらに前に出てくる。


 するとどうなるか。間合を図る隙が生まれないので、徐々に後退しながら受け続けるしかない。厄介な戦い方だった。


 俺はフォトンレイを自身の周囲に展開する。放たれた傍からまた発動して、とにかく手数を増やした。

 今のところ当たってはいないが、どうしても動きが制限されてしまうセシルの攻撃は勢いを弱める。


 チャンスか? そう思ったが、直感的に激しく攻めに転じるのはやめておいた。

 その判断は正しく、セシルの攻撃が勢いを弱めた瞬間にルーシェも接近戦に加わってくる。

 立ち位置的には俺とセシルの間に割って入るような場所だ。

 双剣はリーチが短いので、その距離は適正距離だ。そしてさらに厄介なのが、ルーシェがそんな立ち位置にいるのにも関わらず、セシルは攻撃し難そうにしておらず、普通に攻撃してくる。

 互いに相方がどのような動きをするのか、完璧に分かっているかのような連携。見事としか言えない。


 だが、俺の相方も優秀だ。

 俺はあえて次の攻撃が避けにくい位置に無理やり避ける。すると、そこまで俺がいた場所、つまりはセシルとルーシェの正面にフォトンブラストが放たれた。

 俺の前後の動きから、次に俺がどのように動くか察したセラフィが予め溜めておいて、的確なタイミングで魔法を放ったのだ。


 避けることの出来ないセシルとルーシェの判断は早かった。


「「クラフト!」」


 同時にクラフトを使い、壁を作り出してフォトンブラストを防ぐ。

 俺は2人の動きが一瞬止まった隙に、大きく回るように走る。

 右から左に場所が移る瞬間、丁度クラフトのど真ん中をフォトンレイで打ち抜き、そのまま左に向けて走る。


「さて、ここでセシルは落としたいとこだな」


 真ん中を打ち抜いた理由は簡単だ。セシルとルーシェは剣のリーチが違うので踏み込みの深さも違ってくる。

 より多く踏み込んだルーシェは俺が避けた方向にそのまま避けた方がいいだろう。すると、同じ方向に避ける訳にもいかないセシルは必然的に左方向に回避する。

 そして一度分かれると、セラフィのフォトンブラストによりすぐに合流することは難しい。そうなると、疑似的にタイマンが発生するのだ。


「やられっぱなしは癪だからな」


 俺はセシルに斬りかかる。今度は攻撃の隙を与えない。

 受けに転じたセシルだが、中々に有効打を与えさせてくれない。精霊魔法を使ってこれなのだ、セシルの剣の腕が相当高いことの証明である。


 ただ、いつまでもタイマンをしている必要はないのだ。


「待たせたの」


 これまでずっと後方で魔法を放っていたセラフィが俺の後ろから顔を出す。

 セシルの顔面に向けられた手には聖級光魔法のフォトンブラストの用意がしてあった。すぐにセラフィが参戦したのは溜めていたのが理由だ。


 至近距離から不意に出てきたセラフィにセシルは対処出来ない。


「まずは1人目――」


 セラフィが魔法を放とうとした瞬間に視界の端にルーシェが現れる。思っていた以上に合流が早い。

 俺は咄嗟にセラフィを抱えてガードするように剣を前に構える。そこに助走を乗せたルーシェの攻撃と、少し遅れてセシルの攻撃がぶつかり、大きく吹き飛ばされた。


「セラフィ! 構わず打て!」


 宙に舞った俺は抱えるセラフィにそのままフォトンブラストを打つように言う。

 セラフィはなるべく照準を合わせてフォトンブラストを打つと、丁度セシルとルーシェが立つ場所に斜めから地面にフォトンブラストが着弾した。

 地面が大きく削れて視界が悪くなる。俺はどうにか着地して不明瞭な中に突っ込んでいった。


 悪い視界の中からセシルとルーシェが斬りこんでくる。

 どうにか反応して受けたが、このままでは長くもたない。特にセシルがやばい、こんな状況なのに攻撃の激しさが先程と一切変化がなかった。


 あと少し……俺がやられないで耐えれば勝てる……。


 厳しい状況だが、俺は耐えるだけでよかった。そうすれば相方が終わらせてくれる。


「ヨゾラ!!!」


 必死に耐えていると、セラフィが合図を出した。

 俺は合図と共にがむしゃらに魔法を放つ。その意図が分からないセシルとルーシェは目に見えて警戒した。

 それにより生まれた一瞬の隙を利用して、俺は全力で後ろに跳びセラフィの横に着地した。

 その頃には視界の悪さも収まっており、セシルとルーシェも俺達の意図を理解しただろう。

 しかし、今になって分かっても遅い。


「神級光属性魔法――裁きの光(ジャッジメントレイ)


 セラフィは呟くと、空から光の柱が落ちてきてセシルとルーシェを飲み込んだ。

 地面が捲れ上がり、巨大な岩となって地上に落ちてくる。その様子で、どれだけの威力があるのかを察するには十分だ。


 光の柱が消え、舞い上がった地面が全て地面に落ちきると、光の柱が落ちた場所ではないところにセシルとルーシェが座っており、クレーティオがすぐ傍で立っていた。

 セシルとルーシェの指に嵌められた結界指輪は既に壊れている。


「そこまで!!! 勝者は――ヨゾラ君とセラフィちゃん!!!」


 クレーティオが決着を告げると、観客席は今日一番の大歓声に包まれた。


自由な女神「なんだかんだでヨゾラ君とセラフィちゃんがしっかりと勝ち切ったね。セシル君とルーシェちゃんも頑張ったけど、結局ヨゾラ君を崩せなかったから一歩届かなかったって感じだったね」

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