久しぶりの聖国
久しぶりに来たスプリトゥス聖国は相変わらず自然豊かな国で、ノーヴィストも元々が秘境だということもあって、自然豊かと言えなくはないが、何と言っていいか分からないが、優しい自然? というか、心が穏やかになる感じだ。
祭りということもあって、聖都の入り口はかなり混んでいる。
中々入れそうに無かったので様子を見に行ったビャクが戻ってくる。
「別の入り口から入れてもらえることになりました。中に入ったらそのままアルジェ教皇の元へ向かうようにお願いされましたが、よろしいですか?」
「別にいいぞ。どのみち会いに行くつもりだったしな」
戦争の時のお礼もまだできていないし、アノンのこともある。祭りが始まる前に会いに行く予定だったので丁度良いだろう。
ビャクが馬車を走らせて、別の場所に向かう。
別に入り口の方は空いており、すんなり聖都の中に入ることができた。
聖都の中は祭りの準備をしており、かなりの賑わいを見せていた。
露店や、元々店を構えている奴も祭り使用に変えており、祭り前のワクワク感が凄い。
ただそれでも、スプリトゥス聖国の雰囲気的にあまり騒がしい祭りではなさそうだ。騒がしさだけで言えば、グラヴィウス帝都の方が上だろう。
聖都の中を眺めながら進んでいくと、いつの間にか白く巨大な建物に到着していた。
ここがアルジェや聖女がおり、スプリトゥス聖国のシンボルでもある大聖堂だ。
以前スプリトゥスに来た時は入ることは無かったので普通に楽しみだ。
誰でも自由に入れる建物ではないが、申請さえすれば一般人でも入れるようになっている。
馬車を下りて大聖堂の中に入っていく。俺達が来ることは通達済みのようで、誰にも止められることはない。
とはいえ、大聖堂の何処にアルジェがいるのかを俺達は知らない。ビャクならば分かるかもしれないが、果たして流石にアルジェの元へ勝手に進めば誰かしらに止められる可能性もある。
面倒だが、トラブルになるくらいならば、とりあえず待っておこう。
祭りの準備があるからだろうか、あまり人もいないので、それほど目立たずに待つことができている。
そして、少しの間待っていると、見覚えのある赤い髪が奥から見えた。
「おーい! こっちだこっち!」
俺達を呼ぶのは火の聖女ヘリコニアだ。
突然聖女が現れ、しかも大声で俺達のことを呼ぶので、流石に注目を集めている。
聖女は市民ともかなり関りがあるようだが、それでも特別な存在であることには変わりなく、慣れていようが表に現れれば注目も集める。
「久しぶりだなヘリコニア」
「来てくれて嬉しいよヨゾラ、セラフィ。それとそっちはビャクにサクラにアノンだな。わたしはヘリコニアだ、よろしくな」
ヘリコニアは気さくで、誰にでも話しかけて行きそうな行動力がある。
ほぼほぼ初対面とのことだが、勇者であるアノンにもこうして話しかけていけるのは、彼女の良いところである。
「それじゃあアルジェ様のところに案内するから付いてきてくれ」
そう言ってヘリコニアは俺達を伴って大聖堂の中に入っていく。
幾つもの通路がある迷路のような構造になっているが、こうして歩いていると帝都の城と然程変わりはない気がする。
「ここにアルジェとヘリコニア達聖女は暮らしてるのか?」
「基本的にはそうだ。しっかりと人が暮らせるように作ってあるし、部屋も多い。まあ、大聖堂とはいえ、一般人が入れる場所以外は、他の国の城と大差ないんだ」
大聖堂に入ってすぐのところは、それこそばかでかい教会のような感じだった。
その入り口部分が、一般市民や他国から訪れる観光客なんかに対しての大聖堂の機能であり、こうして裏側に入ると、国を統治するための機能に変化するわけか。
「ちなみにヨゾラ達には大聖堂に泊まってもらうからよろしくな」
「まあ、そんな感じはしてた……」
「わ、私、なんの連絡も無しに来てしまったんですけど……」
「そんなに気にすんなって、どうせ部屋は大量に余ってるんだ、1人増えたところで変わりはしないさ。それにこうして気楽に話させてもらってるけど、ヨゾラとセラフィは一国の王だし、その執事とメイド長、更には勇者なんだ。それ相応の場所に泊まってもらうことになるさ、何処に行ってもな」
ヘリコニアもあまり立場を気にしない方だが、今回は招待した来客ということもあるのだろうな……
アノンも招待したわけではないとはいえ、俺とセラフィの友人だし、なによりも勇者だ。仮に来訪が知れたら、それなりのもてなしをしていたはずだ。
「さて、着いたぜ」
ヘリコニアが他の部屋よりも少し豪華に作られた扉を開ける。
「ようこそいらっしゃいました。歓迎いたします」
部屋の中は玉座の間に似た作りになっており、教皇であるアルジェが座るはずの椅子はかなり豪華に作られていた。
しかし、アルジェはそこに座らずに俺達の目の前に立って出迎える。些細なことだが、対等な立場としての礼儀をしっかりと尽くしたのだ。
ヘリコニアはアルジェの後方に控えるように移動し、ビャクとサクラ、それからアノンが少し下がり俺とセラフィの後方に位置付く。
「わざわざ招待状を送ってくれてありがとう。折角の機会だから来させてもらったよ」
「それに儂には感謝を述べるべき相手もおるのでな。まあゆっくりさせてはもらうから、よろしく頼む」
滞在期間はどのくらいになるだろうか……祭り自体は一週間行われるので、それ以上になるのは間違いないが、実際のところ全然考えていない。
「とりあえず話は後にしましょう。皆さま長旅でお疲れでしょうから、ひとまずはお休みください。ヘリコニア、よろしくお願いします」
「了解ッと……それじゃあ、また付いてきてくれ」
真っ先にアルジェの元へ案内されたので、何か話があるのかと思ったが、特にそういったわけではないらしい。
アルジェの言う通り、長旅だったのは間違いないので、お言葉に甘えて休ませてもらおう。
用意された部屋は、流石にそこそこ広く、快適なものだった。
一部屋ずつなのだが、場所自体は隣だったり向かい側だったりと近く、それ以外には風呂の場所なんかも教えてもらい、とりあえず飯で呼ばれるまではゆっくりすることにする。
アノンのことなど、すべきことは多少あるが、まあそこまで急ぐ必要は無い。
それにしても、久々に来たスプリトゥス聖国は昔と変わらず自然に囲まれた良い国だった。
勿論、建物の作りなんかは技術の発展なんかでかなり変わっている部分もあったりするが、レジケル王国はまだどうだか分からないが、帝国なんかと比べてあまり変化はないように思える。
帝国は獣人との戦争があったために、更に強さという面に力を入れた感じの国に変わっていたと、久々に行った時に感じたが、それに比べスプリトゥス聖国は獣人との戦争に殆ど関与していなかったこともあり、あまり大きな変化はない。
強いて言えば聖女という存在だろうか……他国で言うところの英傑のような存在であるのは間違いないが、スプリトゥスの特徴をそのままにしたような存在なので、特別感は確かにあるが、何だか変化という感じはしなかったのだ。
まあそもそも、そういった変化は国ごとというよりも世界に引っ張られている気がするので、聖女の登場も獣人との戦争に関わっているのかもしれないが、如何せんルーツが分からないので考えても仕方が無い。
これからも、何かしらの変化が世界に起きて、何かしらの出来事は起きるだろう。
それが大きいのか小さいのか、良いことか悪いことかは分からないが、俺に余裕があるうちは異世界らしいということで楽しもう。
それにどこでそういうきっかけが起こるのかも分からないしな……
ぼーっと、そんなことを考えていると、部屋のドアがノックされる。
若干重くなった腰を上げて、誰かと思い扉を開ける。
「だれだ~」
欠伸をしながら扉を開ける。しかし、そこにいたのは全く予想もしていなかった奴だった。
「やっほーヨゾラ君! ひさしぶり~」
「く、クレーティオか……?」
そこにいたのはずっと音沙汰のなかったクレーティオだった。
「お前、最近全然顔見せなかったけど何してたんだ?」
「いや、ちょっと色々あってね。少しだけ手が空いたから会いに来たんだよ」
「色々か……まあ、とりあえず立ち話もあれだし部屋入れよ」
クレーティオが零した色々という言葉……自由をモットーとするクレーティオがわざわざ面倒なことを自らするはずがない。
ただ、可能性として考えられるのは、俺に関することだ。
クレーティオと初めて会った時の会話で、面倒ごとになりそうな感じはしていた。であれば、クレーティオは俺の知らないところで、現在色々と面倒なことが起きているのかもしれない。
「それで、色々ってのは?」
「んーまあそうだね……それは追々話すよ。それよりも! なんか祭りをやるみたいだね! 最近はヨゾラ君との時間も全然無かったし、丁度いいから僕との時間も作ってよ!」
「それは別に構わないけど……今回はそこそこ滞在するのか?」
「うん、前回この世界に来たこともあってか、ヨゾラ君にある程度守られているこの世界にも僕はそこそこ滞在できるようになったからね!」
俺の称号は俺自身に対する神の干渉を拒むための力みたいな感じだったはずなのだが、前回来た時もそんな感じのことを言っていたが、この世界自体が多少は俺の力が働いているみたいだ。
理由はイマイチ分からないが、多分ルーディスという世界に対する俺の心象の問題なのだろう。
「それじゃあとりあえずアルジェに伝えておくか。部屋も用意してもらわないといけないし、一緒に来てもらうぞ」
「僕は別にヨゾラ君と同じ部屋でも構わないけどね~」
「別に俺だって構わないが、まあ一応だが俺にも立場があるしな。それにどうせ近い部屋になるんだから似たようなもんだろ」
流石に勝手に客を増やす訳にもいかないので、アルジェにクレーティオのことを紹介する。
まあ、特に問題は起こらないだろう。アルジェはかなり寛容だし、クレーティオはそもそも俺やセラフィ以上に他者に興味が無い。俺の知り合いということでクレーティオも、多少は友好的に接するだろうが、それだけだろう。
「んじゃま、いきますか」
「ほいよ~」
クレーティオを連れ立ってアルジェの元へ向かう。
まあ、何だかんだ言っても、久々にクレーティオに会えたのは素直に嬉しかった。
自由な女神「さあ突然の登場だよ! 勿論次話から大活躍~」




