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ルーディス

 説明会を始めると言ったクレーティオは、俺の対面に位置するソファーまで移動して、俺達は向かい合うような形になる。

 説明する側と受ける側。生前で体験した学校説明会のような感覚だが、その雰囲気は緊張感に包まれたものではなく、何とも緩いものだ。


「これから夜空君が転生するルーディスという世界は、地球とは全く違う発展の仕方をしているんだ。地球が科学という方面で発展している一方で、ルーディスは剣と魔法、さらには精霊という部分で発展している。地球に住んでいた夜空君でも、想像することは出来るんじゃないかな?」

「ああ、確かに何となく想像は出来るな」

「地球は色んな神が手を加えていたから、別の世界の色がどこかしらで出てくることも多いからね。アニメや漫画、ライトノベルという文化は地球独自のものだけど、その題材となっているのは他の世界のことが多い。夜空君の中では、あくまでも在り得ない想像上の世界でも、神達のような存在からしたらありふれたものなんだ」


 複数の神が手を加えた地球ならば、別の世界の特色が現れていても不思議ではない。地球で言うファンタジーな世界が他に普通に存在するというのも、今までの話を聞いていればすぐに納得出来ることだ。

 どうせ生まれ変わるのならば、地球とは一風変わった世界がいいとは思っていた。聞いた限りでは、いわゆるテンプレのような世界だが、物語として読むのと、実際にその世界で過ごすのでは訳が違う。聞くだけでワクワクしてくる。


「ルーディスは地球とは真逆に、神が一切干渉していない世界なんだ。別に干渉できない訳じゃないんだけどね。事実僕は夜空君を転生させるという形で干渉するし。作り出した神が死んだか、世界を投げ出したか、理由は僕にも分からないけど、とにかくフリーな世界ってこと」

「世界を投げ出すってのは、まあ無くはない話なんだろうが……神が死ぬことってそう簡単に起きることなのか?」

「そりゃ死ぬよー。神ってのは夜空君が想像する程のもんじゃない。確かに世界を作り出したりって聞くと凄いように聞こえるけど、精々人には想像出来ないようなくらいの力を持っているってだけで、命はあるし、肉体にも依存する。人の上位互換って程度かな? 僕だって仮に夜空君に無抵抗でナイフなんかで滅多打ちにされたら死んじゃうしね」

「それはクレーティオが元人間だからとかは関係無くか?」

「無いよ。元が何だろうと関係無いね、神も生物の範疇ってことだよ。実際他の神を殺したこともあるしね。夜空君が神という存在をそこまで過大評価してしまうのも地球という世界特有のことだろうね。神は見栄っ張りが多いから。他の世界では、神は確かに神聖視されてるけど、あくまでもとてつもない力を持っているって程度の認識だし」


 クレーティオの話を聞いてもやはり神という存在を図りきれないが、人から神へと成ったクレーティオという前例がある以上、人が決して届かない程ではないのだろうというのは分かった。

 そこまで辿り着くのにクレーティオがどれ程の時間や苦労をしたか、どんなことを考えてきたのかは計り知れないが、それはいつか聞いてみることにしよう。


「ま、そんな訳でルーディスには神がいない。それも長い間ね。だから大きく世界が動くことが無かったんだ。魔法なんかが発展していると言っても、文明レベルは地球には及ばない。夜空君には少しきついかもしれないね」

「まあ別にそこまで高望みはしてないさ。生活するのが辛いって程じゃないんだろ?」

「移動や連絡手段は乏しいけど、普通に生活する分には問題無いかな」

「ならいいさ」


 地球には確かに便利な技術なんかが多かったが、刺激という部分では若干物足りないところはあった。代わりにルーディスには便利な技術はそこまで無いが、刺激には溢れてそうなものである。何せ剣や魔法が発展しているのならば、発展しているのは人と戦う術だけではなく、人以外の敵がいる可能性が考えられる。

 地球の技術は、人と争う為に発展してきた側面があるのは否定しきれないだろう。歴史的に見ても、大きな技術の発展には争いが関わっている。


「ふふっ、夜空君のその顔を見てるとなんだかこっちまで嬉しくなってくるね」

「……俺、どんな顔してた?」

「楽しそうというか、やる気に満ち溢れたっていうか、これからのことを前向きに考えているようなことが前面に出てたよ」


 自分でも気が付かないうちに感情が顔に出ていたらしい。指摘されると恥ずかしいが、こればかりは仕方がない。俺は自分には正直なのだ。


「それにしても夜空君と話していると楽でいいね。少し話せばその先をある程度予想してくれるし、それも的を射ているしね」

「お褒め頂き光栄な限りだよ。ちょいちょい思ってたんだが、クレーティオは心が読めるのか?」

「ううん、心が読めてる訳じゃないよ。ただ夜空君の表情なんかを見て、こんなことを思ってるんだろうなーってくらいかな。それに、夜空君がどんな人なのかは知ってるしね」


 そういえば俺はクレーティオのことを知ったばっかだが、クレーティオは俺が死ぬ前から俺のことを知ってるんだもんな。


「なら俺がこの後何を言いたいかは分かるか?」

「勿論! 俺には戦う力は無いんだが、その辺はどうするんだ? でしょ?」

「おお、当たりだ」

「安心して、ちゃんと考えてあるからさ!」


 予想を当てたクレーティオは、何もない空間を指で掃うと、そこにいくつもの文字が浮かび上がる。


「これは夜空君をステータスという形で表したものだよ」

「アニメやゲームなんかでよくあるやつだな」

「うん、本当なら人を表すならもっと複雑なものになるんだけど、別にそこまで見る必要はないから、本当に簡単にね。理解がある夜空君なら分かりやすいはずだよ」



【皆月夜空】

 HP127 攻撃51 防御40 特功23 特防18 素早さ54



「…………なんだこれ」

「だから夜空君のステータスだよ」

「完全にポ○モンじゃねーか!」

「ちなみに2Vだね。HとSが」

「誤魔化す気ねーな! てか特功と特防ってなんだよ!? 地球に特殊攻撃なんてあるのか!? 銃とかそういうのを言いたいのか!?」


 俺らの世代ならば誰もが見たことであるであろうステータス画面。確かに分かりやすいがあまりにもツッコミどころが多すぎる。


「特殊攻撃はあれだよ、体育教師が大きな声で怒ると皆萎縮するでしょ? あれとか特殊攻撃」

「攻撃って言うなよ……体育教師だって生徒のことを想ってだな……」

「でも苦手だったでしょ?」

「それは、まあ……」


 どうも急にでかい声出されるとびくってなるんだよなぁ。あれって俺の特防が低かったせいなのか……なんか釈然としないな。


「ちなみに俺って強い?」

「……わざわざそれ聞くの?」

「……いや、やっぱいい」


 戦いという面で俺が強い訳がない。生きていた時に殴り合いの喧嘩なんか殆どしたことはないし、鍛えていた訳でもない。平均的くらいではあるだろうが、いざ戦うとなったらその程度では何も変わらないだろう。


「ルーディスでは夜空君のステータスだと苦労すると思うから、とりあえずの基礎スペックだけは高くしてあげれる。勿論、あくまでも基礎スペックが高くなるだけだから、そこからは夜空君の頑張りと使い方次第だけどね」

「頑張りっていうと筋トレしろってこととかか?」

「まあそれもあるけど――ルーディスではレベルっていうシステムが使われてるから主にそっちかな。敵を倒すとレベルが上がるって感じの分かりやすいやつ。結構色んな世界で採用されてるシステムなんだ。分かりやすい方が何かと都合もいいからね」


 まさにRPGって感じか。異世界っぽくていい。それに明確に数値として見えるならやる気も出るってもんだ。


「ステータス画面はいつでも見られるようにしておくから上手い事使ってね。ルーディスだと項目も増えるからその辺も忘れずに。ちなみにこれが夜空君のルーディスでの初期ステータスね」


 クレーティオは一度俺のステータスを閉じてから再度ステータスを表示させる。



【ヨゾラ】

 レベル1 HP11 MP10 攻撃8 防御7 特功8 特防7 素早さ8

 精霊:無し

 称号:クレーティオの加護



 うん、生まれたてって感じだな。MPってのはそのままマジックポイントでいいんだろうか? 魔法がある世界って言ってたし、それが関係してるんだろうな。

 名前も皆月夜空からヨゾラになっている。苗字が消えてるのは何か都合が悪いからだろうな。アニメなんかを参照すると、苗字は貴族や王族しか持ってないからとかその辺だろう。つまり転生先も自ずと貴族や王族じゃないと分かる。


「スキルとか、そういうのは無いのか?」

「無いね。固有の技とかはあるみたいだけどステータスに表示されたりはしないよ。そこまで表示させるとなると神が人を作る時の細かな設定までいくからとんでもなく複雑になるしね」

「なるほどな……この称号のクレーティオの加護ってのは何か能力とかに関係してくるのか?」

「んー、能力とかにはあんまり関係無いかな。強いて言うなら、神が見た時の夜空君――ヨゾラ君が僕のだよって主張するためにあるようなものだよ。ルーディスの人達からは見えないから安心して」

「ルーディスではステータスを見ることは一般的ってことか」

「ヨゾラ君みたいにいつでも見れるって訳じゃないけどね。特定の施設を使えば見れるって感じ」


 ならステータスが見えることは黙っていた方が良さそうだな。敵を倒したりして賞賛されたりと目立つことはむしろ望むとこだが、こういう細かいところで目立つのは面倒くさい。ちやほやされるだけでいいのだ。


 称号の詳細は見ることが出来るようで、意識を集中させてみると説明が浮かび上がった。



【クレーティオの加護】

 自由の女神であるクレーティオが自身の所有物を主張するために付けた証。自由でいることを強要されている。



 どうやら俺は自由でいることを強要されているらしい。

 何ともクレーティオらしくて笑っていると、当のクレーティオは首を傾げていた。


「あーそうだ、見た目とか変える?」

「ん? 逆にこのままの見た目で転生するのか?」

「僕はそのつもりだったよ。別に赤ん坊からやり直す訳じゃないし」

「そうなのか……ならこのままでいい」

「了解! 僕もヨゾラ君はそのままの方がいいと思ってたからね」

「お! 脈ありか?」

「どうだろうねぇ?」


 茶化すとクレーティオは蠱惑的な笑みを浮かべて笑った。そんな反応をされると気になってしまうが、ここで食い気味に聞いてはクレーティオの掌の上だろうから我慢する。


「他に聞きたいことはある?」

「まあ大丈夫かな。後は実際に色々とやって確かめてみるよ」

「そっか。それじゃあ、最後の仕上げといこうか」


 クレーティオは身を乗り出して俺の額に人差し指を当てた。


「今からヨゾラ君が本当の自由――神に干渉されないようになる為の称号を発現させる。正直そういう称号が出てくるのかは僕にも分からない。もしかしたら出てこないかもしれない」

「でもクレーティオの見立てなら大丈夫なんだろ?」

「まあね。ヨゾラ君なら大丈夫だとは思うよ。なにせ僕が特別だと思ったんだからね」


 自称自由の女神様が言うんなら大丈夫だろう。俺は安心して任せることが出来る。


「頼んだ」

「じゃあ、いくよ……」


 クレーティオの合図と共に、俺の中に何かが湧き上がってくる感覚があった。

 まるで自分の存在が作り替えられていくような感覚がしつつも決して嫌な感じではなく、全能感にも似た何かだった。


 しばらくの間身を任せていると、やがてクレーティオが俺の額から人差し指を離し座り直す。


「――ヨゾラ君、ステータスを見てみて」


 言われるままに俺は自分のステータスを開く。



【ヨゾラ】

 レベル1 HP11 MP10 攻撃8 防御7 特功8 特防7 素早さ8

 精霊:無し

 称号:ヨゾラの作者



 称号からクレーティオの加護が消えて代わりにヨゾラの作者が追加されていた。



【ヨゾラの作者】

 ヨゾラの作者はヨゾラ自身であり他の何者でもない証。他からの干渉を防ぎ、ヨゾラだけの物語を紡いでいく。



「――ヨゾラの作者、それがヨゾラ君を自由にする称号だよ。これで君は本当に自由だ!」

「クレーティオの加護が消えているのはこの称号が関係あるのか?」

「そうだね。僕ですらヨゾラ君に干渉出来なくなったってことだね」

「それって転生にも影響が出てくるんじゃないか?」


 神であるクレーティオの称号を強制的に解除したことを考えると相当な力があるはずだ。転生はいわばクレーティオの干渉によって起こされることのはずだが大丈夫なのだろうか?


「転生することをヨゾラ君は自分の物語だと既に認識しているはずだから大丈夫だよ。その為に先に色々と説明もしたし用意も整えたんだしね」

「あー、そういうことか」


 先に色々と聞いて、俺自身がこれからの物語の展開が異世界に行くことだと認識しているから大丈夫ということか。


「ありがとなクレーティオ」

「ふふっ、どういたしまして」


 クレーティオにお礼を言うと嬉しそうに笑って返してくれた。






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