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この異世界は物足りない  作者: VRクロエ
英傑決戦編
112/137

負けれぬ戦い

 信じていたし、疑ってもいなかった……ヨゾラならば必ず助けに来てくれると。

 力のほぼ全てを失い、弱気になった心は、徐々に恐怖という感情をセラフィに与えていったが、それでも心が折れることが無かったのは、最愛の相手ヨゾラへの信頼ゆえだ。


 ロウは度々セラフィの元へ来ては心を折るために色々と言ってきたが、その全てを鼻で笑い、表面上はあくまでも強気でいたのだ。

 しかし、セラフィがそんな態度を取り続けても、ロウはには常に余裕があり、ヨゾラが来ることすら恐れていなかった。


 最初は多くの英傑を抱えており、その戦力でヨゾラに勝てると高を括っているのかとも思ったが、いくらなんでもそこまでアホではないだろうと考え、であればヨゾラがここに来てもどうにか出来るような用意があるのではないかと思い始めた。


 それは己がここに捕まっているということが罠になっているとセラフィは感じ、ヨゾラへの心配も募る。


 そして、ヨゾラが街に辿り着いたという報告があり、セラフィは嬉しさと心配で感情がかき回されていたが、今のセラフィには何もすることは出来ず、ロウによって無抵抗に連れ出されるだけだった。


 連れて来られた場所は、かなり広い場所で、闘技場のような形になっており、反対側の入り口であろうところにはヨゾラの姿が見えた。

 かなりボロボロになりながらも助けに来てくれたヨゾラの姿に、流したことの殆ど無い涙が溢れそうになるが、あのヨゾラを前にしてもまだ余裕な感じが抜けないロウを見ていると、やはり嫌な予感がする。


 その予感は的中し、ヨゾラの前には1人の男が現れた。

 見た瞬間にかなり強いことを本能的に悟り、それでもヨゾラには及ばないのだが、それは万全な状態で戦ったらの話だ。

 今のヨゾラは消耗が激しく、そんな状態では一体どうなるか……

 それでもセラフィは己が相方であるヨゾラのことを深く信じる。


 だが、戦闘が始まると、やはり懸念していた通り、ヨゾラはかなり動きが鈍く、更にはレナードという男……相当戦い慣れており、戦闘の流れを常に読み切り、ステータスで劣っていてもヨゾラを相手に自分のペースで戦いを進めていた。


 それでも、ヨゾラは無理やりにでも決定打を生み出そうとし、レナードの予想を上回ることも出来ていた。

 しかし、そこからレナードの動きは更に研ぎ澄まされていき、ただでさえボロボロのヨゾラの身体に傷が増えていく。


 そして、遂にその均衡が大きく崩れることとなる。ヨゾラが無理やりにダメージを稼ぎにいったところをレナードが巧みに捌き……そして大きな隙を作ることになったヨゾラの脇腹にレナードの剣が突き刺さる。


「ヨゾラ!?」


 セラフィもそれまでは心配しながらも信じて見守っていたが思わず叫び声が出る。

 今すぐにでもヨゾラの元へ駆け寄って共に戦いたい気持ちで、ロウの拘束をどうにか解こうとするが、それは叶わない。

 精霊としての力だけではなく、ステータスもどういうわけか大幅にダウンしてしまっている今のセラフィは、HPはまだしも、それ以外は一般人と同じくらいしかない。

 そのステータスでは流石にロウに力で勝つことは出来ないのだ。


「くくっ……いい気味だ……」

「貴様……」


 楽しそうに笑うロウを睨むが、それで何かが変わる訳でもない。

 結局、今のセラフィに出来るのは、ヨゾラを信じて顔を俯かせないことだけなのかもしれない。






 ――――――――――






 脇腹が焼けるように痛い……もうこのまま目を瞑って眠りについてしまいたい感覚に陥る。

 しかし、それではダメだと微かに残る意識が身体を突き動かし、力任せに脇腹に刺さる剣を押し抜き、力の限り後ろに跳んだ。

 地面を転がり、そこに血の道が出来るが、気にはしていられない。

 HPは既に2割を切っており、瀕死と言える状態だ。むしろよく2割も残っていたものだ……


「まだ動くのかぁ……流石に、頑丈過ぎるね」

「はぁ……はぁ……」


 レナードは追撃しようとはしていない。ここまで削れた以上は急がなくても勝てると判断したのだろう。

 実際その考えは間違ってはいない。レナードのHPは恐らくまだ6から7割は残っている。仮に俺がこの傷を作られる前と同じくらい動けたとしても覆らない数値だ。


 そのレナードの様子を見ていると、次々と俺の中には絶望感が湧いてきた。


 守りたい者を守るために強くなろうと思い、そしてここまで強くなった……

 しかしそれでもまだ足りていない。多くの英傑に削られ、ようやくセラフィの元に辿り着いても、レナードというたった1人の男に止められている。

 クレーティオという最高の神に与えられたスペックがありながら、言ってしまえば普通の人間にいいようにされている。


「結局俺は……主人公になれないのか……」


 物語の主人公ならば、この状況からでも諦めずに状況を覆すことだろう。だが、俺にはその力も奥の手も何も無い……


 膝が持ち上がらない、顔を上げることすら怖い……今まで散々大口を叩いてきて、どんな顔を向けられるのか、それを考えると立ち上がれそうにない。


 ならばいっそ、ここで終わっても……


「ヨゾラ!!!」


 目が閉じようとしたその時、セラフィの声が聞こえてきた。

 どんなことを言われるのか……せめて相方の言葉くらいはしっかりと刻んでおこうと顔を上げると、セラフィは俺が想像していた表情はしていなかった。


「……どうして……笑って……」


 セラフィは自身が捕まっているという状況なのに優しく俺に向かって笑っていた。

 そしてセラフィの口は伝えたいことの通りに動く……


 ――信じている。


 ただ、それだけの言葉……だが、その言葉は俺の沈み切った心に光を齎すかのように浸透していった。

 こんな状況でも、どんな状況でもセラフィが俺を信じて待っていてくれるのならば、俺は何度でも自分の作品の主人公として舞い戻ることができそうだった。


 先程までの重たい身体が嘘だったように俺の身体は軽く立ち上がった。


 この絶望的な状況を覆す術が無いのならば、()()()()()()()()()()()()

 そう、生み出すことができるのだ。魔法という想像力を形にすることができる力がこの世界にはあるのだから。


 この状況を打開するために必要なことを想像していく。そして、どこまでも強く、大切な者を守るための力を……それこそ物語の主人公のような力を……俺自身が主人公だということを魂まで刻み込むように……


 俺を光が包む。HPは元に戻らないが脇腹の傷は塞がり、血の流れを止める。身体が軽くなっていく感覚と、俺の周りに六つの光の剣が出現した。


 傷を癒した魔法は『スピカ』、身体強化の魔法は『マグスター』、そして光の剣を出現させた魔法は――


「プレアデス!!」


 星々の名前を借りたこの3つの魔法は、どれも神級に分類させるであろう魔法となっている。


 プレアデスにより出現した剣を見て、レナードは出会ってから一番の驚愕を見せている。それもそうだ、大量のMPを消費して生み出された光の剣は、神々しいまでの光を放っており、その存在感を存分に発揮している。


 俺が軽く手を振ると、光の剣の一本がセラフィとロウに向かっていく。


「んなっ!?」


 ロウは突然のことに呆然としており、その剣が頬を掠める。セラフィを拘束している汚らわしい手を斬り落としてやろうと思ったのだが、かなり制御が難しく少しずれてしまったようだ。


 基本的には頭で考えるだけで操ることができるように作った魔法だが、流石に身振りもした方が細かい制御はしやすい。

 まあ、目の前にいるレナードとの戦いではわざわざそこまでしている余裕はないだろうから、結局は頭の中だけで制御することになりそうだ。そうなるとあまり長くは持ちそうにない。早めの決着が好ましいところだ。


「いやぁ、本当に驚かされるね。でもそうだなぁ……くはっ! 面白いじゃないか! これだ、これだよ俺が求めていたものは!」

「なんだ急に……」

「いや、世界最強ってのも退屈でね。何せ俺よりも強い奴がいないんだ。だが更に強さを求めることはやめられない。するとどうだ? 対等に戦える奴がいないんだよ! 本当に君には感謝しなきゃね。また俺はこの高揚感を思い出すことができた」


 先程まで驚いたような表情をしていたのに、今はただただ目を輝かせて楽しそうにしている。

 既にそれなりの歳だろうが、その表情はおもちゃにはしゃぐ子供そのものだ。まあ、その理由のせいで俺は大変な迷惑を被っているわけだが……


「それじゃあ最終ラウンドといこうか。世界最強という呼び名……返してもらうよ!」


 この戦いが戦争の終結となるだろう。

 そして勝った方が世界最強……正直その呼び名には全く興味無いが、セラフィを取り戻すためにありがたくもらうことにしよう。


 もう下は向かない。俺は、ただ俺の物語の主人公であるために、そして主人公として大切な者を守るために戦い抜く。


「いくぞ!」


 向かってくるレナードに、俺も同じく向かって行った。





自由な女神「ヨゾラ君の物語の主人公はヨゾラ君だけ! なににも負けずに突き進め!」

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