招待状
ここから新章です!
日本の四季は素晴らしいものだったが、それでもいざその季節になると憂鬱になるような気温にもなる。
春と秋は比較的好まれるが、夏と冬は好き嫌いの分かれるところ……夏と冬どっちが好き? という質問はかなりの頻度で行われるが、夏には夏が嫌いと言い、冬には冬が嫌いだと答える奴も結構いた気がする。
人というのは分かりやすいもので、半年前に嫌な思いをしたのにも関わらす、現在進行形で嫌な思いをすると、前の嫌な記憶は若干美化される。
そうして半年後に、結局は真反対のことを言いだすのだ。
俺達の国であるノーヴィストに四季は存在しない。
元々秘境だったこの場所は、一年を通して少し肌寒いくらいで、比較的過ごしやすいのだ。
住むには最適であり、天候も山のように崩れやすいよいうこともなく、時々の雨以外は特に雪も降ることもない。
温度調節する物が必要なく、常に一定の過ごしやすい気温が保たれている場所では、今日も同じように玉座の間でダラダラしていても、何も気にすることなど無いのだ。
「そろそろなんかしないとな~」
「そういえばもう時期土地の引き渡し? を行うのではなかったか?」
「そうですね。ビャクも戻ってくると聞いていますし、一先ずのやることはできるのではないでしょうか?」
「果たしてそれも俺が必要か甚だ疑問だ」
「全くじゃな」
「あ、あはは……」
実際、王としての責務を殆ど果たしていない俺が、そのような場に必要なのだろうか?
セラフィは俺と似たような考えだし、サクラも苦笑いしているのを見ると、多分間違ってはいない。まあ出るけどさ。
土地を賠償として譲るという話を聞いて、ノーヴィストの王都に戻ってきてからというもの、殆どの時間をこうしてだらだら過ごしている。
当然外に出ることもあるし、秘境でレベル上げも行っているが、こうして玉座の間でセラフィとサクラと過ごしている時間が圧倒的に多い。
まあ、することがあまり無いというのは間違ってはいないが、こうして2人と過ごす時間が俺は好きなので、特に退屈していたりという訳ではないのだが……
まさにスローライフという感じだ。異世界らしいといえば異世界らしいが、実際にこうしてスローライフを送っていると、ただのダメ人間になった気分だ。
いや、実際ダメ人間になっているのだろうが……
そんなことを漠然と考えていると、玉座の間の扉が開いた。
どうやらビャクが戻ってきたようだ。
「おうビャク、お疲れさま」
「お気遣い痛み入ります。土地の引き渡しの日程に関しては滞りなく決まりました。先に領主となれる者を育てるということになり、期間はまだ少し先のことになります。フロディス皇帝陛下から預かってきた人材は家を貸すことになっており、現在案内を付けて向かわせています」
流石出来る執事ビャクだ。事の流れが非常にスムーズである。
「それと一点……手紙を預かっております」
「手紙? フロディスからか?」
「いえ、今回はアルジェ教皇からの物です」
アルジェから手紙を貰うのは初めてのことだ。
ビャクから手紙を受け取り中身を広げる。俺の両後ろからセラフィとサクラが覗きこんできた。
手紙の内容は、特に厄介事の類では無く、端的に言えば精霊祭という祭りを行うのでよかったら参加しませんか、みたいな内容だ。
これまでスプリトゥスでは祭りを開催したことはないらしく、国家間も平和になったことでどの国からも参加しやすいだろうから、開催してみることにしたという感じだ。
「そのうちスプリトゥス行こうとは思ってたし、丁度良いかもな……セラフィとサクラはどうだ?」
「ふむ、普通に楽しそうじゃし、いいと思うぞ」
「はい、私も行ってみたいです」
「それじゃあ決まりだな。細かい日程は……二か月後か? ビャク、問題無いか?」
「落ち着いてきましたし、問題は無いですね。ヨゾラ様とセラフィ様、それからサクラに関する予定も組まないでおきましょう」
であれば参加決定だ。
ここからスプリトゥスまでは国の中では最も遠く、二か月ということも考えるとそれなりに早足にはなりそうだが、問題無く着ける。
「そうだ、どうせ帝都の近くも通るんだしアノンも呼んで行こうか。それからビャク、今回はお前も参加な」
「私もですか……?」
「ああ、ノーヴィストの奴らもそれなりに育ってきてるんだろ? たまには息抜きしてもいいんじゃないか?」
「……では、そうさせていただきます」
ビャクはパーフェクト執事で仕事も誰よりも出来るが、如何せん面倒見が良すぎる。
こうして見ている分には、物静かであまり人を寄せ付けないタイプに見えるが、本当にその通りだったらここまで1人で沢山の仕事を抱えたりしない。
報告では人材もかなり育っていると聞いているので、ビャクの息抜きと、そいつらにビャク抜きでどれだけ出来るのかを試させるためにも、今回はビャクにも羽を伸ばしてもらおう。
「てなわけで、各自準備開始!」
出発するなら早めの方が良いだろう。
俺の掛け声でビャクとサクラは玉座の間を出て行く。ビャクは仕事の引継ぎもあるだろうし、サクラは俺とセラフィのために色々と用意するので、毎回そこそこ時間が掛かるのだ。
俺とセラフィも自分の準備をしなければいけないので、街にでも行ってみようかと思い隣のセラフィを見ると、何だかぼーっとしている。
「どうしたセラフィ?」
「いや、なに……そういえば儂とヨゾラがしっかりと出会ったのもこれから行くスプリトゥスなのじゃな、と思ってな」
確かにそうなのだが、何だか妙な雰囲気だ。
「儂は少し街に出てくる」
「……ああ、俺も後で行くよ」
俺は何とも言えず、セラフィの背中を見送ることしかできなかった。
妙に心臓が高鳴っている。実のことを言うと、こういうのは戦争が終わってから度々あり、その理由も何となく自分の中では整理できているのだが、セラフィと出会った場所に行く、ということを意識した時にこれまでとは比べ物にならない程の高鳴りを感じた。
「……もう、誤魔化しようがないよな。はぁ、今回の祭りが勝負か……」
これまでセラフィと出会ってから少なからずあった気持ちが確かなものとなり、それを自覚した。
タイミングを見計らう、という逃げのような理由で、誰にも言わずに秘めていたものだが、もう言い訳もでいないようなベストタイミングが訪れようとしている。
怖いという気持ちがありながらも、期待感に胸を膨らませてしまうこの感情を、人は恋と呼ぶのだ。
「ルーディスに来るまでは俺がこんな感情を誰かに持つなんて想像もしてなかったな……それだけ俺自身も変わってきてるってことかねぇ……んま、なるようになるか」
セラフィと相方以上の関係になりたい……その気持ちを一旦仕舞い込み、ヨゾラも準備のために街に向かうことにする。
自由な女神「遂にスプリトゥスに行くんだね! 最後に行ったのは500年前だったらかどのくらい変わってるのか楽しみだよ!」




