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スプリトゥスへ

 全員の準備も完了し、俺達は馬車に乗り込んだ。


「んじゃ、ビャク頼んだ」

「はい」


 御者は連れていない。ビャクで十分だからだ。


 とりあえず向かうのはグラヴィウス帝都。アノンに声を掛けて連れて行くのだ。

 不在だったらフロディス辺りに伝えておけば後から追い付いてくるだろう。


 最近は馬車を使わずに行くことが増えた。単純にそっちの方が早いからなのだが……今回は久々に馬車で行くということで、いつもよりかなりゆっくりになるだろう。

 まあ、急ぎという訳では無いので、焦らずにのんびり行くことにしよう。どのみち馬車の速度を上げる方法はない。


 馬車の中での暇つぶしは問題ない。伊達に日頃から玉座の間でのんびりしている訳では無いのだ。

 前世の知識をフル活用した暇つぶしグッズは、セラフィとサクラにも大変好評で、偶に俺が出かけていたりしていない時でも2人で遊んでいるみたいだ。


 ビャクが用意した馬車はかなり良いもののようで、大分道が整備されてきたとはいえ、まだ荒い道を走っているのだが、それ程身体が痛くなることもない。

 今日泊る村に付くまで快適に過ごすことができた。


 それから、村に寄れる時は村により、そうでない日は野営をしていたが、何事もなく順調に進んでいた。

 帝国内に入ってからは街も増えたので、泊る場所には困らなくなった。


 そして、丁度一か月程が経ったくらいで帝都に辿り着くことができた。

 本来馬車で来ると、この二倍くらいは掛かるのだが、あまり感じなかったが精霊祭に間に合うようにビャクが調節していたのだろう。


「それじゃあ少し待っていてくれ、アノンを誘ってくる」


 わざわざ全員で行く必要は無い。馬車は帝都の中に乗り入れずに外で待っていてもらって、俺は早足でアノンの家に行く。

 以前行ったので場所は覚えている。


「アノン! いるか!」


 前回のように家の前でアノンのことを呼ぶ。


「はい! 今行きます!」


 返事が聞こえてきてアノンが中から出てきた。


「あれ? 今回は先輩1人ですか?」

「ああ、セラフィ達には帝都の外で待っててもらってる。アノンを呼びに来ただけだからな」

「そうだったんですね。呼びに来たということは、何処かへ行くのですか?」

「一月前くらいにアルジェから手紙が来てな。スプリトゥスで精霊祭っていう祭りをやるみたいなんだ。丁度いい機会だし、アノンも誘おうと思ってな。一緒に行かないか?」

「そうだったんですね……ではご一緒させていただきます! しばらくは特に予定もなかったので」


 フットワークの軽い後輩である。誘って快く返事を貰えると嬉しいものだ。


「そうしたら、すみません少し準備をするので、もしよければ中でお待ちください」


 お言葉に甘えて上がらせてもらって待つことにする。


 1人で暮らしているとはいえ、家自体はそれなりに大きく部屋もそこそこあるようで、アノンは別の部屋に出かける準備をしに行った。

 しばらくして戻ってきたアノンは手ぶらだ。勇者であるアノンは、当然のようにかなり質のいい収納袋を持っている。

 長めに出かけるのにこうして身軽な状態で行けるのは、この世界の特権だ。


「そういえばアノンには手紙ってきてなかったのか? 一応勇者なんだし、来ててもおかしくなさそうだけど」

「そうは言っても私って教皇様とそれほど面識が無いんですよね……それこそ数回言葉を交わした程度ですし……今回は祭りということなので、とりあえずある程度仲が良い方に手紙を出しているのではないでしょうか? まあセラフィ先輩を招きたかったっていうこともありそうですが」

「あー、確かにそれはありそうだな。初めての祭りらしいし、理級精霊のセラフィには来てほしいか……」


 普通に仲がそれなりにいいのはそうだが、精霊信仰のスプリトゥス聖国で初めて行われる祭りということならば、セラフィに来てほしかったという気持ちもあるだろう。

 まあ、だからといってどうこう言うようなことはない。別にセラフィのことを言いふらす訳でもないだろうし、俺達が不利益を被らないのならば、そういう思想があっても全然構わないのだ。


「とりあえず、準備ができたなら行くか。アルジェには俺から紹介してやるし、精霊のことを色々と聞いとけ。セラフィに聞いても曖昧で分かり難いこともあるからな」

「よろしくお願いします! それにしても、先輩と出掛けるのも本当に久しぶりですね……ふふっ、前に獣人の国へ旅をした時のことを思い出します」

「今回は魔王を討伐しに行くんじゃないけどな」

「もうここにいますもんね」


 横を歩くアノンは冗談交じりに喋りながら笑っている。本当に俺達と出掛けるのが楽しみみたいで、俺の方も自然に笑顔がこぼれる。

 本当に可愛い後輩だ。こうしていると、とても勇者で俺に匹敵する強さを持っているようには見えない。


 こうしてアノンと2人だけで話すのは本当に久しぶりなので、待っているセラフィ達には悪いが、少しだけ寄り道をしながらゆっくりと向かう。

 何も言ってはいないが、アノンも察してくれたようで、寄り道していることには何も言わずに楽しい寄り道になった。


 ふと思ったが、こうして楽しく並んで歩いていると、傍から見たら恋人同士に見えるかもしれない。

 今の俺の気持ち的には複雑なものもあるが、残念ながらと言うべきか、そこまで悪くない。


 まあ当然言葉にも表情にも出さないが……


 逆にアノンの方が、要所でそれらしい反応をしてくるので、むしろそれが俺の方にも影響を与えてくる。

 勇者の攻撃は魔王にとても効くようだ。


 流石にあまり長く寄り道しているのもアレなので、そこそこのところで馬車に戻ることにする。


「お待たせいたしました。今回はお供させて頂きます、よろしくお願い致します!」

「うむ、魔王一行に勇者が加わったわけじゃな」

「セラフィ様……その言い方はかなりの語弊があると思います……」


 セラフィが謎のボケをかまして、サクラが珍しく突っ込んでいる。

 ちなみにアノンはニコニコしており、ビャクはいつも通りの無表情だ。楽しそうでなによりである。

 それでいいのか勇者アノンよ……


「……とりあえず行くか。ビャク、スプリトゥスまではどのくらいだ?」

「二十日前後といったところでしょう。余程のトラブルが無ければ問題無く間に合います」

「よし、それじゃあ引き続き頼む。おーい、出発するぞー」


 まだ楽しそうに話をしている3人に声を掛けて改めて出発する。


 道中は相変わらず平和で、途中魔獣の群れとも遭遇したが、今更そんなものでは何も思わない。今回のメンバーで対処できない問題なんかそもそも殆ど無いのだ。ここは修羅の国ではない。


 というかアノンの奴また強くなっていた。

 最後にアノンが戦っているのを見たのは、あの戦争よりも更に前なので、あの戦争の時には既にここまで強かったか、英傑達を倒したことによりそれなりにレベルが上がったか……

 人間を殺した時も経験値が入るのは、あの戦争で初めて知ったことだ。それまでは人間を殺すことなんてなかったしな……

 クソみたいな戦争だったが、経験値という面だけで見れば多少の収穫だったとも言えなくはない。俺も少しだがレベルが上がったしな。


 まああの時の記憶は一旦忘れよう。

 また祭りが終わって落ち着いたらアノンと手合わせしてみても面白いかもしれない。

 恐らくだが、今回のスプリトゥス訪問でアノンも精霊と契約して更に一段階上の強さになるはずだ。しかも、まだ前例の無い雷属性の精霊ということもあり、アノンの戦闘幅がどのくらい広がるのか楽しみである。


 アノンも加わったことにより、更に賑やかに進みながらスプリトゥスに向かって行った。

 結局、心配する余地もなく、ビャクが帝都を出発する時に言っていた予定通りスプリトゥス聖国に辿り着くことができた。

自由な女神「やっぱりアノンちゃんってヒロイン力高いよね……勇者で後輩で……属性がずる過ぎる!」

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