別れ
短いですー
俺達は結局冒険者ギルドが閉まる時間まで酒を飲みながら話を楽しんでいた。
程よく酔いが回っており、全員が妙に饒舌になっている中でのお開きなので、どうしても寂しさは感じてしまう。
「ヨゾラさん、明日からはどうなさるんですか?」
冒険者ギルドを出たところでソフィアから今後のことを聞かれる。
俺は迷っていた。明日には帝都を出て、最初に世話になった村に向かおうか、それとももう少し帝都に滞在するか。
当初の予定では後者だったのだが、今日ソフィアとルピに迎えられてその気持ちが揺れていた。俺はこの時代でこれ以上何かを成すつもりはないので、さっさと別れを告げて立ち去るべきなのだろう。しかし、もう少しだけという気持ちが湧いてきてしまったのだ。
俺はすぐに返事をすることが出来ずにしばらく黙っていた。曖昧な返事では終われない、自身の中でしっかりと決めなければ。
何かを察しているのか俺から目を離さないソフィアを見つめながら、俺は答えを決める。
「明日には帝都を出る」
いなくなる人間がこれ以上その時代を生きる人間と共にいる訳にはいかない。それに、明日出発しなければ俺自身の決心が鈍ってしまいそうだ。
「いいのかヨゾラ? 儂はもう少しいても問題ないと思っておるぞ」
「いいんだセラフィ」
俺が迷っていたのが分かっていたようで、気を遣ってセラフィは言ってくれるが、それでも俺は考えを変えなかった。
ソフィアは一瞬だが寂しそうな顔を見せる。9年も俺のことを忘れずに再会して迎えてくれたのに申し訳ないとは思うが、立ち止まることだけはしたくない。
「ソフィア、それにルピも、久々に会えて楽しかったよ」
「ヨゾラさん……」
「また会おうとは、言えない。これが本当の別れだ」
絶対に再会することはない。人が500年も生きれるわけがない、俺とセラフィの封印が解けたときには2人はとっくに死んでいるだろう。
「ソフィア、色々とありがとう。帝都での活動が楽しかったのはソフィアのお陰だ。ルピ、買った魔道具には助けられた。あの店に行って良かったよ」
本当の別れだと実感させるような俺の言葉にソフィアは泣き出してしまう。ルピも、顔に表情が出にくいタイプだと思っていたが、寂しそうな顔をしていた。
「もう……本当に会えないのでしょうか……」
「――会えないよ、絶対に」
「そうですか……私も、楽しかったですよ! 会えなくとも、ヨゾラさんの活躍を期待しています!」
「元気でな、無茶をするもんじゃないぞ」
ソフィアとルピは精一杯の笑顔を見せてくれた。
「そうだ、最後にいるか分からないけど、プレゼントだ」
俺はアイテムボックスから綺麗に剥ぎ取ってあるドラゴンの爪と牙、それから鱗を取り出して2人に渡した。
急に出てきたそれが何かを2人は理解したようで、驚いている。
「何かの素材にしてもいいし、売ってくれてもいい。それなりに価値はあるはずだ」
「ありがとうございます。貰っておきますね」
「本当に驚かされるな」
素材を渡した俺はセラフィに目配せをして、もう行こうと伝えた。
「それじゃあ元気でな」
「はい! ヨゾラさんもお元気で!」
「頑張るんだぞ」
俺は2人に背を向けて宿に向かって歩き出す。決して振り返ることなく、ただ足を前に進めた。
――――――――――
ソフィアとルピはヨゾラとセラフィの姿が見えなくなるまでその場で背中を見つめていた。夜の冒険者ギルドの前で人はおらず、寂しさを感じる静けさの中、ヨゾラ達の姿が見えなくなってから聞こえてくるのは、我慢していたものが溢れたように出てくる嗚咽だった。
「そんなに泣くなら引き止めればよかったじゃないか」
「そんなこと……出来る訳ないじゃないですか!」
止めどない涙を流すソフィアにルピは優しさの籠った声色で今更なことを言う。
「全く、ソフィアが誰かを好きになるなんてな……そこまで付き合いが長かった訳でもないだろうに」
「仕方ないじゃないですか! 感情は時間じゃないんですよ!」
それまで誰かに恋愛感情など抱いたことはなかったのにも関わらず、ヨゾラを見た瞬間には気になってしまっていた。経緯などとくだらないことを気にしても意味がない、突如として自分の中に降ってくる感情にアレコレ理由をつけてもしょうがないのだ。
「ま、ソフィアの見る目は間違っていなかったと証明されたのは間違いないな」
9年という時を経て戻ってきたヨゾラは、ソフィアとルピの想像を超える程の男になって戻ってきた。それこそ冒険者としては世界最高峰というレベルにまでなって。
その後しばらくの間泣き続けたソフィアだったが、ルピを伴ってバーに移動する。今後ヨゾラがどのように活躍していくのか、そんな会話に花を咲かせるのだった。
自由な女神「何かを手に入れる為には何かを諦めなくちゃいけない。それをヨゾラ君はしっかりと理解してるみたいだね」




