封印
次回から新章! プロローグって長さじゃなくなってしまったので章の名前を変更しました!
翌日、俺とセラフィは朝方に帝都を旅立とうとした。しかし、帝都を出る門の前には、帝都で知り合った人達、昨日別れを告げたソフィア達や少し大人っぽくなっていたスカット達が見送りに来てくれていた。
特に長話をした訳ではない、互いに今後の健闘を祈って気持ちよく別れた。
朝から嬉しい気持ちになりつつ、俺とセラフィは冒険者として登録した街に向かう。
今の俺ならば、半日経たずに辿り着くことの出来る距離だ。セラフィは光魔法により、自身の速度にバフを掛けているので、俺が全力疾走しても付いてくることが出来る。物理方面は貧弱なセラフィでも速度だけならば補うことが出来るのだ。
道中襲ってくる魔獣に関してはセラフィが魔法でサクッと屠ってくれるので本当に楽なものだ。結局、昼過ぎには街に着くことが出来た。
冒険者ギルドに顔を出してヒーツと久々の再開を果たす。
流石に歳を取ったと分かるくらいには老けたが、それでもまだまだ現役と言っている。元が冒険者だからだろうか、鍛えられた肉体はそう簡単には衰えないようだ。
そこまで長話をする予定はないので、セラフィには待っていてもらったのだが、俺が戻ってきた時には何とナンパをされている真っ最中だった。
若い冒険者3人に囲まれて声を掛けられているセラフィに話をまともに聞いている様子は無い。そのことに腹を立てたのだろうか、3人の内の1人がセラフィの腕を掴もうとしたところで俺は桁違いの素早さを活かして即座に割って入る。
セラフィを掴もうとしていた男の腕を掴み、多少力を込めながら殺気を放ってやると、男達は一目散に逃げていった。ちなみに殺気を受ける範囲内にいたセラフィだが、特に怖がっている様子もなく、俺が怒ったことが嬉しかったのか笑っていた。
セラフィは誰の目から見ても完全無欠の美少女だ。一緒にいる俺は今回の件を思うと胃が痛くなる。今後もこのようにセラフィが絡まれる機会は多くありそうだ。
まあ、誰が来ようがセラフィを渡すつもりは無いがな。こいつは俺の相方だ。
俺が冒険者を追い払った様子を見て、ヒーツが俺のステータスを気にしていたが、見せることはしなかった。信用していない訳ではなく、単純に話が長くなりそうだったからだ。
ヒーツに別れを告げて俺とセラフィはそのまま最初の村に向かう。帝都から街まで半日経たずで着いたのだ、村までは2時間掛からないだろう。
村に向けて走りながら思ったが、全力疾走しているのに全然疲れが来ない。何かしらのステータスが関係していそうだが、一体何のステータスだろうか? 俺のステータスはどれも高いので分かりづらい。ただ、セラフィも疲れている様子がないのでMPが濃厚だろうか? 結びつきは全く感じないが……
そんなことを考えている内に、あっという間に村に着いた。
俺の知り合いの中で一番生きているか心配だった婆さんだが、今でも元気よく婆さんをやっており? 俺のこともしっかりと覚えていた。
アルギや村の人達にも挨拶していると食事を持ってきてくれる。それをありがたく受け取り、お礼と言っては何だが、秘境で暮らしている時に魔獣の毛皮などで作った暖かい服をプレゼントする。
そして村全体にもお礼として魔獣の肉なんかを配って、俺とセラフィは村を出た。
「随分と急いだもんじゃな。もう少しゆっくりでもよかったんじゃないか?」
「いいや、これでいいんだよ」
「まあヨゾラがいいなら儂は何も言わんが」
「それよりも俺達は眠るのにいい場所を探さないとな」
この時代でやるべきことは終わった。これで安心して次の時代へと行くことが出来る。
「いい場所か……あの秘境という選択肢は無いのか?」
「無いという程でもないが、異種族の時代はあそこから始まるんだ。もしかしたら開拓されてく中で見つかっちゃうかもしれないだろ?」
「それはありそうじゃの」
後の候補としてはセラフィと契約した湖などもあるが、それも確実ではない。
「少しだけ探してみるか」
「うむ、それがよかろう」
それから俺とセラフィは人が立ち寄らなさそうな場所を探し回った。ただ、人が立ち入らないといっても、確実とは言えない場所ばかりであり、裏をかいて人里近くとも考えたが、それこそ少し開拓されただけで見つかりかねない。
ある程度は妥協しないといけないかと考え始めていた頃だ、グラヴィウス帝国の領地にある秘境の最奥で、主のいなくなった深い洞窟を発見した。
その秘境は俺とセラフィならば進むことは出来るが、一般人ではやはり厳しい秘境だ。その最奥となれば、まず人はやってこないだろう。
「後は魔獣が入ってこないようにだが……まあ何とかなるだろう」
秘境とは資源の宝庫だ。ゲームなんかでよくある希少金属であるオリハルコンや、さらに上の性能である星鉄まで取り放題である。それらの資源を使い、洞窟の最奥に決して崩れることのない要塞のような一室を作り上げた。
「うむ、良い出来じゃ」
生活に必要な物は一切ないが、豪華さだけはピカイチだ。普通に眠るのならばかなりの悪環境だが、別に気になることはないだろう。
「最後に何かやっておきたいことはあったりするか?」
「そうじゃなぁ……飯が食いたい」
「飯か。確かに腹減ったな、用意するか」
「茹で卵を忘れるでないぞ!」
「……分かってるよ」
どんだけ茹で卵が好きなんだこの精霊は……まあ美味いのは否定しないが。
俺は手早く食事を用意して簡易のテーブルと椅子も作りそこに向かい合って座る。セラフィは相当腹が減っていたようで、一気に飯を掻き込んでいく。
「なんか色々と台無しだぞお前……」
とても崇められている精霊だとは思えない様子に思わず苦笑してしまう。
「なあヨゾラよ」
「どうした?」
「おぬし、儂が肉体を得たばかりの頃に比べて随分と遠慮が無くなって来たな。初め儂を見た時なぞ見惚れていたくせに」
「それじゃあ言わせてもらおう……当たり前だ! 見た目は滅茶苦茶良いくせに普段の行動がポンコツ過ぎんだよ!」
「ぽ、ポンコツ!?」
飯となれば涎が垂れそうになり、食い始めれば気品もへったくれもない。寝てる時の寝相も最悪だし、あと歩いてるとたまにこけそうになったり、とにかく残念な部分がセラフィには多い。変に優雅過ぎるよりかはマシだが、遠慮が無くなっていくのは仕方がないだろう。
「言ってくれるのうヨゾラ! 儂はいっつもおぬしを支えてやっているというのに!」
「そりゃ助かってるわ! いつもありがとな! だがそれとこれとは別だ!」
「どういたしましてじゃ! ふぅ、にしてもやっと素が出たのぅ。儂はなヨゾラ、遠慮しろとも敬えとも言いたい訳じゃないんじゃ。もっと儂には素で接してくれてもいいんじゃないか? おぬしがそういうタイプでないのは理解しているつもりじゃが、寂しいものじゃぞ?」
急に寂しそうな顔をしてセラフィは言ってくる。確かに、セラフィに対して今までが素だったかと言われたらそうではない。気を遣っている訳ではないが、長年そうして生きてきたのだ、むしろ素を出さないのが身についてしまっている。
だが、相方がこう言っている以上は、なるべく素でいるように習慣をつけることにしよう。もしかしたら、その方が異世界は楽しめるかもしれないしな。
「悪かったな。ただ言っておくが俺の素は結構酷いぞ?」
「ほぅ? それは楽しみじゃ」
セラフィはどんとこいというようにニヤリと笑う。優しい相方だ、それでは遠慮なくいかせてもらおう。
「セラフィ」
「なんじゃ?」
「お前茹で卵食い過ぎだ! 何個目だよそれ!? 他のもんも食え!」
「ふぐっ!? あにをふふ!?」
一生茹で卵ばかり食べているセラフィの口に無理やり肉を捻じ込む。驚いたセラフィの手にある茹で卵をひったくってそのまま食ってやった。
「やってくれたのうヨゾラ……それならば儂にも考えがある」
セラフィは移動中に使っていた自身の素早さを上げる魔法を使ってとんでもない速度で茹で卵を食いだした。
「どうじゃ! 恐れ入っただろう? これが儂のほん!? っん~~!?」
「アホか……」
セラフィの暴走は茹で卵を喉に詰まらせるという結果で終わった。仕方がないので、俺が助けてやりそこからは普通の速度で食事をすることにしたようだ。
――――――――――
食事を終えた俺とセラフィは少しの間談笑しながら食休めをして、十分に身体が休まったところで向かい合う。
「さて、それじゃあやるか」
「うむ、準備はいつでもおーけーじゃ」
遂にこの時代との別れを告げる。余程のイレギュラーが起こらない限りは目を覚ますのは500年後となる。
「500年後の世界はどうなってるかなー」
「確実に大きく変わっておるじゃろうな。それが良い方向か悪い方向かは分からぬが」
「是非とも俺の望む方向で頼む」
「儂に祈っても仕方なかろう……ま、安心せい。どんな世界でも儂はおぬしの傍におるからな」
「当たり前だろ? 俺がお前を手放すわけがない」
「そうか、それは儂も安心じゃ」
俺とセラフィは互いに向けて手の平を翳す。こうしていると1人じゃないことを再確認できた。
「また500年後な」
「うむ、しばらくの別れじゃ」
擬人化の魔法は特に名前を付けていなかったが、封印の魔法には名前を付けていた。
俺とセラフィは息を大きく吸い込みその魔法を口にする。
「「新しい物語」」
ここから始まるのだ、俺の――俺達の本当の物語が。
魔法を発動させた瞬間に俺とセラフィの身体を水晶のようなものが包んでいく。それと同時に意識も急激に遠ざかって行った。
最後に見た光景は、優しそうに微笑むセラフィの顔。俺も返すように笑みを浮かべて完全に意識が消失する。
この日、時代から2人の強者が消えた。しかし2人が落とした雫は大きく、少しずつ世界は変わっていく。
長く停滞していた世界に落とされた雫は、主人公の望みに応えるように進路を進める。異世界らしくという曖昧な望みがどういう結果を生むのかは今はまだ分からない。神という絶対的な存在であっても例外ではなく、主人公とその物語に干渉しようと試みる数多の神は何も成すことが出来ずに拒まれた。
拒まれないのは主人公の意志により登場人物になった者と、物語という道に転がるイベントだけ。無理な干渉ではなく、明確なイベントとしてしか登場する権利はない。人は、世に存在する全てと出会うことなど不可能なのだ。物語の一部となれるように動くか、運任せしかない。
主人公、人から神へと至った存在、数多の神、道理の精霊、ルーディスに存在する生命。その全てが交わる時は果たしてくるのだろうか……
自由な女神「500年でどのくらいの変化があるだろうね? 僕にもちょっと予想出来ないや」




