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この異世界は物足りない  作者: VRクロエ
英傑決戦編
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閑話:セラフィとサクラ

 戦争は終わったものの、ノーヴィスト内はまだまだ慌ただしく動き回っている者が多かった。


 事の発端は獣人との戦争の再開だったということもあり、政治的な観点で言えば、今回の戦争の中心は人間主義連合とノーヴィストだったといえる。ビャクを中心に、政治体制が整ってきたノーヴィストは各国とのやり取りも増えているのだ。


 それ以外にも、自国内でヨゾラと双璧を成す王であるセラフィが攫われたという事実を、ノーヴィストの兵士達はかなり重くとらえており、新たな警備網の設営や、入国者に対する更に厳重な身分確認を行える環境の整備など、様々な面の課題を出してはより良い方向へいけるように、精を出していた。


 ただ、そんな慌ただしい中でもいつもの日常を送っている者が3人。

 ヨゾラとセラフィとサクラだ。


 ヨゾラは朝まではいつものようにのんびりしていたが、まるで猫のように突然動き出し、秘境にレベル上げをしに行った。

 特に誰かに何かを言うでもなく、ふら~っと出かけていったヨゾラは、中々に変な感じだったが、見送ったセラフィとサクラは、まあそんなもんかと、良く分からない納得の仕方をして、2人で街に出る。


 ――というよりも、セラフィは1人で適当に街中を見て周ろうとしたのだが、サクラが離れない。普段引っ張り回しているセラフィが言えたことでは無いが、メイドの仕事はいいのだろうか?


「なあサクラよ、おぬしメイドの仕事は……」

「私はセラフィ様とヨゾラ様の専属メイドです。なのでこうしてセラフィ様に付いているのも仕事の内です」

「じゃ、じゃが儂は1人でも……」

「ダメです」

「いや……」

「ダメです!」


 うむを言わさない圧にセラフィは諦める。


 実はあの戦争が終わり、こうして日常に戻ってきてからサクラはずっとこんな感じだ。


 セラフィが攫われた時の状況は、サクラが薦めた店にセラフィが1人で訪れている時だ。勿論、それはサクラが悪いわけではなく、1人で行くと言ったセラフィが悪い訳でもなく、ノーヴィストの警備に付く者や街の市民が悪い訳では無い。

 だが、それでもサクラは深い罪悪感を抱いた。自分があのようなことを言わなければ……せめて付いて行っていれば……


 それは一種の傷となり、戦争が終わった今もその傷は癒えていない。セラフィが1人で出かけるとなれば、セラフィが攫われた時のことを嫌でも思い出してしまい、自分勝手な気持ちで共をしてしまう。

 セラフィも、そんなサクラの内心を知って、何だかんだ言いつつも許してしまう。


 それでもこのままではいけないとは2人共思っている。

 そして、それを解決するのは、立場上は主である自分の役目だとセラフィは思った。


「サクラ、人の感情というのは複雑なものじゃ……今回儂を捉えていた男、ロウという男は、かつてヨゾラに助けられたことすらある奴じゃった。それでも、ヨゾラに恨みを持ち、行動を起こした。儂とて、人の感情なんかにはまだまだ疎い。じゃが、それでもこうして生きていれば、段々と分かってくる。獣人と手を取り合う者、憎む者。儂のようにヨゾラを愛す者もいれば恨む者もおる……それは仕方が無いことであり、それにより何か大きなことが起こるのも、また仕方が無いことなのかもしれない……」

「それは……そうですね……」

「故に、サクラが儂を心配して、こうして付いておきたいのも、仕方が無いことなのかもしれん。儂がそれを必要としていなくとも……じゃが、サクラも思うておるのではないのか? このままではいけないと。その気持ちが外的要因で生まれてしまった、本来の己が持つものとは違う……そもそもそうありたいと、望んでいないことじゃと……」


 セラフィは、元々殆どの者に対して興味が無かった……いや、それは今もなお同じことだが、それでも前に比べれば多くの者へ目を向けるようにはなった。

 セラフィを変えたきっかけは何だっただろうか……セシルとルーシェという友人ができたことか、アノンというヨゾラ以外に力という面で対等と呼べる相手が出てきたことか、サクラという新たな家族と呼べる存在が生まれたことか……

 理由は何にせよセラフィは変わり、そして恋または愛という感情も理解したことで、更に人の感情というものを深く考えるようになった。


 捕らえられている間も考え続け、完全に理解したとは言えないが、そういうものなのだろうということは、漠然と自分の中に落とし込むことができている。


 それに比べて、サクラはまだ人という存在になって日が浅い。正確には獣人だが、大きな括りで言えば人間も獣人も等しく人で、そこにある感情もまた等しい。


 だからこそ、戸惑い迷い、整理できないでいる。


 それをセラフィは、拙くともサクラに伝えようとする。


「ヨゾラは、己の生きたいように生きておる。勿論、儂もじゃ。だからこそ、サクラにもそうあってほしいし、今こうして儂に付いていることは、本当にサクラのやりたいことなのか? ……いや、これでは言い方が悪い。こうしてサクラと出かけるのは、楽しいものであることは間違いない。じゃが、そこにある感情は? サクラがそうしたくてしておるのと、別の感情が邪魔しておるのでは、またその意味も大きく変わってくる」

「わ、私は……」


 セラフィの言葉にサクラは泣きそうな顔になる。

 サクラも分かってはいるのだ、こうしてセラフィに付いているのが、そうしたいという気持ちからきているものではなく、不安などといった感情で、そうしてしまっているということは……


「サクラ、少ししゃがんでみよ」

「? はい……」


 気が付けば、周囲にあまり人がいない場所まで来ていた。

 セラフィはそれを確認してからサクラをしゃがませる。


 そして、セラフィはサクラを優しく抱きしめた。


「安心せい、儂はこうして帰ってきた……これからも、仮に何かあってもヨゾラが助けに来てくれる。逆にヨゾラに何かあっても儂が絶対に助ける。そして、それはサクラであってもじゃ。じゃから何も心配せんでいいい……サクラはただ、好きなことをして、好きなことを思って自由に生きよ」

「……はい……ありがとうございます、セラフィ様……」


 セラフィの腕に包まれ、そして優しすぎる言葉に、サクラは涙が溢れて止まらなかった。


(お母さんがいたら、こんな感じだったのかな……)


 こうして抱きしめられているだけで、どうしてか酷く安心してしまう……全てを委ねてしまいたくなるその安心感に、サクラはしばらくの間、セラフィから離れることができなかった……






 ――――――――――






「落ち着いたか?」

「はい……ご迷惑をお掛けしました……」

「なに、気にするでない。むしろサクラはもっと儂らを頼るべきじゃな。まあ、今回の騒動に関しては、儂が多大な迷惑を掛けたから、口を大きくしては言えぬがな」


 セラフィは若干苦笑いをしながらそんなことを言う。


「いえ、そうですね……これからは、もう少し頼らせていただきます!」

「うむ、その意気じゃ!」


 サクラにもう悩んでいる様子は無い。無事に解決できたのだ。


「それでセラフィ様、どうするんですか?」

「そうじゃな……まあ少し機会を見てじゃな。焦ることでもないしの。それに、サクラはどうなんじゃ?」

「私は何番目でもいいので」

「良いのか?」

「ふふっ、自由に生きるって決めたので」

「そうか」


 人の感情の機微に敏感になってきたセラフィ……当然サクラの気持ちにも薄々気が付いている。だからこその質問だったが、サクラの様子を見て、それ以上追及することはなく、納得した。


 その後は、何の蟠りも無く2人で街を散策する。

 今回の戦争によるサクラの傷は、こうして完全に癒えたのだった。




自由な女神「セラフィの包容力がっ!? こうして見ると本当に成長したって分かるね……」

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