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擬人化

「そういえばヨゾラ、異種族を生み出すといってもどのくらいの数生み出すんじゃ? 適当に少数を擬人化してはこの秘境では生きていけぬぞ? すぐに他の魔獣に殺されてしまう」


 拠点となっていた家から出て秘境の入り口部分に向かって歩いていると、セラフィがその辺はどうするんだと思ったのか聞いてくる。


 擬人化してもある程度の特徴は残るので、普通の人間よりは基本スペックは高いだろうが、それでも魔獣であった時と比べて戦闘力という面が低下してしまうのは予想出来る。種族として自然な流れで定着して欲しいと考えているので擬人化した後の手出しは極力控えるつもりだが、それで死んでしまっては意味がない。その辺を俺も失念していた。


「そうだなぁ……いっそその周辺の魔獣を全て擬人化させるか……」


 出来ないことは無いだろうが時間は掛かるだろう。MPの回復が早いと言っても、再使用までは10分はかかる。大量の魔獣を擬人化させるのには現実的とは言い難い。


「ふむ、そういうことならば儂も力になれるじゃろう」

「――どういうことだ?」


 どうするべきか悩んでいると、何か解決策があるようで、セラフィがにやりと笑う。


「儂らが生み出した擬人化の魔法を広範囲に影響が出るように発動するのじゃ。範囲の設定は行っていない以上精霊魔法でそれなりの範囲に効果が行き渡るようにすることもできよう。足りないMPも儂が供給できるしな」

「そんなことが出来るのか?」

「前者に関していえば確実に出来るじゃろう。儂の精霊魔法は応用が利きやすいからな。後者に関しては恐らくじゃ。この姿になってから何となく出来る気がしてな。儂とヨゾラのMPが共有じゃなくなった影響かもしれぬが……出来る予感はする」


 セラフィを擬人化してからの変化はそこまで把握出来ている訳じゃない。俺よりもセラフィの方が自身のことについては分かっているのだろう。そのセラフィが出来そうだと言っているのならばやってみる価値はある。


「それじゃあ頼めるか?」

「任せよ、おぬしのことは儂がしっかりとサポートしてやる」


 頼もしい相方の言葉だ。セラフィがいれば出来ないことは無いようにも感じるな。


 それから秘境の端までやって来た俺とセラフィは早速擬人化の魔法を広範囲に発動させることが出来るのか試してみることにした。

 擬人化の魔法を発動させる感覚は2度使用しているので問題ない。その感覚を周囲に広げるイメージを膨らませる。

 目には見えていないが、感覚的に約1キロほどの範囲ならば届きそうだ。勿論MPは阿呆ほど足りないので、セラフィが俺の背中に手を当ててMPを俺に受け渡す用意をしている。


 これだけの範囲に発動させるとなるとセラフィのMPを以てして足りるのか気になるところだが、もしかしたらセラフィは俺よりもMPが多いのかもしれない。ステータスを見てみたいが、俺は自身のステータスしか見れないので、今確かめる術はない。足りない分は2人分の自然回復が間に合ってくれるのを祈るばかりだ。


「いつでも良いぞ」

「それじゃあやるぞ。頼むなセラフィ」


 俺は擬人化の魔法を発動させる。発動させた瞬間に自身の周囲に効果が広がっていく感覚とMPが一気に抜け落ちていく感覚が同時に襲ってくる。しかし、MPが無くなっていくのを補うように、俺の中にMPが供給されていくのも感じていた。


「……セラフィ、大丈夫か?」

「問題ない、ヨゾラは魔法の発動に集中していろ」


 一瞬だったが、セラフィがきつそうな声を出したので心配になって大丈夫かと聞いたが、セラフィは心配よりも集中しろとのことだった。

 あまり無理はしないでほしいが、そう言われれば信じるしかない。俺は意識を魔法の発動に集中する。


 効果範囲が広がっていくのを感じながら、無数に引っかかりがあった。多分だが、効果範囲に入った魔獣が擬人化しているのだろう。抵抗感がある訳ではないが、どうしても変化が気になってしまう。


「ヨゾラ!」

「分かってる!」


 俺の集中力が切れそうになるとセラフィが叱咤してくれる。お陰で俺は集中を切らすことなく魔法を発動させ続けることが出来た。

 そんなことを続けること10分程だろうか、発動できる限界範囲まで発動しきって擬人化の魔法を切った。


「成功、したな」

「はぁ、はぁ……そうじゃな。何とかなってよかった」


 身体に疲労感は感じるが、俺以上にセラフィが疲れていた。精霊という特性が残っている以上、MPの大量消費はやはり辛いのだろう。


「今日はここまでか」

「いや、MPが回復すれば問題ない。今日中にこの一帯はこなしてしまおう」

「でも……」

「儂が問題ないと言っておるんじゃ、ヨゾラは心配せんでもよい。それに今やってみて感じたのじゃが、MPを一度に大量消費するとMPの最大量も増えるようじゃ、すぐに苦では無くなるじゃろう。これも精霊としての特徴なのかは分からんがな。肉体を得るまでは自身のMPを消費することなど殆どなかったからのう」


 思っていたよりも強情なセラフィを止めるのは無理そうだ。元からこのような性格だったのだろうか? 純粋な精霊だった時から俺のために色々と行動してくれていたので、今もそんな感じはするが。


 しばらく休憩していると言っていた通りセラフィに辛そうな様子は無くなった。それでもまだ心配だが、俺とセラフィは次の場所に向かうことにする。

 秘境の中を歩いていると話し声が聞こえてくる。それが気になって見に行ってみることにした。


「見ろヨゾラ、儂らの魔法は大成功じゃ!」


 見に行った先には、ウルフのような耳に尻尾を生やした人達が戸惑っている様子ながら人の言葉で会話をしていた。

 嬉しそうなセラフィの声を聞いて俺も嬉しくなってくる。今すぐにセラフィの手を取って踊り出したいような気分だった。


「――ありがとうセラフィ」

「お礼はまだじゃヨゾラ。おぬしの目指すのは種族として定着し、交流することじゃろ? まだまだ数百年は先のことじゃ。おぬしの目的が達成されたら存分に礼を尽くしてもらおうかの」

「ああ、勿論だ!」


 見た目だけでなく、性格まで良い女だ。俺が紳士じゃなかったら襲い掛かってるね。もしかしたら返り討ちにされるかもしれないが。


 喜びを噛み締めながら俺とセラフィは気付かれないように静かにその場を離れて次の場所に向かった。


 それから秘境内をくまなく回り、擬人化の魔法を発動させていく。次第に聞こえる声も増えてきて、世界を変えている実感も湧いてきた。

 回数を重ねている内に、セラフィは言っていた通りMPの最大値が増えているようで、俺にMPを供給してもそこまで疲れなくなっていた。今のセラフィであれば、大量にMPを消費するような魔法を連発しても大丈夫なのではないだろうか? 魔法に関していえば俺よりもセラフィの方がよっぽど優れているだろう。


 その日は結局日が暮れるまで作業を続けて拠点に戻った。


「今日で秘境の入り口部分の4分の1くらいは出来たかな? 段々速度も上がってるし、明後日には入り口部分は終わりそうだな」

「どの辺まで擬人化をするつもりじゃ? 恐らくじゃが秘境の奥に生息するような魔獣には弾かれてしまうぞ?」

「流石に秘境の全域をやろうとは思ってないよ。それこそ秘境の3割出来れば十分だろう。後は勝手に増えていくさ」

「それもそうじゃな。それはそうとヨゾラ、儂は腹が減っている? ようじゃ。初めての感覚なのであっているかは分からぬが」

「そういえば精霊だった時はその辺はどうしてたんだ?」

「そもそも必要が無かった」

「なるほど」


 人の身になった以上は食事や睡眠が必要になってくる。これまで必要では無かったものが急に必要になったので、セラフィもそれがどういったものなのか、まだ把握しきれていないのだろう。


 この拠点には生活する上で必要な物は取り揃えているので、料理に関してもそれなりの物を用意できる。ここは初めての食事を楽しんでもらうことにしよう。


「俺が飯を食ってるところは見てただろ? 何か食べてみたい物はあるか?」

「あの卵がそのまま固まった物が気になっておった」

「茹で卵か? 了解、作ってやるよ」


 流石に夕食で茹で卵だけというのは物足りないどころではないので、しっかりとした食事も用意して俺とセラフィはテーブルに向かい合って食事をする。

 初めての食事にセラフィは満足だったようで、とても喜んでいた。特に気になっていたという茹で卵が美味しかったようで追加で作ることになった。


 睡眠に関しても初めてのセラフィにとっては初めての経験のようで、今まで俺が寝ている時はずっと傍にいたからと俺のベッドに入ってこようとするセラフィをどうにか説得して用意したベッドで寝てもらい、久々の誰かと過ごす1日が終了した。


 そんなこんなで生活しながら擬人化を行っていき、2週間が経つ頃には予定していた範囲の擬人化が終了して、秘境内もそれなりに騒がしくなる。

 途中で何度か見つかって焦ったが、即座に逃げてやり過ごしたので大丈夫だろう。顔を見られても問題になるとは思わないが、出来ることなら俺という世界を変えた要因を知らないままに、ありのままの歴史を刻んでほしいのだ。


 目的を終えた俺とセラフィは、秘境を出て行く前に拠点を焼き払うことにした。


「未練は無いのか? 儂はこのまま残しておいても問題無いと考えておるが……」

「確かに寂しくはあるな。お前との思い出でもあるし、魔法を生み出してる段階で書いた資料も貴重だとは思うが、もう必要は無いだろう。俺が死ぬまでお前は一緒にいてくれるんだろ?」

「勿論じゃ。むしろ何処かへ行けなどと言われたら儂は泣く」

「そりゃ大変だ」


 寂しさを軽口でもみ消しながら、俺は魔法で家を焼いた。


「これからはどうするんじゃ?」

「世話になった人達に挨拶をして、それからは眠ろうかと思ってる」

「そうか……ではこの時代でやるべきことを済ませてしまおう」


 俺とセラフィは果ての秘境を後にする。まず向かうのはグラヴィウス帝都だ、ソフィアやルピは元気にしているだろうか? スカット達も冒険者としてどのくらい強くなったのか気になるところだ。

 久々に会う人達のことを思いながら、俺は久々の人が暮らす世界に戻った。


 神が不在となり、長く停滞していたルーディスは果ての秘境をきっかけに変革が齎されようとしていた。

 それがどのような変革になるのか、それは誰にも分からない。しかし落とされた雫は大きく、生半可な変革ではないのは間違いない。

 だが、どのような変革になろうとも、それがただ1人の物語の道筋であることだけは揺るがない事実だった。

 望んだ方向へと向かっていくのか、いずれにせよそれが主人公にとっての異世界になっていく。






自由な女神「セラフィのお陰で効率も十分だね! 流石精霊といったところかな」

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