冒険者仲間
全てのストロングアントを討伐した俺とスカット達は、倒したストロングアントの討伐証明部位を剥ぎ取り終わった後、すぐに帝都に戻ってきた。
戦闘に関しては、特に何も言うことは無く、問題無く倒すことが出来た。
3人とも正直言ってしまえば俺には及ばないくらいの戦闘能力だったが、それでも与えられた役割はしっかりとこなせていたので、余計な手出しなんかはしないで大丈夫だった。
パーティーで受けるような依頼をパーティーを組んでいない俺に丁度いいと言われた理由は戦いを見れば一目瞭然だった。仮に、この3人が依頼を受けておらず、俺1人で依頼をこなすことになっていたとしても何とかなっただろう。
報酬については話し合った結果、均等に受け取るということで落ち着いた。最初はスカット達に多く受け取ってくれと言われたが、昨日から依頼を進めていたスカット達よりも多く貰うのは気が引けた。金が必要だとは言っても、そんな意地汚いことまではしたくない。助けてくれたお礼だからというスカット達をどうにか説得したのだ。
それに、今の俺は手ぶらだ。何故かというと、スカット達に討伐証明部位を全て持ってもらってるからだ。
収納袋――ようはアイテムボックスみたいな魔道具を持っているらしく、討伐証明部位はその中に入っている。
聞けば、そこまで欲張った容量でなければ金貨20枚くらいで買えるらしく、スカット達は冒険者パーティーとしての活動資金の中から出して買ったと言っていた。
俺も時間が余った時に魔道具を売っている店に行って買おうと思う。値は多少張るがそれ以上の稼ぎを齎してくれそうだ。
「あ! お帰りなさいヨゾラさん!」
冒険者ギルドに戻ってきた俺達に気が付いたいつもの(と言ってもまだ2日)受付嬢が小さく手を振りながら俺に声をかけてくる。
「ただいま……えーっと、今更だけど名前は?」
「ソフィアです!」
「ただいまソフィア」
名前を知らないことに今更ながら気が付いて聞くと、ソフィアは相変わらずの笑顔で教えてくれた。
短期間で随分と仲良くなった? 気がする。その証拠にスカット達がジト目を向けてきていた。
「あー、依頼は終わった。討伐証明部位を出してもいいか?」
「はい! どうぞこちらに」
ソフィアに先導されて俺達は討伐証明部位を仕分けしている部屋までやってくる。小さい魔獣の討伐証明部位ならばカウンターで出しているのを見るが、ストロングアントは3メートル程ある体の内半分を占める顎が討伐証明部位になる。数もそれなりにあるのでカウンターには乗り切らない。
スカットは指定された場所にストロングアントの顎を出していく。
最後まで出し終えてから数えてみると、数は36あった。俺が来てから倒した数が25なのでスカット達だけで倒したのが14。もしスカット達だけだったらもう1日かかっていたかもしれないな。
「確認しました。それでは査定が終わるまで少々お待ちください」
俺達は査定が終わるまで暇なので先に食事にすることにした。時間的にも日が落ち始めたくらいなので丁度いいだろう。食費は報酬から差し引いてもらうことが出来るみたいなので、会計も便利だ。
「ヨゾラ! 酒は飲むか?」
「酒かぁ……どうするかな……」
アルコールに関しては別に得意でも苦手でもない。ただ酔っぱらってはソフィアにも迷惑が掛かるかもしれない。
「依頼が終わった後の酒は美味いぞ! 一見酒なんか飲まなそうなイツネも飲むからな!」
「悪意のある言い方はやめてください! 別にいいじゃないですか!」
「ちなみにクレイは……」
「飲む」
「そっか……なら俺も飲むよ。別に飲めないって訳じゃないし、俺だけ飲まないのも、な?」
「いいね!」
俺達は注文を取っているギルド職員に食事と酒を頼む。少しすると、先に酒だけ運ばれてきた。
「折角だから乾杯の音頭はヨゾラがしろよ!」
「え!? 俺でいいのか……?」
「いいから」
「じゃ、じゃあ……依頼完了お疲れ! 新しい出会いに乾杯!」
「「「乾杯」」」
俺達はジョッキを鳴らしてその中身を一気に胃の中に入れる。
胃と鼻にアルコールを感じながら、今回共に依頼をこなしたメンバーを眺める。アルコールが入って若干テンションが上がり楽しそうに騒いでいるのを見ていると、地球で大学の仲間達としていた飲み会を思い出して懐かしい気持ちになる。
地球での懐かしさだけを感じている訳ではない。依頼を終わらせた達成感の後の酒は、この世界でしか味わえない。確かに酒も美味く感じてきた。
2杯目を飲み終える頃には報酬を渡しにくるソフィアに迷惑が掛かるなどということは忘れて、俺も完全に飲む気になっており、わいわい騒ぎながら3杯目を注文していた。
そのまま飲みながら何でもない話をしていると、何かを思い出したようにスカットは立ち上がって俺に向かって指を差す。
「そうだヨゾラ! お前! 何でソフィアさんとあんなに親し気なんだ!」
「どうしたいきなり!?」
「ソフィアさんはな! 普段あんなにニコニコしながら話したりしないんだ! 本当に仕事をしてますって感じなんだぞ! それなのにお前だけあんな笑顔を向けられて! ふざけんな!」
「確かに気になります! 一体どういう関係なんですか!」
「イツネまで!?」
酔っ払い達がおかしくなったテンションで絡んでくる。
だが酔っ払いはスカットとイツネだけではない、俺も酔っ払いだった。
「なんだ? 妬いてんのか? 羨ましいだろ! ソフィアは美人だからな! そのソフィアと親しい俺もまた、男としては上位の存在なのさ!」
「なんだと!? ヨゾラなんか精々ヘルフロッグと同程度だろ!! ま、俺は控えめにソニックウルフってとこかな」
「てめぇ! 人様をカエル呼ばわりとはいい度胸だな! それにソニックウルフと大して強さは変わんないだろ!」
「リーダーがソニックウルフはないですねー。ヨゾラさんはライトニングドラゴンです! 間違いないですね!」
「お! イツネは分かってるな!」
ドラゴンがいるのか、流石異世界! んでしれっと混ざってきたクレイよ、シャドウリッカーってなんだ? かっこいいな。
そんなこんなでソフィア関連の話でしばらく盛り上がっていると、査定を終えたソフィアが金の入った袋を持って俺達が飲んでいるテーブルまでやって来た。
「随分と盛り上がっていますね。チラホラと私の名前が聞こえてきたのですが……なんの話をされていたんですか?」
「丁度いいところに来たソフィアさん! ズバリ聞くがヨゾラとはどういう関係なんだ? 付き合ってるのか!?」
「ちょっ!」
流石にソフィアに直接聞くとまで思っていなかったので酔いが若干冷めて頭が冷静になる。
先程までは調子のいいことを言ってはいたが、ソフィアと出会ったのは昨日だ、何かがあるはずも無いしソフィアもそんなことを聞かれて迷惑だろう。
突然の質問にソフィアは少し困ったような様子だが、何かを思い付いたように一瞬俺の方を見た。その表情が悪戯を思い付いた蠱惑的な笑みだったのを俺は見逃さず、背中に嫌な汗が出てくる。
「私とヨゾラさんの関係ですか……バレてしまっては仕方がありませんね」
ソフィアは照れたような表情を作りながら俺の腕に自身の腕を搦めてもたれかかるように身体を預けてきた。
「ソフィア!?」
「実は……ヨゾラさんとは親しい間柄なんです……結婚の約束もしています」
「はぁ!?」
と、とんでもないことを言いだしやがったこの美人受付嬢……美人に言い寄られることは嬉しいと思えるが、これは言い寄られるとかそういうことじゃない。話がぶっ飛びすぎててやばい。しかもこれ揶揄われてるだけなんだぜ?
俺とソフィアの様子を見ていた3人の様子はそれぞれ全く違う。スカットは親の仇のような目で俺を睨み、イツネは信じられないという表情で呆然としており、クレイは何も気にせずに酒を飲んでいる。
「よ、ヨゾラ! 戦争だ! 俺は決してお前を許さない!」
もうダメだ、完全に修羅場と化している。
どうしようもなく混乱していると、ソフィアは俺から離れてギルド職員から何かを受け取ってそれをそのまま俺に手渡してくる。
ソフィアの手にあったのは酒の入ったジョッキだった。
「ソフィア……念のために聞くけど、それは……?」
「お酒です! 必要かと思いまして!」
ああ、そうか……もう、そこまで来てしまったんだな……
俺はソフィアからジョッキを受け取って中身を一気に飲み干しテーブルに空になったジョッキを叩きつける。
「上等だスカット! かかってこいよ!」
地球にいた時にどれだけ飲んでも殴り合いになったことなどない。これが、冒険者か――
――――――――――
「頭痛ぇ……」
俺は宿のベッドで完全に二日酔いになっていた。
記憶はある。あの後スカットをボコボコにして意気揚々と金を受け取って帰って来たのだ。俺が冒険者ギルドから出ていく時にイツネがソフィアに何かを言われて赤面していたが、流石にどんな話をしていたのかまでは分からない。
ちなみにボコボコにしたといっても行き過ぎない程度にだ。倒れたスカットにギルド職員が魔法をかけたら鼻血が止まっていたので回復魔法でもかけてもらったのだろう。魔法って便利だな。
クレイは最後まで酒を飲んでいた。
流石に悪乗りが過ぎた、本当なら今日は色々と調べようと思っていたのだが、冒険者ギルドに行って謝ろう。
フラフラになりながら水を飲み、二日酔いが覚めるまでしばらく大人しくしている。結局冒険者ギルドに向かったのは午後になってからだった。
中に入ると、もうそこにいるのが当たり前かのようにソフィアが同じカウンターにいた。昨日も朝から晩までいたが、働きすぎではないだろうか?
「こんにちはヨゾラさん。二日酔いは大丈夫ですか?」
「あ、ああ。それより、昨日は悪乗りし過ぎた……迷惑かけたな」
「いえいえ、ここではよく見る光景ですので慣れてますよ。それに焚きつけたのは私ですしね」
ソフィアは悪びれもなく笑う。別に怒っていないからいいし、美人の笑顔が見れるのは役得だ。
「スカットから聞いたぞ、他の冒険者にもそんな風に笑えばいいのに」
「私はそんなに安っぽい女じゃないですよ。ヨゾラさんは特別です」
「特別扱いされるようなことは無かったと思うが……」
「んー、なんて言うんでしょうね……なんとなくヨゾラさんならいいかなって」
「それを安っぽいって言うんじゃないのか……」
なんにせよ迷惑だと思われていないのならば良かった。
今日は依頼を受けるつもりも無いし、魔道具でも見て宿に戻ろうかと冒険者ギルドを出ようと思ったところでスカット達が入ってきた。
スカットは見るからに二日酔いで辛そうだ。イツネも本調子ではなさそうに見える。一番飲んでいたクレイはなんともなかった。
「おうヨゾラ。二日酔いは大丈夫かー?」
「大分マシになったよ。それで、そんな調子で依頼を受けに来たのか?」
「いんや、ヨゾラに用があってな」
「俺に?」
何やら俺に用があるらしく、昨日のテーブルで昼飯ということになった。
「で、俺に用って?」
「――ヨゾラ、俺達のパーティーに入らないか?」
スカットの口から出てきたのはパーティーへの誘いだった。
あまりに突然のことで戸惑ってしまう。イツネとクレイの方を見てみるが、2人とも頷く。パーティー内での話は済んでいるようだ。
誘いはとても嬉しかった。この3人とは出会ったばかりだが、依頼もその後の飲みも楽しかったし、悪くない誘いだ。でも俺は――
「悪い、パーティーには入れない。俺にはやりたいこともあるし、帝都にもいつまでいるか分からないからな」
俺は自由に異世界を楽しみたい。冒険者は確かに異世界の醍醐味ではあるが、それ1つにいつまでも固執するつもりはなかった。
冒険者として活動していけば、俺のスペックなら世界でも有数の冒険者にもなれるかもしれないが、俺はそんなものになりたい訳じゃなかった。
「帝都から出ていくのか?」
「ああ。帰ってくることもあるだろうが、その時も長居するつもりはないしな」
「そうか……なら仕方ない。でもヨゾラ、俺達はパーティーでなくてももう仲間だ! いつでも頼れよ!」
「力にはなる」
「寂しいですけど、ヨゾラさんにやりたいことがあるなら仕方ありませんね。でも! また一緒に依頼やりましょうね!」
そうだな……他の場所に行ったのだとしても、帰って来た時にまた一緒に依頼をしたり酒を飲んだりするのも悪くない。
俺達は昨日とは違い静かに他愛ない話をして別れたのだった。
自由な女神「楽しそうで何よりだよ! アルコールも人と仲良くなる方法の一つだよね!」




