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世界を変える魔法

 精霊魔法の力を借りて拠点作りは行われた。建築に対してそこまで深い知識は持っていない俺だったが、理級精霊の力というのは本当に偉大であり、何とも見事な家がそこには建っていた。

 多少とはいえ知識を持っている俺が家を作れない道理は無いだろうということだ。


 さて、本当ならば拠点を作ってからレベルを上げて魔法を生み出すための力を手に入れようと思っていたのだが、ドラゴンを狩った段階で条件は満たしていたようで、精霊からこれなら出来る可能性があるというお言葉を頂いた。

 ただ、前提としての条件が揃っただけで、すぐに魔法を生み出すことが出来る訳ではない。ここから様々な魔法の開発をして、少しずつ近づいていく感じだ。即座に生み出せる道理は無いようだ。

 精霊の見立てでは10年は掛かるということらしい。とても長い時間だが、俺は別にいいかと思った。

 元々簡単に出来ることではないと分かっている。それでも出来る可能性が出たのならば、どれだけ時間が掛かろうともやる、それが俺の物語だ。


 そうして俺と精霊の、世界を変える魔法を生み出す生活が始まった。


 人の世とは隔絶されたような環境での生活は、酷く孤独を感じることもあった。

 ソフィアやルピ、一緒に依頼をこなした奴らは元気だろうかと思うこともある。優しくしてくれた村の人達、温かい食事をくれた婆さんはまだ元気にしているだろうかと気になった。それでも俺は手を休めることはしない、孤独感は精霊と話しているお陰で限界まで来ることは無かった。


 目的の魔法を生み出すまでの道筋で、この世に存在しないような魔法をいくつも完成させた。原理も、何もかも俺と精霊しか分からない。使用することすら出来ないだろう。道理に反した魔法に道を少しずつ作って道理を通すのは簡単なことではない。きっと、クレーティオが神になった道筋の中にはこういった過程もあったに違いない。それでも神という存在に至ることが出来るとは、未だに思うことが出来ていないが。


 長い月日が流れ、秘境の生態系も変わってくる。俺という、この周辺の絶対王者がいるためか、奥に行かない限りはそれなりに平和な環境が築かれていた。

 魔獣が弱くなった訳ではないが、違う種同士でも仲が良さそうにしているのをたまに見かける。弱肉強食は今でもあるが、それでも共存という道が出来てきているのは間違いない。

 確実にこの秘境は、他の秘境に比べても特殊なものだろう。


 静かに、しかし穏やかではない時間がこうして流れていった――






 ――――――――――






 ――その瞬間が訪れたのはどれだけの時間が経った頃だろうか。日付を数えるために記録していたメモに目を向けると、8年と10ヵ月が過ぎた時だった。


「出来た……」


 遺伝子レベルの肉体構成の変更に言語理解、ストレス緩和などの補助効果も付けた魔法。ルーディスに存在する魔法の中では最も複雑に構築された道理にも反していない魔法だ。

 属性は闇、階級は神級だ。世界を変えるために生み出された神の如き魔法は確かに俺の中に存在した。


「やった……やった!」


 涙が零れてくる。これまでの人生で感じたことのない達成感と高揚感に包まれて感情が滅茶苦茶になっていた。

 長く付き合ってくれた精霊も喜びを表すかのように部屋中を飛び回っている。もし精霊に肉体があったら抱き合って喜びを分かち合っていたところだ。


 一通り喜びを嚙み締めた後、俺は今後のことについて考える。

 俺がこの魔法を生み出したのは、物足りない異世界をしっかりとした俺の思い描く異世界にする為。その為の要因として異種族の存在がきっかけになればと思っている。

 だが、異種族を生み出したとしてすぐに世界に浸透するわけではない。種族として確立されて世界の一部になる為には相当な時間が必要になるだろう。


 俺は不老不死ではない。人の寿命で俺の望む異世界を満喫するレベルには達しないだろう。

 だったら取れる手段は1つだ。


「世に異種族を生み出してから俺自身は長い眠りにつくか。幸いその為の魔法はある」


 目的の魔法を生み出す過程で生まれた魔法の中には、封印を施す魔法がある。その魔法もそれなりに作りこんだので、どの程度で封印が解除されるかの設定をすることも出来るのだ。


「自分に封印を施して500年くらい眠るか」


 方針は決まった。後は行動に移すだけだ。


「おっと、その前に……」


 俺は自分に作り出した魔法を使う。肉体構成を変える魔法なので、長い時間で老けた俺の見た目を元に戻すことも出来るのだ。

 肉体が若返っていくのを感じながら、俺は最初に擬人化される生物を考える。


「何が良いかな~、やっぱり猫っぽい魔獣かな。ケモミミは偉大だからな」


 悩んでいると精霊が何かを伝えたいのか俺の周りをせわしなく飛び出した。どんなに魔法を生み出しても精霊と会話できるようになる魔法は作り出せなかったので、未だに意志疎通は紙に書かれた文字で行っていた。


 俺は精霊と一緒に机に移動し紙で言葉を伝えてもらう。


 ま・ほ・う・つ・か・っ・て。


 魔法使ってという短い言葉、だがそれで精霊が何を伝えたいのかが分かった。擬人化するなら一番最初に自分をやってくれということだろう。


「いいのか? 精霊としての力を失う可能性も無くはないぞ?」


 も・ん・だ・い・な・い。う・し・な・う・ど・う・り・は・な・い。ほ・ん・し・つ・は・せ・い・れ・い・だ・か・ら。


 ここで道理を出されてしまえば断れない。こいつの言う道理には散々助けられた、ならば疑う意味もないのだ。

 それに、パートナーが望むなら叶えてあげたいしな。


「分かった。なら第一号はお前だ!」


 俺と精霊は向かい合う。先程自分に使った時は何とも思わなかったのに、どうしてか妙に緊張する。

 MPは回復している。問題無く発動できるはずだ。


 精霊に向けて手を翳して擬人化の魔法を発動させる。

 魔法を受けた精霊は光に包まれて、その形を変えていく。光に包まれた様子を見ていると、身長は小さいように見える。それに女っぽい身体付きだ。どうやら俺の精霊はメスだったようだ。


 やがて光が晴れて姿を現した精霊は、神秘的という言葉が似あう見た目をしていた。

 長いストレートに伸びた銀髪の右側の前髪に黒く流れている部分がある。可愛さと綺麗さを織り交ぜた顔には宝石のように煌めく黄金色の瞳と、中二心をくすぐる前髪の黒い部分と繋がるように走る紋章のようなものが右目から首にあった。


 俺が今まで出会った女の中で最も容姿が優れていると思っているのはクレーティオだが、目の前にいる精霊も負けないくらいの容姿を持っていた。


 思わず見惚れていると、精霊は自身の身体を確かめるように動かしていた。

 呆然と眺めていたが、その精霊が服を着ていないことを理解して我に返って目を背けた。


「ちょっ!? 精霊、服を着ろ服を! 目のやり場に困るんだよ!」

「ふむ、重さというものは感じたことが無かったが、何とも窮屈な感じがするものじゃ」


 初めて聞いた精霊の声はとても透き通った綺麗なものだった。


「それで、服じゃったな。確かこっちの方に……あったあった」


 精霊は服を入れてある棚の一番上から適当に服を引っ張り出して着る。ぶかぶかで相変わらず危ない感じがするが、裸よりはマシだろう。


「してヨゾラ、精霊などと呼ぶのは辞めよ。いい加減名前を付けてくれてもいいのではないか?」

「へ? 名前が欲しいのか?」

「当たり前じゃろ! いつまでも儂というパートナーのことを他の精霊と同じように呼びよって! ただ精霊と呼ばれるのは悲しいじゃろ……」


 やばい、精霊がとっても悲しそうな顔をしている。そんなに整った見た目の奴が悲しそうな顔をするのは反則だろ! 罪悪感でいっぱいだよ!


「ちょっ、ちょっと待ってろ! 今考えるから!」


 俺は何かいい名前は無いかと精霊のことを見つめる。

 こうして見てると本当に非の打ちどころがないくらい可愛い。天使でも見てるみたいだ。


「ん? 天使か……うん、これでいこう!」

「何かいい名前が思いついたのじゃな!」

「ああ、きっと気に入ると思うぞ」


 天使を思い浮かべてパッと出てきた。こいつにはピッタリの名前だ。


「お前の名前は――セラフィだ」

「セラフィ……セラフィか……うむ! いい名前じゃ! ありがとうヨゾラよ!」


 さっきの悲しそうな顔が嘘のように笑顔を浮かべるセラフィはまさにその名に恥じないものだった。


「そういえばセラフィ、何だか話し方が変わってないか?」


 紙で会話していた時は何というか片言というか、幼いような印象を覚えたのだが、こうして直接話していると尊大な感じだ。


「玉だった頃から儂はこの口調なのじゃがな……まあ聞こえておらんようじゃったから違和感を覚えるのは仕方なかろう。文字を示して会話する時は端的に伝えておったしな」

「悪い、セラフィの声は一切聞こえて無かった」


 もし色々と話しかけてくれていたのだとしたら、無視していたみたいで申し訳ないな。


「まあよい、終わったことじゃ。それよりもヨゾラは自身を封印するのじゃろ? 儂も付いていくからそのつもりでな」

「付いてくって、その身体で俺の中に入れるのか?」

「無理じゃろうな。だから儂にも封印を施せばいい、それともおぬしはパートナーを置いて行くのか?」


 そう言われると言葉が詰まってしまう。

 一緒に封印で先の世界に行くのはいい。むしろその提案は俺としても嬉しいものだった。アレ、断る理由が無いな。


「ちなみにセラフィに寿命ってあるのか?」

「そりゃあるじゃろ。人よりかは長く生きるかもしれんが、確実に死はくるな。それと肉体を得たから魔力の使い過ぎによる死以外にも普通に傷を負えば死ぬな」

「純粋な精霊だった時に比べて大分脆くなったな」

「まあ仕方あるまい。儂は後悔なんぞしておらん。ヨゾラと同様の肉体を得てむしろ嬉しく感じるくらいじゃ」

「まあ後悔がないなら良かったよ」


 寿命がある以上俺だけ封印されてセラフィに待っていてもらうということは出来ない。もし封印が解けた世界でセラフィが死んでたら悲しいしな。


「分かった。じゃあ一緒に行くか」

「うむ、そうこなくては」

「でもまだやることはあるからそれが全部終わってからな」


 異種族を生み出すこと、お世話になった人に挨拶しに行くこと、それから封印で眠る場所も用意しなくてはならない。まだまだやることは盛りだくさんだ。


「何から始めるんじゃ?」

「そうだな……まずはこの秘境の魔獣を片っ端から擬人化させるところから始めるか」


 俺とセラフィは2人で秘境の魔獣探しをする為に外に出た。

 この一歩が本当の物語の始まりだ。



自由な女神「9年近く頑張ったね……と思ってたら急にヒロインっぽいのが!? 僕の立場危うし……」

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