閑話:これから一緒に
部屋に戻ってきたアノンは、ベッドに横になり今日のことを思い出していた。
祭りに参加すること自体は珍しい話では無い。だからこそ、自分がいつもよりも祭りを楽しんでいたことがはっきりと分かった。
勿論、祭りの内容でどれだけ楽しめるかが変わるのはそうなのだが、今回は内容でそれほど左右されていた訳では無い。
当然、祭り自体もとても楽しめるものだったのは間違いないのだが、それ以上の要因があったのだ。
「先輩と2人でお祭りを回れて嬉しかったなぁ……」
ヨゾラは頼れる先輩だが、今更言うまでもなくそれ以上の感情がある。
アノン自身その気持ちは自覚しており、そこまで過度なアピールはしていないものの、抑えきれずにそれが出てしまう場面も多々あった。
祭りの最後……今もアノンの近くを飛ぶ精霊レクトとの契約の際は特にそうだっただろう。
意識するとヨゾラに握ってもらっていた手の感覚を思い出して顔が熱くなってくる。
不安だったのは間違いないが、見守ってもらうだけでも良かったはずなのだ。それを思うと下心も出ていたのかもしれない。
熱くなった顔から意識を外すようにアノンはレクトに触るように手を伸ばす。
「私の呼びかけに答えてくれてありがとう、レクト……」
レクトは何も言葉を発することは出来ないが、アノンが伸ばした手に触れるように近寄る。
アノンは心の内を言葉として呼びかけた。その呼びかけに答えて現れてくれたことが、アノンは本当に嬉しかったのだ。
セラフィからレクトが近くにいるという話を聞いた時に、絶対に契約したいと思った。自身が生み出すきっかけとなったということもあるが、レクトであればいざという時にヨゾラの助けになるための力になってくれるという確信があったからだ。
ヨゾラは強い。それは実際に本気で戦ったアノンが一番よく知っているし、結果から見ればアノンの勝ちのようで終わった戦いで、2人共のことを知っている者や世間一般的な認識として、ヨゾラよりもアノンの方が強いと言われているが、当のアノンは絶対にそんなことは無いと思っている。
仮にもう一度本気で戦ったとして、ヨゾラに勝てるビジョンが全く見えないのだ。
そんな勇者であるアノンすら凌駕するヨゾラも無敵ではない。
それこそ、先の戦争では一歩間違えば死んでいた。なんなら死にかけていた。
表には出さなかったが、アノンは己の力不足を心の底から悔やんでいたのだ。
もし自分にもっと力があれば……英傑相手に時間を取られずにいれば、ヨゾラの助けに行けたのに……
本来ならば、あれだけの人数の英傑相手に大きな傷を負わずに2人で倒しきれたというのはとてつもないことなのだが、アノンはそれでも納得出来なかったのだ。
ヨゾラは知らないが、あの戦争からアノンは更に力を求めて常に高みを目指していた。
次があればヨゾラの隣で戦う為に。もうボロボロのヨゾラを見たくないという思いを抱きながら……
「本当なら、あんなこと無いのが一番いいけど……でももし何かあれば次こそは……」
どれだけレベルが上がっても、ステータスが向上しようとも何かが足りない気がずっとしていた。
その足りないものを埋めてくれるかもしれないと、以前より願っていた精霊との契約がどうしてもしたかったのだ。
「私は大好きな先輩の力になりたい。だから、これから一緒によろしくね、レクト!」
戦争が終わってからずっとアノンの中にあった不安と焦燥感は消えていく。
手に中で頼もしく揺れるレクトを見て、アノンは笑い、それからは今日の楽しかったことを何度も思い出すのだった。
自由な女神「アノンちゃんは元々ルーディスでは最強格なんだけどね……ヨゾラ君の敵はきっとこれからもっと大きくなっていくから、きっと新しい力で助けてくれるかもね!」




