500年後の世界
新章スタート! というよりもようやく物語の本筋に合流です!
まず感じたのは、硬くて冷たいということだ。
上下の感覚が狂っていないのならば、俺は地面に横になっている。
「……すっーー」
息を吸い込むと喉まで冷えていく。思わず身震いしてしまった。
「……封印が解けたのか」
目を開けると周りは真っ暗で何も見えない。この場所を作った時に魔法で明かりを灯していたのだが、流石にその効果は残っていなかった。
視覚が失われているからだろうか、頭の立ち上がりは早かった。互いに封印の魔法を使った俺とセラフィは笑い合って眠った。そこから自然に封印が解けたのならば、現在は500年後の世界ということになっているはずだ。それを今すぐに確かめる術はないので、実際に世界を見てみるしかない。
とりあえず何も見えないのではどうしようもないので火属性の魔法で明かりを灯すことにする。
「あれ? 魔法が発動しない……」
手の平に火を出そうと思って魔法を発動させるがどうも上手くいかない。一先ず横になっている体勢を変えようと起き上がろうとしたが、それすら満足に出来なかった。
「鈍ってるのか……? いや、逆に鈍っているだけなのが凄いのか」
体感的には普通の睡眠と変わらない時間しか経っていないのだが、膨大な時間の経過は身体にしっかりと現れていた。夢のようなものも一切見ていないので、普通の睡眠よりも短くも感じてしまうが、こうして実感出来ることがあって何だか安心した。
しかし身体が上手く動かなくてはどうしようもないので、少しずつ身体を解しながら10分程かけてようやく起き上がることに成功する。
「後は魔法っと」
身体が解れてきたことによって魔法も上手く発動することが出来た。手の平に出した火が周囲を照らして状況を教えてくれる。
少し見渡してみると、すぐ近くで先程の俺と同じようにセラフィが寝ているように倒れている。息はしっかりとしているので身体に問題はなさそうに見える。
俺は立ち上がってセラフィの元に行き身体を揺さぶってみた。
「セラフィー、おーいセラフィー」
揺さぶりながら声を掛けると、ゆっくりとその瞳が開かれて目が合う。
「――おはようヨゾラ」
「おう、おはよう」
記憶なんかも問題はなさそうで安心した。
セラフィは手で目を擦ってから起き上がろうとするが、やはり身体に力が上手く入らないようで起き上がることが出来ていない。
陸に打ち上げられた魚のように藻掻いているのが見ていられなくなり、仕方がないので俺はセラフィの両脇を抱えて起き上がらせてやった。
自身の姿が間抜けだった自覚があるのか、セラフィは恥ずかしそうにしている。
「セラフィ、魔法は使えるか?」
「う、うむ、問題ないじゃろう」
「じゃあ明かりを頼めるか? 俺は攻撃以外の光魔法が使えないから火で代用するしかなかったんだ」
「了解じゃ」
セラフィは上に向かって手の平を翳して魔法を発動させる。すると、部屋全体を照らせる程の光が現れて視界が広がった。
部屋の中を見てみるが、特に崩れたりしている場所もなく、作った時と変わりがなかった。物が動いたりもしていないので埃なんかも殆ど溜まっていない。
「まずは何から始めるんじゃ?」
誰かが入った形跡なんかが無いか調べていると、セラフィがようやく自分で立ち上がって聞いてくる。
「まずは現状の把握かな。それが終わったらすぐにでもここを出る。もう待ってられないからな」
本当ならば今すぐにでも外に出て人の街なんかに行ってみたいが、身体が重たい。鈍っているという感覚は無くなったが、明らかに何かがおかしかった。
その理由は何となく予想が付いている。俺はそれが正しいか確かめるためにステータスを開いた。
【ヨゾラ】
レベル89 HP1012 MP1300 攻撃826 防御707 特功1119 特防567 素早さ1035
精霊:理級光精霊
魔法:平級火属性 平級土属性 王級光属性 平級闇属性 豪級闇属性 神級闇属性 理級精霊魔法
称号:ヨゾラの作者 理を歩む者
ステータスが下がっているどころか、レベルまで著しく下がっていた。丁度セラフィと契約した時くらいの数値だ。
高いステータスで9年近く過ごしていたのだ、身体が重く感じるのも頷ける。このステータスだと果ての秘境はまた苦労しそうだ。
「なっ、なんじゃこれは!?」
折角上げたレベルが下がっていて少し落ち込んでいると、隣でセラフィが絶叫する。
突然のことにびっくりしてセラフィに顔を向けると、そこには冒険者ギルドでステータスを見ている時のように、セラフィのステータスが浮かび上がっていた。
「え、セラフィそれ、どうやってやったんだ?」
「魔法じゃ魔法! 今の時代にはこのような闇属性魔法があるらしい。そんなことよりじゃ! 見よこれを! 儂のステータスがとんでもないことになっておる!」
セラフィは押し付けるように俺にステータスを見せてきた。
【セラフィ】
レベル3 HP94 MP987 攻撃8 防御23 特功587 特防142 素早さ30
精霊:無し
魔法:平級光属性 豪級光属性 王級光属性 聖級光属性 神級光属性 平級闇属性 豪級闇属性 王級闇属性 神級闇属性 理級精霊魔法
称号:理を操る者
「……くっ、あっははははは! セラフィお前、よっわ!」
レベルに対して魔法に関することに関してはずば抜けて高かったが、それでも弱いと言わざるをえない。何よりも物理方面が貧弱過ぎる。まあ俺も低レベルの頃はこんな感じだったが。
あまりの情けないステータスに爆笑していると、セラフィがキレて跳びかかってきた。
「言ったな! 言いおったなヨゾラ! 大事な相方が弱くなったのを見て素直に「よっわ」と言うやつがあるか!」
「わるいわるい。そんなことよりもその魔法教えてくれ」
「なんじゃそんなことよりって!」
キレるセラフィをどうにかこうにか宥めてステータスを見る魔法を教えてもらう。サーチという平級闇魔法のようで、自身のステータス以外にも様々な情報を見ることが出来るみたいだ。
他にも色々と魔法は増えているみたいだが、現状俺達に必要なものはなさそうなので別に覚えなくてもいいとセラフィは言っている。気にはなるが、今後見る機会はあるだろうし、その時でいいだろう。
自分達の状況も確認できたところで飯を用意して、今後のことについて詳しく纏めながら腹を満たすことにした。
「まずは学校かなぁ」
「学校? 一体何を学ぶんじゃ?」
「んー、学ぶっていうよりもただ楽しむ為に行く感じかな」
異世界転生した主人公は大体最初の方で学校に通っている。俺も異世界転生した身としてこなさなければならないだろう。
「まあ学校に行けば今の世界のことも少しずつ分かるだろうし、丁度いいと思うんだ」
「儂はてっきり世界を見て周るもんじゃと思っておった」
「それはそれでいいんだが、あんまり一足飛びに色々と知るんじゃなくて、少しづつの方が楽しめるんじゃないかと思ってさ」
「なるほど、分からんでもないな。後はどこに通うかか…」
「俺は帝都の学校がいいんじゃないかと考えてる。500年前と同じなら、座学で知識を学ぶだけじゃなくて、どちらかと言えば戦いを学ぶって感じだしな。今更細かい勉強を数年やるとか無理」
「まあ儂もそこまで知識が欲しいとは思わんな」
「じゃあ決まりだ!」
まずは異世界の定番である学校に通う。その後のことは今決めなくてもいいだろう。
500年前にあった帝都の学校通りならば、途中からの編入も出来たはずだ。入学条件としては多少戦える力があれば良かったはず。今いる秘境を出るまでにある程度魔獣を狩っておけばセラフィも問題無い強さになるはずだ。
さっきは茶化したが、セラフィがここまで弱くなっているのは正直怖い。万が一秘境の魔獣から攻撃を食らった場合、一撃で死んでしまう可能性がある。ステータスがある程度安定するまでは俺が守ってやらないとな。このMPでは神級魔法は勿論打てない。聖級魔法でようやく1発撃てるかどうかというところだ。レベルが10になる頃には攻撃面に関しては問題なくなるだろうから、それまでの辛抱だな。
「そうだセラフィ、これ持っとけよ」
俺はアイテムボックスの中から導きの印を取り出してセラフィに渡す。導きの印はルピの店で買った念じるだけでこれがある場所が感じられる魔道具だ。
「良いのか儂が持ってても?」
「むしろ今まで何で渡してなかったんだろうって思うくらいだ。今のお前は本当に危ない身だから絶対に持っててくれ」
「ふふっ、そうじゃな。ではしっかりと儂を守るんじゃ」
「仰せの通りにお嬢様」
導きの印を首にかけてやり、芝居がかった口調で返事をして笑い合った。
「そうだ、もう1つ忘れてたことがあったな」
魔道具といえば精霊補助という魔道具があったのを忘れていた。
精霊魔法を使う時にラグを少なくしてくれる魔道具らしいが、実際どんな感じなんだろうか?
「ん? それは……ふむ、忘れておったな」
「やっぱり効果あるのか?」
「あるぞ。というよりも既に存分に効果を発揮しておったな。やけに精霊魔法がすんなりと使えると思っておったが、それの存在を忘れておった」
つまりアレか、アイテムボックスの中に入ってたのにも関わらず効果を発揮しててくれたのか。とんでもない魔道具だな。ルピには感謝せねば。
流石にこれ以上は忘れている物は無く、剣などもアイテムボックスに入れてたお陰か劣化していなかったので、装備に関しては大丈夫だ。
俺の使っている剣はオリハルコン製のそれなりに性能のいい剣だ。それでも、前に戦ったドラゴン相手だと少し物足りないと感じていたので、折角なので星鉄でさらに性能のいい物を今度新調しよう。
「よし、行くか!」
「うむ、付いて行くぞ!」
装備に問題が無いことを確認し終えて、俺とセラフィは外に出る。
ここからは秘境を出るまで気を抜くことは出来ない。セラフィを守りながら秘境の魔獣達を相手しなければならないので、ミスをすれば普通に死んでしまうだろう。
「まあ、こんなとこで死ねないけどな」
折角舞台を整えたのに、あっさりと死ぬわけにはいかない。俺は手始めに出てすぐに見つけた魔獣に突進していき、セラフィに精霊魔法で援護してもらって一撃で仕留める。
そこから流れるように俺は秘境の出口に向けて走り出した。常に周囲に意識を向けながら魔獣を倒し、やがてセラフィの魔法により火力も増して止まることなく突き進んでいった。
秘境を出る頃には俺のレベルが100に、セラフィのレベルが30程になっていた。
ここまでレベルが上がればセラフィは戦力として十分な役割を果たすことが出来る。俺にも多少の軽やかさが戻ってきた。
街に寄ることも考えたが、俺はもう我慢できない。異世界を全力で楽しむために帝都まで一直線に向かうのだった。
自由な女神「最近僕の出番が無い……新章では一杯活躍させてほしいな……」




