クレーティオと精霊祭2
人混みを避けて祭りを楽しんでいると、楽しい時間は早く経つのか、気が付けば日が沈み始めていた。
昼と夜では出し物が変わる場所もあるようで、せわしなく作業しているのも見受けられる。一日目からこのボリュームとは、初めての祭りとは到底思えない。アルジェ達も事前のあれこれでさぞかし苦労したことだろう。
「やっぱりお祭りっていっても、世界ごとにかなりの違いがあるね。僕は人間だった頃の世界と地球のお祭りしか知らないけど」
「精霊っていう特徴もあるかもな。まあでも、場所によっては地球の祭りと似てるとこもあるし、特徴を除くとやっぱり近いものになるのかもな」
精霊信仰をしているだけあって、祭りの中にも精霊の要素が多く含まれていた。
それこそアクセサリーや食べ物だったり、精霊についての逸話を劇でやっているところもあれば、精霊と共に見世物をしているところもあった。
ただ、場所によってや、雰囲気なんかは俺の知っている祭りそのものであり、言葉の意味は世界が違えどある程度共通なのだと思う。
「それにしても、これだけ自然が豊かなのに、日が差さなくなってきても明るいね。それに、この明るさも、自然の柔らかさを崩さないものだ。これだけ綺麗な国を作るのは大変だっただろうね」
「クレーティオって意外とそういうところにも目を向けるんだな。あんまり興味無いと思ってたけど」
「こうやってハッキリと見えてればね。しっかりと目を向けないといけないものとかだったらわざわざ探したりもしないけど。感じたことは素直に褒めるしね」
クレーティオと寝ている時に話をする空間はかなり質素な感じで、綺麗な景色とかにそれ程興味が無いと思っていたのだが、分かりやすく綺麗な景色などは好きだったっぽい。
思えば、クレーティオが何を好きなのかなどはあまり知らない。それどころか、実際にクレーティオのことって殆ど知らないのではないか? 性格的なことばかりに目を向けがちで、それ以外のところをあまり気にしたことが無い気がする。
「クレーティオって何が好きなんだ?」
「好きなものか……ぱっと思いつかないな。ヨゾラ君のことは大好きだよ!」
「それは、まあ、ありがとう……いや、他にも何かあるだろ!」
「そういうヨゾラ君はどうなのさ!」
「俺はまあ、退屈しないことだな」
「僕も似たようなものだよ!」
異世界らしさを楽しみたいの根本は退屈しないことだ。楽しいことは何よりも好きだ。
クレーティオも同調したが、クレーティオはどちらかというとつまらないことと面倒臭いことが嫌いなだけで、楽しいことが好きかどうかは怪しい。面倒臭がりが目立ちすぎて、行動が真逆な気がする。
「まあまあ、そんなことはいいからさ! それよりも、ヨゾラ君に話しておかないといけないことと、渡す物があるから、どっか落ち着いて話せるとこにいこう」
「そういえばそうだったな。んじゃ、森の方でもいくか」
スプリトゥス聖国はその立地から、少し外れに出れば森の中に行ける。祭りの会場の一部になっている場所もあるが、大半はそうではないので、丁度良いだろう。人が来ないような場所は魔獣が出る可能性もあるが、魔獣ごときでクレーティオの心配はする必要は無い。
祭りの会場から離れ、森の中に入っていく。
流石に整備されている訳では無いので、森の中はかなり暗い。俺は魔法を使って明かりを出して、クレーティオと2人で森の中を歩いて行く。
案の定、人は誰も居らず、先程まで祭りの会場に居たということも相まって、普通よりも更に静まっているように感じた。
やがて歩いていると、森の中に開けた場所が出来ており、月の光が差し込んで幻想的な空間になっている場所に辿り着いた。
「この辺りで良いかな。落ち着いて話を出来そうだしね」
クレーティオはここで話をすることを決めたようなので、立ったまま話をするのも疲れるし、地べたに座るのもアレなので、俺は土属性の魔法でベンチを作り出して、そこに座って話をすることにした。
「ふぅ……さて、それじゃあ少し真面目な話をしようか……」
クレーティオはベンチに座って一息付くと、珍しく真面目な表情をして、隣に座る俺の方を向いた。
「ヨゾラ君が神々にとって価値があるって話は前にしたと思うんだ。それでまあ……僕のところにもかなりの数の神が押しかけてきてね……ただ、これも前に言ったように、その辺の神じゃあ僕が負けることは無いし、面倒ではあるけどヨゾラ君の為なら頑張れるし、心配は無いんだ」
詳しい話は知らないが、クレーティオは神の中ではステータス面では低い方だが、クレーティオの能力にはまだ秘密があるようで、神々相手でも戦えるどころか、かなり強い立ち位置にいるということは、前々から聞いていた。
だからこそ、俺や俺に近しいところに干渉出来ないながらも、世界に何かしらのちょっかいを出してくるであろう神がいても自身がどうにかするから心配するなと言ってくれた。
だが、ここでその話を出すということは、何か問題が起こったのかもしれない。
「厄介な奴が出て来てね……アバンニーズっていう、まあ神の中だと最上位の存在でね。ずっとヨゾラ君に会いに行けなかったのは、こいつと戦ってたからなんだ」
「そうだったのか……でも、こうしてこの世界に来れたってことは、勝てたってことか?」
「そうだったら良かったんだけど……流石に強くてね、ずっと戦ってたんだけど、まだ勝負は着いてないんだ。今回来れた理由は、どういう訳か攻めて来てたのに急に大人しくなったって理由で、僕が警戒している理由でもあるんだ」
恐らくだが、神々はクレーティオがルーディスという世界を守っているという認識をしており、だからこそクレーティオをどうにかしない限りは世界に干渉できないと、クレーティオに対して攻め込んでいたのだろう。
その状況で出てきた神々の頂点が、急に姿を現さなくなったとなれば、警戒するのは分かる。
「この世界はヨゾラ君の影響で、仮に僕が居なくてもそう簡単に干渉は出来ないんだけど、それこそ僕やアバンニーズくらいの力があれば、無理やり干渉することも出来ちゃうんだ。んで、姿を見なくなったと思えば、僕の元にはアバンニーズの子飼いの神がやって来るし……もう考えられる可能性は一つしかないんだよね……」
「クレーティオに対して牽制をしつつ、俺を殺すためにこの世界に干渉してるかもしれないってことか……」
クレーティオは頷く。アバンニーズという神の目的が俺を殺し魂を回収することならば、話を聞く感じ、俺もその可能性しかないと思う。
ただ、問題があるとすれば、どういった干渉をしてきてるのかが今のところ分からないことだ。
先の戦争は、確かに俺の命を取りにくる明確な敵がいたが、恐らくアレはアバンニーズの干渉によるものでは無いだろう。俺がこの世界で生きてきて、その中で生まれた問題に過ぎない。
現在、俺に敵らしい敵はいない。自然現象等も特に起きていないので、本当に心辺りが無い状態だ。
分からないというのは少し不安だ。何か重要なことを見落としているような気もする……これが不安から来るものなのか、それとも俺自身が忘れているだけで、本当に見落としているものがあるのか……考えても仕方が無いということは分かっているのだが、どうしても深くまで考え込んでしまう。
しばらく考え込んでいたが、不意にクレーティオが身を寄せ、俺の肩に頭を乗せてきて、我に返った。
「ごめんね、不安にさせるようなことを言って……本当だったら、ヨゾラ君に何も心配させるつもりはなかったんだけどね……」
「いや、むしろ今までがクレーティオ任せ過ぎたんだ。そもそも俺自身のことだしな、何か俺に出来ることはあるか?」
「もし、この世界に敵が出てきたとすると、アバンニーズの相手をしている僕じゃ助けられないんだ。だからもし何も知らない状態だと、予想以上にヨゾラ君が危なくなるかもしれないから、一応の警告をしに来たんだよね。アバンニーズ本体のことは、僕が相手をするから、もしアバンニーズの手の者が出てきた時は……よろしくね」
クレーティオはアバンニーズの干渉によって、この世界に俺の敵が出てくることをほぼ確信しているようだ。
「ああ、わざわざ教えに来てくれて助かったよ。俺の方でも警戒しとく」
「ふふっ、こうやって仲間みたいな会話を誰かとするのは初めてだよ」
「仲間みたいじゃなくて、仲間だろ?」
「僕にとってヨゾラ君は仲間よりも特別な存在だからね。そうそう、敵が出てくるってことで、ヨゾラ君に持ってきた物があるんだよね」
クレーティオが手の平を上にして見せると、その上に何かが出てきた。
淡く輝くプラチナの塊は、剣を作る時なんかに用いられるインゴットのように見える。
「これは?」
「僕が人間だった時の世界にあった最上級の鉱石に僕の魔力をありったけ込めた物だよ。僕に剣を作る技術は無いからこの形で渡すことになっちゃったけど、もし腕の良い鍛冶師が打てば名前が付いた武器になるだろうね」
「名前が付いた武器?」
「うん。ヨゾラ君の地球は例外だったけど、最上級の物って作られた時に元々名前が付いてたりするんだよね。今はまだ僕の魔力が宿って変質した素材ってだけだけどね」
まさかクレーティオから剣の素材を貰うことになるとは思ってなかった。
今まではそれほど武器にこだわったことは無く、そこそこ上質な素材を使ったそこそこの剣をずっと使っていたのだが、名前のある武器……中々異世界らしくてロマンを感じる。
「ありがとうクレーティオ、ありがたく受け取るよ」
「強い人には強い武器をっとね! ただ、あまり無理はしないでね?」
「クレーティオの方もな。もし力になれることや助けが欲しいときはすぐに言えよ?」
「何だかお互い様だね」
「お前も言ってただろ? 俺達は似た者通しなんだよ」
互いに笑い合い、流れで拳を合わせる。
クレーティオは俺のことを、仲間よりも特別だと言った。確かに俺にとってもクレーティオは特別だが、やはり仲間だという意識も強い。
「さて、それじゃあそろそろ僕は戻らないと。あまり長くは遊んでられないからね」
「もう行くのか?」
「うん。今日はありがとうヨゾラ君! 初めて、お祭りを楽しいと思えたよ!」
「俺も久々に会えて嬉しかったし、楽しかったよ。今度はそうだな……俺の国に遊びに来いよ」
「勿論! 楽しみにしてる! あ、そうそう、今日のお礼ね!」
クレーティオはそう言うと、俺の頬に軽くキスをして立ち上がった。
突然のことに驚き、隣で笑うクレーティオを見るとドキッとした。
「それじゃあ、またね!」
「……ああ、またな」
クレーティオは別れの挨拶をすると、消えるように去って行った。
クレーティオが帰り、森の中が先程よりも静かに感じる。
俺は、ベンチに座ったまま、少しの間動く気にはなれなかった。
自由な女神「最高のヒロインだね! 完璧すぎるよ!」




