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精霊契約

 クレーティオと話したことで、完全に心配していたことも消え去った。世界に変革を齎す上で、クレーティオが何かを言ったのなら辞めた可能性もあるが、特に何とも思っていなさそうでよかった。


 無駄に寝たので相変わらず身体は怠いが、やる気の前には些細なことだ。俺は食事を済ませてから早速精霊についての研究資料がある場所を探しに聖都内を散策することにした。

 グラヴィウス帝国では、剣についての技術などは発表されているものは一般的にいつでも公開されている。普及しやすいようにまとめられて、保管されているのだ。

 これは人という敵がおらず、魔獣という人類共通の敵がいることに起因しているのだろう。国家間の仲が良く、犯罪等も少ないこの世界では強くなるための技術を秘匿する必要性が無いのだ。


 さて、情報収集をするなら冒険者ギルド――といきたいところだが、スプリトゥス聖国では他の国とは違い教会があり、そちらの方が都合が良いと既に調べが付いている。グラヴィウス王都である程度の情報は調べてきたのだ。

 スプリトゥス聖国というのは簡単に言ってしまえば宗教国家だ。何を信仰しているのかは分かりやすい、精霊だ。

 一応他の国から来た冒険者の為に冒険者ギルドもあるのだが、あまり機能的ではなく、冒険者が一般的に行うような依頼も教会に持ち込まれる方が多いので、実質的には教会が冒険者ギルドのようなものだ。


「お! あそこが教会か、分かりやすいな」


 明らかに教会という雰囲気の白く大きな建物が見えた。人の出入りも多いので間違いないだろう。


 中に入ってみると、冒険者ギルドに比べて清潔感があり、役割ごとにいくつかの部屋に分かれているようだが、大きな通路の奥には祭壇がありまさに教会という感じだ。祭壇の前ではそれなりの数の人達が祈りのようなものを捧げていた。


 俺も良いことが起こるように祈りでも捧げておこうかと思ったが、辞めておいた。別に精霊を信仰しようという気持ちはないし、そんな信仰心もクソもない奴がすることでもないだろう。


 情報を纏めてある場所を聞こうにも、教会内のどの部屋がどんな役割を果たしているのかが分からないので、とりあえず人が多く入っていく部屋に入ることにした。


「おー、これは……見たことのある光景だな」


 魔獣が張り出された掲示板に依頼が張り出された掲示板。いくつかあるカウンターには美人な受付嬢。どこからどう見ても冒険者ギルドだった。

 騒がしさはないが、帯剣した者達は多い。他にも違いがあるとすれば、その人達の周りに飛ぶ光の玉だろうか。


「アレが精霊か」


 一目見ただけで精霊だと分かった。逆に精霊じゃないならなんなんだという感じには精霊だ。

 帝都では一切見なかったが、聖都では一般的なのだろう。精霊を連れていない者は1人もいなかった。

 こうして連れている者が多くいるのならば、精霊を使役するのはそこまで難しいことではないのだろう。使役する方法が分かれば今すぐにでも実践したいが、適当に使役して俺の知らないことが後から出てきたら最悪なので、情報収集だけは怠らないようにしよう。現段階で精霊は俺にとっての希望だ、生半可なことで挑みたくはない。


 俺は情報収集のために空いているカウンターに向かった。


「少しいいか?」

「はい、どのようなご用件でしょうか?」

「精霊について詳しく知りたい。研究資料などが纏めてある場所に行きたいんだが、いい場所を知らないか?」

「でしたら教会内の書庫を利用するのがいいと思いますよ。場所はこの部屋の2つ隣です」

「そうか。助かったよ、ありがとう」


 俺はお礼を言ってカウンターに銀貨を1枚置く。一度でいいからこういうのをやってみたかったのだ。

 受付嬢は驚いたような顔をしていたが、俺はニコッと笑ってからその部屋を後にする。これは後になって恥ずかしくなる予感がした。


 なるべく忘れるように脳に言い聞かせて書庫の中に入る。

 書庫には全く人はおらず、扉も他の部屋と違って閉められているためとても静かだった。何かを調べるには最適な環境と言える。


「にしてもこの量は凄いな……」


 軽く見た感じだと精霊関連のものしか置いていないのにも関わらず、その量は帝都で色々なことを調べるために使った施設と同じくらいの物量がある。宗教国家の本気を感じられた。


「片っ端から目を通していくか……結局聖都まで来るのに追加で金は使ってないし、しばらくは何も依頼を受けなくても問題ない。時間も有り余ってるしな」


 その日から、俺は連日教会に通った。毎日毎日朝にやってきては夜まで書庫に籠る俺は少しの噂になり、声も掛けられるようになった。初日にチップを渡した受付嬢ともそれなりに仲良くなり、教会が閉まる時間に呼びに来てくれるようになったどころか、食事まで運んでくれるようにまでなったのには驚いた。勿論食事の金は渡しているし、受付嬢にもお礼で追加のチップも渡している。win-winの関係だ。


 そんな調子で知識を取り込んでいれば、精霊のことも大分分かってくる。


 精霊は魔力で構成された生物であり、肉体という物は存在しない。それでも死なないという訳ではなく、魔力を取り込めなくなる状態が長く続くと消滅してしまうらしい。

 これが、精霊が人間と契約する意味でもある。人は精霊から力を借りて、精霊魔法というものを使えるようになる一方で、精霊は人という魔力源を手に入れる。互いに利益があるからこそ契約が成立する。あくまで人に使役されている訳ではないようだ。


 そして肝心の精霊魔法だが、これには精霊本体に色々と左右されるらしい。

 まず、精霊には魔法と同様の5つの属性がある。ただ、別に属性に対応した精霊魔法しか使えないということは無く、ただ得意な属性というだけであり、そこまで大きな差はないようだ。

 肝心なのは階級。創級、導級、崇級、理級と分かれており、どの階級かで扱える精霊魔法に違いが出てくる。


 創級は錬金術や、鍛冶、魔法具を作る為の魔法を強化してくれる。錬金術というのがどんなものかとても気になるが、今はどうでもいいことだ。


 導級は支援系の魔法が扱えるようになる。周囲を探れるサーチや様々な魔法を使えるようになる他、回復魔法やバフ系の魔法が強化されるらしい。


 崇級は攻撃系の魔法が強化されたり、精霊魔術の中でも特殊な攻撃精霊魔法を使えるようになる。攻撃精霊魔法の特徴としては、攻撃範囲が普通の魔法の比にならない程大きいらしく、扱い方を間違えると、小さい村くらいなら1発で消し飛ばしてしまうらしい。


 そして理級だが、これについては殆ど情報が無かった。使役したという前例がまるで無いらしく、どのような恩恵を齎してくれるか、そういったことも何もかもが分からないという状態だ。

 存在自体は間違いなくしてるらしく、精霊は基本的に使役されなければ人の目では見れないが、理級精霊は目撃情報があるらしく、人に頼らずとも目視出来るほど力を高められる大きな存在として半ば神のようになっているらしい。


 ちなみに今並べた順番が精霊としての順位であり、崇級と契約しているのは聖国の聖女と呼ばれる存在だけなのだそうだ。

 聖女も色々と気になるが、それも今は関係無いことだ。


 こうして精霊の特徴を知ってから、俺に必要な精霊を考えると一番順位の低い創級だろうか? 創級と導級は使役している人口がほぼ同じなのだそうなので、50%の運任せになりそうだ。

 属性はこの際気にしない。得意属性と言っても殆ど変わりはないそうなので気にしても仕方ないだろう。


 とりあえず知りたいことは知れた、後は精霊契約についてだ。

 多くの資料に綴られた何に必要なんだという研究結果が書かれた資料を飛ばしていき、精霊契約について詳しく書かれている資料を探す。


「お? これかな」


 精霊契約の実証例とやり方というタイトルの資料が目に留まり、それを開く。

 そこには、一般的な精霊契約のことや、変わったやり方で精霊契約を行ってみた結果などが書かれていた。


「まずは一般的な精霊契約からだな」


 一通り目を通してみたが、一般的な精霊契約は難しいことは何もないようだ。

 自身の血を宙に撒き、精霊を呼び寄せる言葉を言った後に自身の名前を言う。それを行って精霊が見えたら、その精霊との契約が成立したということになる。

 精霊を呼び寄せる言葉は何でもいいらしく、精霊と契約する目的や、自身のやりたいことを叫んだり、精霊と交渉するような言葉でも構わないのだという。随分と適当だとは思うが、これで契約が成り立つのだから問題は無いのだろうが……


 ちなみに変わった契約の仕方はあまり参考になりそうなものはなかった。

 血ではなく唾液や、精液で代用した下品なやり方から、他人の名前を使ったりと、頭がおかしいんじゃないかと思うようなものばかり。

 結果も、契約出来たり出来なかったり。ただ、この実験で分かったことと言えば、精霊は1匹? としか契約出来ないということ。

 普通の契約では、契約が成立した後に別の精霊と契約しようとしても成功することは無い。他の変わったやり方をしてもそこは変わらないようだ。


「一発勝負かー」


 正直怖い。創級と契約したいと思うが、自分で選ぶことは出来ない。運が悪いとは思っていないが、それでも50%となると引けないと思ってしまう。


 何か確率を上げる方法が無いか探してみたが、それらしき情報は一切出てこなかった。

 俺は悩んだ結果、一般的な方法で契約を行うことにする。仮に創級ではなく、導級が出てきた場合は出来る範囲でどうにかしよう。


 俺は精霊契約を行うための場所について考えた。

 聖国では森の中で行うのが一般的なようで、聖都内で血を撒き散らかしたりはしない。

 精霊について調べるのを切り上げた俺は、折角ならば思い出に残るような場所で精霊契約を行いたいと思い、依頼をこなしながらいい感じの場所がないか探し回った。


 そして依頼の魔獣が中々見つからずに、夜になってしまって森の中での野営をしようと考えていた日にその場所に辿り着いた。


「ここは……」


 森の中隔離されるように存在する湖。月明かりに照らされて幻想的な雰囲気を醸し出しており、まさに絶好の場所と言えた。

 湖を覗き込むと綺麗な水に俺の顔が反射して映る。今思えば、これがルーディスに来てから初めて見る自分の顔だ。と言っても、地球にいた時と何も変わってはいないが。


 俺は野営の準備も忘れて精霊契約の準備を始める。湖畔の淵に真っ直ぐ立って、自身の右手首を斬り裂いた。

 痛む手首もこの景色の美しさに忘れてしまいそうだ。斬り裂いた右手首を湖に向けて振り、流れ出る血を飛ばす。

 宙に舞う真っ赤な血は月明かりに照らされて輝きながら湖に落ちていき、綺麗な水の一部を赤く染める。それを確認してから、俺は大きく息を吸い込んだ。


「優しく自由な女神に新たな生を与えられた俺の物語……その物語の一部として俺と共に世界に可能性を落とす精霊よ、力を貸してくれ! 俺の名は――ヨゾラ!」


 精霊の力は俺が物語を紡いでいく上で重要なパートナーになる。クレーティオが俺の物語にとっての最重要キャラなのは間違いないが、精霊もそれに劣らないくらい重要なのだ。

 今更祈りはしない。これから現れる精霊が俺の物語にとって必要な存在となるのだ。祈って手に入れようとは、思わない。


 湖を真っ直ぐと見つめる。その目線の先、光輝く精霊が姿を現した。

 手を伸ばすと、精霊はゆっくりと近づいてくる。なんだろう、戸惑っているように見えた。


「――お前が、俺のパートナーか」


 声を掛けると、精霊は嬉しそうに俺の周りをグルグルと回り始める。契約が完了したのは間違いなさそうだ。


「これからよろしくな!」


 精霊は感情表現だろうか小さく点滅すると俺の肩辺りに移動する。

 俺はどの階級の精霊と契約したのか確認するためにステータスを開いた。


「――はっ!?」


 ステータスを見た俺は思わず変な声を上げてしまった。



【ヨゾラ】

 レベル82 HP926 MP1231 攻撃798 防御703 特功1007 特防488 素早さ916

 精霊:理級光精霊

 魔法:王級光属性 理級精霊魔法

 称号:ヨゾラの作者 (ことわり)を歩む者

自由な女神「精霊というのは神とはまた違った特殊な存在なんだ。僕たち神でもその全容を理解しきれないって言えばその特異性は伝わりやすいかな? ヨゾラ君と同じく神の意図せずに生まれた存在でもあるんだよね。だからこの出会いは、きっとヨゾラ君にとっては大きな意味を持つことになると思うよ」


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