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この異世界は物足りない  作者: VRクロエ
英傑決戦編
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勇者宅

 俺とサクラとセラフィは、フロディスに教えてもらったアノンの家に来ていた。

 勇者という重要な役職に似合わず、アノンの家は言ってしまえば普通で、とても勇者が住んでいるとは想像しにくいような家だった。


 多分だが、アノンが望んで普通の家に住んでいるのだろう。

 勇者という立場や、アノンのこれまでの功績を考えても、豪邸に住んでいてもおかしくはないが、アノンはそういった派手さや煌びやかな感じを好むタイプではなく、話している感じなどは普通の女の子といった感じだ。

 物語に出てくるような勇者としての強さはあり、見た目も非常に美少女で心優しいが、強さ以外はアノンが元々持ち合わせているもので、勇者としての在り方とは少しずれている部分もある。


 まあそんなアノンだからこそ、俺も手放しに味方をしてしまうのだが……


 さて、アノンはいるだろうか? この世界の家にはインターホンといった便利な物は存在しないので、約束を取り付けていない時は直接呼ぶしかない。


「おーい、アノン! いるかー」


 ドアをノックしながらアノンの名前をそこそこ大きな声で呼ぶ。

 アノンの家がある場所は、帝都の中でも珍しく周囲にあまり人がいない場所なので、恥ずかしがりやのアノンの名前を大声で呼んでも問題ないだろう。


 名前を呼んで少ししてから、家の中から微かに足音が聞こえてきた。


「はい、アノンです! どちらさまでしょうか……?」


 どうやらいたようだ。


「俺だ、ヨゾラだ。遊びに来たぞー」

「え……ヨゾラ先輩!?」

「儂もいるぞー」

「私もいますよー」

「セラフィ先輩にサクラさんまで!? す、すいません、少々お待ちください!!」


 慌てたように返事をしたアノンはどたどたと玄関の前から何処かへ行ってしまった。


 俺が名乗った後にアノンが慌てたのを察したセラフィとサクラが反応を楽しむように名乗ったのは聞いてて少し以外だった。セラフィはまあ分かるが、サクラも最近はセラフィに似てきたな……

 セラフィのような飯の化身にはならないことを願うが、今のサクラも大変可愛かったので、是非その調子でどんどん砕けていってほしいものだ。


 しばらくアノンを待っていると、家の扉が開き、ようやくアノンが姿を見せた。


「……別にそのままの恰好でも良かったんだぞ?」


 出てきたアノンは、普通にお洒落な格好をしており、とてもじゃないが休日の自宅でしているような恰好ではなかった。


「だ、だって恥ずかしいじゃないですか……凄くだらしない恰好でしたし……そんな姿先輩には見せられませんよ……」


 もじもじしながら恥ずかしそうにするアノン。非常に可愛い。

 アノンは手放しなしに美少女なので、しかも後輩属性も持っており、そんな奴がこんな仕草をすれば、それは可愛いに決まっている。

 不覚にもドキリとさせられてしまった……


「それで先輩、今日はどうしました?」

「あ、ああ、丁度帝都に来ることがあってな。戦争が終わってからアノンにも会ってなかったし、会ってこうってなったんだ。家の場所はフロディスに聞いたんだが、勝手に聞いても大丈夫だったか?」

「あれ? 教えていませんでしたっけ? 先輩達なら全然大丈夫ですよ。それに会いに来てくれて嬉しいです! 何もないですけど、どうぞ上がってください」


 アノンは快く家に上げてくれた。

 家の中も外見と同じように普通の家という感じで、生活感に溢れている。

 そんな家の壁にアノンがいつも使っている剣が立てかけてあるのは違和感があって面白い。


「そうだ、お菓子持ってきてるんだ」

「ありがとうございます! それじゃあ飲み物の用意をしますね」

「私も手伝います」


 アノンとサクラが準備をしに行ったので、俺とセラフィは大人しく待っていることにする。

 あの2人は、先の戦争で共闘したこともあり仲良くなっているみたいだ。まあ、サクラは元々人当たりはいいので、誰とでもある程度仲良く接することはできるのだが、アノンとサクラは友達というくらいの仲になっているように見える。

 俺としてはアノンとサクラが仲良くやっているのは嬉しい限りだ。


「お待たせいたしました。どうぞ先輩。セラフィ先輩も」

「ああ、ありがとう」

「うむ、ありがとうなアノン。サクラも」


 俺達は紅茶を飲み一息付く。

 特に何か用事があってきたわけではないので、まったりした時間が流れている。普段は俺とセラフィとサクラだけなのだが、アノンもいるのが新鮮だ。アノンがノーヴィストに住んでいれば暇そうな時に呼ぶのだが、流石に帝都から呼ぶには遠すぎる。


「なあアノン、ノーヴィストに引っ越してこいよ」

「え、急ですね……流石に無理ですよ……」

「だよなぁ。まあ気が向いたらいつでもこいよ」

「はい! 皇帝陛下にも相談してみます」


 意外と前向きだな……まあ俺としては嬉しいが、やっぱりすぐには無理か。勇者としての活動もあるだろうしな。


「……なあアノン、凄いことを言ってもよいか?」

「? はい、セラフィ先輩なんでしょう?」


 ここで、お菓子をただ頬張っていたセラフィが唐突に口を開く。

 凄いことらしいが、どうせセラフィのことだから大したことのない内容だろう……


 そう思っていたのだが、出てきたのは本当に予想外のことだった。


「雷の理級精霊が発生しておるぞ。今気が付いたのじゃが、アノンの近くにおるな」

「……え? 精霊ですか?」

「うむ、雷の理級精霊じゃ」

「えっと……本当ですか?」

「嘘を付く意味など無いじゃろう。恐らくじゃが、発生したのは先の戦争の時じゃな。儂が発生時に感知できんかったのはそのせいじゃろう。最も気配を感じやすいその瞬間を逃したせいでこうして会うまで気が付かんかったが、発生しているのは間違いない」


 どうやらセラフィがここまで言うのならば本当のことなのだろう。

 残念ながら俺の精霊の存在を察知する力は無いので、見ることができないのは残念だが、だからこそ興味はある。


「それじゃあアノンも遂に精霊と契約するのか?」

「そ、それこそ突然の事過ぎて今すぐにとは……一生に一度の事ですし、そもそも契約する時にその子が来てくれるとは限りませんし……」

「そこは問題なかろう。そやつはアノン以外の元へ行く気は無いようじゃし。まあアノンは精霊に好かれておるから契約を行う時は沢山の精霊が寄ってくるじゃろうが、理級精霊であれば後れを取ることはない。伊達に精霊の頂点ではないからのう」


 もしかしたら俺のセラフィの時もそんな感じだったのか? こうしてセラフィを見ている感じ、確かに他の奴を蹴散らして出てきそうだな。

 それを考えれば、アノンの近くにいるという精霊も契約する時になればしっかりと出てくるだろう。


 なんにせよ楽しみではある。セラフィを以て謎の存在である雷の精霊がどれ程の力を持っているのか……

 現状アノンが使える雷属性の魔法は一つだけ。セイクリッドバインド等が同属性と仮定してもそれほど使える魔法は多くない。

 まあセラフィの強みはまだ他にもありそうなので、理級精霊という存在の可能性はまだまだ計り知れないが、それでもセラフィの強みの一つとして数多くの魔法を使えることが挙げられるのは確かだ。


「まあアノン、焦ることはないが、もし契約したら俺達にも会わせてくれよ」

「それは勿論! ちなみにヨゾラ先輩って精霊との契約ってしているんですか?」


 ここに来て答えにくい質問が来てしまった……

 契約していないと答えるのは簡単だ。俺が獣人やセラフィを生み出したとアノンは知らないし、今のところは言うつもりもない。であれば、リスクが少ないのは契約していないと答えるとこだが……

 それはセラフィとのこれまでを否定するようで、なんだか嫌だった。


「精霊と契約してはいるぞ。まあ事情があって話してはいなかったが……まあ、そのうちな」

「そうだったんですね……ちなみにセラフィ先輩は? 確かセラフィ先輩って理級精霊の獣人でしたよね?」

「儂か? まあそうじゃな。じゃが儂の相方はヨゾラだけじゃ」


 セラフィも否定はせずにぼやかす。今はこれでいいだろう。


「まあいざとなればスプリトゥスに行くのもいいんじゃないか? 俺達もそのうち行く予定だし、一緒に行くか?」

「是非! その時は呼んでください!」


 セラフィと精霊と話せるアルジェがいれば何の心配もいらないだろう。アノンにも言った通りそのうち行く予定だったし丁度良いだろう。ビャクも落ち着いた頃にまた手紙を出せばいいか。


 セラフィによる思わぬ報告もあったが、この後の話は他愛ないことばかりだった。

 戦争に参加していなかったロウとフーシーが今何をしているとか、ルーシェの料理がどうとか、こういう魔獣を倒したとか――


 戦争という人間を直接相手にする戦いをしたアノンが、また何か引きずっていないか心配をしていたのだが、自分の中で折り合いを付けることができているみたいで安心した。

 後輩の成長を感じることができて嬉しい限りだ。


 話は思った以上に弾み、気が付けば夕方になっていた。


「それじゃあアノン、そろそろ時間も遅いし、俺達は帰るよ」

「あー、もうそんな時間でしたか……早いものですね。先輩さえ良ければ泊っていきませんか? 平凡な家を頂いたとはいえ、1人で暮らすには部屋も余ってしまっていますし」

「俺はいいが、アノンはいいのか? セラフィとサクラはともかく、俺は男だしなぁ……」

「先輩なら構いませんよ。信頼してますし……まあ、なにかあっても構いません……」


 全く、そこまで言われたら裏切れないな。最後の方に小声で喋っていた言葉は、今は聞こえなかったことにしておこう。


「それじゃあ、泊ってくことにするよ。飯は……とりあえず買い出しでも行くか」

「はい!」


 結局夜遅くまで話し込んでしまい、次の日に起きるのが遅くなったことは想像に難くない。





自由な女神「アノンちゃんって勇者だけど基本的には普通の女の子だよねー。ヨゾラ君もその辺が気に入っているのかな?」

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