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この異世界は物足りない  作者: VRクロエ
英傑決戦編
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そこで待つ者

更新遅くてごめんなさい……

 階段を下りていくにつれて、段々と周囲の温度が下がってきている気がする。

 かなり長い階段で、屋敷の豪華な感じと真逆に、壁などは酷い作りだが、下りやすいようにか、階段の作りだけはしっかりとしている。


 今のところ罠の気配なんかはしなく、本当にセラフィはここにいるのかという気持ちになってくるが、とりあえずは確認してからでも遅くない。

 警戒だけは解かぬように、階段を下って行った。


 階段を下りきると、道の両端にテンプレのような牢屋が並んでいる。

 かなり数が多く、知られていないだけで相当悪いことをしているのが分かる。


 とりあえず見える範囲にセラフィはいないので、このまま進むことにした。


 牢屋の中を見ながら進んでいると、流石に人骨は片付けられているのか全く無いが、血が固まって変色したような跡が沢山ある。

 あまり領主や貴族なんかとは親しくないため、あまり知らないが、こういった奴も多いのだろうか?

 まあ少なくとも、今回の敵側にいる貴族にまともな奴はいなさそうだとは思っているが……獣人との戦争を再開することになんの意味があるというのだろうか?

 折角アノンが身も心も削って終わらしたのにも関わらず、恐らく戦場にも出たことが無いような奴らにどうこう言う資格なんてないだろう。

 まあ百歩譲って英傑達の気持ちは分からなくは無いが、セラフィを攫った時点で許すという選択肢は無い。


 これ以上余計なことを考えるのはやめよう。どの道、敵として立ち塞がるなら容赦しないのだ。理由だなんだと考えても仕方が無い。


 地下はかなり広いが、入り組んだ作りになっているという訳では無く、殆ど一本道なので迷ったりすることは無い。

 慎重に進んでいくと、急に雰囲気が変わり、戦う為にも十分な広さがある部屋に出た。


「――ようやく来たかヨゾラ!」


 その広い部屋の上の方……まるで闘技場の観客席のようになっている場所から声が聞こえてきた。

 そちらを向くと、1人の若い男と、そしてその男に抑えつけられるようになっているセラフィの姿があった。


「誰だか知らないが……セラフィは返してもらうぞ!」

「貴様は……本当にムカつく奴だな! どこまでも俺のことを侮辱して……」

「は? なんのことだ?」


 どうやらあいつは俺のことを知っているみたいだが、俺には正直記憶が無い。それで喚かれても意味が分からないとしか言えないのだが……

 何処かで会っているのだろうか? 貴族の知り合いなどいないと言っても過言ではないのだが……忘れているのか?


「本当に思い出せないみたいだな……俺はロウだよ、貴様が入学した時にコケにしてくれたハーツ家の貴族さ」


 ロウ……そういえば居たな……俺とセラフィが入学した時にセラフィに惚れて俺に喧嘩を売ってきた貴族が。

 秘境では助けてやったこともあるというのに、恩を仇で返すとはこのことだな。


「そもそもお前が勝手に喧嘩を売ってきたんだろうが。まあただそれはどうでもいいや。お前、セラフィに手を出した以上は覚悟は出来てるんだろうな? いくら手負いでも、まさか俺に勝てるとか夢見てる訳じゃないよな?」


 ロウは確か学校内では優秀な方だったと聞いているが、それでもセシルやルーシェの方が普通に強かったし、いくら退学になった後のことは一切知らないとはいえ、俺を越える程強く慣れているとは到底思えない。何なら英傑達よりも弱いだろう。

 大量の英傑達に中々削られたが、それでも負けることは絶対にないと断言さえできる。


 もと同じ学校にいたからといって情けはかけない。セラフィに手を出した以上は例え命乞いをしても殺す。


「俺だって馬鹿じゃないさ。いくらなんでも魔王に勝てるなんて思ってないさ。しっかりとお前を倒せる奴を用意してるよ」


 ロウがそう言うと、俺の正面にある通路から誰かがやってきた。

 剣を携えた堅牢な大男だ。見るからに只者ではない。明らかに他の英傑よりも強そうだ。


「初めまして魔王殿。俺はレナードという。一応、勇者と君が現れるまでは世界最強をやらせてもらっていたよ」

「へー、英傑のトップってことか?」

「いやいや、俺は英傑の称号は持ってなくてね。その代わりになるものはもってるんだけど……まあわざわざ教える必要はないよね」


 己への自信からか、かなり落ち着いている。簡単には勝たせてくれないかもしれない。

 ロウがあそこまで挑発的な態度なのも、この男が味方に付いているからだろう。


「参考までに、何であんたはそっちに付いた? あんたの話は聞いたことが無いし、戦争にも参加していなかったんだろ?」

「まあそうだねぇ。俺は戦争には参加していなかったよ。というよりも、長い間秘境にいたからね、誰とも関わってなかったんだ。んで、久々に降りて来てみれば大きな戦争を企ててる奴らがいるときて、修行の成果も見たかったし、そこにいる坊ちゃんに声を掛けたのさ。それでまさか魔王様と戦わせてもらえるとは……本当に良い役回りだよ」


 色々と言ってはいるが、こいつも結局自分の都合で動いているようだ。別に戦いたいだけならばいつでも相手になるのだが、恐らくこいつは本気の……命のやり取りというレベルの極限の戦闘を求めているのだろう。


 正直今のコンディションで戦いたい相手では無いが、立ち塞がってくる以上は戦うしかない。

 だが、問題があるとすればここが地下であるということか……本気で戦って生き埋めにでもなったらたまったもんじゃない。


「何か心配してるみたいだけど、崩れたりすることはないみたいだね。流石貴族と言うべきか、相当貴重な金属で補強してるみたいだからね」


 俺の考えを読んでか、レナードはそんなことを言ってくる。


「さてまあ、長話はこの辺でいいんじゃないかな? 君にも譲れないものがあるのならば、俺を倒して掴み取ることだ」

「……」


 理由だなんだと考えても仕方が無いことは確かに間違いない。レナードを倒し、ロウを倒してセラフィを取り返せすだけだ。


 一瞬だけレナードから視線を外し、セラフィの方を見る。

 セラフィは、心配そうに俺のことを見ていた。

 普段だったらあまりそういった顔はしないのだが、力を封じられているせいもあってか、気持ち的にもかなり弱っているのかもしれない。

 早く助け出して、大好物の茹で卵でもたらふく食べさせてやろう。


「それじゃあ……いくよ!」

「っ!?」


 始まることを感じ取ったレナードの存在感が一気に大きくなる。流石に元々世界最強と言われていただけあって、これまでに感じたことも無いような圧がある。


 俺が緊張感を高めた瞬間、レナードは一気に斬りかかってきた。

 何よりも早く、鋭く斬りこんで来たレナードの剣を受け止めるが、やはりパワーも桁違いで、少しでも気を緩めたら押し切られてしまいそうだった。


「おお、これを受け止めるとは……流石に魔王は一筋縄じゃいかないか」

「あったりまえだ!」


 気合で剣を弾き、カウンター気味に剣を振るが、レナードは軽やかにジャンプして躱す。

 更に空中で魔法を準備し、放ってくる。次の動きを想定して最速で動いたようで、放ってきた魔法はフレイムリングという王級魔法だが、溜初めが早かったので、俺の魔法の発動が追い付かない。

 身体能力をフルで活かして回避するが、どう回避するかも想定内だったようで、回避先にレナードが最速で突っ込んでくる。

 どうにかして剣は弾いたが、それも想定内だったらしく、流れるように回し蹴りを放ってきた。

 流石にこれは避けられない……


「先に一撃入れさせてもらうよ」


 レナードの回し蹴りは、俺の腹にもろに入り、鈍い衝撃と共に俺は吹っ飛んで壁に激突した。

 勢いのある一撃で、それなりのダメージを貰い、口から血が流れる。


「こんなものかい? 有象無象とはいえ、流石にあれだけの英傑を相手にしてそれなりに消耗してるというのもあるか……なんか動きが鈍いんだよね」

「……まだまだ、これからだ!」


 痛む身体を無理やり起こして、今度は俺から仕掛ける。

 距離を詰めている間にフォトンレイを三つ展開……それで牽制を行うが、最小限の動きで回避される。


 技術では圧倒的に劣っているため、流石に勝っているステータスで押し切ってやろうと力の限り剣を振った。


「それは悪手じゃないかな?」


 しかし、レナードは素直に受けることは無く、滑らかに受け流す。

 本来ならば、かなりの速度で振っているので、上手く受け流すこと自体がほぼ困難なはずなのだが、それをいとも簡単にやってのけるあたり、本当に恐ろしい男だ。


 しかし、感心している場合ではない。大振り気味の攻撃をすんなり受け流されているので、反撃が怖く即座に斬り返しでもう一度剣を振るが、そこにレナードの姿は無く、距離を若干開けて魔法の準備をしていた。


「残念、剣での反撃がくると思ったのかな? 正解は魔法でした」


 どこまでも予想の上をいかれてとてもやりずらい。

 放たれた魔法はフレイムピラーで、避けることも出来なくは無さそうだったが、俺は開き直って受けることにした。


「あら、直撃? 手負いで受けていい魔法じゃないと思うんだけど……って!?」


 俺はフレイムピラーに焼かれながら魔法の準備をし、フォトンブラストを放った。

 流石に予想外だったようで、レナードは避けきれずに僅かに掠る。かなり威力のある魔法なので、安くはないダメージは入ったことだろう。


 だが、状況的にはやはり俺の方がダメージ量で負けている。英傑達にもらったダメージがここに来て無視できないレベルになってきてしまっているのだ。

 流石に身体もそれなりに重く。反応も若干鈍っている。万全の状態であればもう少しステータス差だけで押せそうだが、それを出来る程の状態ではないのだ。


「い、いや……怖すぎでしょ……魔王はやっぱり伊達じゃないね……ギリギリで直撃は免れたからよかったけど、避けれてなかったらそれだけで致命的なダメージになってたよ……」


 レナードもヒヤッとしたようで、汗を浮かべながら驚きの表情をしていた。


「手負いの相手に本気出して押し切れないなんて初めてだよ。本当に恐ろしい……」


 だが、そんな言葉とは裏腹に、レナードは大胆に臆することなく仕掛けてくる。

 相当戦い慣れている者のそれで、やはり俺の行動は殆どが読まれ、少なくだが的確にダメージを与えてくる。


 それは俺に焦りを与え、徐々に余裕を失わせる。

 ただでさえ命のやり取りをするレベルの対人経験の疎い俺に、その焦りは致命的なものとなって蓄積していった。


 そして、遂には貰ってはいけないレベルの攻撃を食らうこととなる。


 焦りから振った剣はレナードによって容易くあしらわれる。それだけならばまだよかったのだが、レナードはその剣を強く足で踏みつけ、剣が地面に突き刺さってしまった。

 そういった事態にも慣れていれば良かったのだが、対人経験がまだ浅いのと焦りが加わり、咄嗟に剣を手放すことができず、それは大きすぎる隙となった。


「もらった!」


 当然そんな隙を見逃してくれる相手ではない。

 レナードは真っ直ぐ俺目掛け剣を突き出してくる。

 反応だけでどうにか避けようとしたが、結局は避けきれず、レナードの剣は俺の脇腹に深々と突き刺さった。


「ヨゾラ!?」


 セラフィの叫び声がどこか遠くに感じた。










自由な女神「まだこんな奴がいたんだね……いくら消耗してるとはいえ、ヨゾラ君相手にここまで戦えるってとんでもないことだよ」

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