クレーティオと精霊祭1
スプリトゥスに着いてから数日、遂に祭りの日がやってきた。
俺とクレーティオ以外は既に祭りに行っており、俺達は少し遅れてからの出発だ。
折角だから着替えてくるといったクレーティオを待って俺は自分の部屋にいた。
「お待たせー!」
「おお、準備終わったか」
相変わらず元気の良いクレーティオが部屋に入ってきた。
クレーティオの恰好は、髪の色と同じピンク色の浴衣で、髪も串で纏めていた。
元々、超が付く美少女のクレーティオだが、見慣れない格好で特別感が出ており、いつもよりも更に可愛く見えた。
「どうどうヨゾラ君? 僕の浴衣姿だよ!」
クレーティオはその場で一回転して浴衣を見せてくる。
「ああ、可愛いと思うよ」
「ほんとにぃ? 何だか照れてる様子も無いし、反応が淡白過ぎるよ」
「俺が露骨に照れるキャラに見えるか?」
「それもそっか。確かにヨゾラ君ってあんまりそういうの顔に出なさそうだよね」
まあ、実際にはしっかり見惚れているのだが、何だかクレーティオ相手にそういうところを見せるのは負けたような感じがする。
それに折角のデートなので、あまり情けない表情ばかり見せないで、簡単には動じないかっこいいところを見ていきたいところだ。
「とりあえず行くか」
「そうだね! 時間は有限なのだよ!」
「なんだそれ」
「神っぽかったでしょ?」
「クレーティオの中で神っぽさの基準が低すぎる……」
適当な軽口を叩きながら俺とクレーティオは祭りに向かう。
今回スプリトゥスで行われる祭り『精霊祭』は、スプリトゥスの聖都全域で行われており、俺達が滞在している大聖堂も会場となっている。
大聖堂内の催しは流石にもう見ているので、祭りを回っている最中にわざわざ来ることはないだろう。
「そういえばクレーティオは祭りって行ったことあるのか?」
「ヨゾラ君は僕をなんだと思ってるの? 祭りくらい行ったことあるよ! 誰かと回ったことは無いし、何のためにやってるのかも分からないけどね」
「それって楽しめてたのか……?」
「ううん、全然。でもでも、今日は楽しみだよ! 初めて祭りを楽しめそうだよ!」
「なら俺もクレーティオが楽しめるように頑張らないとな」
確かにクレーティオが誰かと祭りを楽しんでいるところは想像出来ない。
だが、今回は楽しみにしてくれているということなので、楽しんでもらえるように精一杯頑張ろう。
とはいえ、会場の何処に何があるという地図自体は貰ったが、実際にどのような祭りになっているのかは、俺も回ってみないことには分からないので、これからどういう感じで回ろうか迷ってはいる。
そもそもスプリトゥスでは初めての祭りということなので、上手くいっていない部分も必ずあるだろうから、単純に祭りの内容だけで楽しんでもらおうとすると失敗する可能性もあるので、難しいところだ。
大聖堂の正面入り口からは人が多すぎて出にくいので、予め教えてもらっていた別の場所から外に出る。
そこから、聖都に繰り出していくと、かなりの人で込み合っていた。
こうして実際に祭り当日になってみると、他国からもかなりの人が来ていることが分かる。
地球に比べて移動が不便なルーディスでは他国に行くのも相当大変なのだが、それでも人が多く集まっているのを見ると、それだけ今回の祭りが注目されていたという証拠だろう。
そして、帯剣しているのが意外と多いところを見ると、冒険者の割合も多いようだ。
冒険者は精霊と契約している者が多い。その理由は、単純に精霊がいるというだけで戦力に直結するからで、だからこそ冒険者は精霊に感謝している者が多いのだと聞いている。
「これだけ精霊が根付いている世界は初めて見たよ」
「そうなのか?」
「うん。基本的に何処の世界も、精霊と人間の距離感って遠くてね、それこそ幻の種族って言われてたりするんだよ」
「まあ確かに、地球にあった創作物でも精霊ってそんな感じに扱われていることが多かったな」
「地球ってやっぱり色々な神の影響を受けてるからね。自ずとそういう扱いになるんだよ」
「でも、精霊に関しては俺がルーディスに来た時には既に根付いてたから、元々のルーディスの特徴だったんだろうな」
「そうだねぇ……それだけこの世界を作った神が変わってたってことだよね。まあ、今はもういないからどんな奴だったかは分からないけど」
その変わり者の神のおかげでセラフィと出会えたことだし、そっと感謝しておこう。
「それにしても、この国は涼しいね。昼間なのに過ごしやすいよ」
スプリトゥス聖国は自然が豊かな国であり、背の高い木々があることで、直接差し込む日光はあまりなく、過ごしやすい気温が保たれているのだ。
「これで人が少なかったらなぁ……」
クレーティオは既に人混みが嫌になってきているようだった。
「それじゃあ、聖都の外れの方に行ってみるか。そっちなら多分人も少ないだろ」
「賛成!」
流石に大聖堂と、聖都の中心付近は何処に行っても人が多そうだったので、俺達は聖都の外れに移動することにした。
聖都は中心部分以外は、小さい村を集めたような形となっており、区画ごとに少しだけ距離が離れている。
その為、人も分散しやすく、まだ祭り一日目ということもあるので、足を運んでいる者がそもそも少ないようで、移動もしやすかった。
「この辺りはあまり祭りって感じがしないね。普通のお店に、祭りっぽい装飾を付けたみたいな感じかな?」
「そうだな。でもまあ、雰囲気的にはこっちの方がスプリトゥス聖国って感じがするし、祭り中しか販売してない物とかもあるみたいだな」
スプリトゥス聖国らしい静かで落ち着いた雰囲気だが、一応はしっかりと祭り仕様にはしているみたいで、中心部で見かけたような装飾なんかが店に付けられたりしていた。
「とりあえずいい時間だし、なんか飯でも探してみようぜ」
「いいね! 屋台とかで面白い物とかありそう!」
神は基本的に何かを食べたりしないみたいだが、クレーティオは元々人間だったということもあり、食事は出来ればしたいみたいで、昨日もしっかりと飯を食べていた。
何かないかと歩いていると、丁度良さそうな屋台が出ていたので行ってみる。
その屋台には色取り取りの饅頭みたいな物が並んでいた。
「……精霊焼きって名前みたいだぞ」
「あっはっはっ! 焼いちゃったよ! 大丈夫かいこれ!」
クレーティオは何がツボったのか大爆笑している。
精霊焼きは、そのまま玉のようになっている精霊を真似て作られているようで、しっかりと属性ごとの色も表現されていた。
中身には肉や野菜が入っているようで、精霊焼きという字面はちょっとどうかと思うが、普通に美味しそうだ。
「クレーティオはどれにする?」
「僕風属性!」
「属性……んじゃ俺は光でいいや」
俺達はそれぞれ精霊焼きを買って、適当に散策しながら食べることにする。
「おっ、結構美味しいねこれ。野菜にも結構しっかり味が付いてるよ」
「俺の方もスパイスが効いてて美味いな。屋台の食べ物って結構分かりやすい味というか、味は二の次で雰囲気で楽しむってイメージだけど、これは全然そんなことないな」
「ほうほう……えいっ!」
クレーティオは俺の腕を掴んで少し下げると、俺が食っていた精霊焼きに齧り付いた。
「んー! 美味しいね! はいっヨゾラ君もどうぞ!」
突然のことに驚いていると、クレーティオは今度は自分が食べていた分を差し出してきた。
流石に少し照れくさいが、できるだけ表に出さないようにクレーティオが食べていた精霊焼きを食べる。
クレーティオが食べていた風属性の精霊焼きは野菜にしっかりと味が染みていて確かに美味しかった。
「これは他の味も気になるな」
「それではヨゾラ君宿題です! 今回の祭りで全ての属性の精霊焼きをコンプリートして、その感想を二百文字以上で纏めて提出すること!」
「いや二百文字以上って長ぇな!」
ツッコンでやるとクレーティオは楽しそうに笑っていた。
祭りを楽しめているかどうかは置いといて、とりあえずクレーティオが楽しそうで良かった。
「ねえねえ、次はあっち行ってみよ!」
クレーティオは俺の手を引いていく。
何だかんだで、祭りを誰かと楽しんだことがないクレーティオは、祭りの雰囲気もしっかりと楽しんでくれているのかもしれない。
楽しそうなクレーティオを見ていると、俺の方も楽しくなってくる。
今日までしかいられないみたいだし、この後も精一杯楽しませてやろう。
自由な女神「さあ、デートスタートだよ! 刮目せよ! その可愛さに!」




