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祭りの前1

 模擬戦も無事に終了して、俺達は大聖堂内にある大きな部屋に集まった。

 かなり大きな部屋なのだが、あまり使われることは無いらしい。スプリトゥス聖国は他国に比べて国内で役職を持っている奴が少ないこともあり、他国からの重鎮が来ない限りはこういった場も使う機会があまり無いようで、綺麗に保たれており、いつでも使える状態にはしてあるものの、聖女達ですら数回くらいしか利用したことは無いみたいだ。


 続々と食事が運ばれてくる。現在俺の隣にいるのはクレーティオだけで、セラフィはと言えば、食事が運ばれてきた瞬間そちらに向かって行った。

 クレーティオはセラフィとも話したかったみたいで、セラフィが真っ先に食事に向かって行った時は目を丸くしていた。

 まあそのうち戻ってくるだろう。


 アルジェや聖女達もそのうち来るだろうが、とりあえずは俺の連れとの顔合わせができるように、今は気を遣ってくれているみたいだ。

 そんな訳で、こちらにやって来るのは食事に夢中なセラフィとその供をしているサクラを抜いて、ビャクとアノンだ。


「ちなみにクレーティオ、俺の連れてきた奴らにはどういうスタンスでいくんだ?」

「ん? 別に蔑ろにしたりすることはないから安心してよ。前に来た時もそうだったしね。それに、ヨゾラ君もこの世界に来てからそれなりに経ってるし、今連れている子達のことは信頼してるんだと思うから、だったら僕もヨゾラ君が選んだ子達と仲良くするよ」

「なんか意外だな」

「そうかな? 僕だって誰でも彼でも敵に回した訳じゃないよ。できることなら僕も仲良くしたいしね」


 ()()()()()()()か……クレーティオの過去か、元々の性格なのか、分かってはいてもどうしようもなくなってしまっているんだろうな。

 俺自身もクレーティオにかなり寄った考えなので何も言うことはできないが、まだクレーティオに比べればマシなのかもしれない。クレーティオは興味が無いのが前面に出てしまうが、俺はそうでもないところが俺とクレーティオの違いだろう。

 まあ、クレーティオが俺を特別視している理由もこの辺が関係していそうだし、やはり本質的には俺もクレーティオも変わらないんだろうな。

 もし俺がクレーティオよりもマシならば、もう少し大切な奴ができていてもおかしくはないしな。


 まあそれでも、俺が仲良くなった奴らとは仲良くしたいと言ってくれたことは素直に嬉しい。


「それじゃあ紹介するよ、まずはビャクだな」

「お初にお目にかかります。黒狼の獣人でヨゾラ様とセラフィ様の執事をさせて頂いております、ビャクとお申します」

「執事? ヨゾラ君、貴族にでもなったのかい?」

「いや、獣人の国の王になった」

「王? よくそんな面倒臭そうなのになったね」

「成り行きでな……まあ、王って言ってもかなり自由にさせてもらってるから面倒ってことはあまり無いんだ。それもまあ、このビャクのおかげなんだけどな」


 そういえばクレーティオは俺とセラフィがノーヴィストの王になったって知らないのか……


「なんならこの祭りが終わったら遊びに来るか?」

「んー、そうしたいのは勿論なんだけど、僕にもやらなくちゃいけないことがあるからね。そのうち落ち着いたら遊びに行くよ。それにしても執事か……ヨゾラ君にも信頼されているみたいだし、相当優秀なんだね」

「まあな、ビャクがいなきゃ俺の国は回らないよ」

「そうなんだね。ならこれからもよろしくねビャク君」

「勿論です、お任せください」


 俺の友人だからだろうが、ビャクはクレーティオに対してもかなり丁寧だ。

 クレーティオは相当やばい態度じゃなければ何も言わないだろうが、まあビャクらしくていいだろう。


「んで、こっちの子がアノンだ」

「あ、はい、アノンです。よろしくお願いします」

「ふむふむ……」


 名前以外の情報が何も無い自己紹介だったが、クレーティオは何か興味を示したように顔をアノンに近づけてまじまじと見ている。

 見られているアノンはたじたじで、目で俺に助けを求めているが、クレーティオは多分アノンのステータスを見ているだけなので止めなくてもいいだろう。


「なるほどね、仕草なんかを見てるとただの気の弱そうな可愛い女の子だけど、ヨゾラ君がただ可愛いというだけで連れているわけもないし、強い力を感じたから見てみたんだけど……なるほどね、君は勇者だったんだ」


 ステータスを見終わったクレーティオは顔を離し、納得したように頷いている。


「まあ、初めて出会った時は俺もただの後輩の女の子っていう印象だったしな。まあ今でも可愛い後輩なのは間違いないが、実力は勇者って言って問題無いくらい頼もしいよ」

「そ、そんな……可愛いだなんて……」

「でもクレーティオから見てもアノンのポテンシャルって高いのか?」

「そりゃ高いね。人間の中では最もって言っていいレベルだよ」


 多分クレーティオが言い切ったのは、他の世界でも、ということなのだろう。クレーティオのことだから、ビャクの耳が良いことも何となく察しているから言い回しで誤魔化したんだろうな。


「ちなみに俺とアノンだったら?」

「勿論ヨゾラ君だよ♪」


 そう考えると、やはり俺のポテンシャルって凄いんだなと感じる。あまり自分では自覚できないのだが、多分称号が関係してるのだろう。


「それにしても勇者か……魔王はどうなったの?」

「生きてるぞ」

「へぇ、それにしては平和だね」

「何ならここにいるぞ」


 俺は自分を指しながら言う。クレーティオは目を丸くしていた。


「ヨゾラ君が魔王なの?」

「ああ、なんか獣人達の王が魔王だったらしく。そうなると俺だしな」

「獣人の王が? でもヨゾラ君の称号には……するともしかしたら……いや、まだ憶測でしかないか。ヨゾラ君っていう特異点が影響してる可能性もある……」


 クレーティオは気になることでもあるのか、ぶつぶつと何かを言っている。


「クレーティオ?」

「あ……ごめんごめん、なんでもないよ。それにしても、勇者と魔王って関係なのにヨゾラ君は随分とアノンちゃんに肩入れしているみたいだね」

「まあそうだな……さっきも言ったように、アノンは勇者だが、可愛い後輩なのも間違いないからな。それに力になってやりたいって思っちゃったからしょうがない」

「そっか、ヨゾラ君がそう思ったらなしょうがないね!」


 どうしてかアノンの力になってやりたいと思ってしまったのは間違いない。だからこそ、あの旅でアノンに助言をしたし、痛みを伴ってでもアノンの心を助けたのだ。


「それで、その……先輩とクレーティオさんはどういった関係なんですか?」

「そりゃあアレだよ、ソウルフレンド!」


 ソウルフレンドか……俺の魂を横から掻っ攫ったことにかけているのだろうか?


「それは……なんだか凄いですね……。でも、クレーティオさん程の実力者であれば、もっと有名でもおかしくなさそうですが……話だと、現在最も強いって言われてる先輩よりも強いみたいですし」

「まあクレーティオはかなり静かに暮らしてるからな。でも帝国だと知ってる奴もそれなりにいるぞ。何せ、俺とセラフィがセシルとルーシェと模擬戦した時にちょっとした騒ぎになってるしな。帰ったらあの2人かフロディス辺りに聞いてみると話を聞けると思うぞ」


 一般市民の中でも見ていた奴はかなりいる。名前も分からず一度しかクレーティオが姿を現していないから、もう話題には上がらないというだけだ。それなりに騒ぎにはなったから、話に出せば見ていた奴は殆ど覚えているだろう。


 本来ならば、フロディスは魔王討伐のパーティーにクレーティオを呼べないか考えた可能性もありそうだ。

 実際に呼ばなかったのは、クレーティオは自身の手に負えるような奴じゃないと感じていたからだろうな。クレーティオの実力は十分過ぎる程証明されていたし、周囲に対して興味が無いことも、目を見れば分かることだ。


「アノンちゃんもかなりヨゾラ君に懐いているみたいだね」

「先輩には良くして頂いてますし、それに救われましたから……」

「ま、ヨゾラ君は自分が大切に想っている相手には優しいからね。それにしてもアノンちゃんは精霊と契約してないんだね」

「あ、はい。今回私がスプリトゥス聖国に来たのは精霊と契約するっていう理由もあるんです」

「そっかそっか。勇者として力を更に高めたいなら精霊と契約するってのは理に適ってると思うよ。精霊は僕でもその全容が分からないからね。低級ならまだしも……ほら、あそこにいる子とか」


 そう言ってクレーティオは幸せそうに食事をしているセラフィのことを見る。


「僕に届きそうなのはヨゾラ君だけ、そう思ってたんだけどね……セラフィちゃんもそれだけの可能性を秘めてるって感じてるよ」

「そうなんですか?」

「うん。僕もセラフィちゃんと出会ってから多少精霊のことを調べたんだ。まあセラフィちゃんは精霊の中でもかなり特別な存在みたいだけど、それでも精霊の元のポテンシャルが高いことは間違いないよ。だからそうだね……アノンちゃんも良い精霊と契約できるといいね」


 前に来た時もそうだったが、やはりクレーティオは精霊という存在をかなり大きく見ているし、セラフィのことは素で仲良くしている程特別視している。


 確かにセラフィは擬人化した際に俺の魔力の影響を受けて光と闇の精霊となっている。

 それだけでも他の精霊に比べれば特別な存在なのだが、前にセラフィから聞いた理級精霊の発生条件を考えるに、セラフィが生まれたきっかけも何か関係している可能性もある。


 アノンが仮に、望む通り雷の理級精霊と契約した場合、その精霊もかなり特別な感じがするが、どうなのだろう?

 その時はまたクレーティオに聞いてみるか。


 アノンはクレーティオに慣れてきたのか、段々と普通に話をできるようになっている。

 クレーティオも、アノンのことは無下にせず楽しそうに話をしているので問題ないだろう。


 ああして見ると、クレーティオも普通の女の子だ。誰にでもああならばいいのだが、それは俺にも言えるので、結局は他人から見れば違いはあまり無いのだろう。


 そろそろ俺も腹が減ってきたので食事にすることにしよう。

 そんなことを思っていると、ビャクが食事を持ってきてくれた。流石だ。

 どうだという顔をクレーティオに向けると、クレーティオは小さく笑っていたので俺は満足だ。


自由な女神「勇者のポテンシャルってやっぱり高いんだよね。当然、特別なヨゾラ君とは別に、人間という括りの中だと圧倒的に強いんだよ」

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