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物足りない

 俺は魔道具を買いに行ってから数日、この世界のことを調べていた。


 まず初めに手を付けたのは国同士の関係についてだ。

 俺が今いる帝国は、地球の創作物だと軍事国家として描かれていることが多く、常にどこかの国と戦争しているようなイメージがあった。

 ルーディスにおけるグラヴィウス帝国というのは、実力を重視しているが別に軍事国家という訳ではなく、ルーディスに存在する国――()()()()()()とスプリトゥス聖国との関係は良好らしい。

 何というか、戦争が良い物ではないのは分かっているが、異世界として見るならば物足りないというのが正直なところだ。ただ、帝国から他の国に行くのにしがらみがないことを思えばいいことだろう。


 次に、先に名前が上がったレジケル王国とスプリトゥス聖国について調べた。

 この3国の明確な違いがあるとするなら剣と魔法と精霊だろう。

 剣のグラヴィウス、魔法のレジケル、精霊のスプリトゥスといった感じだ。バランスが良いことだ。


 魔法と精霊について詳しく知りたい俺としてはすぐにでも他の2国に行きたいくらいだった。


 そして、俺は帝都で調べられることを全て調べ終えた頃には、帝都を出発する準備をしていた。ここまで俺を急がせたのは、最近すっかり忘れていたことが原因となっている。


「魔族も獣人も魔王も勇者もいないなんて……ただ文化が変わって動物が凶暴になっただけで地球と大して変わらないじゃないか!? こんなのが異世界なんて認めないぞ!」


 そう、異世界において最も楽しみにしていた要素が一切無い。百歩、いや千歩譲って魔王と勇者がいないのは、辛うじてギリギリ許しがたいが許してやらないこともないが、異種族がいないのはダメだろ。男のロマンを何だと思ってるんだと是非ともこの世界を作った神に説教してやりたい。


 あまりの絶望感にまる1日寝込んでしまったが、諦めきれなかった。ステータス画面に出ている称号ヨゾラの作者が俺に許すなと言っているようだった。

 俺が作者の俺が主人公の作品に俺が望んでいるものが殆ど出てこないのは許されない。どうにかして異種族を、いやそれ以外の異世界すらも自分の手で生み出して見せる。


 世界を変革する意志を固めた。


 誰に何と言われようと構わない。ただ人々の自由だけは決して奪うことのないようにしなければ。そうなってしまえば、人を好き勝手おもちゃのように扱う神と同じになってしまう。俺がしなければならないのは奪うことではなく与えること。この物足りない異世界に可能性の雫を落とすのだ。


 世界の変革に必要なのは剣ではない、既存の魔法でも無い。魔法の可能性を広げるという意味で精霊が必要になってくる。

 生物を擬人化させる魔法を作ることが最終的な目的となってくる。そんな魔法は勿論存在しない、自分で作り出すしかないのだ。


 だが、1度生まれ落ちた生物を人として再誕させるのは、流石に魔法の力だけでは不可能だろう。それこそ神業だ。

 その不可能を可能にする為には、精霊の力が必要だ。厳密に言えば、精霊の力を借りても不可能かもしれないが、少しでも手札を増やしておきたい。


 次なる目的地はスプリトゥス聖国だ。急の出発で何も手土産は用意出来ていないが、世話になった人への挨拶に行く。

 冒険者ギルドに入ると、もはやそこにいるのが当たり前だという信頼が湧きつつあるソフィアがいた。


「こんにちはヨゾラさん! 久しぶりですね、今日は依頼ですか?」

「いや、依頼は受けないよ。今日は挨拶をな」

「挨拶?」

「ああ、今日中にでも帝都を出るからな。ソフィアには世話になったから、挨拶だけでもしていこうと思って」

「急ですね……行き先は決まっているんですか?」

「スプリトゥス聖国に行く。精霊が必要になったからな」


 ソフィアは俺の顔を真っ直ぐに見つめてくる。何を考えているのかは表情から読み取ることは出来ない。


「そうですか……寂しくなりますね。でも意志は固そうなので笑顔で見送ろうと思います」

「ありがとうソフィア。ほんと、世話になった」

「いえ、私が焼いた世話なので」


 寂しそうにしつつも笑顔を見せてくれるソフィアに申し訳ない気持ちが込み上げてくるが、俺の意志がブレることは無い。


「やはりいたか。久しぶりだヨゾラ」

「ルピ? どうしてここに?」


 俺とソフィアの間に割って入るようにルピが顔を出した。


「私が何故ここにいるかって? 勘だ。今日ヨゾラが何か行動を起こす気がしてな」

「ルピは昔から変に勘が働くんです」

「それで? ヨゾラは何をするんだい?」

「スプリトゥス聖国に行きます。今日中に出るつもりです」

「ほぅ……」


 ルピは俺とソフィアの顔を交互に見る。


「行ってこいヨゾラ、何も気にすることは無いぞ。また帰ってくればいいだけの話さ。美人2人に見送られるんだ、福も付いてくるだろうさ。――ほれソフィア」

「いってらっしゃいヨゾラさん。帰ってくることをお待ちしています」

「ソフィア……ルピ……」


 それは激励だった。自身のやりたいことを思う存分やってこいというとても心強く暖かい。


「必ずまた帰ってくるよ。それまで元気でな」


 俺は振り返らず冒険者ギルドを後にする。次にここに来る時は俺のやると決めたことを終えた時だ。






 ――――――――――






 俺は一旦宿に戻りスプリトゥスまでの道のりを決める。

 国から国を渡るのには流石に時間が掛かる。今回は自身の足で向かうのでどんなに急いでも1月は掛かるだろう。金がもつか心配だが、いざとなったら金を稼げるようにいくつかの街にも寄るようにルートを決めて、最後に数日分の食料をアイテムボックスにぶち込んで門までやって来た。


「おーい! ヨゾラ!」


 門の前で俺を待っていたのはストロングアントの討伐で知り合い、仲良くなった冒険者パーティーの3人だった。


「スカット!? それにクレイとイツネまで……一体どうしたんだ?」

「どうしたんだって……水臭いじゃないか。挨拶くらいさせろよ」

「そうです! いつか帝都を出て行くって聞いてましたけど、あまりにも急すぎです!」

「うん」


 どうやら話によると、俺が冒険者ギルドを出て行った後に入れ違いでスカット達は冒険者ギルドに来たらしく、ソフィアに話を聞いて急いでここまでやって来たそうだ。


「ヨゾラ、お前はいつか有名な冒険者になるかもしれないと思っている。だからさ、もっとでっかい男になって帰ってこい! まだまだお前はそんなんじゃないだろ?」

「ヨゾラさんならどこまででも上にいけます! 頑張ってください!」

「待ってる」

「みんな……そうだな、待ってろ! 俺はドラゴンよりもでっかい男になってくるさ!」


 短い付き合いとはいえ、俺はこいつらと確かに友達になっていた。その友達に自慢できるくらいの成果を持って帰ろう。


「行ってくる!」

「行ってこい!」「行ってらっしゃい!」「行け」


 3人に見送られながら俺は帝都を後にする。


 道に沿って進んでいき、途中からは森に入った。安全面を考慮するならば整備された道を進んでいくのがいいのだが、なるべく早く辿り着きたいのならば多少の危険は冒しても森を突っ切ったり山を越えたりするのがいい。


 1日で森を抜けることは叶わなかった。後数時間すれば森を抜けられるだろうが、夜間に森の中を進むのは流石にしない。道中でも10回以上は魔獣に襲われていることから、それなりの数の魔獣がこの森に生息していることが分かる。昼ならばどうとでもなるが、夜の視界が不安定な状態で襲われたら対処しきれなくなるかもしれない。


 野営をする為の用意もしっかりとしてきたので、今日はここまでで休むことにした。






 ――――――――――






 スプリトゥスに着いたのは帝都を出た2か月後だった。

 近道出来るルートだからと見誤っていた。数えるのが嫌になるくらいの回数魔獣に襲われてそれを倒してと進んでいれば、そりゃあ時間も掛かる。それでも順路を来るよりかは早かっただろうが、楽さで言えば比にならないくらい順路の方が楽だっただろう。


 俺は聖都の外からでも見える巨大な大樹を見上げる。スプリトゥス聖国は他の2国のように多くの街が領地としてある訳ではなく、聖都の土地に当たる殆どが森となっている自然豊かな国だ。あるのは小さな村くらいでスプリトゥス聖国に来るとなれば聖都以外の選択肢は無いと言って良い。


 俺は聖都の中に入っていく。聖都内も自然が豊かに広がっており、まるでエルフの国といった感じだが、勿論普通の人間しかいない。


 俺がまず向かったのは目に付いた宿だった。結局街には一度も寄らなかったのでここまでの道のりを全て野宿で過ごした。食事は狩った魔獣を焼いて食べていただけだし、硬い地面で寝ていたので、しっかりとした食事とベッドが恋しかった。


 入った宿はそれなりに設備が良く、食事も美味しかった。

 腹が膨れた俺は身体を綺麗にしてからベッドにダイブすると気絶するように眠りについた。


 目を覚ましたのは次の日の夜。まるまる1日寝て過ごしていたため身体が怠い。

 身体を解しながら、俺は聖都の中を見て周ることにして外に出る。夜ということで静まり返った聖都は、まるで森の中にいるような不思議な感覚だったが、魔獣が出てこないというだけで安心感が違った。


 本当だったらすぐに精霊について調べたかったが、資料などが纏めてある図書館のような場所がこんな時間に空いている訳がなく、仕方がないのである程度見て周ってから宿に戻った。


 やることが無いので、久々にクレーティオと話せないかと無理やり寝る。


「久しぶりヨゾラ君! 会いたかったよ~」

「本当に話せたよ……」


 白い空間の中に前に見た時と様子の変わらないクレーティオがいた。ダメもとで会えないかと寝てみたが、本当に会えるとは思わなかった。


「久しぶりクレーティオ。少し聞いておきたいことがあってな」

「ん? なにかな」

「生物を擬人化させる魔法を作ろうと思うんだけど、大丈夫かな? そもそも作れるかな?」

「んー、別に問題は無いと思うよ。私は反対じゃないかな。それと作れるかだけど、それはヨゾラ君次第だとしか言いようがないね」

「ちなみにクレーティオはそんな感じの魔法を使えるか?」

「無理! 死んだ生物の魂を人として世界に落とすことは出来るけど、生きている生物を根本から変質させるのは僕には出来ないかな」


 クレーティオならばもしかしたらとも思ったが、俺が考える方法での変質は出来ないようだ。


「まあやるだけやってみるのがいいんじゃないかな? それもヨゾラ君の物語の一部だよ」


 万が一クレーティオが止めるのだとしたら諦めようかと考えていた。でもクレーティオが止めないということは、自由を奪わないことだっていう証明だろう。だったら俺は何としてでもやり遂げる。


 後考えるべきことは対象に痛みやストレスを与えないこと。言語などの問題か。


「応援してるからね! いい報告を期待してるよ!」

「そういえばそっちは大丈夫なのか? 俺を横から掻っ攫って他の神に目を付けられてるんだろ?」

「今のところは問題無いね。僕は強いからさ、安心してよ!」


 クレーティオの様子を見るに嘘ではなさそうだった。俺のせいでクレーティオが大変な目に合うのは嫌だからな、何ともないなら良かった。


「僕に聞きたかったのはそれだけかい?」

「そうだな、他には特にない」

「じゃあお茶にしよ! 久々なんだからゆっくりしていってよ」


 相変わらずマイペースな神様だが、それが心地良くて俺は何だかんだ長いことクレーティオと談笑した。

 明日からはまた忙しくなる。この物足りない異世界を変えるために頑張ろう。


自由な女神「やっと大きく物語が動き出しそうだね。こんな物足りない世界に送ってごめんねヨゾラ君……」

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