セシル
俺とセラフィは食堂にやってきた。
所謂学食のような場所であり、メニューは豊富で量も多いが、学生の財布にも優しい値段になっている。
元々、それなりに金を稼いでいたが、流石に心許なくなってきている。編入してからは宿代も浮き、かなり出費は抑えれているが、そろそろ冒険者ギルドにでも行って金を稼いでおいた方がいいだろう。
俺とセラフィは何を食べるか選んでカウンターに行く。料理はすぐに出てきた。
俺は唐揚げの定食、セラフィはうどんを頼んだ。セラフィのうどんには茹で卵が2つ乗っかっている。トッピングしたようだった。
どの辺の席にしようか見ていると、ルーシェが飯を食っていたのが見えたのでそちらに向かう。
「おはようルーシェ。1人なんて珍しいな」
「あ、おはようヨゾラ君、セラフィ。ちょっと寝坊しちゃってね」
皆から好かれているルーシェはいつも誰かと飯を食っているが、寝坊して仕方なく1人で食べていたらしい。
何だかんだそれなりの量の酒を飲んでいたので、ルーシェもその影響が出てしまったのだろう。
ルーシェの向かい側に座るようにして俺とセラフィも飯を食べ始める。
「今日は何か予定はあるの?」
「特に何も決めてないな。強いて言えば冒険者ギルドに行こうかなと考えていたくらいだ」
「冒険者ギルド? 何でまたそんなとこに?」
「金が怪しくなってきてな。何があるか分からないから多少余裕はもっておきたいんだ」
「そっか、2人共元々は冒険者として生計を立ててたんだもんね。私は親からの仕送りがあるから気にしたことなかったなぁ」
クラスメイトの中にも、自身で金を稼いでいそうな奴はいなかったように思う。
基本的にはルーシェのように仕送りしてもらっているのだろう。そもそも大金は必要ない環境なので、家族にもそこまで負担は掛かっていなさそうだしな。
「そういえばルーシェって冒険者登録はしてるのか?」
「一応してはいるよ。殆ど依頼を受けたことないけどね」
「もし良かったら一緒に来るか?」
「いいの?」
「まあルーシェの実力なら問題は無いな」
「じゃあお邪魔するね。私も予定なくてどうしようか迷ってたの」
折角なのでルーシェも誘うことにした。
そこまで意味は無いだろうが、多少の経験値稼ぎにはなる。暇だというのならば行っておいて損はないだろう。
時間的にそこまで大きな依頼は受けられない。そこそこの魔獣を1体討伐するような依頼が妥当だろう。
俺達は飯を食い終わった後、流石にすぐは動けないので食休みを取りつつ、適当な会話に花を咲かせていた。
しばらくして、会話をしながらもルーシェは何かに気が付いたように食堂の入り口を見る。
気になって俺もそちらに目を向けると、そこには細身で高身長、茶髪の爽やかイケメンがこちらに向かって歩いてきていた。
「あれ? セシル君だ久しぶり」
「やあルーシェ、しばらくぶりだね。そっちの2人は噂の編入生かな? 俺の名前はセシル、よろしくね」
セシルという名には聞き覚えがあった。
記憶が正しければロウとの決闘が終わった後に、ルーシェが俺達のクラスで1番強いと言っていた奴だ。
ルーシェもかなり強かったが、このセシルと模擬戦をしたら負け越す程らしい。
にしても俺とセラフィは噂になっているらしい。大半はセラフィの噂だろうが、俺も知っているということは、それなりに俺の話も出回っているのだろう。
「俺はヨゾラだ。よろしくセシル。こっちは相方のセラフィだ」
「よろしくの」
挨拶を返すとセシルは爽やかスマイルで答えてくれた。イケメンが眩しい。
しかし悪い気はしなかった。セシルの表情に人懐っこさが見えたからだ。
打算無しに仲良くしたいと考えてくれているように見えるからこそ、俺としてはかなりの好印象を覚える。ルーシェが前に言っていた人物像通りだ。
「随分長い間休んでたけど、何かあったの?」
「少しね、父に呼ばれてたんだ」
編入してからそれなりの期間が経っているが、セシルはその間ずっといなかった。
「あー、セシル君のお父さんにか……大変だった?」
「結構ね。兵士の人達と散々模擬戦をさせられたよ」
「すまん、話についていけない。セシルの父親ってのは何をしてる人なんだ?」
「俺の父親は軍の中でもかなり上の立場でね。戦場での総司令をしてるんだ。で、俺は強くなれと度々呼び出されて現役の兵士達と模擬戦をさせられてるんだよ」
なるほど、軍上層部の父か。イメージ通りならば確かに大変そうだ。
「ちなみに兵士達との模擬戦はどんな結果だったんだ?」
「ふふっ」
セシルは楽しそうに笑った。
「勿論全て勝ってきたよ」
その答えを聞いて俺もおもわず笑ってしまった。
戦争に駆り出される兵士達に勝ってきたということは、セシルは正真正銘の実力者だ。この笑いも自信の裏付けである。
今まで俺は、自身よりも強い人間とは戦ったことがない。ロウはそれなりに強かったが、100回やっても負ける気はしなかった。
しかし、このセシルであれば、もしかしたら俺と良い勝負、いや俺よりも強いかもしれない。
俺は試してみたくて仕方がなかった。
だが、それはセシルも同じだったようで、こんな提案をしてくる。
「今からやるかい?」
「いいな、やるか」
二つ返事でセシルの提案を肯定する。断る理由はなかった。
「悪いなセラフィ、ルーシェ。依頼は今度にしよう」
「構わんぞ」
「私も全然気にしないよ。それよりも2人の模擬戦の方が気になるしね!」
「ん? 何か予定があったのかい?」
「ああ、3人で冒険者ギルドに行って依頼でも受けようと話してたんだ」
2人には悪いが、もう俺は模擬戦の気分になってしまった。手応えの無い魔獣を狩りに行く気分ではないのだ。
俺達に元々予定があったと聞いたセシルは、何かを悩んでいる。一体何を悩んでいるのだろうか?
不思議に思っていると、何かを思い付いたように、セシルは手をポンと叩いた。
「だったらこうしないか? 2対2の模擬戦にする。ヨゾラとセラフィ、俺とルーシェだ」
「え!? 私!?」
「ルーシェも大分腕を上げたんじゃないか? セラフィとも良い勝負をしたと聞いたよ」
「それは周りが勝手に言ってるだけだよ……実際は成す術もなくやられたって感じ」
「いや、それはルーシェの間違いだな。1つ何かが分かっていればルーシェが勝っていた可能性がある。なあセラフィ?」
「うむ、ルーシェは確かに強かったな」
「ちょっと2人共!?」
世辞ではなく事実だ。最後の一連の流れは、どこか1つでもルーシェに傾いていれば勝負は分からなかった。セラフィ相手にそこまで出来たルーシェは間違いなく強者の部類に入れてもいいはずだ。少なくともこの学校内では。
「丁度いいじゃないか、俺もルーシェと模擬戦はしたかったし、一石二鳥だ」
「で、でも……私じゃセシル君の足を引っ張っちゃうかもしれないし……」
ルーシェは乗り気ではない様子だ。その理由は声が小さくてよく聞こえなかったが、何か遠慮しているように感じる。
何かルーシェが参加してくれるようなことを言えればいいんだが、残念なことに俺にはその方法が思いつかない。
どうにか説得できないかセシルにアイコンタクトを送ると、任せてというようにセシルが口を開く。
「もしかしてルーシェは俺と組みたくないのかな……少しショックだ」
「え!? ちっ、ちが――」
「俺はルーシェと組んでヨゾラとセラフィと模擬戦をしてみたかったけど、そこまで嫌がられては悲しいが仕方ないね」
「分かったよ! やればいいんでしょ! 別にセシル君と組みたくないなんて言ってないし! 勘違いだよ! 組むよ! ヨゾラ君とセラフィに一泡吹かせてやりますよ!!!」
セシルの迫真の演技を前にルーシェはやけくそだと言わんばかりに声を上げた。
俺とセシルは小さく笑い合った。セラフィは呆れたような表情をしている。
まだ出会ったばかりだが、セシルとは仲良くなれそうだ。
「決まりだな! 俺は闘技場の使用許可を貰ってくるよ。場所はルーシェが知ってるからヨゾラとセラフィはルーシェと一緒に来るといい」
「ああ、今から楽しみだ」
「俺もだよ」
そう言ってセシルは闘技場とやらの使用許可を貰いに行った。
俺達が今まで使っていた場所も十分模擬戦っぽかったが、明確に闘技場と呼んでいる以上、もっと本格的な場所があるのだろう。
そんな場所を選んだのだ。セシルも本気できてくれそうで安心だ。
「うぅ、ヨゾラ君とセシル君が揃うとタチが悪いよ……」
「悪いな。でもどうしてもやりたかったんだ」
「まあ、決まったならしょうがないか……決まった以上は勝つよ! セラフィには昨日負けたから雪辱を果たさなきゃいけないしね!」
「今回も儂が勝たせてもらおう! 儂の相方も優秀じゃしな!」
「セシル君も強いから!」
「相方でマウントを取り合うなよ……」
セラフィとルーシェは友達でありライバルといった感じに見える。
言い合う様子が微笑ましい反面、勝手にマウントの材料にはしないでほしいとも思った。
少しの間わーわー言っていた2人だが、セシルを待たせては悪いので、決着は模擬戦でということになって、一旦準備をしに戻ることになった。
俺とセラフィは闘技場の場所が分からないので、1時間後に寮の前でということになって別れる。
準備に1時間は長いように感じるが、何かあるのだろうと勝手に納得して、俺とセラフィは作戦会議に時間を当てることにした。
「といってもセシルは手の内がさっぱり分からないしなー」
「ルーシェの戦闘スタイルを考えるならばまずは2人掛かりで儂を狙ってきそうな気がするな。距離を詰める手助けをされては厳しいと考えておる」
「なら出来るだけルーシェとは俺がぶつかった方がいいか? いや、セシルも剣は絶対に使えるはずだから、単純に前衛後衛で分かれた方がいい気がする」
「ま、いつもと変わらんということじゃな。精霊魔法でヨゾラを強化するとして、儂はヨゾラに精霊魔法を使っている間は魔法は打てても動けぬからな」
「分かってるさ。頑張ってみるよ」
「うむ、頑張って儂を守るのじゃ」
実際俺とセラフィはこの戦闘スタイルが合っている。別々に対処するくらいならば、最初から俺が前衛で受け止めるのが、最もリスク無くやり易いのだ。
別々に相手をしていると、どちらかが危なくなった時にカバーしにくいしな。それにセラフィの援護はバリエーションが多く、状況によって的確に援護してくれるので心強い。
「確認しておくがヨゾラ、精霊魔法込みでルーシェと接近戦をした場合、どうなると予測しておる?」
「精霊魔法込みなら絶対に負けない。一瞬で決着は難しいだろうが、最終的には絶対に勝てる。間違いない」
「大きく出たの。しかし油断するでないぞ?」
「当たり前だろ? 本気も本気でいくさ」
ルーシェと接近戦は精霊魔法無しだと負ける可能性はある。しかし可能性を絶対にまで出来る精霊魔法があれば油断さえしなければ負けることは無いだろう。
だが、そこにセシルも入ってくるならば、分からない。2人の攻撃を捌ききれるか、怪しいところだ。
「ではそろそろ行くか。よろしく頼むぞヨゾラ」
「ああ、セラフィもよろしくな」
俺とセラフィは握手して寮から出る。
外には既にルーシェがやってきていた。
「……本気だな」
「勿論! 今回はヨゾラ君もいるからね。攻撃力は出来るだけ上げておきたいでしょ」
ルーシェは完全装備だという見た目をしていた。
白を基調とした動きやすそうな服に、両腰には双剣が下がっている。
その双剣はセラフィとの模擬戦で使っていた鉄製の物ではない。サーチしてみるとオリハルコンで作られていることが分かる。俺の剣と同等の武器だ。
しかも双剣の下からは2本の短剣も覗いている。それもオリハルコン製だった。
セラフィは耐久面が貧弱なので武器もそこそこの物を選んでいたみたいだが、今回は俺まで意識してきている。
そこには明確に俺を倒すという意志が伝わってきた。
「覚悟しておいてね!」
挑発的に笑うルーシェを見て、俺は冷や汗が出るのを感じた。
自由な女神「以前ルーシェちゃんが言ってた男の子だね。急な話でどんどん進んでったけど、早くも実力が見れそうで良かったね! ルーシェちゃんも本気っぽいし、どうなることやら……」




