帝都での依頼
翌日は調べ事をするか、依頼をこなすかで悩んだが、俺の足は自然と冒険者ギルドに向かって歩いていた。
昨日少しだけだが入った帝都の冒険者ギルド、あの楽しそうな雰囲気が忘れられず、俺は自身もあの高揚感の中に包まれたいという誘惑から、調べ事を明日にすることにした訳だ。
時間的には昼前、まだ朝と言って良い時間なので、冒険者ギルドの中は流石に酒の匂いがしなかった。
しかし、騒がしいことに変わりはなく、今から依頼や魔獣の討伐に向かう者、依頼を探す者達の発する独特な雰囲気は、昨日とはまた違った感情を込み上げさせた。
俺はどうしようかと悩んだ結果、折角なのでカウンターで良い依頼が無いか聞いてみることにした。
どのカウンターにしようか悩んだが、昨日宿などを教えてくれた受付嬢がいたのでそこに行く。説明等が丁寧で助かったので、今日もお願いしたいところだ。
「あ、昨日の冒険者さん! 本日はどうなされました?」
「覚えててくれたのか?」
「昨日の今日ということもありますし……何よりもオーラのようなものがありましたので」
美人な受付嬢に顔を覚えられたのは嬉しいが、オーラってなんだ? 俺はまだまだ冒険者になりたての新人だし、猛者っぽい雰囲気は無いはず……ましてや凶悪な面をしてるわけでもない。
「まあいいや。何か俺に丁度いい依頼とかないか?」
「そうですね……丁度いいと言っても、あなたの実績や実力が分からないので難しいです」
「確かにそうだな」
「もしよろしければステータスをお見せしていただけませんか? 勿論他の冒険者には他言いたしませんので」
「構わないよ。別に見られて困るものでもないからね」
俺が了承すると、受付嬢はカウンターのしたから水晶を取り出した。街でヒーツにステータスを見せた時のと同じものかと思ったが、ステータスを表示させると、俺の方からは見えなかった。他の冒険者が見れないように対策しているのだろう。
俺のステータスを見ているであろう受付嬢が何を考えているのかは分からない。ただひたすらに無表情で見ていた。
「ありがとうございます。もう大丈夫ですので冒険者カードを下ろしてください」
俺は冒険者カードをしまい、受付嬢は水晶を戻して向かい合う。
「冒険者カードには冒険者になった日付、倒した魔獣の種類と数も見ることが出来ます。それを踏まえた上で言わせていただきますが……ヨゾラさんは冒険者登録したばかりだとは思えません。数日でここまでの実績を上げるのは本当に稀なケースです」
「は、はぁ」
「魔法も王級って……というよりも、王級しか使えないんですか?」
「魔法は冒険者になってから練習したもので……」
「なるほど……まあ、期待の新人って思っておきましょう」
半ば呆れたように受付嬢は話を切り上げた。そんな顔をされても俺にはどうしようもない。
「――すいません、冗談ですよ。強い冒険者は歓迎です! よろしくお願いしますヨゾラさん」
俺の様子を見ていた受付嬢は小さく笑いながら謝る。どうやら揶揄われていたようだが、美人な受付嬢に揶揄われるのは悪くない。
「では話を戻しましょうか。ヨゾラさんに丁度いい依頼でしたね。少々お待ちください」
カウンターの下から今度は束ねられた大量の紙を取り出して、それを順番に眺めていく。恐らく、束ねられている紙は全て依頼書なのだろう。
数枚の紙を捲った後、丁度いいのがあったのか1枚の紙を引き抜いてカウンターに置いた。
「これなんかどうでしょうか? 合同依頼のストロングアントの討伐依頼です」
「合同依頼ってのは?」
「合同依頼というのは、複数の冒険者、冒険者パーティーが受けることの出来る依頼です。既に1つの冒険者パーティーが受けているのですが、出発したのは昨日なのでやることはまだまだ残っていると思います」
なるほど、意味合いはそのままか。誰かと一緒に戦ったことは無いが、いい機会だ。他の冒険者がどんな戦い方をするのかを見ておくのもいいだろう。
「分かった、それを受けよう」
「場所は帝都を出て西側にある砂が多い平地になります。ヨゾラさんのステータスなら油断していなければ危険はないと思いますが、どうかお気をつけて」
「ああ。それじゃ、行ってくるよ」
特に用意する物もないので、俺は冒険者ギルドから真っ直ぐに門に向かって帝都を出て、目的の場所に歩き出した。
今回の獲物であるストロングアントは、ヒーツから聞いた情報に無い魔獣だ。名前から察するに蟻だろうが、地球で見かける蟻とは違うというのは分かる。海外の映画なんかに出てきた大きな蟻が一番に頭に出てきた。
細かいことは、現地に着いてから同じ依頼を受けているという冒険者達に聞けばいい。昨日出発したとのことだったので、何処かで野宿したはずだ。なら、その痕跡さえ見つけることが出来れば、すぐにでも合流できるだろう。そもそも平地と言っていたので、すぐに見つかる可能性もある。
1時間程歩いていると、草原だった場所から砂地に徐々に変わっていく。思っていたよりも早く目的地に辿り着いた。道中に魔獣と遭遇しなかったので、移動自体はとてもスムーズに出来たのだ。
「んで、同じ依頼を受けた冒険者はどこだー?」
平地ということで、見渡せば見つかると思っていたが、良く分からない植物や砂でできた何か良く分からないもののせいで、そこまで遠くまでは見渡せない。
仕方がないのでしばらく適当に歩いていると、遠くの方で音が聞こえた。
そちらの方に向かって歩いていると、それは戦闘音のようだったので、剣を抜いて走る。ステータスの上昇により、前よりも走る速度が速くなっていても周囲の様子はある程度把握できる。障害物競走のようにものの間をすり抜けながら走っていると、巨大な蟻5匹に囲まれた3人の冒険者を見つけた。ストロングアントと同じ依頼を受けた冒険者だろう。
周囲にはそこそこの数のストロングアントの死骸が転がっていることから、それまでは頑張って倒していたようだが、次々と湧いてくるストロングアント相手に休む暇がなかったようで、冒険者達の動きにはイマイチキレがない。あのままではやられてしまう可能性もあった。
俺は走っている勢いのまま地面を思いっ切り蹴り、上段からストロングアントに斬りつける。
それなりに硬かったようで、鈍い感触が手に伝わってきたが、どうにか斬り抜くことができ、着地に合わせて前転し地面を蹴ってさらに別のストロングアントを切断する。
「あっ……」
2匹のストロングアントを倒せたのはいいが、そこで剣が折れてしまった。仕方がないので俺は振り向いてすぐにフォトンレイを発動させて3匹目のストロングアントを正面から貫く。
残った2匹が同時に飛びかかってきたが、俺は自身の足元付近にフォトンレイを5つ展開して空中にいたストロングアントを仕留めて締めだ。
突発的な戦闘でも疲れはそこまで無かったのだが、1種類の魔法しか使えない俺の数少ない攻撃手段である剣が折れてしまった。用意する物は無いと帝都を出てきたが、剣の状態をしっかりと見ておくべきだった。
「その……助かった、礼を言う」
後悔している俺に、ストロングアントに囲まれていた冒険者の内の1人が頭を下げてお礼を言ってくる。それに合わせるように後ろの2人も頭を下げた。
「ん? ああ、気にしなくていい。それよりも、あんた達がストロングアントの合同依頼を受けた冒険者で合ってるか?」
「それは間違いない。あんたもそうなのか?」
「受付嬢に丁度いい依頼は無いかと聞いたらこの依頼を薦められたから受けたんだ。あんた達が先に来ていることも知っていた」
同じ依頼を受けた冒険者パーティーはやはりこの3人だったようだ。
今俺と話しているのがリーダーだろう。見た目は若く、俺とあまり歳は変わらないのではないだろうか? 俺と同じくそこまで大きくない直剣を持っている。後ろの2人も歳はリーダーの奴と変わらない。片方は長めの剣を持った男で、もう1人は杖を持った女だ。
「どうする? 一旦休んだ方がいいと思うが……」
「そうだな……流石に消耗が激しい。あんたは剣が折れたみたいだが、大丈夫なのか?」
「見たと思うが、一応魔法も使えるから問題はそこまで無い」
戦った感じストロングアントはそこまで動きが早い訳じゃなさそうなので、MPが尽きない限りは大丈夫そうではある。
フォトンレイのMP消費量は一発7だ。今の俺ならば30発は打てるので、無駄打ちし過ぎない限りはそこまで問題じゃない。ちなみに、5個まで出せる溜めの必要な方は35消費するのではなく、1セットで7だ。
「あんたはこのまま狩りを続けるか?」
「いや、そっちが休むなら合わせるよ。折角だし協力しよう」
「ありがたい……なら俺達が昨日野営した場所に向かおう。そうだ、あんた名前は?」
「ヨゾラだ」
「よろしくなヨゾラ。俺はスカットだ。こっちの2人は――」
「クレイ」
「イツネです」
「スカット、クレイ、イツネ、よろしく」
俺達は互いに挨拶を済ませて、昨晩野営したという場所まで戻ってきた。
休みながら俺が何をすればいいかなどを話し合っているなかで、俺の魔法のことを聞いたイツネが声を上げた。
「え!? さっきのあの魔法は王級なんですか!? もしかしてヨゾラさんって凄腕の魔法使いですか?」
「ううん。それどころか俺、あの魔法しか使えないんだ」
「訳が分からないです……」
フォトンレイが王級だと聞いてイツネはとても驚いたが、それ以上に俺がフォトンレイしか使えないことに驚いた。
練習さえすれば普通の魔法も使えるようになるだろうけど、そもそもまだ転生してからそこまで経ってないのに、練習する時間などなかった。仕方ない。
「まあまあイツネ、世の中そういう奴だっているさ。そもそもヨゾラは剣士なんだろ?」
「んー、攻撃手段として剣を持ってるだけで、別に剣の練習したりした訳じゃないから剣士ってのもな……」
「でも……ヨゾラさんが斬りこんで来た時、その……カッコよかったです……」
やめろ! 顔を赤らめてそんなことを言うんじゃない! ちょっとドキッとするだろうが!
「もう休憩はいいんじゃない?」
それまで黙っていたクレイは、俺達の気が抜けて十分に疲れが取れたのを確認してか口を挟む。
「そうだな。今日中に終わらせたいし、そろそろ行くか! ヨゾラも大丈夫だろ?」
「問題ない。ちなみに後どのくらいなんだ?」
「巣を3つってとこだな。ストロングアントの数で言ったら20匹くらいだ」
それならばMPも問題なさそうだ。
俺の役割は、前衛であるスカットとクレイが対処しきれないストロングアントを魔法で倒すこと。万が一前衛の2人にフォトンレイが当たったらまずいので、今回は自身の手から放つ方しか使わない。
俺達は役割通りの配置で並び、ストロングアント討伐の依頼を終わらせるために巣に向かって歩き出した。
自由な女神「さっすがヨゾラ君! 最高にかっこいい登場だね! これは女なら惚れること間違いなしだよ!」




